白い指輪と微ナルシ
姉は探し物を手伝い、そしてうんざりする。
クレマチス王国。城下町にて。
俺は宿より遠い、クレマチス王国の奥の方に来ていた。
さっきより坂が多くなり、そして店も、住宅も無くなっていく。どうやらこの国の奥は、遊び場や憩いの場、それと墓場に使われているらしい。
現に今も、墓に祈っている爺さんを見つけた。
「…………」
その爺さんから視線を外し、また歩き始める。
まだ昼なのか、恐ろしい雰囲気は一切なかった。しかしそれとは別に、ここは哀しみに溢れていて、とても寂しい気持ちになる。
「……」
今度はお婆さんと子供が墓に向かってお祈りしていた。
しかし子供はニコニコと笑っており、祈りが終わった後、早く帰ろうと急かしている。
……子供の時はそういうのだから、別に咎めたりはしないんだけどな。あの子供も、成長すればこれがどんなに哀しいことか、わかるであろう。
お婆さん達が完全に去っていったのを確認してから、俺はお婆さん達がお祈りしていた墓の前に立った。
墓石には『享年 XXX ルージュ・ランムトン』と彫られており、年季が入っているのか、所々汚れていたり、墓石が欠けていた。
「………………」
ーーーこの人はどうやって死んだのだろう。
ジッと墓石を見つめていたら、不意にそんなことが浮かんだ。
このルージュ・ランムトンはどうやって死んだ?
どうやって殺された?
どうやって事故に遭った?
どのように殺された?どのような肉塊になった?どのような武器で死んだ?
自殺?電車に引き摺られて?それとも薬物で体の内側からビキビキにぶっ壊されて破裂した?
愛する人に首を絞められた?ただの愉快犯に殺された?いつ?夜?深夜?日没頃?路地裏で?見晴らしのいいところで?家の中で残虐に?
家族は火事になって皆死んだ?ならあの二人は誰?奇跡的に生き残った?息の量は多かったか、息をする時間は長かったのか最後に何と呟いていたのか最後は一人で寂しく永遠に死んでいったのか誰かを巻き込んで強制的に死なせたか重さのある鈍器で何度も殴られたのかただ絡まれて死ぬまで殴られ続けたのか自分が罪を犯して処刑したとか誰かに強姦され何度もーーーー。
「……?」
俺は今、何を考えていた?
何故死んだ奴の末路を考え始めた。
おかしいだろ。これじゃあ俺が変人みたいじゃないか。
こんな辛気臭い所にいるから、あんなことを考えたのか?だからこういう薄気味悪い所は嫌なんだ。まだ昼だけど。
ここは早く去った方が良さそうだな。気分悪くなってミソラのようになったら、また城に行く日が延期になっちまうし。なるべく早く助けたいし殴りたい。
……あれ、てか何で俺こんな奥の所にいるんだ?宿の周りを散策するつもりだったのに、ここまで来る必要ないだろ。
なんか調子狂うなおい。それもこれも全部墓地のせいだ。早くこっから離れよう。
最後にルージュ・ランムトンの墓石を一瞥して、その場を去ろうとした。
その時だった。
「うぬう……ないのう……」
「…………あ?」
ルージュ・ランムトンの墓石の後ろの墓石で、四つん這いになって何かをやっている老人を見つけた。
長らく切っていないボサボサの白髪。そしてよぼよぼのしわくちゃになった手は、必死に地面を掘っている。……何で掘ってるんだよ。
「何故じゃ……何故ないんじゃ……あの子の形見…………」
「……」
面倒なことが起こる気がする。
……でも、放っておく事もできないしなぁ。
しかし人助けして時間を食ったら、ミソラが心配するだろうし……いやでもやっぱり困ってるやつは放ってはおけないなぁ……。いやでもなぁ……。面倒なことはなぁ……。
「ないのう……ないのう……」
「…………」
「何処に行ったんじゃ……わしの形見……」
「…………」
「うぅ……すまぬ、ダリアよ……!お前が託してくれたあれがなければ、お前に顔向けできない……!まさか、お前の大切なものを無くしてしまうとは……!」
「……………………」
「ダリアぁ……!!」
完敗しました。
「すまぬのう……探し物を手伝ってもらって」
