京の都
京都ー。
「それでは各班に別れて自由行動とする。テーマ調べもしっかりとやるように」
中年の教師の声が響く。
「はぁー」
綺麗なストレートロングの黒髪を靡かせた少女はそれを聞いてため息をはいた。
雛本静 17歳。
(なんでこんなことに、、、、、)
〜回想〜
遡ること数ヶ月前
「修学旅行だが、今回私達は京都に行くことになった」
ザワッ
「京都!?よっしゃあ」
「久々に行くわ、俺」
「抹茶食べたいー」
「やったー!!」
「静かに!その事なんだが、修学旅行はあくまで学校行事!学習の一環だ!修学、、、学びを修めると書く!」
「まーた始まったよ」
「めんどくさ」
「だから私達はただ京都に行くのではない!京都に行って学びを深めるのだ!」
「?」
「学びを深めるって具体的に何すんの?」
「なあに簡単なこと!京都は歴史や文化に満ち満ちている!それぞれの班に分かれてテーマを決め、事前に調べた後、それを実物を見てより深い学びにする!それが今回の狙いだ」
えええええええええええ
「なんだよそれー」
〜回想終了〜
「はぁー」
「本当なんだって言うんだろうね」
「こんなの修学旅行でもなんでもないじゃん。ただの歴史学習」
「まあ日本史の先生ありきって感じだよねー」
「静!ほら行くよ!」
「そうそう決まった以上やらないといけないし、、、そして何より」
「うんうん」
「私達が調べるのはあの「新選組」なんだからー!」
「きゃーーー」
「新選組聖地巡りって言うの?一回やってみたかったんだよねー!嬉しいー!」
「莉央がじゃんけん勝ってくれたおかげでゲット出来たよねー!」
「えへへ」
「、、、、、、、。」
(そう、、、、、)
(私達の班が京都ーここで調べることになったのは)
(新選組)
(幕末動乱期に活躍した浅葱色の羽織を着た集団)
「じゃあ行こー!!」
「うん!どこから回る?」
「そーだなー」
「静ー!行くよー!」
(そして、私が嫌いな)
(人殺し)
きゃいきゃい
「でねー、私新選組のこと調べてたんだけど」
「えー?なになにー?」
(好きな人が多いけど)
(私にはよくわからない)
(いや、わかりたくもない)
(私は新選組が嫌いだ)
(そして特に嫌いなのが)
「やっぱり沖田さんてカッコイイよねー!」
「あー私も好きー!!」
(そう、)
(沖田総司)
(新選組一番組組長)
(新選組の刀と言われた人物)
(容赦なく人を斬り、戦闘狂だったと言われる諸説もある特攻の一番組の組長)
(なぜ、そんなにも簡単に人の命が奪えるのか、私には理解できない)
『パパ、ママ行かないで!!』
「ーっ!」
脳裏に写った記憶に静は眉を寄せた。
「最後結核で死んじゃうんだよねー?」
「辛いーー」
「静?」
「!」
「大丈夫?顔色悪くない?」
「あっ、ごめん。大丈夫!」
(いけない、、、、)
「ごめんね。静やっぱりテーマ嫌だった?」
「えっ?」
「新選組ってやっぱり人殺してた以上賛否両論あるし、何より静の両親は、、、、」
「あっ、大丈夫!平気!ありがとう」
「うん」
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
「わあー!!着いたよ!!」
「ここが壬生寺!!!」
「意外と広いねー」
「ここで剣の稽古とかしてたんだねー!」
「すごーい!!」
(正直学習なんてなんでもいい)
(みんながいいならそれでいいし、特に調べたいテーマもなかった)
「あっちには八木邸と旧前川邸があるみたいだよ!」
「行ってみよ行ってみよ!!」
ーーーーーーーー
「それで新選組は二つに別れてしまったんや」
「、、、、、、。」
(御陵衛士、このもつれで八番組組長藤堂平助が油小路で命を落としたんだったっけ)
カリカリカリカリ
語り部さんの話を聞きながらメモをとる音が響く。
(事前学習も惜しみなくやった)
(あくまで学習だから)
(それ以外何もない)
「んー!美味しい!!」
「屯所餅最高!!!」
