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幸せにありがとう  作者: 小雪杏
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第二章 悪魔


 ――悪魔の囁ささやき。スフレの言う悪魔とは、天使に相反するものを信じるならば、悪魔の囁きはとても危険なものになる。と、思っていたが、今の現状を見て信じようとは思はない。


 スフレと出会ってから、一週間程になるが、だんだんスフレのぐーたらぶりが滲み出てきた。


 料理こそは作るものの、一日の大半を読書やゲームにつぎ込んでいる。まぁ、修行の身だから多めには見ているものの、生活費はかさむばかりである。


 それに加え、スフレは掃除がとてもじゃないほど下手くそであった。何故、料理の段取りは良いのに、掃除ができないのか……矛盾してないよな……結局、料理以外の家事は全て俺が引き受けることとなり、人数が増えた分余計に仕事が増える結果となった。



 ……この、堕天使めっ!



 これが天使だと言うんだったら、悪魔はきっと俺にとっては素晴らしい存在いだと思いながら、ベッドに寝転がるスフレを見つめていると……。



 ――突然、部屋の外が闇に染まった。



 今まで騒めいていた外の音は遮断され、ここだけが時間という波に置いて行かれたように感じた。


 ……何かが来る! 


 この勘が働いたのは、きっと前にも同じことを体験したからであろう――。

 俺とスフレの間に大きな亀裂が走り、金属を引き裂くような不快な音を零しながら、空間が裂かれる――地獄が覗く。


 二つの白い光がこちらを窺うかがっているのが分かる。恐怖に囚とらわれ、瞬きをすることもままならない状況であるのに、光は囁きだす。


 亀裂から這い出た冷たい風は、黒いブーツに包まれた白い足を連れてやってくる。


 地獄と現実世界の境に摑まれた指先は、白く、細く、冷たく、寂しい。

 心臓が縛られるような恐怖に、俺の脳は働こうとしない。

 地獄から這い出てきたのは、スフレと同じくらい白い肌を持つ少女であった――。


 ゴシック調の服に身を包んだ少女は、背中から黒いハネを生やし、頭からは鋭い角を生やしていた。猫に似た、黒く丸い、ぬいぐるみのような体系に、背中からハネを生やした生物を連れて。


 漆黒に塗られた床に届きそうな程長い髪は、冷酷を語り。灰のように煤すすけた瞳は、引き込まれそうなほど美しかった。


 そんな、少女の容姿に魅了されていると、――囁きが聞こえた。


「あ、あんまり……見ないでください……」


 頬を赤らめた少女は、見た目によらず恥じていた。


 俺は、つい先ほどまで抱いていた恐怖から手放され茫然と立ちすくむことしか出来なかった。


 ――またも、膠着状態こうちゃくじょうたいだった俺を救ってくれたのはスフレの声だった。


「しゅぅぅぅーぜぇぇぇぇー」


 いきなり、背後からスフレに抱き着かれた少女は驚いたのか、目に涙をにじませ怯えた表情を見せる。


「おーい、スフレ。お前の知り合いかは知らんが、この子凄い怯えてるぞ」


 その声が聞こえたのか、スフレは少女の正面に回り込みまた、抱き着いた。


「しゅぜぇぇ、会いたかったよぉぉ」


 わんわん泣くスフレ、それを見て苦い顔をすることしか出来ない俺。

 しばしの時間が経ち少女が落ち着きを取り戻し始めた。


「え……! スフレちゃん⁉ どうしてここに?」


 どうやらスフレの知り合いというのは本当の事だったようだ。


「どうしてって私も修行よ」


 少女は泣き止まないスフレの頭を撫で。


「ほらほら、落ち着いて。どーどー」


 少女はスフレの扱いに慣れているようだ。それにしても泣きすぎだ、相当この少女に会えたことが嬉しかったのだろう。


 スフレを落ち着かせた少女は俺の前で立ち上がりこう、囁いた。


「あ、悪魔の見習いとして……主のもとにお降りしました……しゅ、シュゼット・アルマスです……どうぞ……よろしくお願い……します」


 悪魔と名乗った少女は俺と目が合うと、頬を赤らめそそくさと目を逸らした。


「ああ、シュゼットな、俺はともきよろしくな」

「あ、あんまり……驚かないんです……ね」

「ああ、こいつにあんなもん見せられちゃあな、驚くどころかこれが当たり前に思えてきた」


 俺が横目で見遣っていると少女はスフレの方を向き。


「スフレちゃん一体……なにやったの?」

「あー、と、ともきが信じないって言うから、異世界に行ってちょっと魔法を……」


 目を逸らしながら言うスフレに少女は叱り付けるように言葉を並べる。


「あれ程、天界で無理やり信じさせるのはダメって言われてたでしょ? なんでそうしちゃうの?」

「うぅぅ~だってぇ、そっちの方が手っ取りばやいんだもん」

「そういうことやってると減点されていつまで経っても修行終わらないよ?」


 いいぞー、もっと言ってやれ。


 少女に説教されているスフレが涙を浮かべこっちに救いの手を差し伸べてきたため、しかたなくスフレを助ける事にした。


「おーい、シュゼットさん、もーそこらへんにしてやれよ。スフレも反省してるみたいだし」

「いっつもそうやって門……題を…………は、はい……」


 俺に話しかけられ、熱が逃げたのか少女は萎しぼんだように大人しくなり、自信のない口調に戻った。


「じゃ、改めて自己紹介な。俺は霧乃智樹きりのともき、こっちは知ってると思うが天使のスフレ、分からない事があったら聞きやすい方に聞いてくれ」

「は、はい……私はシュゼット・アルマス……しゅ、シュゼとお呼び下さい。こ、こっちは、使い魔のマロンです……よ、よろしく……お願い……します…………マ

スター」


 マスターという呼び名につっこもうとしたがスフレが先に言ってくれた。


「ああ、シュゼこの人はマスターって呼ばれるのが恥ずかしいのよ。だから、トムって呼んであげて」

「ちょ待て、何でお前が俺のあだ名知ってんだよ」

「あ、ごめん~これあだ名だった? あなたに合うような可愛い名前考えてたら浮かんできちゃって。これ考えた人と私気が合うかもね~今度紹介して!」

「しねぇよバカ! と、まあ、こいつの言ってることなんてほっておいて、俺の事は好きに呼んでいいぞ」


 そう言うとシュゼは少し悩み。


「では……智樹さん…………ダメ……ですか……?」

「おおう、いいぞ」


 初めてスフレに合った時に感じたような魅力に囚われた。


「それじゃあ、仲良くなるついでに行きましょ!」

「い、行くって何処に?」

「もちろん決まってるじゃないですか! さぁさぁれっつごー!」


 俺とシュゼを掴みスフレは転移魔法を使った――。

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