1
日が沈み、獣たちが寝静まるころ、店先に備え付けられた街灯に魔法の明かりを灯し、冒険者ギルド兼酒場"青い紫陽花亭”が開かれる。この町、ロタン一と言われるこの店には多くの冒険者たちが集い、飲み、食い、四方山話に花を咲かせる。
そんな酒場に暗い顔をした冒険者、アルがカウンターで一人安酒を飲んでいた。
「悪いね。ようやく一息つけたよ。用件はなんだいアル」
店の主、ライシャに対して首肯する。ライシャはもう白髪が混じり始める年ごろの女性だが、未だその眼光はかつて凄腕の冒険者だったころと変わらないという女傑だ。
「オーブを返却しに来ました。それと鑑定をお願いします」
オーブとは本来自分が身に着けていないスキルを発動させるための宝玉であり、魔力さえあれば誰にでも使える利便性からギルドでは料金を支払えば貸し借りできることが多い。
ライシャはオーブを受け取ってから自身のスキル<鑑定>を発動させ、アルから手渡されたオーブを確認し、アルのレベルやスキルを閲覧する。
鑑定とは文字通りステータスやレベルを数字として認識するスキルだ。冒険者ギルドに関わる者ならできうる限り上昇させておきたいスキルでもある。この店の店主にしてギルドマスターであるライシャの鑑定スキルのレベルはかなり高いだろう。
だからこそ、その言葉は信用せざるを得ない。例え不都合な事実だったとしても。
「だめだね。お前自身のレベルもスキルレベルも全く上昇していない」
「……そうですか」
その言葉に落ち込む自分とどこかあきらめというより納得している自分がいることを自覚する。
もうかれこれ一年以上この状態が続いている。どれだけ努力しても、どんな魔物を倒しても全く成長することがない。
つまり停滞している。停滞が続いた先には衰退しかない。そうやって夢を諦めた冒険者を見たことはあるが、自分自身がこんなにも早くそうなるとは思っていなかった。
「ダフト! 配膳はもういいよ。あんたは食器洗いにもどんな!」
冴えない見た目の無口な青年が首肯し、厨房へと戻っていく。おおよそ冒険者の酒場に相応しい人材ではない。ライシャならいくらでも伝手があるはずだが……。
「前から聞いてみたかったんですけどどうしてダフトを雇っているんですか?」
「大した理由はないよ。単に冬場の水仕事も文句を言わないってだけさ。不出来でもまじめな奴ってのはそこそこ使い道があるもんだ」
人には向き不向きがある。まるでアルに言い聞かせているようだった。そして――――
「アル。あんた冒険者をやめて他の働き口を探す気はないかい?」
そう感じたのは間違いではなかった。




