第一話 「秘密基地」
高山 旬まあまあお金持ちで成績も優秀。口数が少なくって一部の女子には人気。
杉野 広康あたしはヤスって読んでる。力持ちだけどいざって時に頼りになれない。
そういうあたしは鮎川 由奈どこにでもいそうな子。
・・・・・また同じクラス、同じ先生・・・・もう5年生なのに何一つ変わらない。そんな時だった・・・彼が来たのは。
「水谷 壮太。よろしくお願いします。」
それは、きっと学校始まって以来の初めての転入生だった。
ぼくらの
ヒミツ基地
第一話 「秘密基地」
キーンコーンカーンコーン
「先生、さようなら。」
みんなで大声で挨拶をして、帰ろうとしていたあたしを先生は引き止めた。
「鮎川、水谷と一緒に帰ってやってくれないか?一人で帰らせるのは危険だ。」
「えっ!」
「由奈、遅いぞ!!」
校門でヤスと旬が待っていた。
「ごめん、ごめん。」
あたしは水谷君を連れて駆けていった。
「あれ?そいつ・・・」
ヤスが水谷君を指差した。
「この人だぁれ?」
ヤスの影からひょっこりとせっちゃんが顔を出した。せっちゃんというのはヤスの弟で小学二年生。いつもヘルメットを何故か被り、ぶかぶかの服を着ている。本人は「すぐ成長するから」って言ってるけどなかなか背が伸びてない。本名は仙人。
「転入生で水谷 壮太っていうの。めんどくさいから壮太ね!」
「壮太壮太。」
せっちゃんが繰り返し言った。
「いきなり呼び捨て・・・」
旬が何か言っていたみたいだけど、あたしには聞こえなかった。というより聞く気がなかった。
「でさぁこのまえのポケモンがさぁ・・」「そうそうあのシーン良かった。」
ぺちゃくちゃと喋りながら、まるで同じところを何回も通っているような一行に変わらない田んぼの風景をただひたすら歩いていた。
「・・・旬、壮太と何か話しなさいよ・・・ボソッ」
「やだ。」
即答。
「なんで?」
「めんどくさい。」
またも即答。
「もういいわよ!あたしが話しかけるから。」
そんなことを話しているうちに、やっと田んぼから林の風景に変わった。
「あのさ、壮太はどうしてこんな田舎に・・・」
あたしが言いかけた直後だった。壮太は立ち止まって林の方をぼんやりと見ていた。
「どうかした?林に何かいた?」
「・・・・・。」
返事がない。
「僕ここでイノシシみたことある〜!かっこよかった〜!!」
せっちゃんが手を上げていった。
「かっこよかったって・・・イノシシでたら逃げましょうって先生言ってたじゃん。」
「すごく大きかったよ〜!!」
話を聞いてないんだからせっちゃんは・・・。
ザッザッザッ
って・・・壮太、林に入ってるし!!!
「ダメだよ、壮太!林は危険だから先生が入っちゃダメだって!!」
「・・・・・。」
駄目だ。話を聞いてない。
「俺が連れ戻してきてやる!!」
ヤスが林の中に走っていった。
「ヤス!!」
どうしよう・・・ヤスも行っちゃった。
「あんちゃん待って〜!」
せっちゃんまで行ってしまった。
ザッ
旬も林に踏み込んだ。
「行かないのか?」
「・・・・行くわよ!行けばいいんでしょ!!」
やけくそで林にがに股で入ってやった。
「蜘蛛の巣引っかかったしもうやだ〜!!・・・?」
ぽかーんと壮太たちが立ち止まり、何かを見つめていた。
「何やって・・・・ん・・んん?」
壮太たちの目線の先にはトラックがあった。車体は色落ちが酷く、あちこち錆びれていた。タイヤもパンクして隙間から草が車体に絡みつくように生えていた。コンテナの上には、枯れ葉が積もっていた。窓ガラスにはまるで映画に出てきそうなほど見事な波紋状のヒビが入っており、今にでも割れそうだ。錆びの部分がただれ、とても不気味だ。
「なんでこんなとこにトラックが・・・」
「あのさ・・・」
「?」
「コレ、俺たちの秘密基地にしようゼ!!」
さっきまで下ばっか向いて暗くて何も言葉を発しなかったのに・・・・壮太があたしたちに初めて言ったのがそれだった。驚いた。こんなに大きい声が出せるなんて・・・いきなり顔を上げて・・・・。そして、なにより・・・・こんなに楽しそうに笑うなんて思ってもみなかった。
「・・・・・・はあ? なんでいきなり秘密基地なの?!」
「今から家に帰って掃除道具持ってココに集合な!」
「人の話聞きなさいよ!」
壮太はノリノリだった。にしても、自分勝手な・・・。
「んじゃ、解散!!」
そう言うと壮太はものすごい速さで林を駆けて行った。
「足、はやっ!!」
あたしは反論する間もなく走り去られて、ただ立ち尽くすしかなかった。
「・・・・・どうする?」
ヤスが言った。
「どうするたって・・・」
どうすればいいのか分からなくておろおろと戸惑っていた。
「いいよ。やろ、秘密基地。」
旬が言った。
「旬、マジで言ってんの?」
「別に家に居ても暇だし。」
旬にキッパリと言われるとなんか嫌でも納得せざる負えなくなるんだよね・・・。
しょうがないのであたしたちは一旦別れて家から掃除道具を持ってきた。
「やっときれいになったぁ〜・・・!!」
みんな疲れきってだらだらと汗が流れていく。まるで川にそのまま飛び込んだように髪も、服もびっしょりになっていた。
幸運なことにコンテナの中は案外大した錆もなく、どちらかというときれいだった。
もちろんトラックの運転席も乗れるように砂やゴミを取り除いた。車体に積もっていた枯れ葉は見事に一枚も残らずゴミ袋の中に入れた。
「旬、今何時〜?あんた懐中時計持ってんでしょ。」
あたしは暑さのあまり手を顔に仰いで言った。
「6時ちょい前。」
「え?うそ・・・やばい、あたし帰る!!」
あたしは猛ダッシュでさっさと帰った。
「なんだ・・・あいつ?」
壮太が言った。
「由奈んちのおばさんは恐いから・・・。」
旬が答えた。
「ふ〜ん。」
帰りながらも、あたしは明日が楽しみで胸を躍らせていた。魔法とかファンタジーとかそんなものじゃない。けれど、明日はきっと何か起こるようなそんな気がした。
その日見た夕日は、どことなくいつもと違うように見えた。
読んでくださりありがとうございます。
なるべく毎日更新しようと思っていますのでよろしくお願いします。