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見習い天使⇄見習い悪魔

作者: 紅葵

 人を正しき道へと導き、人を悪しき道へと誘う(いざなう)

 人の恋を手助け、人の恋を邪魔する。


 姿を隠し、時には姿を変え、人の人生を大きく変化させる存在。

 人はそれを天使と悪魔と呼んだ。


 天使は人を正の方向へ、悪魔は人を負の方向へ。

 正反対のその存在は常に人々のすぐ側で、時には見守り、時には手を加える。


 天使と悪魔は、それらを自らの使命としていた。



-----



「あー!もう!イライラする!!」

 見習い天使のエンジュは、背中にある白い翼をパタパタさせながら、人間界の空を飛んでいた。

 その表情は、天使とは思えない程の怒りに満ちた表情である。


「何が『人を正しき道へ導くのが使命』よ!何がノルマよ!そんな事より人に悪戯して楽しむ方が面白いじゃない!」

 天使とは思えない言動を吐き、エンジュは近くの高層ビルの屋上へ降り立った。


 エンジュは、頭の上に輪っかを浮かべた、見た目だけなら金髪碧眼の可憐な美少女であった。

 微笑んで佇めばとても神々しい見た目なのだが、ひとたび口を開けば、その中身は悪魔にも劣らないほどの悪質な性格をしている。


「くそ…ひと月の間に五人もの人の手助けをして、幸せに導かないと天界から追放するですって…あの禿親父がっ!」

 エンジュは先ほどまで自分を叱っていた上司への悪態をつく。


 天使社会には、人間社会と同じように人々を幸せに導くノルマが設定してあった。

 優秀な者ほど、天使としての格を上げる事ができ、皆、最上級である熾天使を目指して日夜、善行に励んでいるのであった。

 対するエンジュは、天使の階級の中でも最下級でもある天使の、更に下の見習い天使である。


 見習い天使は、通常であれば逆にそうそうなれるものではない。

 何をやっても良い結果を残せない天使だけが、一度見習い期間を置くように設定されている。

 そして、見習い期間中はほんの少しの善行を積むだけで、すぐに最下級の天使に復帰もできるようになっていた。


 しかし、エンジュは見習いに落とされてからもう何十年も善行を積んでいない。

 それどころか人に悪戯をしては慌てふためく様を見て笑うような悪魔のような存在に成り下がっていた。

 エンジュの行動を見かねた上司の大天使は、苦渋の決断として、善行を積まねば天界から追放をするとエンジュに言い放った。


「っち…まぁ、あんなところ追い出されてもいいんだけど、住む場所なくなるのは困るからなぁ…いっそのこと堕天使扱いしてくれれば魔界に行けるのに…」

 エンジュはブツブツと文句を言いながら、住処を追い出されない為に仕方なく善行を積む事にして、高層ビルの屋上から人々の様子を眺めた。


「お、アイツら幸せそうに腕なんて組んで歩いてやがんな。どれ、いっちょからかって…っていかんいかん…善行積まなきゃいけないんだった…くそ、めんどくせぇなぁ…」

