沖田総司
「おい?なんだこれ?」
原田は彼女が落としたであろうものを地面から持ち上げた。
「なんだこれ?鏡か?」
その見慣れないものに永倉は疑問を口にする。
ツンツン
「なんもなんねえよな」
ボタンや画面を押してみるも当然何も反応しない。
「総司、知ってるか?」
「いいえ」
黙ってそれを見ている沖田に尋ねるも当然知ってるはずもない。
「やっぱ鏡か?」
「黒い鏡なんて聞いたことねえぞ」
「遊女専用の鏡かも知んねえぞ?」
「それこそ聞いたことねえよ」
原田と永倉の言い合いをよそに総司は含みある笑みを浮かべた。
「ふーん?」
「ん?なんだ総司」
「いーえ」
「?」
総司は何事も無かったようにまた平然と笑みを浮かべる。
「まあいいや。とりあえず総司!これ、届けてやれ」
「はっ?嫌ですよ。なんで僕が」
突然の原田の言葉に沖田は心底嫌そうな顔をする。
「あの嬢ちゃん受け止めたのも、怖がらせたのもお前だし?」
「俺らは花町で芸妓ちゃんと用があんの」
「なんですか、それ」
こういう時だけ意気投合する原田と永倉に沖田は心底呆れ返る。
「じゃあな。頼んだぜ」
原田はそう言うと沖田にそれを投げて渡すと、永倉と肩を組んで花町をあるいていった。
「はぁー。わかりましたよ」
ため息を吐きながらそれをぎゅっと握ると沖田はそのまま路地へと入っていった。
「花町で遊ぶより人探しの方が性に合ってますからねー」
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ーーーーーーー
(スマホがない!?)
「あ〜どこで落としたんだろ?」
慌てながら周辺を探し回る静。
(あんなものがこの時代見つかっちゃったら大変なことになっちゃう)
「ましてや新選組なんかに拾われてたら、、、」
「新選組に拾われてたら、何?」
「!!!」
ビクッ
その聞きなれた声に静は固まる。
「何探してんの?」
その声のした方向に振り向くとそこには新選組一番組組長沖田総司の姿があった。
(沖田総司、、、、)
(まずい!逃げなきゃ!悟られたらダメだ)
静は慌てて沖田の前から走り去った。
「ちょっ!」
突然逃げられ沖田は面食らっている。
しかし、時期に楽しそうな意地の悪い笑みを浮かべる。
「へえー、追いかけっこか。それなら僕得意だよ」
タタッ
「!」
キュッ
タタッ
「!」
キュッ
走りでる方、走りでる方に沖田が現れる。
まるで出てくるところを予測され先回りされているかのように。
ハアハア
(ーっ!どうして?どうして行く先々に現れるの?それに何で私を追いかけて?)
ハアハア
走り続け、もう走る体力が残っていない。
肩で息をする静の背後から声がする。
「何、追いかけっこはもう終わり?」
「ーっ!」
行き一つ切れず、まるで遊びのように話す沖田を静は見やる。
「どうしてって顔だね?知ってるでしょ?僕達は市中の巡察をするのが仕事。この辺の地理なら詳しい。それに」
「!」
「逃げる不逞浪士を斬るのも仕事。追い詰め方ぐらい知ってて当然でしょ?」
「ーっ!」
そのなんの躊躇もなく出た言葉に静は背中が凍りつくのを感じる。
(人の命をなんとも思っていない言葉、、、)
(これが新選組、、、、)
(逃げなきゃ、、、、ここにいたら)
そう思い表へと一歩踏み出そうと言った瞬間
チャッ
「!!!!」
冷たい刃先が首に触れる。
「動くと首が飛ぶよ?」
「っ!」
そのゾッとするような発言が嘘ではないことは首に突きつけられた刀が意味していた。
いつの間に抜刀したのか。
流石というべきはやさである。
「言ったでしょ?不逞の輩を斬るのが僕の仕事だって」
「ーっ!」
(殺される、、、!)