「いえ、これくらい大したことないっすよ」
結局は爺さんの必死に探す姿を見て根負けしてしまった。
爺さんの格好をよく見れば、何処も彼処も汚れている。しかも身にまとっている服も、ビリビリに破れて服の役割を果たしていないように見えた。
明らかにこの国の住民とは言い難い爺さんだ。
その爺さんの探し物とは、彼の亡き妻の形見の指輪らしい。
実はこの爺さん、あの村と同じように、王族に連れられてきた人らしい。
爺さんとその妻が離れ離れになる時、私を忘れないでという意味を込められ、白の指輪を渡されたとか。
その指輪を大切に持っていたが、王族に見つかると売られるか壊されるかなので、爺さんはこっそりと埋めて、バレないようにしていた。
取りに行こうとはしたが、何年も働かされていたので中々取りに行けず、気づけば埋めた場所は墓地となっており、当時埋めた所もわからなくなった、ということである。
……その爺さんが何でこんな所にいるんだよ。よぼよぼになってるからもう用無しってか?失礼な奴らだな。
そして爺さんは三日、ずっとここを探していたという。
……見つかる確率が0に近くなったが、やはりやってみるしかあるまいな。
今の所わかっていることは、白い指輪がここに埋められているということだけ。正確な位置は爺さんでもわからない。
なら、掘るしかねえよなぁ。
「よっ……と」
しゃがんで、俺は近くの土に手を伸ばして、それを根こそぎ持っていく。
「ッ……いって」
その時、手が日光に当たってしまったのか、またあの時と同じような痛みが走った。
いや、痛みの枠では収まりきらない。
強力な溶解液が一気に手の全体にかかっているかのような、とてつもない激痛。
正直ここでやめたかった。
用事があるって帰りたかった。
でも。
あの爺さんの想う姿を見てしまったら、いてもたってもいられないじゃないか。
そうして俺は、激痛が走る手を我慢しながら、地面を掘り出した。
■□□■
「確かこっちに行ったはず……」
彼は今、クレマチス王国の奥街に来ていた。
ここは住宅街が少なく、子供の遊び場や老人達の憩いの場、さらには魂を見送る場所、墓地として使われることが多い。
ここの墓地は墓がバラバラに立てられているのが多いので、夜になると一層恐怖が増すのが特徴である。
だから彼もあまり近寄りたくはなかったが、自分の プライドを傷つけた彼女への怒りが、彼をここまで突き動かしている。
「……ふぅ、よし」
彼は意を決して、彼が苦手とする墓地にへと入った。
「やっぱ無理だああああああああ!!」
その途端ギブアップした。
墓地にへと入った瞬間、彼に凄まじい悪寒が襲い、さらには墓の所々に霊が見えるという幻覚が発生した。見えたんじゃない。幻覚だ。
それで足が竦み、さらには『ないのう……ないのう……』と、老人が何かを探して彷徨う声も聞こえてくる。
それだけで彼の精神は限界を達し、泣く泣く墓地から出るしかなかったのだ。
「うぅあ……無理だ……俺にはここに入る勇気がねぇ……!」
もうここまで書いてご察しだろうが、彼は大のオカルト嫌いである。
オカルトグッズなのもダメ。さっきの幻覚や幻聴を聞いてもノックアウト。実際のものなんて見たら気絶するに決まっている。といった大のオカルト嫌い。
なので墓地とか廃墟とか、心霊スポットらしい所はあまり行きたくないのである。
しかし、彼のプライドが言っている。
このまま俺のプライドに泥を塗った奴を、野放しにしていいのかと。
彼はこのプライドの声で、ここまで来れた。
今更腰を抜かしてどうする。
「……もう腹括った!絶対あの女に会ってやる!」
若干涙が出ているのが気になるが、彼は立ち上がった。
そしてもう一度、墓地へと足を踏み込み。
「ーーーーーふぁああああああああああああああああああああ!?!?」
ーーーー絶叫した。
「……なんか悲鳴が聞こえるんだけど、本当にここの墓地大丈夫なんすか?」
「ん?昼は大丈夫じゃよ。ワシはずっとここにいるからのう」
