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天運のCrocus  作者: 沢渡 夜深
第一章 -カラシナ-
5/35

"魔法を持つ者"というものは


姉はこの村の実態を知る。





 この家族に助けられてから、一週間が経とうとしていた。

 この頃には俺の怪我は完全に回復し、もう歩いても走ってもいいという完璧な状態となっている。

 なので今日、俺はこの村を周ろうと外に出た。それは良かったのだが…。


「……気持ち悪い」


 外に出た途端、俺に吐き気と痛みが襲ってきた。

 傷は完全に治っているはずだ。体調も問題なかったはずだ。なのに何故外に出ただけでこんなに苦しいのかわからない。……これで死ぬのはさすがに嫌だ。

 しかし、そのくらいに辛いのだ。死んでもおかしくない程に辛いのだ。何故だ。俺は別にニートではないはずなのに、何故こんなにも気持ち悪いんだ……!

 あまりにも辛かったので、俺は日陰の所に行って座った。

 するとなんという事だろう。先程の辛さが嘘のように全部無くなったのだ。完全とまでは行かないが、先程に比べたらかなり楽である。

 ……さっきは熱中症みたいなことになっていたのに、ただ日陰に入るだけでこんなに楽になるのはさすがにない。どういうことだろう。

 それにあんなに気持ち悪く痛いのなら、少しくらい汗が出てもいいはずだ。しかし俺の体は汗が全然出ていない。汗どころか、体温が人並みより低いのは気の所為であろうか?


「……どうなってんだよ、本当」


 それも気になるが、このままでは家に帰るのが難しい。難しいというより、この日陰から出たらまた地獄に逆戻りだ。さすがにあの辛さは味わいたくないから、出来ればこのまま出たくない……。

 ああ、子供が元気に遊んでいる姿が羨ましく思うよ。俺もあんな風に走りたいな……ほら、老人だってゆっくり日向ぼっこしてるよ。俺も日向ぼっこしたいなぁ。

 思わず溜め息をした時だった。


「エリカさん、何やっているんですか?」


 聞き慣れた声が上から振ってきた。

 俺が顔を上げれば、いつも通り朝の日課を終えたミソラが、果実や食材を背負ってこちらを見下ろしていた。相変わらず、フード付きローブを着ているのにフードは被っていない。まぁ、村の中だということもあるが。

 こいつに頼るか。はっきり言って、これは誰かに頼らないと成し遂げれない難問だ。仕方あるまい。


「気持ち悪くなったんだよ。外に出たら」


「えぇ!?やっぱり、まだ寝てた方が良かったんじゃ……」


「いや、家の中にいる時は平気だったんだよ。でもな、いざ外に出たら吐き気と痛みが襲ってきてな……」


「……外に出たらそうなったんですか?」


「ああ」


 うん、嘘は言っていない。家の中にいた時は凄く身体が軽かったし、外に出たら一回走ってみようと思った程に大丈夫だった。

 それが今はどうだ。外に出たら吐き気が増したり痛みが増したりと散々になり、日陰に入ることでこれを抑えられるとか、なんという不便。

 俺が全てのことを伝えると、ミソラは少しだけ考える素振りをして、果物などが入っている籠を下ろした。

 そして自分が着けていたローブを外し。


「じゃあ、これを被ってみたらどうでしょう」


 と、俺に差し出してきた。

 ……え、これで抑えられるのか?と一瞬でも疑った。しかし今は色んなものを試してみないといけない。でないと俺はこんなしょぼいもので死んでしまう可能性があるからだ。さすがにそれは弟にかっこ悪いと言われてしまうかもしれないので、出来ればかっこよく死にたい。……死にたいって思う時点でかっこよくも糞もないんだけど。

 とりあえず、俺はミソラのローブを羽織り、フードを深く被った。……うん、影が顔全体にかかっていいな。


「フード被りましたか?それじゃあ、一回日陰から出てみましょうか。どうぞお手を」


「……お、おう」


 やはりキザすぎてやりにくい。こうやって育てられているわけでもないのに。こいつはこれだけを評価すれば良い方まで行くんだが、如何せんああいうのがあるからギリギリで『好き』な方なんだよなぁ。まぁ、俺が男だったら普通に接していたと思うが。

