第43話 手取り足取り!
会社が終わると雨が降っていた。
今日傘持っていないのに……
僕の隣に笹野さんが来た。
「なんだ? 帰らないのか? 」
「傘持ってないのでどうしようかと思って」
僕は笑いながら言った。
「これを使え。なに私は車だから平気だ」
そう言うと笹野さんは青い無地の折りたたみ傘を僕に貸してくれた。
「ありがとうございます」
僕は傘を受け取った。
「ああ」
笹野さんは無愛想に一言だけ言った。
「……」
「……」
そしてその後は沈黙が続いた。
今ならお花見の時のこと聞けるんじゃないだろうか。
前回は権蔵に邪魔されたけど。
「お花見の時に笹野さんは何を言おうとしたんですか? 」
僕は勇気を振り絞って言った。
「えっ? 私は何か言ったか? 」
笹野さんは不思議そうな顔をする。
「えっ? 覚えてないんですか? 」
笹野さんはあんなに酔ってないように見えたのに。
「何を? 」
笹野さんは本当に覚えていないらしい。
「僕が愛の告白したのも覚えないのか? 」
後ろから今猿社長がやってきて、笹野さんを見つめながら言った。
いつもいつも今猿社長は僕達の邪魔をするように来るなあ。
「あの時は飲みすぎたから記憶が無いんだよ! じゃあな」
笹野さんはそう言って土砂降りの中走っていった。
「風邪をひくぞ」
今猿社長も笹野さんを追いかけ、傘をさした。
傍から見ると相合傘をしてるように見える。
「笹野さんに傘なんて借りなかったらよかった……」
僕はなんだか嫌な気持ちになった。
「なんじゃ? 権太のために貸してくれたんじゃろう? 」
権蔵は不思議そうに僕を見た。
「どうせ、今猿社長と相合傘したかったんだろう」
僕はやさぐれて言った。
「なんじゃ? 嫉妬か? 」
権蔵はニヤリとした。
「違うよ。ただ……かませ犬にされた気がするのが悔しいだけだよ」
と言いつつ胸のもやもやが何かは僕にもわからない。
僕は今猿社長に嫉妬してるんだろうか?
~日曜日~
僕達はひいらぎ高校に来ていた。
「久しぶりだな」
高梨先輩は周りを懐かしそうに見る。
「そうですね! 」
僕も学校を見て懐かしく思った。
「校舎の中には入れないから裏山に行こう」
高梨先輩が学校の門を確認しながら言った。
僕は部活棟を眺めた。
また僕は高校時代のことを、思い出した。
いつも下駄箱で「おはよう」と蔵子さんが明るく言ってくれたこと、1年で同じクラスになりいつも蔵子さんを眺めていたこと、蔵子さんとたわいない話をしたことが嬉しかったこと……
……そして……学祭のこと
~回想~
「えっ? 僕がソロパートに? 」
小栗部長から文化祭でトランペットで僕が1番活躍するソロパートを僕にするように言ってきた。
「不知火か小豆沢さんのがいいんじゃないですか? 」
不知火は楽器経験者で悔しいけど、やっぱり上手だったし、ナルシストだから大舞台に出る度胸もある。蔵子さんは頭が良く器用ですぐ覚えるし、難しいパートも簡単にこなす。
それに比べて僕は、度胸もないし器用さもない。
「文化祭では普段目立たない人こそ活躍すべきや」
小栗部長……僕やっぱり目立たないんですね……
「たちちゃんが頑張ってるの知ってるで~だからこそやって欲しいんや。1曲だけやから。曲『もっと明かりを』や」
小栗部長が机に前のめりになりながら言った。
あのレドエンの? 僕が最近ファンなったグループの曲だ。
「わかりました! 僕やってみます! 」
僕は元気よく答えた。
「よっしゃあ。これ楽譜や。頑張ってな! 」
小栗部長が他の人のところに行って話をしていた。
「ふーん。橘がソロパートか……出来るのか?結構難しいぞ」
不知火が後ろから覗き込んで言った。
「小栗部長が僕を選んだんだ。頑張るよ! 」
僕は笑いながら言った。
不知火より僕を選んでくれたから頑張らないとな。
「権太くんもソロパートなんだね! 僕も初めてのソロパートなんだ。『億の風が吹いて』という曲だよ」
智が僕に駆け寄ってきた。
「すごいじゃないか! メイン曲だよ」
僕は智もメインパートで嬉しかった。
「2人ともソロパートなんてすごいね」
蔵子さんが後から話しかけてきた。
蔵子さんに、褒められて嬉しい。
こうして僕は一生懸命時間のある限り練習した。
しかし、ある部分がいつも失敗してしまう。
「ダメだ……」
「どうしたの? 橘くん」
蔵子さんが、心配そうに聞いてきた。
「ここの部分がいつも失敗してしまうんです」
僕は楽譜の一部分を指さした。
「ああ、ここ難しいよね」
急に蔵子さんは僕の背後に回った……。
「ちょっと吹いてみて? 」
僕がトランペットを吹くと僕の手に蔵子さんが手を重ねてきた。
後から抱きしめられて手を握られているみたいだ。心臓がバクバクと大きな音をしているのが、蔵子さんに聞こえないか心配だ。
「ここはこうだよ」
蔵子さんは背後に回ったまま、吹き方の口の動きを見せてくれた。
吐息が耳元にかかり、また僕はドキドキした。
蔵子さんが手取り足取り教えてくれたおかげで僕はだいぶ上達した。
「小豆沢さん~僕もここができないよ」
智もトランペットで難しくて引っかかる所があるようだ。
蔵子さんは僕から離れて智の所に行った。
ちょっと残念……!
「うーん。私もここ苦手なのよね」
蔵子さんも困っているようだ。
「どうした? 」
2年の先輩が智と蔵子さんの所に来た。
その先輩の名前は聖川勝也先輩だ。学級委員長タイプの真面目な好青年で皆から慕われている。
智に聖川先輩が手取り足取り教えている。
そのかいあって智はだいぶ上達したようだ。
「聖川先輩すごいです!」
蔵子さんが聖川先輩を褒めたたえている。
聖川先輩が顔を真っ赤にしている。
「小豆沢さんも分からないことあったらいつでも聞いてね」
聖川先輩が小豆沢さんを見つめながら言った。
ああ、聖川先輩も蔵子さんが好きなんだなあ。
そして、文化祭は大成功した。
僕が文化祭終わったあと帰ろうとして校門から出る時に、後ろから蔵子さんが走ってきた……!
「お疲れ様! シフォンケーキどうぞ! 」
蔵子さんはいつも手作りお菓子をみんなに配っている。味はプロ級だ。
「今日のソロパート弾いてる時の橘くんかっこよかったよ。じゃあね」
そう言って、蔵子さんは部活棟に走っていった。
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