第五話 「雨」
ザーーーーーーーーー
大粒の雨が地面に叩きつけるように降り、ものすごい大きな音を奏でている。
「あ〜あ、図書の本、整理してたらこんなに降るなんて・・・ついてかも〜。」
学校の玄関で生徒、先生が誰一人いない中、由奈だけが立ったまま空を見上げていた。
ぼくらの
ヒミツ基地
第五話 「雨」
「雨、すごい土砂降り・・・もうそろそろ梅雨だもんねぇ。こんなことなら、旬に本の整理手伝ってもらえばよかった。旬も同じ図書委員だし、傘持ってたし・・・。」
今更悔いても仕方ないと分かっていても、つい口に出てしまうものである。
チラッ
後ろを振り向くと靴箱の隣には、傘立てとバケツが置いてあった。
「ハァ・・・さすがにバケツ被って帰るのも恥ずかしいしな〜・・・。」
ガサガサ・・・
何か物音がする。玄関の端に設置してある倉庫からだ。
(この時間、生徒は残っていないはず。先生も職員会議で全員職員室に集まっているはずなのに。)
ガラッ
不審人物かもしれないと思った由奈は、倉庫の扉が開く音と同時に靴箱の陰に隠れた。
「ゲホッゴホッ!埃っぽいし、臭いし、最悪だなこの倉庫。」
倉庫の中から出てきたのは壮太だった。
「壮太!あんたこんな場所で何してたの?!」
壮太と気付くと由奈は靴箱の陰から出てきた。
「由奈こそなにしてんだよ?そいえば、先生は?」
「先生?担任の先生ならもうとっくに帰ったけど?」
「うしっ!居残り勉強しなくて済んだゼ!」
壮太はガッツポーズを取っている。
「あんた、まさかまた宿題忘れたの?」
「男には宿題よりやらなければいけないことがあるんだ。」
「なにかっこつけてんだか・・・。」
由奈が呆れている。
「あ、そうだ!壮太、傘持ってる?」
「男はそんなもん持たない!」
「じゃあ、男は濡れて帰るわけ?」
「うぅ・・・・。」
由奈に言われて、壮太は即答できなかった。
「あ!」
何か閃いたのか、壮太はまた倉庫に入っていった。
「あった、あった!」
数分して壮太が倉庫から出てきた。何か持っている。
「ジャジャーーン!!」
そう言って壮太が由奈の前で広げたのはビニールシートだった。
「・・・・まさか、それで帰ろうと・・・。」
由奈の額から変な汗が流れている。
「それがどうかしたか?」
「だって、それ・・・・砂だらけだし、汚いし・・・。」
「雨で汚れも流れるって!そーゆーおまえはどうやって帰るんだよ。」
「うっ。」
由奈は痛いところを疲れて返す言葉がなかった。
「いっしょに入るか?」
壮太は由奈にビニールシートを差し出した。
「・・・・・しょうがないから入ってやるわよ!」
由奈は、ビニールシートを壮太の手から鷲摑んで取ると、後ろを向いて照れ隠しした。
「もうちょっと寄ってくれないと濡れちゃうじゃない!」
「んなこと言ったって、これ以上寄ったら、俺が濡れるんだよ!」
結局ビニールシートの取り合いで喧嘩になってしまった。
「大体このアイディアは俺が考えたんだぞ!」
「あたしは濡れたらいけないの!!」
「なんで濡れちゃだめか理由言ってみろよ!」
「!・・・・」
壮太の言葉が何か引っかかったのか、由奈はひどく動揺している。
「・・・・・ママに・・・ママに怒られるの・・・。」
壮太の耳には、微かにそう聞こえた。
バサッ
「それやる。俺、濡れるの好きだし。」
壮太は、ビニールシートを、ローブのように由奈に被せてあげた。
「でも・・・・ありがとう。」
由奈は何か言いかけたが、笑って御礼を言った。
ポツッ ポツポツ・・・
由奈の家に着くころには、雨は止みかけていた。
「今日はホントにありがと!おかげで濡れずに済んだわ。」
「明日、そのシート返すの忘れんなよ。」
「分かってるって。それじゃ、またあした。」
「おうっ。またな。」
由奈と壮太は手を振って別れた。
キィ・・・
由奈が玄関のドアを開けようとした時だった。
「由奈――――――!!」
壮太の叫び声が聞こえた。振り返ってみると、小さく映る壮太の影が、空を差していた。
「レインボーーーー!!」
空には小さいけれど、とてもきれいな虹が架かっていた。