静はぎゅっと目をつぶった。
そしてそのまま声を震わしながら疑問を口にする。
「どうして、、私を追いかけるの?」
「どうして?なんでだろうね」
沖田はそう言いながら、ジャリジャリと砂を踏みしめながら一歩一歩静へと歩みを進める。
「ーっ!」
意味もなくこの人は私を追いかけ、刀を首に添わせているのか。
近づいてくる足音と恐怖に涙が滲む。
(本当に、この人は、簡単に人が殺せるんだ、、、)
「ゆっくりこっち向いて、表に出て」
静は目をつぶったまま沖田に従う。
「両手出して」
「?」
そして出した瞬間、
トン
「!」
手に冷たい何かが落とされる。
「はい。落し物」
「えっ?」
目を開けると手には探していたスマホが乗っけられていた。
「!」
「君が探してたのはこれ?落ちてたから届けてあげようと思ったのに僕の顔見た瞬間に逃げるから意地悪しちゃった。それにしても君、本当反応面白いね。」
沖田はこともなげに楽しそうに話す。
気がつくと刀は既に腰の鞘に収められていた。
度重なる出来事に思わず力が抜け、静はその場に崩れ落ちる。
「っ」
驚きのあまり声も出ない。
「お?」
その光景を不思議そうに沖田は見ていた。
すると
「おー!見つかったか!」
遠くから聞き知った声がする。
「っておい、どうした!?地面に尻つけたら綺麗な着物が汚れんぞ」
原田と永倉が駆け寄ってきて、心配そうに声を上げる。
しかし静はそれどころではない。
「おい。総司ー。お前またなんか余計なことしただろー?」
「なんですか?左之さん。僕は親切に落し物届けただけです」
「ほんとかよ。ただ届けるだけでなんで嬢ちゃんこんな青ざめた顔になんだよ」
「知りませんよ。それよりお店に行ってたんじゃないんですか?」
「ああ。そうなんだが」
「新八が嬢ちゃん心配だって戻ってきたんだよ」
「バッ余計なこと言うなよ」
「なんだよ、ホントのことだろ?」
「だからそれをだなー」
「それなら新八さんが届ければよかったんです」
「なにぃ!?」
そんな3人の会話を他所に静はその場で座り込んだまま動けない。
(怖かっ、、、、た)
(本当に、、、殺されるかと思った、、、)
『パパ、ママー!!!』
脳裏に幼い自分が泣きじゃくる光景が蘇る。
「っ!」
それを振り払うように静は目を固くつぶった。
傾いていた太陽が沈み、あたりがどんどんと暗くなる。
それに乗じる様に花町には明かりがともり、三味線の音が響き渡る。
「お前はいつもそうだ」
「あーなんだとぉ!」
「だからモテねえんだよ!」
「うるせえ!!ほっとけ!お前は手が早いだけだろ!!」
「なんだとお!?」
「やんのかあ」
「もう店の前でなんの騒ぎですのん?」
原田と永倉の口喧嘩に気づき、店の人が出てきた。
「あ、女将さん、、、」
その姿に思わず静は声をあげる。
(いつの間にか私、自分の店の前に戻ってきてたんだ)
「んまあ、どないしたん?そんな青白い顔して」
「いえ、、、すみません。着物汚してしまって」
静はスマホをまた袖に直すと土を払いながら立ち上がった。
「いや、そりゃあかまへんけど。いつまでたっても帰ってけえへんから心配しとったんやで?ーって、えっ!?」
思ってもみなかった光景に思わず女将は声をあげた。
静「?」
原田・永倉「「ん?」」
「よう見たら新選組の方々やございませんか!」
「えっ?」
「よう連れてきたな。客を捕まえてこい言うたけどまさか贔屓にしてもうとる新選組を連れてくるとはな〜。こりゃあ驚きやわ〜」
「えっ?」
あまりのことに静は状況が読み込めない。
「さあどうぞ。お入りなんし。新選組の方々」
「おーっ」
「やったぜ!いっぱい飲んで騒ぐぞー!」
「うぇーい!」
先程の喧嘩はどこへやら。
肩を組むと原田と永倉はいそいそと店の中に入っていった。
外に取り残された沖田と静。
「っ!」
(えええええええええええええええええええ!!?)
予想だにしなかったことに静は驚きを隠せないのであった。