第37話 売られた喧嘩
「笹野ありす!好きだ!初めて会った時から!」
今猿社長が笹野さんに告白した。
その時に今猿社長と僕は目が合った。
今猿社長はニヤリとした。
もうやだなあ……僕は何もしてないのに……
今猿社長も桂も僕に敵意を見せてくる。
「誠! 飲みすぎだ! 」
笹野さんが今猿社長を一喝した。
ふふ、今猿社長ざまあみろ……
「そうかもしれない。今日はありすの所に泊まろうかな? 」
今猿社長が頭を抱えながら言ってる。
ああ、あれ演技だよ! 笹野さん
「何を言ってる! 泊まるなんてダメだ! 」
ふふ、笹野さんに今猿社長が断られてる。
笹野さんはそんなことはしない。
「昔は一緒に住んでたじゃないか」
今猿社長が笹野さんの肩を組む。
住んでた? 一緒に?
「あれはめぐも一緒だし、部屋の都合上どっちかと言うとお隣だっただろうが」
笹野さんは必死に言い訳する。
でも一緒に住んでたんですよね?
「誠! とりあえずどこかで休もう。高梨さん悪いが橘くんを頼みます!」
笹野さんと今猿社長はどこかへ歩いて行った。
どこかで休む? 酔っ払っている2人が?
今猿社長は笹野さんのこと好きなのに?
おいおい……どこで休むつもりだよ。
「男はみんな狼じゃからな。笹野は大丈夫かのう? 」
権蔵が僕をじっと見ながら言った。
「橘! 大丈夫か? 」
高梨先輩が僕を抱え込む。
「大丈夫じゃないです……」
僕はポツリと呟いた。
今猿さんは紳士的な王子様に見せかけてとんでもない狼野郎だ!
「大丈夫じゃないのならどこかのホテルで泊まるか? 」
高梨先輩が心配そうに言う。
一瞬高梨先輩が笹野さんに見えた。
僕は相当飲みすぎたな……
「高梨先輩……僕は大丈夫です! 酔い覚ましに散歩でもするので大丈夫ですよ」
僕は歩道を走っていった。
「そうか? 無理はするなよ! 」
高梨先輩が後ろから叫ぶ。
「あれのどこが散歩だよ……なんだかんだ言って笹野課長のこと気になるんじゃないか」
高梨先輩が笑いながら、そっと呟いた。
《バカもの……私がどれほど心配してるのかわからないのか……権太くんのことを1日足りとも忘れたことはない……今だって気になって仕方ないのに……なぜ分からない……》
頭の中でそのセリフがぐるぐると回る。
笹野さんと今猿社長だ!
チェーンレストランに入っていく。
よかった……今猿社長が狼になってなくて…
あっこのままだと目立つなあ……隣にお店がある。
ワンコインで色々なものが買えるあのお店だ。
僕は伊達メガネと帽子とマスクを買った。
うーむ。ちょっと怪しい人かな?
ふと後ろを見ると権蔵がキョトンとしている。
このままだと笹野さんに見つかる。
「権蔵も変装しろ」
僕は小さい声で権蔵に言った。
「ふんぬ! 」
権蔵はレドエンのライブTシャツを着た。
今猿社長はチケットくれるぐらいのファンだからかえって目立つだろ!
