第一章 お買い物
第6話お買い物
翌日、さすがに一日中ドレス姿でいられるのも気が引けるため近くのデパートに服を買いにやってきた。
まあ、ドレス姿で買いものに行くのも気が引けるというか、目立ちすぎるので、適当にあったあまり男よりではない柄の入っていないシャツと、ジーンズを履かせた。
それでも結構目立ってる。
あまり関わっていると思われたくもないので、早歩きでスフレと距離を空けて歩いていると。
「あの……一体どちらに行くのですか?」
「服を買いにいくんだよ、何でもいいから3,4着好きに選べ」
首を傾けてスフレを確認すると、輝かしい笑顔を浮かべ昇天しかけていた。
「ちょちょちょちょちょ、今ここで変なことするとまずいって」
軽く宙に浮いていたスフレの腕をつかんで引きずる。
「ほ、本当によろしいのですか⁉」
「ああ、一日中ドレスってのも、見てて疲れるしな」
と、言うと、目を輝かせとても嬉しそうな返事をくれた。相変わらず顔に出やすい。
「で、でも本当によろしいのですか? いきなり自分を天使だと言う人を家に住まわせ、お、お洋服まで買っていただけるとは……」
たどたどしく聞いてくる。
「まぁ、いきなりの事で理解の追い付いていない事が大半だがな……一応女の子なんだし、みだらな格好はさせてやりたくないし、男と違って必要なものも多いだろ? それに――」
「それに?」
「いきなり非人間宣言してきたことより、異世界に連れていかれてトラウマを植え付けられた事の方がよっぽど不信的」
〝あぁ、と顔と目を背け、なにやら思い起こすスフレ。
「いや……ほんと、ごめんなさい……」
しょぼくれる天使を右肩に、にぎわう通路を流れていく。
女性ものの洋服店に着くと、目を輝かせながらズカズカ前進するスフレ。
気前よく好きに選べと言ったものの、大学生の生活なんてそう余裕のあるわけではない。バイトだけで食いつなぐのには無理があり親の仕送りに頼っている。
とは言っても、昔から節約には自信がある。そのためこの夏は自炊も頑張ってみようと心に誓うが、うまく実行できていない。
そんなこんなで今日も必要な分だけのお金を卸してきた。
ま、夏物だしそんなに高いわけないだろと、思いながらスフレを探していると……なにやら高そうな鞄を腕にかけていた。
「なあ、お嬢様。その手に持っているのは何だい?」
冗談っぽく尋ねてみると、スフレは自慢気に。
「見て下さいよこれ! すごく可愛いと思いませんか?」
目をキラキラさせながら俺の感想を期待しているスフレに文句を言う。
「おい、スフレよ俺はさっきなんて言った?」
んーと、少し悩み答える。
「何でもいいから好きに選べ」
「その前」
んーと、また悩み、はっ! とした表情を見せ暗い顔で答える。
「服を……買いに行く……」
そこまで落ち込まなくたっていいだろ。俺の言いたいことを理解したのか、スフレは見るからに高そうな鞄を元あった場所に戻しに行った。
それからの計画は順調で、パジャマを合わせ4着の服と下着を買った俺たちは、そのままの足で食事を終わらせた。
大きな袋を手にアパートの扉を開ける。服と下着の他に靴や歯ブラシと、いった日用品も揃えたため、かなりの大荷物となった。
「〝あぁ、つかれた……やっぱ、普段から運動していないと、この暑さでの外出は応えるな」
ため息交じりに荷物を玄関に下ろし、天使とコミュニケーションをとる。
「確かに結構暑かったですねー。夏は暑いと聞いていたのですが、ここまで暑いと流石に外に出る気も起きませんね……」
二人同じくしてため息交じりな口調。
さすがに天使の体感温度も人間のものと同じ感覚のようだ。
「その感じだと天界って所には四季がないのか?」
「ええそうですね、天界は年間を通して大きな気温変化はなく、気候も穏やかですね。人間界で言いますと、春が天界の気候と同じくらいですかね」
「年中春なのか……花粉症の人にはたまんないな……」
少し向こうの事も知れたところで、リビングの扉を開ける。
むわぁっとした空気が、外の暑さとはまた違いここでもかと二人して項垂れてしまう。とりあえず、クーラーをつけ涼める空間を確保する。
「そう言えば、さっきの事聞いて一つ思ったんだが、スフレって夏が好きなのか?」
と言うと、下半分驚き上半分キラキラさせたような顔をしていた
「な、何で分かったんですか!」
「いや、ほら、あの異世界? が夏っぽかったし」
そんなところから⁉ と言わんばかりの顔をするスフレは、なんだか嬉しそうに口を開いた。
「はい。その通りです! 夏が好きです! 人間界の夏の行事に憧れて、あの世界を作りました」
なりほど、となると、あの空の幾何学模様は天の川でも模しているのかな。
じゃぁ、あの浮かぶ島はなんだ……提灯か? まあそんな事はどうでもいいか。
「ともきさんはどの季節が一番好きですか?」
「季節かーそうだなぁ……んー特にないかな」
「えっ!」
「いやだって、冬になると早く夏になって欲しいって思うし、夏になるとやっぱり冬の方が良かったなってなるし、ま、間を取って春か秋だな……でも、秋の方が美味しいもんが多いから秋かもなぁ……」
「おいしいもの?」
なぜかここでスフレが突っかかって来た。
「ああ、いろいろあるぞサツマイモやかぼちゃ、キノコ類、果物で言ったら柿、くり、ミカン、リンゴまぁ数えたらきりがないくらいにはあるな」
興味あり気な顔をしている。
「そ、それって今は食べられないんですか?」
「そうだなぁ、ハウス栽培とかされてるやつなら出てるとは思うが、旬の食材はその時期に食べるのがいいんじゃないか? そっちのが飽きないだろうし」
「ともきさんって詳しいのですね」
「まぁ、詳しいほどでもないがな、そもそもの料理が出来ないし」
とりわけどうでもいいような与太話をしながら、荷解きを行っていく。