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幸せにありがとう  作者: 小雪杏
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第二章 超次元ビーチバレー



「それじゃ、ともきは審判ね」


 青い空、幾何学模様が束ねる世界の下、スフレに指示され、指定の場所に立つ。

 何をやろうとしているのか、事前に話は聞いているものの、それをやるにはここの水位はあまりにも深い。


 腰の高さを優に超える海水は腹部をさすり、妙に力の抜ける感覚を漂わす。

 そんなことを気にしていると、スフレが海水でビーチボールほどの大きさの球体を作り出した。


「ちょっと、そのボール貸してくれ。念のため確認しとく、お前が変な小細工仕込んでないか」

「ちょっと! 天使を疑うつもり? この競技で小賢こざかしい事をするのは、天界でも魔界でも禁じられているのよ。それに、親友相手にそんな汚いマネするはずないでしょ」


 などと、豪語するスフレにボールを返し、改めてルール説明を行う。ボールは、見た目はともかく中身は普通のものと変りがなかった。


「じゃ、ルールの確認な。ボールに触っていいのは、三回まで、その間にボールを相手陣地に返すこと。手以外にも足や頭を使ってもいい。負けの条件は、ボールを掴む、陣地の外にボールを出す、三回以上触れる。だな、それじゃ、一点勝負だ。ゲーム開始!」


 その言葉とともに、先ほどスフレから渡された笛を鳴らす。


 すると――。海が割れた。


 正確に言うと、今まで腰の高さまであった水が退き、バレーボールコート程の広さが確保された。


 長方形のコートが完成すると、すかさず水が踊り始め、コートを二分する仕切りが出来上がった。二人がここでやろうとしていることは、ビーチバレーなのだが、早くも異次元を見せつけられた。


 コートが完成すると、スフレが空高くトスを打ち上げ、シュゼがそれを追うように青空を煽った。



   



 天界と魔界で流通しているビーチバレーは、現実のモノとは、大きく違うようだ。その全貌とは、どうやら、魔法や魔術の能力対決のようだ。


 高く打ち上げられたスフレのトスは、一度シュゼのコートに入り、何も行われず普通にスフレのコートに返された。


ここからが能力対決ゲームの始まりだ――。


 スフレが、シュゼからのボールをレシーブすると同時に、スフレの周りに蝶のような光る何かが数匹、舞い始めた。


 スフレは、そのままひとりでにボールを繋ぎ、三回目でシュゼへボールを返す。

その時に、スフレの周りを舞っていた蝶たちは、ボールへと移り。


 蝶を乗せたボールは、ネットを超えシュゼの正面へと吸い込まれていくように流れていく。スフレからのボールを受けようと、シュゼは体制を低くし、レシーブの形をとる。


 だが――。


 シュゼのレシーブを受ける瞬間、ボールは激しい閃光を放った――。


 ――――でも、シュゼはピクリとも動じず、レシーブを行った。


 通常、目は強い光を受けると視覚異常を起こし光過敏性発作というものが起こる。

 光の強さの単位をカンデラと言い、太陽光(地上から見た場合)であれば、約5000カンデラ。この場合、目がくらむ程度のものであるが、さらに強い光を受ければ痙攣発作を起こすとても危険なものだ。


 ――だが、シュゼは平然としている。悪魔だからなのだろうか、人間ではないからなのだろうか。


 この魔法は、スフレと初めて会った時、最初に見せられたモノと同系統のものらしく、先ほどのように、蝶や兎などといった虫や動物といった、生き物の形を描き投影することが出来るようだ。


 もっぱら俺に被害が及ばなかったのは、始まる前に、シュゼから対魔法体制のある札を貰ったからだろう。おかげで死なずに済んだ。


 てか、さっきの言葉はどこ行ったよ。親友相手に容赦ねぇえ。


 そのまま、シュゼのターンへと移り、三回目で空高くスフレのコートに向けてボールを放った。


 一見、何も起こらないように見えたがやはり、違った――。


 高く打ち上げられたボールはスフレのコートの中央付近で静止し、ゆっくりと回転を始めた。


 すると、シュゼがぶつぶつと何かを呟き始め、数秒程経つと、シュゼの足元と、ボールの下に、空に映る幾何学模様の光の輪のようなものが現れてきた。


 ボールの下に描かれた輪は、幾多にも連なり。


 ゆっくりとボールが、輪に入り込むと――――。


 猛烈なスピードで爆音を響かせ、天地を裂いた。


 一目見れば、スフレに見せつけられたアレの様であったが、筋のような光も見えなければ、大きな爆発も起きなかった。慣れた思考を震わせつつ、これが加速系統のモノだと理解する。


