第二話 「ビー玉」
「秘密基地完成!!」
壮太が拳を突き上げて言った。
粗大ゴミから拾った綿がはみ出たソファーと学校のいらなくなった足がガタガタの図工室の椅子。テーブル代わりの段ボール箱。端っこには鉄製の缶が置かれている。たぶんゴミ箱の代わりだろう・・・。
「昨日、掃除して、今日、できたばっかりなのにもうほこりっぽ〜〜い。」
由奈の言うとおり、コンテナの戸が開きっぱなしだったせいか、砂ぼこりが充満し、あちこちに泥がついていた。
「これぐらい平気だって!」
由奈の事などお構いなしに壮太は基地のソファーに座った。
「そいえばコレ!かあちゃんがみんなと一緒に飲めって・・・。」
ヤスとせっちゃんが取り出したのはラムネだった。
「ラムネだ〜!ありがとう。」
せっちゃんが由奈に、ヤスが旬に壮太の分も手渡した。
「由奈〜そいえば昨日のデジモン録画した〜?見逃しちゃってさ〜。」
「はあ?もちろんしてあるけど、なんであたしが貸さないといけないのよ?」
旬は壮太に渡そうとしたが、壮太は由奈と話していて気付かないようだ。
「・・・・・・。」
シャカシャカ・・・
「ん?・・・あ!旬ありがとな!」
やっと旬に気付き、壮太はラムネを受け取った。
「んじゃ基地完成もかねて乾杯しようぜ!」
壮太がそう言いつつラムネ瓶のビー玉を思いっきり押し入れた瞬間・・・
ドバァーーーーーー
まるで噴水のようにラムネが飛び出し、壮太の顔面に直撃した。
ポタッ・・・ポタッ・・・・ポタッ・・・
「旬、てめぇ振っただろ!!」
「・・・くぴ」
旬は斜め下へ目線を逸らし、ラムネを一口飲んだ。
「ねぇ?結局、乾杯はどうなったの〜?」
由奈が待ちくたびれて言った。
くぴくぴ・・・
「・・・・・!」
カランッ
ぼくらの
ヒミツ基地
第二話 「ビー玉」
じ〜〜〜〜〜〜〜〜
ラムネの瓶の中を瓶口から覗いているせっちゃんに由奈は気付いた。
「せっちゃん、どうしたの?」
由奈の声でせっちゃんはふと我に返った。
「ビー玉!!由奈、ビー玉取れる?!!」
飲み干したラムネ瓶を由奈に突き出していった。
「えっ!」
(あたし取り方知らないし・・・てゆかこれって取れるの?・・・ん〜謎かも・・・え〜っとこ〜ゆ〜ときはぁ〜〜・・・)
「せっちゃんのお兄さんはヤスだからヤスに頼みなさい!」
「そっか〜。あんちゃん力持ちだしね!」
「そうそう。」
(ナイスあたし!!上手くごまかせた!)
「あんちゃん、ビー玉取って〜〜!」
せっちゃんはヤスにラムネ瓶を突き出した。
「瓶口についてるプラスチックを抜けばいいはず・・・ふんっ!」
そういうと、ヤスは瓶の底側と瓶口を力いっぱい引っ張った。
(・・・・やべぇ・・・・全然抜けない・・・このままじゃみんなに笑われる!仙人もがっかりするだろうし・・・・ここはあいつに任せよう・・・・)
「俺がビー玉取り出してもいいんだが、壮太がやりたそうな顔してるからあいつに譲ってやってくれ!」
そう言われてせっちゃんは壮太の方を見た。
「そうかなぁ・・・?」
「絶対やりたいはずだ!ほら、行って来い!!」
無理やり背中を押され、せっちゃんは壮太にラムネ瓶を突き出した。
「壮太、ビー玉取れる?」
「ん?」
(ビー玉かぁ・・・!・・・そうだ!あいつならどんな反応するか見物してやりう!)
「そーゆーのは頭のいい旬先生に頼んでみるといい。」
「旬せんせい?・・・わかった!旬先生にみてもらう!」
せっちゃんは旬にラムネ瓶を突き出した。
「旬先生、ビー玉取ってください!」
「!・・・・・・・・。」
旬は少し立ち尽くすと、何も言わずにトコトコと歩き出した。ゴミ箱代わりの鉄製の缶を持って、基地の外に出た。缶と言っても大人の膝丈ぐらいある大きめの缶である。
ガッシャァ・・・ン
!!!
缶の内側にラムネ瓶を勢い良くぶつけた。
ヒョイッ
壊れたガラスの破片から旬はビー玉を取り出した。
・・・・・・グッ!!
親指を突き上げ、旬は満足そうだ。
「旬って割と大胆な行動に出るよね・・・。」
「つか割るなら割るって言えよ!!」
由奈と壮太がぶつくさ言っている。
ポトッ・・コロ・・
旬の手からせっちゃんの手へ渡された。
「はぅあ〜・・・」
せっちゃんは目をキラキラと輝かせながら、奇声を発した。よっぽどビー玉が欲しかったのだろう。
「旬、あぁがとぉ〜〜!!」
嬉しさのあまり、舌が回ってない。
ガサゴソ・・・ガサゴソ・・・
「何やってんだ?」
基地であるトラックの下に手を突っ込んでいるせっちゃんにヤスは訊いた。
カタンッ
せっちゃんは下からお菓子の缶を取り出した。
ペコンッ
凹む音と共に缶の蓋が浮いた。
ガランッ
「ぉおーーー!!」
お菓子の缶の中にはズラリとビー玉が数え切れないほど入っていた。
「これ全部せっちゃんが集めたの?」
「うん!」
「スッゲェーーー!!このビー玉キレイだぜ!」
壮太が手にしたビー玉は黒いのに不思議な輝きを放っていた。まるで映画『Men in Black』に出てくる銀河のようでとても美しかった。