 つい、いつもの癖で幸せそうな人間を見かけるとちょっかいをかけたくなる衝動を抑え、なるべく簡単に幸せに導けそうな人間を、エンジュは探し始めるのであった。



-----



「…はぁ…悪い事なんてしたくないなぁ…」

 見習い悪魔のデヴィは、背中の黒い翼をパタパタさせながら、人間界の空を飛んでいた。

 その表情は、暗く、儚げである。


「なんで悪魔って悪い事しなきゃいけないんだろ…私はただ平穏に生きたいのに…」

 悪魔らしからぬ言動を吐き、デヴィは頭を抱えた。


 デヴィは、幼い体付きで、黒髪黒目のショートカットの幸薄そうな顔の少女であった。

「すぐにでもとてつもなく大きい悪行を行うか、人間の魂を取ってこないと血の池地獄でおしおきかぁ…いやだなぁ…」

 デヴィはつい先ほど、先輩悪魔に叱られていた。

 悪魔として生を受けてから、一度も悪い事をしていない。

 悪魔には天使と違って階級などは存在しないが、悪行を積み重ねることによって、周りの悪魔から尊敬の目で見られるようになり、いつしか大悪魔と呼ばれる存在になる。


 悪魔は生まれついての悪なので、通常であれば見習いなんて階級は存在しない。

 しかし、デヴィがあまりにも悪行を積まず、むしろ善行ばかり行うので、いつしか周囲の悪魔から見習い悪魔と呼ばれるようになったのだった。


「はぁ…悪い事ってどうやったらできるんだろ…とりあえず、悪い事してる人を見つけてそれを参考にしようっと…」

 デヴィはため息をつき、目についた高層ビルの屋上を目指して飛んで行った。



-----


 エンジュは、地上の人間を観察して、手っ取り早く善行を積むことができる何かがないかを探していた。

「あー!もう!善行なんてどうやったらできるんだよ!…ん?」

 その時、自分のいる屋上に何者かがやってくる気配を感じて、エンジュは思わず隠れて様子を見る事にした。


(あれは…悪魔か?っち、よりによってこんな時に…)

 エンジュは心の中で悪態をつく。

 一応は善行を積もうと考えている矢先に、悪魔の存在である。

 どうあっても、悪魔のやる事に加担してしまう未来しか見えない。


(しょうがない…どこか別の場所に移るか…って…なんだ?何か呟いてるな?)

 エンジュは、自分の近くにいる悪魔が何かを呟いているのに気が付いて、聞き耳を点てることにした。

 何か面白そうな事でもないかと言う期待を込めている。


「はぁ…皆幸せそうだなぁ。幸せを壊すことなんてやっぱり私にはできないよ…」

 デヴィは屋上から覗き込んだ人間の様子にため息をつく。

 誰も彼も忙しなくしているが、地上を歩いている人は皆どこかしらやる気に満ち溢れていた。

 そんな人々の幸せを壊したくない為、デヴィは更に深いため息をつくのであった。


(なんだ?あいつ、悪魔の癖に悪い事もできないのか?)

 エンジュは、屋上の出入り口の陰からそんなデヴィの様子を窺っていた。

 その後のデヴィの呟きを聴いていると、やはり悪行よりも善行を行いたいという印象がヒシヒシと伝わってくる。


(あいつも落ちこぼれって事か。天界にも魔界にも似たような奴はいるって事なんだな…お、そうだ)