結構な時間、この場所の近くを掘っている間に誰かの悲鳴が聞こえた気がするが、気のせいなのかはよくわからない。
しかしこの爺さんが言うには間違いないであろう。ずっとここにいると言っていたんだから。
「しっかし、全然ないなぁ……もっと深く掘った方がいいんじゃないんすか?」
「うむ……ワシはそんなに深く掘ったつもりじゃないが……」
「一応やってみるっすよ。任しといてくださいっす」
手の痛みの感覚がもうないけどな。
先程まで続いていた激痛は、既に痛覚がなくなりつつあった。
太陽の光を庇って掘ってはしていたが、やはり全てを防げる訳ではなく、全ての時間当たった部分もある。
今も中指と薬指と小指と、手のひらの三分の一が感覚を失っている。
しかし周りの人から心配されるようなことは無い。何故なら、はたから見れば普通の手に見えているからだ。決して火傷のような状態にはならないが、言うなれば内側からジワジワと焼かれているように痛みが走るのだ。なにそれグロい。
だからこの爺さんも、俺の状態には気付かない。
それにもう痛覚がなくなってきてるし、もうどうでもいいや。手が使えればいいんだ。逆に痛覚がなくなってよかったのかもしれない。
さて、そんな話は置いといて。
俺は今まで掘っていた穴よりも深く、ねじ込むように突っ込んでいく。
捲っていたブラウスのギリギリの所まで手を突っ込んだ俺は、一気に掬い上げるように掘り進めた。
……でも掘った所は微量の土でまた埋まっちゃうんだよなぁ。
しかしやって見る価値はありそうだ。
今度は両手をその穴に突っ込んで、また掘り進める。
……ないかぁ。だけどこんだけ掘って進めれば、いつか出るであろう。
そのまま掘り続けようとした時。
「その指輪」
一言、爺さんがそう言った。
一瞬、何を言っているのかわからなかったが、少し考えて、俺が左手の薬指にはめている指輪のことを聞いているのだと気付く。
爺さんは掘る手を止めて、その指輪をジッと見ていた。
「お前さんのかい?」
やがて暫く指輪を観察していた爺さんが、そう聞いてくる。
「……そうだけど、どうかしたんすか?」
「…………」
いきなりそんな事を聞いてくる爺さんに疑問を持ったが、爺さんは無言のまま、何も答えずにまた掘るのを続けた。
……何だったんだ、今の。
一瞬雰囲気が変わったような気がするが……そんな深く考えなくてもいいか?
いや、考える時間がない。もう直ぐ十五時。俺が宿を出てから三時間は経過している。
夜までに宿に戻らないと、折角練った計画が殆ど台無しになり、しかもミソラにいらん心配をかけられるかもしれない。
この爺さんにはすまないが、指輪が見つからなくても、用事があると言って抜け出そう。
そう決意して、俺はまた掘る手を動かし始めた。
もう先程の爺さんのことについて、何も考えていなかった。
「爺さん、もう指輪って紛失してるんじゃないんすか?」
もう何時間も掘ったりそれを戻したりして、夕日が顔を出す時間となった。
もう俺の手は泥だらけだし、痛覚もすっかり感じなくなっている。
もうこの墓地全体を掘り続けた。しかし、どれだけ掘っても白い指輪は出なかった。
ならもう紛失して、この世にないんじゃないのか?と諦めかけている。
「あるよ」
しかし、爺さんは。
未だに掘る手を止めずに、そう俺に一言放ってきた。
その一言だけで、強い信念を感じとる。
この爺さんは、また信じているんだ。
三日間、ずっと探していても出ていないというのに、まだ指輪はここにあると。
手が泥だらけになっても。
傷だらけになっても。
足が痛み出しても。
爺さんは、ずっと掘り続けている。
大好きな人の形見を。
「…………叶わねーなぁ」
俺はこういうのに弱いんだ。
大切なものを必死に探す姿に。
だから、ずっと付き合ってあげたいと思ってしまう。
しかし、もう時間だ。
「爺さん、もう俺ぁ時間なんだ。行かなきゃならねぇ」
俺はこれから、人々を助ける為に罪を犯す。
この泥だらけの手を、一層汚すことになる。
「だから、すまねぇな」
立ち上がった俺を、爺さんは一度も見ない。