 ミソラに連れられて、俺は日陰から出た。

 その時一瞬痛みを感じたが、それだけで後は何も起きず、俺は吐き気にも痛みにも襲われることはなかった。


「……おお」


 やばい、フード万能すぎる。これ欲しい。こんなにもフードが神だとは思わなかった。貰えねーかなこれ。

 でもやっぱ手は無理か。これで大丈夫なら、手袋をはめればいけそうだが、そう簡単にはないであろう。それに、そんな贅沢言ってられないし、俺直ぐ死んじゃうし。

 でもこのローブは欲しいなぁ……。


「……大丈夫そうですね!もしよろしければ、それは差し上げます!」


 俺の様子を伺っていたミソラがそう言った。その言葉に、俺はついこいつを二度見してしまった。

 え、いいの?本当に?という眼差しを送れば、ミソラは満面の笑みで頷く。


「女性が困っているのなら、それを助けるのが男の役目です!ドーンと、胸をはってください!……あ、いや!お胸のこととは関係ないないですよ!?」


「あ、うん。何か失礼なこと言われたと思うがありがとうな。一発殴れないのが悔やむんだがどうしてだろうな」


「ごめんなさい!」


 本当に手を出せないのが悔やまれた。ちなみに理由は手が痛くなるからである。



 距離は遠くなかったので、時間をかけずに家に戻れた。ミソラもちょうど帰るとこだったので、一緒に付き添ってもらった。

 帰った途端、出迎えてくれたキキョウさんの第一声は。


「あら、似合ってるじゃない」


 という言葉である。まるで俺がこのローブを受けてるのを知っているかのような口振りだった。

 いや、ミソラのことを考えれば、女にいろいろなものをプレゼントするのは日常茶飯事か…?別に興味はないが、それはそれで疑われそうである。色々な意味で。


「おばあちゃーん!果物採ってきたよー!」


 当の本人はナーヨさんの所に行ってるし……。

 やっぱり、今日は家でゆっくりしようかな。明日になったら一回外に出てみよう。


「あ、エリカちゃん。もうそろそろご飯だけど、お昼寝しちゃう感じかしら?」


「あ、食べるっす」


 ちょうど昼時か。お腹も空いていたし、いい時間に食べれそう。

 ローブを外していると、キキョウさんがこちらをジッと見ていることに気づいた。

 あまりにも視線がこちらに向いているので逸らすことは出来なかった。ので、代わりに首をこてんと傾げてみる。あ、やばい。今の俺キモイわ。

 キキョウさんは顎に手を当てて覗いてきた。


「うーん……やっぱり、その口調どうにかならないかしら……」


「え?」


 いきなり何を言っているんだこの人は。

 口調?今の俺は女だから他の人から見たら違和感を感じるかもしれないが、こういう奴もいるだろう?現に前世では口調が「俺」っていう女いたぞ?そういうものじゃないのか?

 しかしどうやらキキョウさんはやっぱり気になるらしい。俺の口調に。というか……気に入らないというよりは……。


「なんで語尾に「っす」って付けるの?」


「え?……なんとなく?」


 どうやら「っす」が気に入らなかったらしい。

 まぁ、この語尾はあまり良いものではないからな……普通に「です。ます」の方がいいだろうな……でも前世の癖みたいなものだから、そう簡単には抜けないんだよなぁ。

 キキョウさんは暫く悩む素振りをし、やがて俺の肩を掴んでこう言った。


「ちょっと教育しましょう」


「え」






「という訳で、今日からエリカちゃんの言葉遣いを指導していきます」


 なんでこうなったんだ。

 昼食が終わった直後に俺はキキョウさんに強制的に座らせられ、そしてキキョウさんはビシッと服装を整えて俺の前で足を組んでいた。「気合いをいれてくる」とはこういうことだったのか……?

 今のキキョウさんの格好は、少し汚れている革製のジャケットに、スーツのようにぴっしりとしたパンツという格好だ。あとはヒールとか履けばよくなるかも……。いや、そんな事はいい。

 何故いきなり言葉遣いだなんて……あそこにいた時は少しだけ言葉遣いを直すようにと言われたが、それ程重要か?

 キキョウさんは前のめりになって俺に言った。


「それじゃあ、まずは普通に話してみて。好きな食べ物は?」


「え、あ、ぶ、ぶどうっす」


「ブドウ……?まぁいっか。それじゃあ好きな事は?」


「寝ることっす」


「今何がしたい?」


「外に出たいあ違う寝たいっす」


「うん、やっぱりその語尾気になるわ。私が」


「まじっすか……」


 やっぱりこの「っす」が気に入らないらしい。

 やっぱ女だから、言葉遣いも厳しいものなのか?なんか大変だな……。そう思えると、あの女は言葉遣いが自由だったんだな。と、口調が男のようなクラスメートを思い浮かべる。

