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逢瀬


『この世界はそう甘うない。拾われてすぐ遊女になれるなんて思てもろうては困る』


『まずはお前がどれほどここで通用するか見させてもらいまひょ。

表で客を捕まえてきな。けちな客じゃ行けないよ。ちゃあんと身銭切ってここにあがろうて客を夜見世が始まる前に1人でもいい。お前が連れてくるんや』


『とりあえずその服はあかん。この着物に着替えなんし』


そうして言われるがまま素朴な着物に身をつつみ、再び外へと放り出された静。


(まさかこんなことになるなんて、、、)

「はぁ〜〜」

静はため息をこぼした。


(客を捕まえるって言っても私、まだこの時代に来たばかりで右も左もわからないのに)


『まあいい。花町には色んな客が来る。情報収集にはうってつけやろう』


(でも、元きた自分の時代に帰るためだ!頑張ろう!)



10分後ーー。


「はぁーだめだ。全然捕まらない。そもそも客引きなんてしたことないし」

店の壁に片手をつき、静は落胆の表情を浮かべる。


(物の見事に交わされてる)


「はぁ〜〜〜」

(私こんなんで本当に帰れるのかな)

先行きが不安になり、静の表情はよりいっそう曇り始める。


(とりあえずもうちょっとだけ、頑張っ、、、)

壁から手を離し、上体を起こそうとした瞬間、

ぐらっ

慣れない靴に足を取られ、重心が傾く。


(やばっ!)

倒れるのを覚悟で目を閉じた瞬間、


「おっと!」

人にあたる感触と若い男性の声がする。

「!」

顔を上げると倒れる自分を受け止めた男の人の姿が目に入る。


「お前、大丈夫か?」

するとその男性の隣にいた背の高い大柄の男性が心配そうに声をかけた。

「あっ、はい。すいません。ありがとうございます」

静は慌てて男性から体を離すと深々と礼を述べた。


「ははは。いいってことよ!それにしてもちっさくて可愛いなぁ嬢ちゃん!新米か?」

「おい、こら!」

大柄の男性にすかさずもう一人のがっしりとした男性がツッコミを入れる。


「ふふふ」

(面白い人たち、、、)


「お。笑った!」

「面白かったんじゃないですか?」

静を受け止めた男性が静の言葉を代弁するかのように2人に告げる。


「そうかー?はは。まあいいや。気つけろよ!嬢ちゃん!」

そういうと大柄の男性は手を振り去っていく。


その姿を見送りながら静はふと本来の目的を思い出す。

「あっ!」

(この人達なら若しかしたら)


「あ、あの、、、」

そうして勇気を持って声をかけようとした時



「ねえ、本当に行くんですか?左之さん。新八さん」

ドクンッ

(えっ、、、?)

そのどこかで聞いた名に静の鼓動がはねる。


「あったりめえだろうが。総司ー。いつも逃げやがって。」

ドクン

「今度こそお前にも男のロマンってもんを教えてやる!」

「ええ〜~」


ドクン

(左之、新八、、、)

「ん?どうした嬢ちゃん。まだなんか用か?」

左之と呼ばれた男性が静に気づき、優しく声をかけてくる。

(総司、、、、、)


静の脳内にこないだまで調べていた教科書のあるページが思い浮かぶ。


ドクン

「おーい!どうしたー?」


静は胸元でぎゅっと震える手を握りしめるとその名前を呟いた。

「原田左之助」

「ん?」

「永倉新八」

「お?」

「沖田総司」

「!」


「新撰組っ!」

恐る恐る、しかしはっきりと静はその言葉を口にした。

一瞬驚くものの男達はそれぞれ違った反応をする。


「お!なんだ嬢ちゃん!俺たちのこと知ってんのかー」

「ははー。俺達も有名になったもんだなー」

「ほとんどは功績というよりお前の女癖と酒癖のせいだろー?」

「はぁ!?お前も似たようなもんだろうが」

ワイワイと仲良くくだらない言い争いをする原田と永倉とは反対に


沖田は

「へえ〜」

と静に興味を示していた。


(花町にはよく来ていたって史実にも書かれていたけど、、、まさかこんなところで会うなんて、、、、)

静は3人の男達を見やる。

特に気にするでもなく原田と永倉は言い争いをしている。


(浅葱色の羽織を着た人斬り集団)

(新選組、、、、)


(私がこの時代で一番会いたくなかった)

(、、、、人殺しの集団、、、、、)


静は青ざめ、体をガクガクと震わせる。

「おい、大丈夫か?震えてんぞ」

「ねえ」

「!」

心配の声を上げる永倉を他所に沖田が静へと顔を近づける。


「さっき僕達を呼んだみたいだけど、用件は何?」

言葉とは裏腹にその目からは感情を感じない。


(ーっ!逃げなきゃ、、、、)

「な、なんでもないです!」

そういうと静は一目散に店と店とのあいだの路地へと逃げていった。


「?なんだぁ?」

「おい、怖がらせんなよ総司」

「、、、別に何もしてませんよ」

沖田の肩に手を回し、永倉が呆れた声を上げる。

沖田は平然と答えた。


キラッ

すると足元が光る。


「ん?さっきの嬢ちゃんの落としもんか?」

原田は屈むとその光の正体を持ち上げる。

「なんだこれ?」

永倉もそれを見つめる。

「ふーん」

それを見た沖田が含みある笑みを浮かべたのをこの時、誰も知らない。


ーーーーーーーーー


ーーーーーー


ハァハァ

慣れない靴で静は路地を走る。

(まさか、、、こんなところで新選組に会っちゃうなんて、、、)

(客を捕まえるどころじゃない)

ハァハァ


足を止めると乱れた呼吸を整えるように膝に両手をつく。

(それに、、、よりによって花町にはあんまり来なかったで有名な沖田総司がいるなんて)

(邪魔だと思ったものを簡単に斬って殺せる一番組の組長)

(あんな人の近くにいたらいくら命があっても足りない、、、、)


「とりあえず表に出て新撰組に見つからないようにお客は捕まえないと、、、」

そうして路地から表通りに出ようとした時


「あれ?」

何かがないことに気づく。


「スマホがない、、、」

着物の袖に入れていたスマホがいつの間にかなくなっていた。

(使えないのはわかってたけど、荷物漁られた時に咄嗟に入れてて忘れてた)


「ーっ、どうしよ?」

(どこで落としたんだろ?)


当たりを見渡すもどこにも落ちていない。


「あんなこの時代のじゃないもの持ってたら流石に怪しまれる」

(どうしよ、、、、)

(どこで、、、、)


「あっ!」


静は先ほどバランスを崩して倒れ、沖田に受け止められたことを思い出す。


「まさかっ!あの時、、、」

肝が冷める思いがする。

まさか新撰組のもとに落ちてるのではないか。


よりにもよって彼らに見つかってしまえばどうなるか知れたもんじゃない。

そう思った矢先、背後から聞き知った声がする。

「何探してんの!?」

「ーっ!」

その声に振り向くとそこには沖田総司がたっていた。


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