時代の波
(もうすぐあの日が来る)
「ねえ、沖田さん明日も来るんですか?」
いつものようにふたりは部屋にいた。
俯きながら紫は沖田に尋ねる。
「うーん、明日は来ないかな。そろそろ土方さんに怒られそうだし、それに巡察あるから。何?そんなに僕に会いたいの?」
「、、、、違う」
「╬」
「、、、、、。」
その言葉に紫は全てを悟る。
文久4年6月ー。
(やっぱり歴史通り時代が動いている)
紫はぎゅっと手を握りしめる。そして、
「行かないで!」
「!」
「お願い!池田屋には行かないで!!」
(あの時発病したのかはわからない)
(でも)
(沖田さんが血を吐くのは池田屋事件だ)
静は沖田の着物の襟を掴んで懇願する。
「お願い、、、池田屋にだけは、、、行かないで、、、」
「何言って、、、、」
あまりの出来事に沖田は困惑している。
「言ったでしょ?私は未来から来たって。未来に起こることは全部知ってる」
「なにそれ、、、、」
「!沖田さっ」
沖田のいつもと違う声に気づいた瞬間
ダン
「ーっ!!」
紫は畳に押し倒された。
「何を知ってるのか知らないけど君にそんなこと言われる筋合いはないよ」
「わ、私は、、、、!」
慌てて言葉を放とうとするもののすぐに沖田に言葉を被せられる。
「近藤さんの命でしょ?それ。池田屋って長州がよく会合を開いてるっていう有名な旅籠だよね?」
「!」
「近藤さんの命を、新撰組の意向を僕に無視しろっていうの?」
そう告げる沖田の表情は今までのような優しいものではなく、とても恐ろしい。
「そんなっ、、、、」
(ーっ、、。こわい)
(これが、、沖田さん、なの、、、)
『紫』
いつもの冗談めかした笑みを浮かべる沖田の姿はそこにはなかった。
「ましてや一番組組長のこの僕が」
(これが幕末を生きた人、、、、)
(恐れられた新選組一番組組長沖田総司)
「たとえ死ぬとしても僕は近藤さんと新選組とあり続ける」
そういうと沖田は上体をゆっくりと起こす。
(あー)
(歴史はやはり変えられない)
(何度体を重ねても)
(心が繋がっても)
(結局この人は新選組ー。)
(時代の波には抗えないのかもしれない)
「沖田さっ」
咄嗟に彼の名を呼ぼうとした瞬間、
彼の手が首元へとかかった。
「次にそんなこと口走ったら殺すから」
「ーっ!」
その声に迷いはなかった。
人を殺してきたことを物語るような冷たい目。
(そうだ)
(この人は簡単に)
(「私」を殺せるんだ)
「興が冷めた。今日はもう帰るね」
沖田がそう言って障子をあけようと手をかけた瞬間、
バッ
「!」
(でも私も、、、)
「なら、、、、」
(譲らない、、、、!)
(行かせないっ、、、!)
「私を振り払ってから行って下さい!!」
(たとえ未来が変わったとしても)
「殺すなら殺せばいい!」
「!!」
(私はあなたに)
「さあ!どうした!?」
(生きてほしい!!)
「、、、、、。」
「、、、、、。」
強い眼差しで見つめ合う2人。
互いに志はぶれない。
「ーっ!なにそれ」
「!」
「本当可愛くない」
掠れた声で低くつぶやくと
ちゅっ
沖田は唇を重ねた。
そしてそのまま紫を畳へと押し倒した。
〇その日沖田さんは
「っぁ、あっ」
ギッ
〇いつもとは比べ物にならないほど激しく
私を抱いた。
「もっ、無理、、んんっ」
〇まるで迷いを完全に断ち切るかのように
「はぁ、」
〇私の意識が完全になくなるまで彼は私を抱き続けた。
チチチチチチ
朝、小鳥のさえずりがぼんやりとした意識の中耳に入る。
「っ、私、生きてる?」
慌てて起き上がり、周囲を見渡す。
「沖田さっ」
しかし、もうそこには自分以外誰もいなかった。
〇朝、もうそこに彼の姿はなかった。
「ーっつ!」
空虚感、絶望が一気に胸に押し寄せる。
〇結局彼は私を殺さなかった。
あれほど殺すと言っていたのにー。
「沖田さんっ」
紫はその場に崩れ落ちる。
(死んで欲しくないのに、どうして伝わらないんだろ)
(未来を変えることは許されないの?)
『次にそんなこと口走ったら殺すから』
〇あれは嘘。私を遠ざけるための嘘だったと、すぐに悟った。
溢れ出る涙を止める術などもうわからない。
静はそのまま両手を床につけた。
「死なないで」