 エンジュはいい事を思いついた。と、いう表情をして、悪魔デヴィの後ろへ飛んでいった。


「おい、お前」

「ひゃあああ!」

 エンジュが後ろから声をかけると、デヴィは驚いて慌てふためいた。


「いや、落ち着け。別に取って食おうって訳じゃないから」

 エンジュが宥めるようにすると、デヴィもすぐに落ち着きを取り戻し、慌てふためいた事を謝罪した。

「ご、ごめんなさい。驚いてしまって」

「いや、それを言うならこっちが驚かせてしまって…だろ」

 エンジュは呆れるように肩を竦める。


 エンジュは頭をポリポリと搔いて、本題に入る前に自己紹介をする事にした。

「私はエンジュ。見ての通り天使だ。…一応な」

「わ、私はデヴィ。…一応、悪魔をしています…」

 二人の間に、微妙な空気が流れる。


「あ~…まあ、なんだ…その…お互い、天使と悪魔で真逆の存在だけど、おそらく本人達の中身も真逆だと思うんだ」

 エンジュは気まずい雰囲気から逃れようと、いきなり本題に入る事にした。

「…?」

 対するデヴィは、エンジュが何を言いたいのかが理解できずに首を傾げる。


「私は天使、で、お前は悪魔、だ」

「は、はい。それは見てわかります」

「でも、私は天使の癖に悪魔っぽい性格をしているんだ。ってか、ほぼ悪魔だ」

 エンジュの言葉に、デヴィは話しが理解できなさそうな表情をする。


「わ、私も…悪魔の癖に天使みたいな事ばかりしてるんです」

 エンジュの言いたい事が理解できず、とりあえず自分の状況を説明するデヴィ。

「うんうん。そこで、だ」


 エンジュは少し溜めを作ってからデヴィに言い放った。

「私達、身体を入れ替えないか?」

「………ぇ?」

 デヴィは、エンジュが一体何を言ってるのかが理解できなかった。


「私達、きっと生まれる存在を間違えたんだよ」

 エンジュは真剣な表情でデヴィの両肩を掴んで話を続ける。

「だから、私がお前の身体に入って、お前が私の身体に入れば、存在を正しく戻すことができると思うんだ」


 デヴィはエンジュの言ってる事が全く理解できてなかった。

 そんなデヴィの様子に、エンジュは苛立ちを覚える。


「お前…頭弱いなぁ…」

「うぅ…ごめんなさい…」

 呆れるエンジュに、デヴィは泣きそうな声を出す。

 イラつく気持ちを抑えながら、エンジュはデヴィに理解できるようにゆっくりと説明を始める。


「魂を入れ替えるんだ。私の魂をお前の身体に入れて、お前の魂を私に入れるんだ」

「そ、そうすると…どうなるの?」

 デヴィの言葉に、エンジュは天使とは思えないようなニヤリとした不気味な笑い方をする。


「私達の存在が入れ替わる。するとどうだろう。悪い事をしたい私は、悪魔であるお前の身体で悪行やり放題だ。対するお前も、天使である私の身体で善行し放題だぞ」

「………はっ!」

 エンジュの言いたい事がようやく理解できて、デヴィは目から鱗が落ちるような顔をする。


「で、でも…そんな事して、大丈夫なのでしょうか?」

 しかし、悪い事ができないデヴィは、エンジュのその提案に心配になる。


「あぁ?大丈夫だって。万が一バレたとしても、天界にも魔界にも得しかない提案だから見なかった事にして、そのまま受け入れるって」

「そ、そうなのかな?」


 エンジュは「そうだって」と、力強く頷くと、デヴィへ更なる説得をし始める。

「お前だって、悪魔の癖に悪い事ができず、肩身の狭い思いしてんだろ?でも、天使になればそんな思いからは解放されるんだ!」

 エンジュは畳みかけるようにデヴィに天使になる素晴らしさを諭す。

「それどころか、お前のように良い事ばっか行うやつはすぐにでも大天使にだってなれるさ!」


 デヴィは、天使になれば、今までの肩見の狭い思いをしなくて済むという言葉に、心が揺れる。

「ほ、本当、に…?」

「本当さ!私だって、天使なのに悪い事しかできないから肩身の狭い思いをしてきたんだ。きっとここで私達が出会ったのは運命だ!身体を入れ替えるという運命の巡り合わせによって、今、私達は出会ったんだよ!」


 運命の巡り合わせと言う言葉に、デヴィは決心をした。

「い、入れ替わりましょう!運命ならしょうがありません!」

「ああ、運命ならしょうがない!」


 エンジュは心の中でガッツポーズを取った。

(よっしゃあ!これで悪い事し放題だぜ!)


 対するデヴィも心の中で安堵していた。

(これで…平穏に過ごせられるのですね)




 こうして、二人は身体を入れ替えた。

 

 天使エンジュは、悪魔デヴィへ。

 悪魔デヴィは、天使エンジュへ。


 身体を入れ替えた二人は、水を得た魚のように、それぞれ善行と悪行を積み重ねていった。


 それまでの二人を知っていた天使と悪魔は、まるで()()()()()()()()かのような二人の行動に、ただただ驚くのであった。

急に天使と悪魔が入れ替わる話しを思いついたので、短編で書いてみました。

完全に勢いだけで書いたので、オチも弱いです。


少年漫画とかだと、連載風に書き直して、ここから入れ替わった後のドラマとかも繰り広げられるのでしょうね。

あるとするならば、必要に応じてまた元の身体に戻ったりして、色々やらかしていくような。


もし、良い最終話を思いついたならば、そこに繋げる為の話も考えて、連載小説にしてみようかとも少し考えています。

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