「あの2人には目立つだろう! 着替えろ! 」
僕はさらに小さい声で言った。
「ふんぬ!」
権蔵は柔道着に着替える。
「一般人が柔道着着てたら目立つだろう! 」
ぼくは思わず普通の声でツッコミしてしまった
やばい……
「まだ格闘系の衣装いっぱいあるぞ」
権蔵がつまらなさそうに言う。
僕に心当たりないってことは全部笹野さんか……
本当に笹野さんだけは怒らせないようにしよ……
「ふんぬ!」
権蔵が学ランに着替える。
「どう見ても権蔵は高校生には見えないぞ……着替えろ! 」
僕はさらに大きな声で怒った。
「もう服装指定せいよ! 」
権蔵が逆ギレしてきた。
「わかったよ! いつも僕が着てるスーツに、今僕がしているメガネ」
僕もキレ気味で言った。
「ふんぬ!」
権蔵はスーツに黒縁のメガネの姿になった。
やれやれ……やっとレストランに入れる……
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
店員が入口まで来た。
「2…いや1名です。」
僕は危なく2名と言いそうになった。
「空いてる席にどうぞ!」
店員が頭を下げ去って言った。
僕は笹野さんと今猿社長が座っている席の後ろの席をうまいこと陣取った。
「誠。もう大丈夫か? 」
笹野さんは今猿社長に心配そうに言う。
「大丈夫だよ……僕がこれぐらいで酔うわけないだろ? 」
今猿社長が笑いながら言う。
「じゃあ何でいきなり泊まるだなんて……」
笹野さんは淡々と言った。
「橘くんに本気を出してもらいたかったんだよ」
今猿社長も淡々と答える。
「何で橘くんに? 」
笹野さんはすごく驚いていた。
「橘くんの記憶も気持ちも思い出せないまま……それだと意味がない。ありすは『もし記憶を取り戻していてくれたら』とずっと苛まれる。だから正々堂々と橘くんと勝負したい」
今猿社長は思い詰めたような顔をした。
「勝負って何? 」
笹野さんは腕を組みながら言った。
「さっきの告白……俺本気だから……ありすは特別な人だから」
今猿社長が笹野さんを愛しい眼差しで見つめる。
「橘くんは関係ないでしょ」
さすがの笹野さんも少したじろいでいる。
「ありす……俺はおまえの心の傷を癒したいんだよ」
そう言って、今猿社長は笹野さんのおでこにキスをした。
「な、なにを……」
笹野さんは驚いて今猿社長を見つめている。
今猿社長め! 笹野さんに何しやがる!
「じゃあね。また明日。橘くん」
今猿社長が速やかに会計し、帰って行った。
あっ!ここにいるの今猿社長にバレてる……
ずっと注文もせずに黙ってたのに……
ずっとここに僕がいるって知っていたとは……今猿社長も性格悪いな。
「橘くん……ここで何してる? 」
笹野さんが僕の席に来た。
「いやあ……お腹すいたなって思って……偶然ですね」
僕は笹野さんに愛想笑いをする。
「ちょうどよかった。これ」
笹野さんは財布から何かを出した。
コンビニの封筒だ。
「レドエンのチケットだ。ライブは1週間後だ」
笹野さんは僕をジロっと見ながら言った。
「あ、ありがとうございます」
僕はチケットをもらってテンションが上がった!
しかし、僕は笹野さんに色々聞きたかった。
でも何から聞けばいいのか分からなかった……
『ありがとう』としか言葉が出てこなかった……。
「1人で帰れそうだな……じゃあな」
笹野さんは速やかに帰っていった。
なんで笹野さんはこんな時まで冷静なんだよ……
僕は権蔵と2人……実質1人になった。
僕はメロンソーダを頼んだ。
「おお、こんな鮮やかな色な飲み物見たことないぞ!」
権蔵は大喜びしていた。
「権太も笹野のことが気になって仕方ないようじゃの。ここまで尾行するなんて」
権蔵がニコニコしながら言う。
「それは男はみんな狼だから。笹野さんの身を案じて……」
僕はチケットをカバンの中に丁重に入れながら言った。
「手を掴んで気持ちを教えて欲しいって言ったくせに? 」
権蔵はメロンソーダを飲み、堪能しながら言う。
「あれは、笹野さんが何か言いたげだけど、回りくどいからハッキリと聞きたかっただけ」
僕がカバンを閉めながら言った。
「今猿が笹野のおでこにキスした時怖い顔しとったのに? 」
だんだん権蔵が不機嫌になってきた。
「あれは売られた喧嘩を買っただけ……僕のプライドを傷つけたからムカついただけだよ」
僕のその言葉に権蔵がついにキレだす。
「なんじゃ? 権太は好きでもないおなごも独占したいのか? 」
権蔵がメニューでずっと写真を見ていた。
プリンアラモードが気になるらしい。
「これも注文してやるから落ち着けよ」
僕が『注文してやるから』と言ったら権蔵は大人しくなった。
「笹野さん……いや…蔵子さんは僕達のアイドル的存在だったから誰にも汚されたくないんだ。例え、別人のようになっても……」
僕は窓から景色を眺めていた。
「めんどくさいやつやな……」
権蔵はプリンアラモードを食べながら呟いた。
そして、僕はまた高校時代のことを思い出していた。
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