第7話 合コンと愛してるゲーム
「もう時間だ。高梨先輩達も心配してる。行こう」
僕は迷ったが権蔵にそう言った。
「……」
権蔵は黙ってついてきた。
「たちばな!顔色悪いぞ!(権蔵も)大丈夫か?」
高梨先輩が心配そうにしている。
「たちばな先輩体調悪いんすか?」
桂も心配そうにしていた。
「大丈夫です!2人とも行こう」
僕は明るくそう言った。
僕達は居酒屋で横並びに座った。
右から桂、高梨先輩、僕、そして隣の席には可愛いくまの人形…
「わーい♪初めての合コンじゃ」
さっきまで、初恋の人を想って号泣してたとは思えないぐらい喜んでる権蔵。
クマの人形の中にお守りを入れるというのが権蔵のアイデアである。
「さっきの心配は杞憂きゆうだったようだな」
高梨先輩が権蔵を見ながら呆れている。
そうしているうちに、女の子が3人来た。
「稲本香織です。23歳アパレルで働いてます」
「榊原珊瑚です。20歳大学生です」
次に来た人を見て僕達は固まってしまった。
「桃井真里27歳です。社長秘書してます…あっ」
うちの会社の秘書の桃井さんだ。さっきの飲み会というのは合コンの事だったのか…
僕達3人も自己紹介した。僕達男3人はお店にはトイレがないので、お店の外のトイレで一時的に会議しようとビルのエントランスに行った。
すると、居酒屋から桃井さんがビルのエントランスに走ってきた。
「待って下さい!このことは会社には内緒にお願いします」
桃井さんが汗だくになって、言った。
「桃井さんは彼氏がいたのでは?」
僕は思わず言ってしまった…
「それは見栄を張って嘘をつきました。ごめんなさい」
桃井さんは、頭を下げた。
「たちばな先輩!デリカシーがないっすよ!大丈夫ですよ。このことは黙っておくから」
桂が慌ててフォローした。
「今はプライベートだからね。気にしなくていいよ。なったちばな?」
高梨先輩は僕に念を押す。
「大丈夫ですよ。誰にも言いませんから」
僕も慌ててなるべく笑顔に見えるように言った。
ちょっとデリカシーがなかったかな…さっき今猿社長に会ったのだか、社長秘書が合コンに来てていいのか?
今猿社長も休日みたいだったし、いいのかな。
僕達は合コンに戻った。まだ場の空気はひんやりしている。
「愛してるゲームやりましょう!」
桂が場を盛り上げようとしている。
「愛してるゲームとは何だ?」
高梨先輩は興味津々で桂に尋ねた。
「《愛してる》と言います。相手に言う側も言われた側も照れたら負けと言うゲームっす。
今日は男性の向かい側に座ってる女性に言いましょう。」
桂が僕達に説明した。
「そんなのあるんだなあ」
僕は感心していた。
「ふんぬ!」
権蔵が何やら唱えている。なんか嫌な予感が…
「女性は負けたらくまの人形にチュー、男は青汁でどうじゃ…いやどうかな?」
たちばなたちばな?が、にやにやと言った。
「おい!たちばな!何言い出すんだよ」
高梨先輩は初めて見る違うたちばな?に驚いている。
「面白そうですね~それでいきましょう」
稲本さんにウケたようだ。
そして、桂はたちばな?の提案にのってきた。
「いいっすね!罰ゲームがないとつまらないっすからね。」
桂がニヤニヤしている。
「ハッ」
また僕が気づいた時に男には不利な罰ゲームができていた。ある男以外に…
さあ、どうしてくれようか?
僕はコケるふりをしてくまの人形をめいっぱいどついて、強力に念じた。
「おっと!滑った!」
僕はわざとらしく言った。
─バシン!
「ぎゃああああああああああ!」
権蔵が騒ぐが僕はさらに念じる。
「いつもよりキツいではないか!」
権蔵が泣いている。
「今度乗り移ったらキツいのいくって言っただろう?しかもなんだその罰ゲーム。」
僕はマジギレした。
「ハハハハ。あんまりクマちゃんいじめちゃだめだぞ」
高梨先輩が笑っている。
他の女性陣と桂はぽかんとしていた。
「何でくまの人形置いてあるんですか?」
榊原さんがそもそものここの空間の違和感に気づいて尋ねた。
「こいつはお笑い芸人目指しててくまの人形が相棒なんだよ。さっきブツブツ言ってたのはネタが浮かんだよな!」
高梨先輩が必死でごまかす。
「そうです。そうです。なんでやねん!」
僕が知ってる関西弁を、使って誤魔化ごまかした。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
びっくりするくらい場の空気が凍った。
10秒ぐらい時が止まったのかと思った。
すごいみんな引いてるけど仕方ないか。頭がすごい痛いし…帰りたい…
「可愛いからいいんじゃないですか」
桃井さんが微笑んで場を和ませてくれた。
桂は、もう一度場を盛り上げようとしている。
「みなさん愛してるゲーム始めましょう~僕から行くね。」
「愛してる」
桂がスゴいイケメン顔で恥ずかしがらずに稲本さんに言った。
「やっだー恥ずかしい♡」
稲本さんが恥ずかしがった。
桂は、このゲームやり慣れてるんじゃないか?
「稲本ちゃん負け~次俺行くよ!」
高梨先輩がやる気満々だ。
「愛してる」
高梨先輩は榊原さんのじっと目を見つめて、目を逸らさないで言った。
「ふふ」
榊原さんは照れて笑ってしまった。
高梨先輩も照れずに言うとはすごい。
「榊原さんアウト~次はたちばな先輩っす」
桂が僕を見て言った。
僕は桃井さんの顔をじっと見た。
「……愛してる」
僕は顔を真っ赤にして照れてしまった。
しかし桃井さんは一切動じずに僕の顔を見ながらビールを飲んでいる。
「たちばな先輩の負けっす。
すみませーん。この激マズ青汁をジョッキで1個下さい。稲本さんと榊原さんはくまの人形にチューね」
桂!僕になんの恨みがあってそんなものをジョッキで頼むんだ!
そしてお店の人が、青汁をジョッキで持って来た。
見るからに不味まずそうだ。
「たちばな先輩イッキ♪イッキ♪」
桂が言い出すと合コンメンバー皆と権蔵がイッキコールし始めた。
桂!明日おまえの机のボールペン全部カッスカッスの書けないボールペンに変えておくからな!
そして、権蔵は後でお守りでキツいの念じるからな。
僕は一気飲みで激マズ青汁を飲み干した。
まっず…!
僕が悶絶もんぜつしてる間に女性陣がくまの人形を手にしてる。
「クマちゃんチュ」
稲本さんがくまの人形のほっぺに軽くチュっとした。
「わおー♡」
デレデレになってる権蔵。
こいつのために僕は婚活してるのかと思うと若干ムカッとした。
「クマタンチュー♡」
榊原さんはくまの唇に長いことチューしてる。
権蔵!この野郎!うらやま…いや
けしからんぞ!
なんだかんだで合コンは盛り上がり、お開きの時間になった。
「みんなでTOIN交換しようぜ」
高梨先輩が連絡先交換の話題を切り出す。
「TOINとは電話やチャットが出来るSNSのアプリですね?」
桂がわかりやすく説明した。
やばい!僕そのアプリ入れてないぞ。