「ふふ、ゆっくりお食べ」
(知れば知るほど)
(嫌いが募っていくだけ)
「、、、、、、。」
ーーーーーーーーー
ーーーーー
「あ!見て!沖田さんの模造刀があるよ!」
「加州清光、、、だっけ?」
「!!静、よく知ってるね!」
「調べたら書いてあったよ。打刀。愛刀だったみたいだけど池田屋で折れたんだって」
「へえー!!」
(人殺しの道具、、、、)
(人を斬りすぎた代償、、、か)
「池田屋か、、、、」
「!」
「新選組としては名を残した有名な事件だけど辛いよね」
「どんな気持ちで沖田さん、この刀を振るってたんだろうね」
「、、、、、、、。」
パンパンッ
すると莉央が重い空気を切り替えるように手を叩く。
「そうだ!私調べたらね!沖田さんのお墓は公開されてないけど、お嫁さんのお墓見られるお寺見つけたの!行ってみよ」
「!」
「うん!!!」
ーーーーーーーーーーー
「おお!!」
「これが沖田さんのお嫁さんの、、、、」
「、、、、、。」
(戦闘狂と言われた人でも愛した人がいたんだ)
(ま、当然よね)
(そういうのが当たり前の時代なんだもん)
「あーん、ちょっと悲しい!てか羨ましい!」
「!?」
「いや、別に沖田さんのお嫁さんになりたい訳じゃないよ!?でもなんか、、、いいなって」
「あはは。雪乃はほんと沖田さん好きだよねー。生きてる時代違う人なのに」
「!!そんなんわかってるよー。でもなんか守ってもらいたいなとか思っちゃうの!」
「はいはい。守ってでも貰わなきゃ幕末なんかで私達生きていけないもんねー」
「即刻浪士あたりに絡まれてそう」
「ははは。言えてるー」
「、、、、、、。」
(すごいな、みんな)
(私には無理だ)
その時
ぐううううううううううう
どこからともなく低い音が響く。
「!!!?」
「あはは!静お腹空いた?」
「良かった!元気な証拠だ!」
「そういえばお昼まだだったねー」
「河原町戻ってお昼にしよっか!」
「うん」
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
「あー美味しかった!」
「ねえ、本場の湯葉は味が違うわ〜」
「ははははは」
「ねえねえ、せっかくだし雑貨屋さん見てまわらない?」
「いいねー」
「あーそういえば私幕末の資料とかの展示もしてる雑貨屋さんあるって聞いたよ!」
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
そしてー
「ここだ!」
「わあすごい!!髪飾りがいっぱい」
「簪もいっぱいあるよー」
「ねえねえ、見て!」
すると奥に先に入った友人・加奈子が声を上げる。
そのショーケースの中には、ある1冊の日記が展示されていた。
「幕末期の有名な花魁がつけていたとされる日記」
展示名にはそう書かれていた。
「花魁って?」
「確か江戸時代に京都では島原、東京では吉原ていう花町にいた遊女で1番位の高い人だよね?」
「ねえ、この日記に挟まってるの、なんだろう?」
雪乃の声に目をやると日記には茶色く古ぼけた花が栞のように挟まれていた。
「!あ、これ桔梗の花だね。すっごい枯れてるけど」
「よくわかるねー」
「さすが花屋の娘」
「いやいや」
「でもなんでこんなところに挟まってるんだろー?」
「自然の花を摘んで栞にするとかシャレてるね〜」
「!」
友人が楽しそうにそう話す隣で静が次に目に入ったものは簪だった。
とんぼ玉から花飾りまで様々な種類が置かれている。
その中でひときわ目を引く赤いとんぼ玉の簪。
そこには日記と同じように
「有名な幕末期の花魁が身につけていたとされる簪を再現したもの」と書いてある。
引かれるようにそれに手を伸ばした瞬間、
パアアアアアアア
「っ!」
赤いとんぼ玉が輝き、日記に挟まれていた枯れた桔梗がまるで時を巻き戻したかのように青々とした紫色を弾き出した。
そして、
そのままふたつの光に静は包まれたのだった。