 思い浮かべていると、キキョウさんが足を組みかえて俺に言った。


「うん、じゃあその語尾は言わないで、丁寧に言って。好きな食べ物は?」


「あ、はい。ぶどうです」


「あら、やれば出来るじゃない」


「あざす」


「あ」


「あ」


 ……意外にこれって難しいな。身体に染み込んでるのが「っす」だから、自然にそっちの方が出てしまう。

 キキョウさんは暫く悩む素振りをして、また俺に言った。


「好きな事は?」


「寝ることです」


「……んー、咄嗟に言えるのね。でも何か心配ねぇ……」


「……あの、何でこんな事するんすか?」


 さっきまで気になっていたことだが、何故こんなことをするのだろう。べつに今のままでもいい気がするのは俺だけであろうか。

 俺がそう言った途端、キキョウさんは緊張した顔になった。

 テーブルに手を置いて、ポツリと話し始める。


「エリカちゃんは、この世の中については理解してるかしら」


「大体は……」


「そう。なら、大まかな説明はいらないかしら。じゃあ、世の中は全て魔法で決まっていることは知ってる?」


「はい。確か、魔法を持たない人は魔法を持つ者、魔導士に酷い扱いをされるとか……」


「そう。それを踏まえてなんだけど……この村、魔法を持たない人が多いの」


 キキョウさんは窓の外を見た。

 外では子供達が馬跳びをしていたり、老人達がそれを眺めていたりと、様々だった。

 俺がそれを見ていた時、キキョウさんが俺に聞いてきた。


「エリカちゃんがずっと外を眺めていたのならいいんだけど……ーーーーーこの村、男の人が少ないでしょ?」


「…………あ」


 本当だ。キキョウさんの言う通り、男が少ない。確か俺が最後に男を見たのは、畑仕事をしているミソラくらいの歳のやつだった。ミソラ?あいつはいつも会ってるから除外でいいんだよ。

 それは置いといて、本当に男が全然いなかった。今窓の外にいるのは子供と老人。この村がどんなに大きいのかわからないが、俺の見たところでは、男はあの畑男だけだ。


「二十歳になる男の人は、全員貴族に連れていかれたのよ。魔法を持っていないのだから、せめて役立てって理由でね。おかげで男は二十歳になってない男達と、子供と老人。そして女だけよ。何で女だけ連れていかないのはわかってないけどね」


 キキョウさんの声が悲しく聞こえた。

 キキョウさんはずっと見てきたんだ。成人していった男達が、皆王族に連れていかれるところを。

 いや、キキョウさんだけじゃない。この村全員が見ているんだ。貴族に連れていかれる男達を。


「私のお父さんも、私の彼も、連れていかれちゃった」


 その声が酷く心細く感じて。


『俺の運命は、もう決められちゃった』


 この言葉が酷く悲しく感じて。


 俺は、この村の実態を、少し知った。


「……魔法を持たない男達が連れていかれるのはわかりましたが、それと言葉遣いに何の関係が……?」


「……酷い話だとね、ただそこにいたりだとか、普通に喋っていたとかで殺す非道な魔導士がいるの。言葉が荒い人も、直ぐ殺すっていう噂がね……だから、あなたを生かせる為にやってるの。絶対にあなたを死なせないように、あいつらに従うようになってしまうけど、これも『生きるために仕方のないこと』なのよ」


 「まぁ、エリカちゃんは魔法を持っているようだし、殺される可能性は低いけどね」と最後に付け加える。

 だからミソラは嫌いだったんだ。

 自分の大切な人達を連れていった王族に、憎悪を向けない訳がない。

 ……もし俺が、本当に王族の家系だったら、皆に嫌われるのだろうか。

 嫌われるに違いない。そして追い出されるに違いない。だって殆どの人を連れていった者達だ。憎まなければ、何に憎めというのだ。

 ……確かキキョウさんはあの場にいたはず。だから俺が王族の可能性が高いというのは知っているはずだ。

 なのに今彼女は、俺を死なせないために一生懸命にやれることをやってる。

 それに応えない人はいない。


「……わかりました。出来る限り、王族達には丁重に話すよう心掛けます」


「……うん、ありがとう。今のところ私たちのところに来る王族は大丈夫だけど、いつ本性を現すかわからないもの。今の感じで行けば、とりあえず安心ーーーー」


 その時だった。

 外から、多くの足音が聞こえる。

 いや、これは蹄の音だ。何匹もの馬らしきものが、こちらに来ようとしている。

 その数は大体20程度。迷うことなく、こっちに来ている。

 その音に気づいたキキョウさんは立ち上がり、窓を開けて外を覗いた。

 そして、絶望的な声で零す。


「うそ、でしょ……?何で今、王族が来るのよ!!」


 "王族"

