第36話 お花見告白祭り
「好きです」
桂が絶賛告白中だった……
おいおい……驚かそうとしたらこっちが驚いたよ。
「桂さん……すみません……私は」
桃井さんがまず謝る。
「いや! 返事はいいんすよ! ただ気持ちを伝えたかっただけっすから」
桂が桃井さんの言葉を遮る。
「私のどこがいいんですか?」
桃井さんは照れながら言う。
桃井さんも満更じゃなさそうだ。
「好きになるのに理由なんてないっす」
桂がかっこつけながら言った。
おいおい。散々結婚と恋愛は違うとか……条件にこだわってたのはどこのどいつだ……
「僕はいつでも待ってますから」
そう言いながら、桂は桃井さんの手を握る。
桃井さんは、すごい動揺して、顔が真っ赤になっている。桂がそっと手を離した。
「あの、橘さん探してきますね」
そう言って、桃井さんは小走りでどこかへ行った。
「見てみい。まったく気持ちがない人すら動揺させるテクニック……権太もあれぐらいせんかい!」
権蔵が桂を指さす。
僕にあれを? 笹野さんに?
「そんな白々しいことできないよ」
僕は笑いながら言った。
「あーもう。アホやな。おなごは皆一度は白馬の王子様が迎えに来るのを夢見て待ってるものじゃ」
権蔵は桂の方を見ながら言った。
権蔵はずっと僕に『分かってない分かってない』とぶつぶつ言っていた。
「橘先輩。そんな所にいたんすか? 」
桂が後ろを振り向いて僕に話しかけてきた。
「何で分かったんだ?」
僕は分からないように茂みに隠れたのに……
「そりゃ。権蔵と話していれば分かりますよ」
桂がきょとんとしてる。
「内容聞いてた? 」
僕はおそるおそる桂に訊いてみた。
「白々しいとか……聞こえましたけど」
桂が腕組みしながら言った。
よかった。全部は聞こえてないようだ……
これが高梨先輩だったら、僕と権蔵の会話が全部聞こえてるだろうから、怒られてるな。
「それは笹野さんにどうアプローチするか作戦を立てていたんだよ」
僕は桂の方を見ながら言った。
まあ。嘘ではないしな。
「いよいよ笹野さんにアプローチするんすか? 僕も協力するっすよ。とにかく積極的に行くんすよ! 」
桂は目をキラキラさせながら言った。
積極的かあ……笹野さんに通じるかな……
「橘さん! 帰ってたんですか? どこに行ってたんですか? 」
桃井さんが駆け寄って来た。
「いや……お腹壊しましてずっとトイレに……」
僕はしどろもどろに言った。
「私は今猿社長を迎えに行きますのでこれで失礼します」
桃井さんは会社に戻っていった。
~夜~お花見開始!
「橘~ご苦労さん! 」
高梨先輩がビールケースを持ってきてにこやかに言う。
他の社員たちもぞろぞろと来る。
「今猿社長が来たっすよ」
桂は僕にヒソヒソと言った。
黒髪の短髪に長身の細マッチョ、目は二重で顔は整っており紳士的でやさしい……
今猿社長は本当に白馬の王子様のようだ。
女子社員全員が今猿社長を見つめている。
桃井さんは今猿社長の後についてきていた。
桃井さんはこっちをちらっと見た。
しかし、僕の隣に座っている桂が桃井さんのことを穴があくほど見つめていたので、桃井さんは目を逸らした。
今猿社長はあちこちに挨拶して忙しそうだ。
今猿社長は、何杯も何杯もお酒を飲んでいるのに全然酔わない……
僕は先輩達にすすめられて4杯は飲んだ。
「あんまり橘に飲ますなよ! お酒弱いんだから」
高梨先輩が僕にお酒をすすめる周りの人達に注意した。
そうこうしているうちに今猿社長がこっちに来た。
「今猿社長1杯どうぞ」
同僚が今猿社長にお酒を注いでいる。
今猿社長はそれを一気飲みした。
「橘くん。どうぞ」
今猿社長が僕のグラスにお酒を注いできた。
「今猿社長からなんて……すみません!」
僕も今猿社長に負けじと一気飲みした。
「いい飲みっぷりだね。今日は無礼講だから」
今猿社長はにこにことしている。
「橘先輩! 飲みすぎっすよ」
桂が僕に注意した。
確かに飲みすぎたな……
あとから効いてきたな……
「また酔いつぶれるぞ! もう限界じゃろ」
権蔵は僕を心配する。
「まだ大丈夫ですよ」
僕はニコッと言った。
桃井さんもこっちに来た。
何も知らない桃井さんは僕のグラスにお酒を注いでいる。
「橘さんどうぞ!」
僕がお酒を飲もうとしたら……手から消えている?
「橘くんはもう休んだ方がいい。お酒弱いんだろ? 」
声がして振り返ると笹野ありすがいた。
そして、僕からひったくったお酒を一気飲みした。
えっ? 今の間接キスだよね?
いや……反対側から飲んでたから違うか……
「橘さん。お酒弱かったんですか? 知らなくてごめんなさい」
桃井さんが謝る。
笹野さんも男の面子みたいなのを尊重して欲しいよ…
「桃井さんは悪くないっす! ちゃんと橘先輩が言わないのが悪いっす」
桂が桃井さんにそう言うと、桃井さんは慌てて違う所に挨拶しに行った。
やっぱりさっきの告白で桂を意識してんのかな。
それから笹野さんは後から来たとは思えないぐらいのお酒を飲んでいた。
~お花見の帰り道~
世界が回ってる……僕は千鳥足で歩いていた。
なんか目眩がする。
「橘! 危ない! 」
高梨先輩が遠くから叫んでいる。
目の前に車のライトが……ヤバい……
また最初から振り出しに……
それよりあのスピードだと大怪我じゃ済まないぞ。
ーグイ
誰かが僕の腕を引っ張り、体を引き寄せられた。
そして抱きしめられた……
「バカもの……私がどれほど心配してるのかわからないのか……権太くんのことを1日足りとも忘れたことはない……今だって気になって仕方ないのに……なぜ分からない……」
その声は笹野ありす?
僕のことが気になる? どういうことだ?
今、僕のこと権太くんと呼んだ?
会社では橘くんなのに……?
1日も忘れたことがない?
どういうことだ?
笹野さんは抱きしめるのを止めた。
「今日は少し飲みすぎたようだ」
笹野さんが一言ポツリと言った。
僕は笹野さんの腕を掴んだ。
「どういうことですか? はっきり言わないとわかりません。笹野さんの気持ちを教えて下さい」
僕は酔った勢いで言いたいことを笹野さんにぶつけた。
「私は……」
笹野さんが何か言いかけた。
「橘さん。だいぶ酔っているようですね。僕が介抱しましょう」
そう言って肩を組んでくれたのは今猿社長だった。
「笹野ありす!好きだ!初めて会った時から……」
今猿社長は笹野さんに向かって言った。
何で笹野さんの気持ちを聞きたかったのに……
今猿社長の気持ちを聞かないといけないんだ……




