第二章 悪魔のシュゼ
何はともあれ帰ってきた。
俺は椅子に座り、疲れと吐き気を慰めている。
スフレはいつものように、俺のベッドだったのに寝転がり本を読んでいる。
マロンは元の愛くるしい姿に戻り、スフレの胸の上で丸まり寝ている。
シュゼはというと、何をどうしたらいいのか分からず、帰ってきてからずっとキョロキョロしていた。
時刻は午後二時を回ろうとする頃。
スフレと買い物に行く前に、シュゼとの関係の筋合わせをしようと、椅子に座らせ、落ち着きを取り戻してから話をふる。
「なあ、シュゼちょっといいか?」
「は、はい……なん……でしょう」
まだ、慣れていないのか、単に人見知りな、だけなのか、自信のない口調である。
「あ、いや、一応俺たちの関係の筋合わせをだな……スフレともそこら辺の事はしっかりやっているし」
シュゼにつられ、俺自身も少し口調が曖昧になる。
「は、はい……解りました」
「それじゃあ、その……容姿はともかく、関係だな」
シュゼは、スフレとは違い髪や瞳に関しては、特に問題がないと判断したので省略する。
「大学で知り合ったなんて言ったら、あいつらがうるさいからなぁ。ま、別のキャンパスって言っといたら問題ないか」
前半の独り言は置いておき、要所だけを明確に伝える。
小さく頷き、理解の合図を送るシュゼ。
ま、性格も引っ込みガチだし大丈夫だろうと踏む。
そして、次なる問題が使い魔のマロンだ。一応この部屋、ペット禁止だし。もしバレたりしたら追い出されるかもな、この部屋。
「なあ、あいつの事はどうするんだ? 一応この部屋ペット禁止なんだが……」
スフレの方を指さし、要点を伝えるが、少し戸惑った後で、マロンの事だと理解する。
「だ、だいじょうぶです……よ、あの子は鳴かないですし」
鳴かないなら大丈夫かと思い、シュゼの事だしあまり迷惑になるようなことは、しないだろうと付け加える。
少しの間が空き、シュゼの方から話しかけてくれる。
「あ、あの……智樹さん……スフレちゃんっていつもあんな感じなんですか?」
俺は、その質問に正直に答える。
「ああ、前はどうだったか知らないけど今ではすっかり、堕天してるよ。いっつも、ああやって、ゴロゴロしながら本読んだり、ゲームしたり。とにかく、天使らしい事は、何一つやってないな」
また、あのように叱ってくれるのかと、淡い期待を寄せたが。シュゼは、深いため息をついていた。俺の思っていた反応とは、ちょっと違った反応をしたシュゼは続けて。
「やっぱり……堕天……してますよね……」
と、そうなる事を初めからから分かっていたかのように、ぼそりと、呟いた。
「スフレちゃんの家は、厳しい決まり事が沢山ありましたからね……。突然環境が変われば、だらけてしまうのでしょう……かね」
「そういうの、親友として、どう見えるんだ? やっぱり、心配か?」
俺の発言に少し頬を赤らめ、小声で語り掛ける。
「ええ、そ、それは……もちろん心配……ですよ。でも、スフレちゃんは、ああ見えても、やることはしっかりやっているので、大丈夫……じゃないでしょうか……」
少し照れた表情のシュゼは、俺の心を癒してくれた。
そうして、シュゼにしばらく見とれていると、羞恥八割、真面目二割程の声がかけられた。
「あ、あんまり見ないで下さい……そ、それより、修行やお役目について……話したいのですが……い、一応……義務でもありますし。……い、いいですか?」
「ああ、問題ないよ」義務だったんだな。まあ、スフレもあの頃は、まだ、しっかりしていたしな。
「で、では、まずは、修行から……悪魔の行う修行は天使のものと、大きな違いはありません。以前までは、悪事を働きかける、というのが悪魔のお仕事だったのですが……時代が変わったというか……考え方が変わったという感じで……今では無くなり、悪魔の行うお仕事は、一つとなっております」
少しの間を空け、理解する暇を与えてくれる。
「それが、悪魔のお仕事、もとい、お役目なのですが……な、内容が……天使の創った、使われなくなった異世界を壊すというものです……」
話の最後で躓つまづくものがあった。
「は? 天使の創った世界を壊すってどういう事だ?」
そりゃ、そういう反応になりますよね。という感じで、ジトっとした目をスフレに向け。
「悪魔は、一人っ子が基本で、優秀な悪魔になる子が多いんですよ……でも……天使の場合は……兄弟、姉妹などが多く、堕天したり、天使らしくならない子も多いです。そのせいもあってか、無責任な事をする子も多く、異世界を次々に創っては、所持権利を剥奪して廃界させてしまったりするのです」
ちらっと、スフレの方を睨む。あいつと出会って一週間。もしかしたら、天使の存在自体、ポンコツめいた存在なんじゃないのかと、思い始めてきた。
「ス、スフレちゃんはそんな事しませんよ。あ、あの子は智樹さんの思っている以上に賢い子です」
必死に抗議をするシュゼ。確かに、シュゼの言う事には一理あるかもしれない。だが、現にアイツは堕天してしまっている。
スフレの事は放っておいて、次は俺が、シュゼにちょっとした疑問を問う。
「そういや、スフレから聞いたんだが、シュゼって双子の悪魔なんだよな。お姉さんってどんな感じなの?」
この話をもう一度したい、というなら全力で否定させてもらう。それくらい俺の質問は、この空気を一斉に焦がすようなものだった。
何かを思い出したのか、シュゼは暗い顔をし、俯いている。
――そんな時アイツはいつも救ってくれる――。
「ともきー。そろそろ、買い物に行こっ! 今日は、シュゼもお菓子作るんだから、早めに用意しとかないと」
「そ、そうだな……」
スフレの話の中に何かのヒントがあったのかもしれない。シュゼは買い物に行くというと、さっきまでの表情は演技かと思わせるほどの可愛い笑顔で返事をくれた。




