第三話 「ヒーローごっこ」
「ねぇ、次、壮太の番だよ。」
秘密基地の中、トランプでババ抜きをしていたときだった。
「・・・・決めた!」
「なにを・・・?」
「基地もあるし、丁度五人だし・・・ヒーローごっこしようゼ!!」
ぼくらの
ヒミツ基地
第三話 「ヒーローごっこ」
「はあ?なんで小学五年生にもなってヒーローごっこなんて・・・」
「そいえば、よくカクレンジャー見てたな〜。」
「そうそう。あのオープニング俺まだ歌えるゼ!」
由奈の意見は放っておいてなにやらヤスと壮太はカクレンジャーで盛り上がっている。
「ぼく、やりたーい!」
手を突き上げてせっちゃんが言う。
「仙人がやるなら俺もやる!」
ヤスは弟思いというかなんというか・・・。
「旬はやらないでしょ?」
由奈は焦ったように言う。
「・・・暇だし。」
たぶん遠回しに「やる」と言いたいんだろう。
「んじゃ、俺レッド〜!!旬がブルーで、仙人がグリーン、ヤスがイエローで、由奈がピンクな!」
「んな勝手に・・・。」
「待てよ!俺がレッドだろ!」
ヤスが壮太に異議を唱えた。ヤスにもこだわりがあるのだろう・・・。
「んじゃ、ジャンケンで決めようゼ?」
「ぜってぇ負けねえからな!」
そこまで張り切るものでもない気がする。が、二人は真剣だ。
指を組んで、手の中を覗くとジャンケンに必ず勝つとか、もしくは手の中に宇宙が見えるとかわけのわからない噂があった。そのせいか、二人とも指を組み、真剣に手の中を覗いている。
「一回勝負だかんな。」
「・・・・・。」
静かだ・・・。高がジャンケンなのに緊張感を感じさせる雰囲気が立ち込めている。
「最初はグー、またまたグー、いかりやチョーすけ、あたまはパー、正義が勝つとは限らない、最初はグー、ジャンケンポイ!!」
なんとも長い前振りで結局勝ったのは・・・
「ぅおっしゃー!やっりーー!!」
「くそっ!あそこでチョキだしゃあよかった・・・。」
壮太だった。壮太がパー、ヤスがグーだった。
「へへっ太ってる奴は大抵グーかパーしか出さないんだよ。」
壮太が嫌味ったらしく言う。
「こんのくそやろぅ・・・。」
ヤスが怒りをこらえて身体が震えている。
「んじゃ、コレ!!」
壮太は割り箸で作ったゴム鉄砲をみんなに配った。
「こんなもんいつ作ったんだか・・・。」
「授業中!案外ばれねぇぞ!弾は三発ずつしかないから大事に使えよ。それじゃあ、パトロールにレッツゴー!!」
壮太はそう言って拳を突き上げて基地から出た。
「ど〜〜してこ〜〜〜んなにも平和なんだーーーーーーー!!」
そりゃ田舎だもの。というより、通行人さえいない道をパトロールしても意味があるはずない。
「つまんな〜〜い。」
仙人もヒーローごっこに飽きてきたようだ。
「あ、先生だ!」
由奈が指差した先には先生が歩いていた。たぶん帰る途中なのだろう。
「!」
先生は壮太たちに気付いたのか、こちらにやってくる。
「やべえ!みんな先生を撃て!!」
バシッ
壮太が先生にゴム鉄砲を撃ち始めた。そのせいか、先生が鬼の形相でこちらに猛スピードでやってくる。
「ちょ〜〜!何してんのよ、あんたは?!」
何故だか分からないが、由奈たちも逃げるはめになってしまった。
「今日、俺、宿題忘れと先生の花瓶割った。」
「そんなので、あたしらまで巻き込まないでよ!!」
バシッ バシッ
逃げながらも壮太はゴム鉄砲を撃っている。
「弾切れた!みんなも撃たないと追いつかれるぞ!」
バシッ バシッ バシッ バシッ
「みんな、撃ってるし!てゆかあたし弾の付け方知らないんだけど!」
「もう!ピンクは使えないやつだな〜〜。」
こんなことぐらいで使えないやつと言われてもどう反応すべきなのか由奈は困ってしまった。
コケッ
「あ・・・。」
コテンッ
せっちゃんがこけてしまった。
結局、みんなは道の真ん中に正座させられ、先生のくどくどと説教を長ーーーーい間、聞くこととなった。道のアスファルトは塗装が悪く、まるで砂利の上に正座しているように痛かった。
説教が終わる頃には、空が赤く染まっていた。
キキーッ
人も車も通らなかったこの道に、一台の車が停まった。
「旬、今日は外で食事にするから乗りなさい。」
旬のお母さんとお父さんだ。
パタンッ
旬は車に乗り、ドアを閉めた。
「また明日にでも、旬と遊んでくださいね。それじゃぁ・・・。」
「またな〜。」
「またね。」
みんなは挨拶したが、旬は軽く手を振るだけだった。それから車は走り出し、行ってしまった・・・。
「んじゃ、俺らも帰る。またな〜。」
「バイバ〜イ!」
「うん、またね。」
ヤスとせっちゃんも帰って行った。
ゴオォォン
あたりには鐘の音が響いている。六時になったことを知らせているのだ。
「やばっ!早く帰らないと!!」
由奈が慌てている。
「由奈・・・」
走って帰ろうとする由奈を壮太は止めた。
「いっしょに帰ろう・・・。」
「・・・・いいよ。いっしょに帰ろう。」
由奈はニコッと笑い、言った。由奈は急いでいたが、いつもと雰囲気が違う壮太を放っておけなかったのだろう。壮太の顔には、不安や悲しみが見えた。
「・・・・・・。」
二人並んで歩いているが、沈黙が続いていた。
「・・・ねぇ?そいえば聞いてなかったけど・・・・なんで越してきたの?」
話を振ってきたのは由奈だった。
「・・・・・・ばあちゃんちに住んでんだ。」
「お父さんとお母さんは?」
「天国。たぶん地獄には言ってないと思う。」
「ごめん・・・。」
「謝んなくてもいいよ。寂しくないし。でも旬がちょっと羨ましかった。」
「旬の家族は仲良いしね・・・。」
何故だか由奈の表情も暗くなってきた。
「由奈んちは?」
「・・・・あたしの家は・・・」
「あ!あれ、由奈の母ちゃんじゃね?」
由奈の家の前で女の人が立っていた。壮太の言うとおり、お母さんらしい。
「由奈、おかえり。あら、お友達と一緒なのね。」
「え・・ええ。」
にっこり笑っているお母さんとは裏腹に由奈は苦笑いをしている。
「じゃあ、またな!由奈!」
「うん、また。」
由奈と話して気が楽になったのか、壮太は元気に賭けていった。
逆に、由奈には元気がなく、手を振り終わった後の下に下ろした手が震えていた。拳を握っても震えが止むことはなかった。