しかし、爺さんは掘る手を止めていた。
爺さんは俺に言う。
「いいんじゃよ。わしのために、ここまで付き合ってくれてありがとう」
「…………まだここで探してたら、また付き合ってやるよ」
「ふぉっふぉっふぉ。その前に見つけてやるさ。わしとあの子の形見を」
掠れた声で笑った爺さんは、また掘る手を動かした。
その姿を目に焼き付けて、俺は爺さんから離れる為に足を動かす。
墓石を避けて、掘った箇所を踏んだりして。
そして俺は、爺さんと別れた。
最後まで爺さんは、こちらを見なかった。
「うっわ、泥だらけ……」
墓地から出た俺は、クソ汚れている両手を見て絶句する。
これは結構洗わないと落ちないな……そりゃ、あんなに長い時間掘っていたらこうなるか。
宿にいるミソラにどう説明しよう、とミソラに言う言い訳を考えている時。
「やぁ」
真横にある路地から、少しだけ聞き覚えのある声がかけられた。
「あ?」
俺は声がした方に顔を向ける。
夕日に照らされているので、その顔は良く見える。というか、見覚えがある。
こいつ、確か……。
「もう忘れたのかい?昼頃、君の美しさに惚れた男さ」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………あー!あのあいつよりブサイクな男!」
「ぐほぉっ!?」
やっと思い出して言ってみれば、何故かその男が泣き崩れた。
……そんなにショックだったの?ブサイクって言われたの……。なんかごめん。
いや、別にこいつが底辺のブサイクという意味ではない。意味ではないんだが。
その男は涙目で立ち上がって、俺を睨む。
「この……ッ!一度ならず二度までも俺をブサイクと……ッ!」
「え、何、ショックだったの?」
「うるせぇ!!」
どうやら本当にショックだったらしい。余程容姿に自信があったに違いない。それを粉々にしたのは俺だが、後悔はしていない。いやあいつと比べるとさ……なーんか変な感じになってしまうんだよなぁ。
男は溜めていた涙を拭い、何故かモデルポーズのようなものを俺に見せつけてくる。
「君にはわからないのか?世の女性が目をハートにさせる、この俺の美貌に!しなやかな腰ィ!輝くブルーアイ!そしてしっとりとした髪触り!さらに真珠のような輝かさをもつ真っ白な肌ァ!どうだい?ときめくだろう?」
「いや全然」
「ちくしょう!!」
俺が正直に感想を言ったらさらに凹んだ。
いや、今のはミソラが言ってもキモいぞ。お前ミソラ以上のナルシだな……こいつの発言を聞くに、もしかしたらミソラはナルシではなく、ただ女が大好きな奴なのかと思い始めた。
そもそもミソラはそこまで自分の美貌とか言わなかったし、そう考えるとミソラはナルシストではないのかもしれない。いや、微ナルシストと言った方がいいか。
とにかくこいつの発言で確信した。
ナルシ怖い。
「何故だ……何故俺に惚れない!」
「いや、惚れると思ってたの?」
「へぐぁ!?」
青年に、第三打の言葉の暴力が襲いかかった。
あの後、やはり墓地に入る事が出来なかった青年は、彼女が出てくるまでずっと待ち伏せしていた。道が多くて可能性が低くてもだ。さすがに夜になったら帰ろうかと思ったが、彼女はこの道を通り、青年に会った。
青年はこの出会いに感謝し、そしてこのイケメンを無視したことを後悔させることが出来ると歓喜した。
そして挑んだ結果。
1、まず忘れられる。
2、またブサイクと言われる。
3、全面的に拒否された。
4、そもそも惚れると思っていたの攻撃。
この四打撃の暴力が、彼のプライドを尽く削りにかかっていた。
いや、もうノックアウト寸前だった。
ここまでキッパリとハッキリと言われたことは初めてだったし、それがまさか女性に言われるとは、自分の美貌に自信がある彼にとっては辛いものであった。
これは墓地に入ることよりも辛いかもしれない。いっそ大泣きしてこの場から去りたい。
しかし、彼のプライドが許してくれない。
絶対に彼女の言葉から「キャーカッコイイー」という黄色い声援を手に入れるのだ!
