第七話 「蛍」
「ねぇ、今日行こうよ〜。」
せっちゃんがヤスになにやら駄々をこねているようだ。
「何の話し?」
由奈が二人に聞いた。
「今日の夜、ホテル見に行きたいの!」
ぼくらの
ヒミツ基地
第七話 「蛍」
「ホテル?」
由奈が首をかしげている。
「違う違う、ホタル!」
ヤスが手を横に振って答えた。
「ああ!もうたくさん飛んでるらしいね!」
「んじゃ、今日みんなで行こうゼ!」
三人の話に入ってきたのは壮太だった。
「えっ!」
「由奈、何か都合悪いのか?」
「そーゆーわけじゃないけど・・・明日も学校だよ?」
「大丈夫だって!旬も来るんだぞ!」
遠くから話を聞いている旬に壮太は言った。
午後八時、あたりはすっかり黒一色だ。
秘密基地の前に、旬、ヤスとせっちゃん、壮太の順に集まってきた。
「ごめん、おまたせ〜!・・・はぁっはぁ・・・。」
最後に息を切らせながら、由奈がやってきた。
「遅いぞ!」
「いつも遅刻してるあんたに言われたくないわ。」
由奈は壮太に言い返した。
「そんなことより早く行くぞ!」
ヤスが言い、みんな歩き出した。
「・・・・大丈夫か?」
歩き出し始めた由奈に対し、旬が言った。
「大丈夫よ。急いで来たから疲れただけ。」
「・・・・・・家のことだよ。」
「!」
旬は眉間にしわを寄せ、由奈を通り越して言った。旬に言われ、由奈は一瞬足が止まってしまった。
「わぁっ!すげぇ!!」
川原に着くと無数のホタルが飛び交っていた。
「間近に見れたらいいけど、籠持ってきてないからすぐ逃げちゃうだろうなぁ。」
由奈がそんなことを言っていると旬がすぐそばの畑に入っていった。
「旬、何してんだ?」
壮太が訊いた。
「あ、旬、今年もやるんだぁ!」
「毎年恒例みたいなもんだよな。」
せっちゃんとヤスがわくわくしながら言っている。
パキッ
太い玉ねぎの葉を折り、旬が畑から帰ってきた。玉ねぎの葉は、ねぎっぽいが食べてもおいしくなく、処分されるので、折ってもなんら被害はない。毎年、後でちゃんと由奈たちは畑の持ち主に謝りに行くが、叱られることはなかった。
パシッ
スポッ
旬は両手でホタルを捕まえると、中空のねぎの中に蛍を入れた。
「なんで、ねぎに蛍入れてんの?!」
壮太が驚きながら言った。
「ねぎ、粘着性強いから逃げれねぇんだよ。まぁ、長く入れてると弱るからすぐ逃がすけど。」
ヤスが偉そうに壮太に説明している。
ねぎがまるでライトセーバーのように光っている。とてもきれいだ。
「蛍って、案外かわいい目してるわよね・・・。」
「つか、どれが目?」
「ここにあるじゃん!」
そんな話をしている間にも、あたりはどんどんと暗闇を帯びていく。
「そろそろ、逃がして帰りましょう。」
「なら、俺、逃がしたい!」
壮太はねぎから蛍を手に取り、手をゆっくり開けた。
ふわわぁ・・・
蛍は、ゆっくりと飛び上がり、近くに生えている木に留まった。
それがイルミネーションのようで、ずっと見ていたかったが、みんなは、振り返りながらも、家へ帰っていった。