第34話 残業と英語とじゃんけん
そうだよな……
ただの偶然だよな……
ちょっとでも僕のことを好きなんじゃないかと期待した僕が馬鹿だ……
「あ~もう!落ち込むんじゃない!」
権蔵がイライラしながら叫ぶ。
「お前ら見てるとイラッイラッする!理屈でああでない、こうでないって相手の気持ちより自分の気持ちが大事じゃろうが」
権蔵がプリプリと怒る。
「権蔵は自分のこと嫌いっていう人のこと好きになれるのか? 」
僕は権蔵に静かに言った。
「ワシは相手がどう思っていようと自分が好きなら関係ない。一生が終わろうとも愛し続ける」
権蔵は自分でも気づかないうちに一筋の涙を流していた。
「何で権蔵が泣くんだよ……」
なんだろう? このザワザワした気持ちは……
「ワシも分からん」
権蔵も同じ気持ちのようだ。
その後一心不乱に仕事をした。何だか眠気が……10分だけソファに横になろう。
半分まで終わったしな。
~翌日~
─チュンチュン!!
なんか明るいなあ……雀の鳴き声がするなあ……
ヤバい……朝か!気がつくと、僕に毛布がかけてあった。
僕は慌てて時計を見た。朝7時だった。
今からだと書類が間に合わない!
僕は自分のディスクの書類を見た。
全部終わってる…?どういうことだ?
「権蔵! どういうことか……」
僕の足元の床を見ると、きちんとした布団で権蔵がイビキをかきながら寝てる。
権蔵! お前は寝なくていいだろ!
というか毎晩布団で寝てたのか?
というかその布団どこから出したんだよ!
「権蔵! 起きろよ! 」
権蔵は一向に起きない。
僕はお守りに念じた。
「ぎゃああ」
権蔵は布団から飛び起きた。
「何するんじゃ! 」
権蔵は寝起きを起こされイライラしている。
権蔵をよく見ると、可愛いパジャマまで着てやがる。
何で侍が水玉のパジャマ着てるんだよ!
「昨日の深夜のこと知らないか? 毛布までかけてあって仕事が終わってるんだよ」
僕が山の書類を指さす。
「知らぬ。今回はぐっすり寝てたからな。権太が自分でしたんじゃろ? 」
権蔵はあくびをしながら言った。
うーん。記憶がない……
「橘さん。結局会社に泊まったんですね」
桃井さんがひょっこりと顔を出した。
「桃井さん朝早いですね」
会社には誰もいないと思っていたので僕は驚いた。
「秘書ですから1番に会社に来ます。昨日仕事をこっそり手伝ったのに終わらなかったんですか? 」
桃井さんが控えめに言った。
「あっ!桃井さんがやってくれたんですか? ありがとうございます! 」
そうかあ。桃井さんがやってくれてたのかあ。
桃井さんはいい人だなあ。
「いえいえ。他の人には内緒ですよ」
桃井さんは口元に人差し指を立てた。
~始業後~
「こんだけの量を1日でこなすとは凄いじゃないか! 」
笹野さんが目を丸くして驚いている。
どんなもんだい! ざまあみろ!
まあ桃井さんが協力してくれたから威張れないけどね……
「よし、今日は帰っていいぞ! 」
そう言った後に笹野さんは小声で僕だけに聞こえるように言う。
「権蔵を着替えさせろ。私と同じパジャマだと恥ずかしい」
あー笹野さんの生霊も権蔵の中にいるから、パジャマが同じなんだな。
うーむ。笹野さんはあんな可愛いパジャマを着てるのか……意外だ!
なんかあった時の為に覚えておこう。
嫌がらせされた時とかに……
僕は権蔵にいつもの服に着替えるように言った。
ちらっと権蔵がパジャマを脱いでいる所を見た。
決して権蔵が笹野さんと同じ下着を着てるかどうか気になったなんて下心はない!
権蔵は僕と同じ下着を着ていた。だろうね……
そして、僕は部屋に帰り丸一日眠った。
~翌日~
僕が会社に行くと、なんだか騒がしい……
一体何が起きたのだろうか…
「ここは……おまえが」
「やりたくないなあ」
何だ? 大きな仕事か?
「ここはじゃんけんで……」
「おお、橘! いい所に! 」
高梨先輩が僕を見て嬉しそうにする。
「今日は会社のお花見なんだが場所取りする人が休んでな! 代わりを探してるんだ」
高梨先輩が僕に説明した。
「えー1番後輩にやらせたらいいじゃないですか? 」
僕が言うと桂が駆け寄ってきた。
「今猿社長も来る花見なんすから公平にじゃんけんっすよ」
桂がお花見の案内の紙を見せてきた。
仕方ないなあ……課にいる男ども10人とじゃんけんをした。
「「「じゃんけんぽい!」」」
「「「あいこでしょ!」」」
「「「「あいこでしょ!」」」」
権蔵もじゃんけんに参加していたが周りには見えないのでノーカウントだから無視した。
なんと! 僕だけがパーで負けてしまった。
─プルルルルルル
会社に電話がかかってきた。
桂が電話を取って対応した……すると青ざめた……
「アイ ウィル チェンジ マイ ボス」
英語か?!
「高梨先輩助けて下さい~」
桂が電話を保留にして高梨先輩に頼み込む。
「俺は韓国語しか出来ないぞ。困ったな……笹野課長は出張でいないし……」
高梨先輩が頭を抱え込む。
他の社員は桂と高梨先輩が出来ないなら無理と言っている。
「橘先輩は? 」
桂は僕を見た。
「僕は中国語を少ししか……」
どうする?困ったな……
「仕方ないやつらやな! ふんぬ! 」
あっ! こいつまた僕に乗り移ろうと……
橘?がスタスタと先程の電話を取った。
電話 橘?
「Thank you for waiting.My name is Tachibana.I’m a in charge. Can I help you?」
『お待たせ致しました!私は橘と申します。私が担当者です。どうかされましたか?』
電話相手
「Oh, that is great! .Today, I will visit your president at 10 o’clock.I got lost in the way.Please tell me the way to the company!I am at the Nadesiko station now.」
『ああ、よかった。
今日は社長に10時に会いに行きます。
私は道に迷いました。今撫子駅にいるので会社への道を教えて下さい』
橘?
「Go straight ahead and turn right at the first traffic light. The building next to the convenience store is a company.Shall I ask someone to pick you up?」
『大通りを真っ直ぐ行って、最初の信号を右に行ってください。コンビニの隣のビルが会社です。
誰かお迎えに行かせましょうか? 』
電話相手
「Thank you very much!You do not have to come and pick me up!」
『ありがとうございます! 迎えに来なくて大丈夫です』
電話相手が満足して電話を切った。
僕の意識も戻った。
「橘先輩! 英語ぺらぺらじゃないっすか! 」
桂が驚いて駆け寄ってくる。
他の社員も驚いているようだ。
何で権蔵は英語が話せるんだろう?