「お嬢さん名前は!?」
「見知らぬ人には教えない主義なんですー」
「どうか、あなたの麗しい名をお聞きしたいのです。この俺の記憶に、深く刻みつけたいのですから」
「いや、キャラ変えられても教えないもんは教えないし、第一お前の名前聞いてないし、というかはっきり言ってしつこい。俺これから用があるんだよ」
「…………」
もう、ゴールしても、いいよね?
憤怒より哀しみが凌駕してしまった彼の心は、既に心の柱が崩れかかっている。
その柱に彼女はとどめをさそうとしているのだ。
キャラじゃなくて、本来の姿で接したのに、それも尽く拒否られる。
こんな酷い話はない。と彼は彼女が見ているにも関わらず涙した。ちなみに近くに墓地があり、そろそろ日没が迫って夜になるのが怖いからではない。
彼女は突然大泣きした彼に度肝を抜かれており、少し後退りした。
その前に、彼は子供のように泣き始め、彼女に吠える。
「なんで!なんで俺のこと好きにならないのぉ!?なんでぶさいくって言うのぉ!?お母さんにもお父さんにも言われたことないのにぃ!俺に近づいてきた女の人は全員初恋が俺って言うしぃ!なんであいつらと一緒に顔を赤らめないのぉ!?そりゃあ魔法は雑魚で罵られても頑張ってるんだよぉ!いつかは立派な魔導士になる為に頑張ってるんだよぉ!!毎日筋トレして毎日本読んで毎日毎日稽古して、お兄ちゃんに負けないくらいに頑張ってるのぉ!なんでみんな俺よりお兄ちゃんを優先するんだよぉ!所詮は顔だけってか!?所詮は顔だけなのか!?なんで世の中は魔法で決まったりすんだよ!俺だって頑張ってきてんだよあんなちんちくりんみたいなクソデブクソ兄貴に負けるわけがないんだよ!最近あいつまた肉食って太りだしてるし昔の俺を凌駕する美貌はどこいったんだよ!俺の憧れのお兄ちゃんなんてもう消えたよ真っ白に燃え尽きたよ!今のアイツなんて権力に甘えた肉大好きの食い意地張って汚ねー服きて使用人コキ使って自分は高みを見物する豚でいいんだよ!もう豚の置物でいいよ!いやもう存在する価値のない豚の内臓でいいよ!魔法だけが一流で調子乗ってんじゃねえぞあの【ピー】の【ピー】で【ピー】で【ピー】やってるブヒブヒ野郎!一生肉食って肥満で死んじまえ!この……ッ!!」
「面倒臭えなお前!?てか後半てめえの兄の悪口になってたよな!?あかん単語が連発されとった気がするぞ!?何で女好きはこんなにマシンガントークを連発するんだよあいつ同様面倒臭え!!」
「俺は女好きなんかじゃない!女性が勝手に寄ってくるんだ!!」
「そんな理由で納得するかボケェ!さっきのナンパはなんだったんだよ!」
「ハッ……!」
「そんな今気づきましたみたいな顔はせんでいいわ!」
ゼェ、ハァ、と二人はお互いに呼吸を整える。
先程のマシンガントークが終わると、辺りは静寂と化し、屋根の上から猫の鳴き声がナァンと聞こえてくるようになった。
それを聞いた彼女は、泥だらけの右手の人差し指で、彼を指差す。
「とにかく!俺には時間がねえんだ!用なら明日にしてくれ!」
「何ぃ!?このまま俺のプライドが傷つかれたまま放置するっていうのか!?情も何もない奴め!」
「うるっせえよ知るかんなもん!こちとら早く帰ってやりたいことやんねえと気がすまねえんだよ!宿で休んでる仲間が心配して来るかもしれないんだよ!」
「仲間ぁ?」
もはやあのキザったらしい態度が取り除かれた彼は、彼女の「仲間」という発言に怪訝そうな顔をする。
そうして、その「仲間」について言及しようとした。
その時だった。
「エリカさああああああああん!!」
その叫び声とも言える声。
青年は反射的にそちらを見て、栗色の髪を揺らす。
そして青年は、瞳孔を開きながら、凝視した。
何故なら、この坂を登ってくる青年が。
自分と同じくらいの年頃の男が。
金髪の髪を揺らして、腕を一生懸命振って、汗だくになって坂を登るその青年がーーーーーーーー。
「エリカさああああん!!いたああああああああああああ!!」
