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第十話 「カゲフミ」

 「ねぇ・・・壮太、さっきから後付いてきて何してんの?」

 教室から図書室へ行くまでの廊下で由奈が振り返って聞いた。

 「ばかっ!急に動くな!影が・・・」



 ぼくらの

      ヒミツ基地

                         第十話 「カゲフミ」


 「かげ・・・?」

 「影以外のとこ足付いたら底なし沼なんだよ!」

 「はぁ?・・・わけ分かんない。」

 由奈は壮太の行動に呆れ果てている。

 「つか、おまえ、なんで図書室行ってんの?」

 「今日は新しい本届いたから、旬と本の整理よ。だから、帰宅するのは当分後よ。」

 「ええ〜〜!俺、せっかく終業式終わって、今から夏休みなんだから、早く帰りたいんだけど。」

 壮太は、由奈の影からはみ出さないように、一定の距離で由奈の後を付いてきている。

 「勝手にあたしの影に付いてきて、文句言わないの!」

 「んじゃ、他の影に移ってやる!」

 とは言ったものの、廊下には余分な家具や機材がなく、図書室へ続く廊下は由奈以外、誰も通っていなかった。

 「・・・・・・。」

 「あら、他の影に移るんじゃなかったの?」

 由奈がからかう。

 「俺も、丁度図書室に用事があるんだよ!」

 「あら、そう。」

 壮太の嘘はバレバレだ。




 ガラガラッ

 「ごめん、旬、遅れちゃって・・・。」

 図書室に入ると、もう旬が本の入ったダンボールを担いでいた。

 「いい・・よ・・・。」

 旬は、由奈の後ろにいる壮太に気付いた。

 「・・・・二人羽織でもするの?」

 「しねぇよ!影踏みだっつーの!!」

 旬の天然な発言に壮太が突っ込んだ。




 「ねぇ、まだー?」

 由奈と旬が本の整理をしている中、壮太はただ一人、本棚の影でじっと帰るのを待っていた。

 「なんか本でも読みなさいよ?」

 「んなこと言われたって・・・ゾロリも乱太郎も読んだし・・・。」

 「あんた、そーゆーのばっか読んでんの?もっと漢字の多いものでも読んだら?シャーロックとか、アンネの日記とか・・・誰かの伝記とか・・・。」

 「絵がないと読む気失くす〜。漫画とかあればいいのに・・・。」

 「あるよ。」

 そう言うと、旬は漫画とは思えないサイズの大きな本を持ってきた。

 「ひのとり?」

 「あ、鉄腕アトムとかの人だ〜。」

 由奈は手塚治をかろうじて知っているらしい。

 「それ、おもしろいよ。」

 旬が言うのだから、相当おもしろいのだ。

 『火の鳥』は手塚治が手掛けた未完の作品である。第一巻は黎明編から始まる。3世紀の日本のヤマタイ国とクマソ国の争いが舞台である。他にも、ギリシャ編、宇宙編などとたくさんあり、未来と過去が交互に描かれている。

 手塚治ならではのコマの使い方と物語がとても印象に残る作品で、唯一、学校に置かれる漫画だった。

 「んーじゃあ、帰るまでこれ読んどくか・・・。」

 壮太は胡坐をかきながら本のページを捲った。




 「壮太―、整理終わったから帰るよ!」

 由奈が壮太の元へ寄ってきた。

 「・・・・・。」

 「壮太?・・・おぅい、壮太ぁ〜?」

 「・・・・・。」

 由奈が壮太の目の前で手を振っても返事がない。『火の鳥』に目が釘付けだ。

 「もう・・・あたしがいなくちゃ、影無くて帰れないわよ。」

 「それはやだ!!」

 どうやらまだ影踏みは続いていたらしい。

 結局、壮太は『火の鳥』を借りずに、二学期の楽しみとしてとっておくことにした。




 「ねぇ・・・そんなにくっ付いて歩かないでよ。あたしが歩きにくいでしょ。」

 「だってさっきより、影が小さくなってんだもん。しゃぁねぇじゃん!」

 「だったら、あたしじゃなくて、旬に付いてよ。」

 「うるさいなぁ。わかったよ!」

 由奈に言われ、壮太は旬の影に飛び移った。

 「・・・影料100円。」

 旬が壮太に言った。

 「金持ってねぇよ!」

 「旬は昔っからそーやってからかうの好きだから。」

 由奈が苦笑いしながら言った。

 「そーいえばさ・・・由奈と旬って結構仲いいよな。ヤスたちより。」

 「小学校入る前からの幼馴染だからね。」

 由奈は旬に向かって微笑んだ。

 「旬は前からこんな性格でぼーっとしてたかな。」

 「・・・由奈は昔は臆病だった。」

 「ええ!あたし、そんな臆病だった?全然そんな意識なかったんだけど・・・。」

 「だから、こうして・・・」

 壮太は由奈の手を取り、ギュッと手を結んだ。

 「ずっと手・・・結んでたじゃん。」

 旬は顔を下に向き、隠しながら言った。

 「そうだったね。」

 由奈には、旬の手の暖かさが懐かしく感じられた。

 



 「じゃあね、またあした!」

 「またあしたな〜。」

 旬は由奈の手を放し、手を振って別れた。

 「・・・またこっから先、壮太の影係かぁ〜。」

 由奈がめんどくさそうに言った。

 「あ、そうだ!・・・この前、壮太が貸してくれた傘、持ってきてたんだった。」

 由奈は、ランドセルに掛けていた壮太の傘を手に取った。

 「ごめんね、返すの遅れて。」

 由奈は両手を合わせて言った。

 「丁度いい!それ、日傘にすれば、日陰ばっちりじゃん!」

 壮太は、由奈に返してもらったばっかりの傘を差した。

 「由奈も入るか?日差しきついし。」

 「あたし入ったら、壮太はみ出て底なし沼にはまっちゃうかもよ?」

 「いいよ。影貸してくれた借りもあるし。」

 壮太に傘に無理やり入れられ、結局由奈は入って帰ることにした。

 雨も、雪も降ってないのに傘を差している。とても変で、不思議な感じがした帰り道だった。


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