 さっき話題に出た、極悪とも言える集団。

 何人もの人々を連れていく、魔法を持たない人にとって恐れられる存在。

 その王族が、来ている。

 この村に、平穏なこと村を、崩すために。


 キキョウさんの後を追って、俺も外に出ようとしたが、キキョウさんが俺を押し留めた。

 家の中にいればいいと言われ、俺も行くと言ったが、強く押されてしまい結局は家の中で待つことに。

 念のためローブを身につけ、俺は窓の外から見ることにした。

 窓の外を覗くと、既に馬を連れた騎士達が二十名程いた。その数人は下品な笑みを浮かべており、大変気分が良さそうだ。こっちは気分最悪だけど。

 その騎士達のリーダーみたいな奴が、前に出る。


「ダリア村の諸君、ごきげんよう。今回の目的は、我々にとって大事なことである」


「……なん、なのでしょう」


 一人の女が、震えながらもそう問いた。

 その問いを待っていたかのように、リーダーの男はにんまりと笑う。

 下衆の笑みを、汚い目を彼女に向けて。


「我々も最近、仕事のストレスで溜まっているのでな……ーーーーそれを発散させてもらおうかと思い、今回は女を連れていくことが認められた」


「……は?」


 誰の声だかはわからなかった。

 今、あのリーダーは何を言った?

 いや、覚えている。記憶に入っている。

 女も連れていくだと?

 なんで?なんのために?