「ミソラぁ!?てめぇ何でこんな所に!」
金髪の青年は彼女に跪いて、荒い息を一生懸命整えようとしてから、彼女の手を取る。
「心配だったからですよ。ダイヤモンドのように美しいあなたの体が汚れてしまっ…………………………………………………………………………………………」
そして金髪の青年は、彼女の手を見て言葉を失った。
何故なら、行く前に雪のように白かった肌が、今は泥をぶちまけられたかのような状態になっていたからだ。
「ノオオオオオオオオオオ!!エリカさんの手がああああああああああああああああああああああああ!!」
「あっ」
金髪の青年は頭を抱えて絶叫し、彼女は今更思い出して、「悪い」と軽く言った。
しかしその言葉をかけられた金髪の青年は、バッ!と瞬時に跪く。
「大丈夫です。しっかりと洗い落とせば、またあなたの美しい宝石のような肌が露わになると……」
若干声が震えているが。
彼女はまた軽く謝ったが、そんなに気にはしていないようだった。
ひと段落ついたら所で、彼女は何故か呆然とこちらを見つめている青年に声をかける。
「それじゃあ、俺達行くから。まぁ……頑張れよ」
放心している理由は彼女には理解出来なかったが、取り敢えず労いの言葉をかけて去ろう。そう思っての言葉であった。
金髪の青年が彼を一瞥したが、たったのそれだけで、金髪の青年は彼女の元を着いていった。
残された青年は、彼らの姿を見ず、ただ目の前を見つめているだけ。
猫が足元に寄ってきても、何も反応しない。
ただ彼は、新たなものに出会った。
彼が一度も出会ったこともない、あの兄をも凌駕するものを。
青年はそっと頬に手を当て、目を細める。
半開きの口元から、少しだけ荒い息が漏れた。
今、青年はあるものにしか着目していなかった。
金塊のように金の輝きを持つ金髪。
特訓か、それ程のものをしているであろうカチッとした筋肉。
そしてエメラルドのように目を奪われる瞳。
さらには彼女と同等の雪を思わせるかのような肌。
それを考えるだけで、思い出すだけで、青年の口から笑みが溢れる。
猫が足元に擦り寄ってくるが、今の彼にはそんなのどうでもよかった。
ただ、彼の興味はーーーーー。
「ーーーーーー美しいィ……!」
あの昔の兄をも凌駕する、最強の美しさを持つ金髪の青年に、向けられていた。
「……名前、聞きそびれた」
あの美しい方の名前を知りたい。
しかし、もう二人は去ってしまった。
彼女の名前も聞きたかったのに。何故か胸にポッカリと穴が開いたような気分だった。
寧ろ女性にブサイクと言われたことよりも辛いかもしれない。
「……帰ろうかな」
青年は顔を赤らめたまま、帰路を辿った。
帰りたくない、我が家へ向かう為に。
いつの間にか、彼女を後悔させてやるという決意はなくなっていた。
代わりに、またあの美青年に会いたい。そしてその美貌の秘訣とか、何故そんなに美しいのか聞きたい。
今の彼が占めているのは、それだけであった。
この帰路が、青年が今までよりもの凄くウキウキで帰って来れた瞬間であった。
「ッ!!」
「おう、どうしたお前。まだ体調治ってないとか?」
「い、いえ、体調はもう大丈夫ですけど、なんか悪寒が……」
「誰か噂してるのかもしれねーなー」
「や、やめてください……男だったらヤバイです」
「女だといいなー」
「棒読みが辛いッッ!!」
「ふんじゃ、救出作戦、実行と行きますか」
書いてて思ったこと。
「おい、近所迷惑だろ」
■ナンバカが面白すぎてやばいです。えぇ、私のマイブームに追加されました。
しかし一番は遊戯王です。その中で沢渡さんがもう好きすぎて好きすぎてもう……あの、やばい(確信)
いつか自分でデッキ組んでみたいですねぇ……魔界劇団と妖仙獣。
だから新規はよ。
はよ!!
それと沢渡さんの活躍はよ!!
あとナンバカの推しキャラジューゴです。
ジューゴとウノの関係が一番泣けました。反則やんけウノォ!お前いい奴過ぎるぞォ!!