 スフレが、頭の上で空を撫でるように、手を翳かざすと。

 足元に高速で落ちるはずであったボールは、スフレの顔の前で静かに静止した。


 スフレは、そのまま、ボールを打ち上げ、今度は二回目で後ろの方から、シュゼのコートに叩きつけるように平行にして打つ。


 コートと平行にして打たれたボールは、ネットを超えると、滑空し始め、段々金属光沢のようなテカリを見せた。どうやら、物質系統のものらしい。


 重い金属へと姿を変えたボールは、鈍い音を立たせコートに落ちる――はずだった。


 いとも簡単に返されたボールは、スフレのコートに溶け込んで行く。

 俺は何が起こったのか理解出来なかったが、無意識のうちに踵きびすを返していた。


 ――そう、ドラゴンだ。


 先のモノは、ドラゴンによるものらしい、神々しいドラゴンの口からは覇気がいまだ漏れ続けている。


 どうやら、この勝負の決着をつけたのは、ドラゴンの吐いた息に因るものらしい。


 少し遅れて終了の合図を鳴らす。


 シュゼは、小気ながらも嬉しそうにしている。


 スフレはというと、涙を浮かべ脱力したかのように地面に頬擦りをしていた。



 さて、ゲームには賭けが付いてくるものなのだが、二人がかけたものとは、今日の夕食後のデザートをどっちが用意するかという事らしい。


 勝った方が自分の好きなお菓子を作れるということになる。


 そんな程度の事で次元超えたのかよ……。


 ゲームを終えた後は、三人と一匹で普通に遊ぶこととなった。


   



 空高く打ち上げられた水で出来たボールは、そのまま、腕に吸い込まれるように落ちるかと思われたが。段々、金属光沢を放ち、軌道がブレ始め、俺の横をかすめたと思うと、最後には、ドスンと、鈍い音を辺りにまき散らし、砂浜にのめり込んだ。


「ひぇぇぇぇええええええええええええ」


 思わず変な声が出る。


 スフレはというと、腹を抑え、こちらを指さしクスクスと笑っている。


 シュゼは、心配そうに見つめてくれている。


「あっぶねぇだろ! 殺す気か!」


 マジな顔で冗談じゃないと、抗議するも届かず。


「冗談じゃないの、どうせ当たりなんてしないって」


 笑い転げるスフレの顔にボールを投げつけてやろうと、埋もれたボールを引き上げようとする――が。


 ――動かない。


 しばらく沈黙していると、スフレが。


「そんなの動かせるはずないでしょ、だって金だもの」

「今何つった。金だって?」

「ええそうよ、金よ。残念ながら売れるのもじゃないけどね」


 頭を高速回転させながら、ボールの総量と金の単価を照らし合わせるも、売れない、の一言で思考が停止する。


「どうして売れないんだ?」


 試しに聞いてみる。


「だって、物質系統の錬金程度じゃ、せいぜい五分程度しか形を留めておくのが出来ないんだもの。それに、こんな小汚いマネは、天使たるこの私が許しません」


 言い切った。スフレは、腰に手を当て俺を叱るように言い切った。


 俺の反応が気に食わなかったのか、スフレはまた新たにボールを作り、続きを始めた。


 今更ながら容姿の説明。スフレは見るからに子供っぽそうな雰囲気の強い、ひらひらのフリルがついた白いビキニを着ている。似合っていないわけではないのだが、ああいったのを自分用に買うのは、恥ずかしくなかったのか?


 シュゼはというと、性格とは間反対で、露出の多めな黒いビキニを着ている。

 言っては何だが、シュゼの体系はそこまで言うほどナイスと言ったものではない。

 まだ、自分の容姿に自信が持ててないのか、腹部や胸部の辺りをそわそわと、気にしている。正直、これを選んだことには何やら悪意に似たものが感じられた。


 そして、俺。何故だか、自分でもさほど似合わないと思っている赤を選択された。

 一緒にスフレと服を買いに行った時は、常人より優れた美的センスは持っていると踏んでいたが。やはり、あれは間違っていたのか。そう思わせるほど、俺の海パンに対してのこの選択は、適当なものだった。星マークはねぇだろ。



 そのあとは、突然スフレの体が裂け、中から魔獣が出てきたり。巨大なタコに二人がヌメヌメにされるような事は起きず。普通にスイカ割りをしたり、ドラゴンに乗ったりして遊んだ。



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