第31話 転職
桜が舞う季節に出会い、桜の舞う季節に再会した…… 『小豆沢蔵子』
……いや今は
『笹野 ありす』
今から彼女を口説き落とし結婚しなければならないという試練を与えられた。
そして、笹野さんからTOINに『よろしく』とだけ来た。僕は『よろしくお願いします』だけ返事をした。
「権蔵は小豆沢が初恋の人の生まれ変わりだと言ったけど、権蔵は小豆沢光ではなく小豆沢蔵子だって気づいてたのか? 」
僕は権蔵に詰め寄る。
「実はのう。お主がぱーていで気を失った時に助けてくれたのが通りかかった笹野ありすじゃった。一目見て初恋の人の生まれ変わりじゃと分かった。そして、名前を思い出したんじゃ…『小豆沢蔵子』と。しかし、権太が気づくまで黙っていて欲しいと言われたのじゃ。それがワシとの約束だと……」
権蔵は今までのことを説明してくれた。
どうやら権蔵も気を失ったと言うのはとっさについた嘘だったらしい。
「その言い方だと、権蔵とは初めて会ったわけではないって事だな」
権蔵との約束をしたことがあるなら、権蔵が記憶を失う前に笹野さんは会っているということか……
「ワシは覚えていないが……しかし、今猿に何か感じたのは今猿のすぐ側に笹野さんがいたからだったとは。しかもあんな完璧な男が恋敵とは、ワシはこのまま権太と一生一緒じゃのう。」
僕は社長に宣戦布告されたことを思い出した。
僕だってあんな仕事が出来る人格者のイケメンに勝てるか不安だよ。
「まだ諦めるなよ!僕にだって良い所があるから。」
僕がそう言うと権蔵はため息をついた。
「笹野への想いでもう既にお主は負けとるわ」
権蔵は呆れ気味で言った。
確かに……今猿社長は本気で笹野さんのことが好きって伝わるもんなあ。
「それは僕に記憶が無いから……」
僕がたじろぎながら言う。
「どうやら最初の課題はさっさと記憶を取り戻す事のようじゃな」
権蔵が、またため息をついている。
しかし、どうやって記憶を取り戻せばいいのやら……
急にスマホに電話が来た。母ちゃんだ……
ヤバい……お見合い放ったらかしだった。
「もしもし、母ちゃん……本当にごめん! お見合い突然いなくなって」
僕は電話に出てすぐ謝った。
「いや。いいのよ! 榎本春男さんって人が懇切丁寧に謝りに来て説明してくれたから」
母ちゃんは上機嫌で言った。
えっ? 榎本春男って誰だっけ?
「権太。いいお友達持ったわね! それよりいい人いるなら母ちゃんに紹介してよ」
母ちゃんが何か言ってるが耳に入ってこない。
春男……春男……ああ、笹野さんの友達か……
「権太! 聞いてる? 」
母ちゃんが電話越しで怒った。
「ああ! 聞いてるよ! まだ紹介するような人じゃないから」
僕は慌てて返事をした。
「『まだ』ってことはやっぱりいるのね。母ちゃん楽しみにしてるから」
母ちゃんは上機嫌になった。
しまった……誘導尋問か!
「違うって……母ちゃん」
─プチ ツーツーツー
あっ電話切られた……
とりあえず、今猿コンサルティングの如月さんと榎本さんに会いに行って話を聞こう。
笹野さんにも話を聞きたいし……
~後日~
いつもの婚活(合コン、婚活パーティ、結婚相談所)に行ったビルの中の今猿コンサルティングの会社のフロアへと向かう。
ここからは、あのビルのことを婚活ビルと呼ぼう。
今日ももちろん甘い菓子折りを買った。
笹野さんは甘いものが好きそうだから、これで機嫌よくしてくれるかな。
~今猿コンサルティング~
恐る恐るドアを開ける。今猿コンサルティングとうちの会社が休みが違う日があって良かった……
「すみません……如月さんと榎本さんはいますか? 」
僕がドアを開けて言った。
いつもなら、笹野さんが『何の用だ?』って来るのに、今日は来ない……
「榎本なら僕ですけど……」
今猿社長とは違うタイプのイケメンだ。社長は王子様タイプで榎本さんはワイルド系と言う感じだ。
「僕、橘権太です。こないだのお礼に参りました」
僕はおじぎしながら言った。
今度は電話で今猿コンサルティングに予約しておいたからな。大丈夫だろう。
「あ~橘さんね!本当に義理堅いね。めぐも呼んでくるから客間で待ってて」
榎本さんが客間まで案内してくれた。
~しばらくして~
知らない女性が僕にお茶を入れて出してくれた。
おそらくここの社員さんだろう。
僕はお茶をひとくち飲んだ。
─ゴクリ
「ん?前よりあまりおいしくない……」
僕は思わず呟いてしまった。
まずいってほどではないが、以前のおいしいお茶とはだいぶ違う。
「ん~お茶の葉が、違うんとちゃうん? 」
権蔵も同じお茶をすすっている。
~しばらくして~
如月さんと榎本さんが入ってくる。
「橘さん! 無事ありすと会えましたか? 」
如月さんが好奇心たっぷりの目で僕を見る。
「色々ありがとうございます。親とお見合い相手に説明までしていただいて……笹野さんと会えましたけど、どうして僕を? 」
僕はここまで言って途中でなんて言おうか迷った。
送ってくれたのか? 笹野さんと会わせたかったのか? お見合いの尻拭いをしてくれたのか?
「ああ、内緒話をしてるのを聞いてね。ただのお節介。だって橘さんはありすに会いたかったんでしょ」
如月は何やら嬉しそうだ。
「別に笹野さんに会いたかったわけではないんですが、結果的に助かりました」
僕がそう言うと2人とも目が点になっている。
「ここは会いたかったって言っておけ! ややこしくなる」
権蔵が慌てている。
「そう言えば、お茶の葉変えましたか? 」
僕は慌てて話を変えた。
「えっ?お茶の葉はずっと変わってないよ」
榎本さんがそう言った。
今日の人がお茶入れるのが下手なのか。
「笹野さんが入れたのと味が違うなあって」
僕は不思議に思い言った。
「ありすが入れたんですか?珍しい…」
榎本さんが驚いてる。
「ありすはお茶の入れ方上手だから」
如月さんがニヤリと笑っている。
僕は持ってきた菓子折りのことを思い出した。
「これ、よろしければ皆さんで。どうぞ。」
僕は前回と同じ菓子折りを持ってきた。
「お気遣いありがとうございます!ありすも喜びます」
如月さんが喜ぶ。
「えっ? ありすって甘いものすごく苦手じゃなかった? 」
榎本さんが如月さんにコソコソ言ってる。
まあ聞こえてるけどね。
「ありす、今は甘いもの嫌い治ったんですよ」
如月さんが僕をニヤニヤしながら言う。
「そう言えば、笹野さんは今日はどこに? 」
僕は話の本題を切り出した。
「ああ、ありすなら転職したよ」
榎本さんがサラッと言った。
えっ? もうここにはいないってこと?
また笹野ありすを探さないといけないの?
もう探すの疲れたのに……