 女まで連れていったら、この村は。


「いやぁっ!!」


 女の叫びでハッとする。

 また視線を戻せば、一人の騎士が最初に問いていた女の腕を掴んでいるところだった。


「いやっ、やめて!お願い!!」


 女は必死に抵抗する。

 騎士の手を振りほどこうと、必死に刃向かう。

 しかし騎士はその手を離さない。

 それどころか、彼女の手に顔を近づけている。


「ひっ……!いやぁ!!!!」


「!あなた達何をしているの!!」


 騎士の行動に目を見開いていたキキョウさんが、彼女と騎士の間に入る。

 騎士は楽しみを奪われ、遠目でもわかるような嫌な顔をした。


「チッ、邪魔すんなよ」


「もう限界よ。大切な人達を奪った挙句、今度はあなた達の身勝手で、彼女達を連れていこうとするなんて……!!」


「おいおい逆らうとどうなるかわかってるのか?俺は『魔導士』様だぜ?痛い目みるぞ?」


 騎士がそう得意気に言うが、キキョウさんは怯えるどころか、逆に不敵に笑った。

 その言葉を待っていたかのように。


「あらそう。奇遇ね。私も魔導士なの」


「は?……まぁ、こんなしょぼくせえ村だから、そんな大層な魔法じゃねえんだろぉ?強がるのもそこまでにしときな」


「じゃあやってみるかしら。勝敗はわかってるけどね」


「……このクソアマ」


「そっくりそのまま返すわよ。変態」


 キキョウさんが手の中に魔力を集めると共に、騎士も剣先に魔力を集める。武器系の魔法もあるのか。

 それがみるみるうちに大きくなる。

 その時だった。


「姉さんは何もしなくていいよ」


 突然、別の声がした。

 キキョウさんの肩を掴んで、その人物は前へと躍り出る。

 優しく、キキョウさんを後ろへ下がらせ、その人物は髪を払う。


「ミソラ……」


 ミソラの目は、殺気に溢れていた。

 その眼光だけで、人を殺すことも容易い程に。

 ミソラは騎士を睨み続ける。


「美しい女性方に、その薄汚い手で触れるとは、とんだ無礼な奴らだ」


「あぁ?テメェ忘れたのか?俺は、」


「僕も魔導士だ。お前達とは違う、格上のな」


 そうミソラが挑発すると、騎士は「あぁ!?」と、声を荒らげた。

 二人目の魔導士が出るとは思いもしなかったのだろう。しかし、騎士は笑みを外さない。

 こんな村だから、魔法は格下。怯えることではない。大体考えているのはこの辺であろうか。

 しかし、ミソラの体に纏っている魔力を感じて、俺は勝敗を察する。


「何かを失うその重さを、思いしれ、下衆共」


「!【我が剣よ、汝に応えよ!】」


 先程まで溜めていた騎士の魔力が、ミソラに向かって暴発した。

 剣先から赤い光線のような流れ、真っ直ぐにミソラにへと突き刺そうとする。

 その騎士の魔力は、俺から言わせてみれば『弱い』ものだった。

 だから、俺は察することが出来る。

 この勝負は。


「詠唱魔法か。しかし短い。やはりお前らは格下だよ。可哀想な程に」


 ミソラは手を伸ばす。

 その光線を掴むかのように。

 そしてミソラは、囁く。


「【DEEP】」


 その時、俺の視界が変わった。

 まるでスローモーションのように動く光線は、ゆっくりとミソラに向かっていく。

 周りも、騎士も、動きがゆっくりになって見える。

 だがミソラは。

 ミソラだけは、元々の速さだった。


「【CRASH】」


 またミソラが囁くと、ミソラに向かっていた光線はバラバラと崩れる。

 それを見届けたミソラは、『歩いて』騎士の後ろへ回り込んだ。

 そして、騎士の腕を掴んで、捻りあげる。


「【MOVE】」


 そしてミソラは、また囁いた。

 瞬間。


「ーーー!?あっ、が!?」


 騎士が苦しみ始めた。

 ギリギリと関節を締めあげられ、助けを求めた騎士の手は虚空を切る。

 リーダーの騎士も、女達も、子供達も、老人達も、皆その光景に呆然としていた。ただ一人、キキョウさんを覗いては。

 ミソラは淡々と言う。


「僕の魔法は『時を遅らせる』んだ。そんな相手に、ただ剣をぶっ放すだけじゃ、僕には何億光年も勝てないよ?」


「ッ!クソがァ!!」


「滑稽だよ。今まで余裕ぶってたお前の顔が焦り苦痛絶望に塗れて、僕は非常に機嫌がいい」


 そう言い終わると、ミソラは手を離して、その騎士をリーダーの男に向かって押した。

 リーダーの男はそれを躱し、反動で倒れていく惨めな騎士を横目で眺める。


「さぁ、力の差は教えたんだからさっさとどっか行ってよ。言っておくけど、姉さんは僕よりも強いから、安易に歯向かわない方がいいよ」


「……チッ」


「もう二度と来るな。屑が」


 引き下がる騎士達を見るミソラの目は、やはり人を殺しそうな目だった。

 もし俺が王族だとしたら。

 もし俺があの騎士達の仲間だとしたら。



 ミソラは俺を、殺してくれるのであろうか?




 その答えは、答えなのかわからない。


この話、ナーヨおばあちゃんが真剣に言った言葉と矛盾しているのよね。考えると。

彼らは魔法というものに溺れ、本編にある下衆な事をしようとした。

もしナーヨおばあちゃんがこの現場を見ていたら、きっぱり『お前らは魔導士じゃない』って言うかもしれない。

あわよくば『魔法を持つ資格などない』とも言うかもしれない。

果たしてどれが真実なのだろうか……。


今回は魔法の階級について少し簡単に大雑把に説明します。

騎士が短な詠唱をした時、ミソラはそれを格下だと言いました。それは何故か。

実は魔法でも、魔法のランクが大幅に違うのです。

騎士が使った詠唱魔法は少し上くらいなのですが、それは『長い詠唱』だった場合のことを示します。

しかし『短い詠唱』だった場合、魔法の威力は長いのより大幅に下がります。階級で言うと、下から二、三番目の強さです。

だから短いからと言って有利ではありません。威力も小さいですし、耐久のある人によってはあまり効かないこともあります。なのでそれだけで満足せず、また新たな詠唱を創り出した方がいいでしょう。


ミソラの魔法は『時を遅くする』魔法です。これで止めれたら微チートなんだけどなぁ…。

ミソラの魔法に詠唱はありません。【DEEP】【CRASH】【MOVE】この三つを多く使います。ちなみに階級は真ん中ぐらいですが、特訓すればもっと上へと行けます。

DEEPは遅く、CRASHは簡単に言えば破壊、そしてMOVEは動くという意味です。

シンプルかつ威力が高い魔法!しかしこのくらいのレベルはわんさかいますので、そんなに珍しくはありません。

ちなみに何故威力が高いのかと言うと、こういう魔法は【溜める】ではなく【一瞬で放つ】なので、実は威力は既にストック済みです。

逆に騎士が使う魔法は最初から溜め直さないといけない。だから詠唱が短ければ溜める時間が減り、威力が小さくなる。しかし詠唱が長ければ、それ程満足する威力を発揮するでしょう。それを開花するのが、魔導士の役目です。頑張れ。


それよりもナーヨおばあちゃんがイライラしてそうですねぇ……。

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