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天運のCrocus  作者: 沢渡 夜深
第二章 -サネカズラ-
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純心の一撃



そして魅了は恐怖した。









 ミソラとハルハ、アザレアはドロップ洞窟の入口まで来ていた。

 もう一度だけ言うが、洞窟からは禍々しく重々しい、所謂怨憎の類のものが雰囲気として彼らに伝わってきた。それにミソラは平然と立ち、アザレアは震え、そしてハルハはアザレア以上にガタガタ震えていた。

 これを意味するに、ハルハはもうーーーギブアップ寸前である。


 「ちょっと待てなんでこんなこわいの洞窟ってこんなにこわいの暗いよほーほーなってるよなんか叫び声聞こえるしあーあー言ってるしなんか寒いし変なの感じるしヤバイヤバイヤバイ帰りたい」


 「……………………………………」


 「……………………ハルハお兄ちゃん、がんばろう?」


 ガタガタと体を縮こませて膝を抱えて震え混じりに小言を口にしているハルハのこの怯えっぷりで、幾分か落ち着いてきたアザレアは、ハルハを慰め始めた。しかし言葉は返ってこず、まだ何かを言っている。心做しか萎縮しているように見えるのはミソラの気のせいでありたかった。

 ミソラは洞窟の奥を見据える。ここからではわかりにくいが、確かにハルハの言う通り呻き声や叫び声が聞こえてくる。しかしそれがどうしたことか。冒険者ならそんなの日常茶飯事だ。これくらいで根を上げていては、これからの旅は生きていけない。


 「ハルハ、腹を括りなさい。行きますよ」


 「ええええええええ……!?」


 「……ここで待てと言われた方が恐怖は倍増すると思うんですが、どう思います?」


 ハルハの「ここで待ちたい」という願望がヒシヒシ伝わってくるが、それを払ってミソラは言った。

 ミソラの言葉に、ハルハは一度辺りを見渡す。

 夜の森は昼と何ら変わりない。ただ真っ暗で先の情報が読めなくなり、烏の鳴き声が鳴り響くだけである。夜はモンスターは活動しないのでそんなに危険性はないが、それを差し引いても不気味さは変わらない。

 つまり心霊スポットと言われたら、信じてしまってもいいくらいの怖さなのである。


 「…………一緒に行きます……」


 「よし」


 涙混じりに立ち上がったハルハの腕を取り、ミソラは右腕に縋り付いているアザレアと共に洞窟の中へと入っていった。


 「わああ……わああ……わああ……!」


 「煩いです」


 恐怖を紛らわさせようとしているが、それは邪魔でしかならなかった。ただ情けない声が反響するだけで、何の慰めにもならない。幼子のアザレアでさえ悲鳴を上げないのに。

 まるでお化け屋敷に入った親子のように、三人一緒にくっ付いて歩く。正直言って邪魔くさい。百歩譲ってアザレアは良しとしよう。アザレアはまだ小さく、危機感も薄い。安心できる人の側にいさせた方が、逆にこちらも安心する。

 だがハルハ、お前はダメだ。と言いそうなくらいにハルハをグググッと押し返し始めるミソラ。


 「え、あ、待って、待ってくださいお願いします」


 「うるせぇ黙って歩け離れろくっつき過ぎて動きにくいわ阿呆」


 「何で口調荒々しくなってるの!?」


 「離れてくれませんか?」


 「鬼!悪魔!」


 「一回モンスターの餌食にでもなった方が」


 「本当の悪魔じゃねえか!これくらい許してくれよ!」


 「あのですねぇ。こんなにもくっつかれたら動きにくいですし、いざという時に守れないじゃないですか」


 「あっそれもそうか……」とハルハは納得した様子だが、離れる気はないらしい。こうなったら強引にでも引き剥がそうかとした時、ミソラ達の横の石壁がボゴォッ!と、破壊音を轟かせた。

 その破壊された穴から現れたのは、苔だらけの石を無造作に繋げた、ゴーレムだった。


 『ーーー』


 ゴーレムはミソラ達を視界に入れると、威嚇の咆哮を彼らに浴びせにかかる。

 それに少し足が竦んだアザレアはペタリと尻餅をつきそうになるが、ミソラが抱き上げることで何とか踏みとどまった。


 「ここで体力を消耗するのは嫌ですが……ハルハ!魅了(チャーム)を!」


 一瞬、時を遅めてこのモンスターから逃げるという選択肢が頭を過ぎったが、そう行ってしまえばミソラの体力は大幅に削られ、もしかしたら途中でヘマをしでかすかもしれない。

 それだけは避けたいがために、ミソラはハルハに魔法を使うよう呼びかけるも……。


 「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」


 「何やってるんですか貴方!」


 ハルハは産まれたての小鹿のように体を震わせて、使い物にならなかった。しかも腰を抜かすという醜態まで晒している。

 ここまでとは。ミソラはこのハルハの様子で全てを悟り、そして同時に焦燥する。

 恐らく、いやほぼ確実に、ハルハはこういう系(・・・・・)が苦手な部類だ。それも大のつくに違いない。でなければこの状態にどう説明すればいい。クレマチス王国に出る時のあの時の彼の姿と比べてみろ。その差は歴然だ。


 「む、むむむむむかちゃっかミソラ様わわわわ」


 「日本語で喋ってくださいお願いですから!来るなと言うだけで……ッ!?」


 ハルハに怒鳴り散らしていたその時、ミソラは背後の風の気流の変化に瞬時に気づき、それが直感的に「やばい」と感じたミソラは、ハルハの襟首を無理矢理引っ張り、後方に転がる。

 ハルハが瞠目する間もなく、彼らの頭上スレスレで、巨岩の腕が薙ぎ払った。

 その風圧だけでミソラ達の体はゴロゴロと転がり、苔だらけの壁へ亀裂を作って激突する。強制的に吐き出された息は虚空へと消し去り、声を出すこともままならない。


 「あっ……!」


 アザレアは倒れ伏した二人の元へ駆け寄ろうとしたが、それよりも先にゴーレムが駆け抜けた。

 グッタリとしている二人に向けて、巨岩の拳を振りかぶる。風がゴーレムの拳に吸収され、一瞬の真空と共に吐き出された。


 「ッ【DEEP】!」


 死を悟ったミソラは、自分のリスクなど目もくれず魔法を発動させる。

 途端に、ゴーレムの動きは止まった。正確にはコンマ少数の世界になっているだけで、ゴーレムの腕は微かに動いているのだ。

 ミソラはハルハを肩に担ぎ、一目散にアザレアの元へ駆ける。体勢がカッコ悪くなっても仕方がない。兎に角ゴーレムから離れなければ、今の自分達は呆気なく捻り潰されてしまう。死を悟ったミソラだからこそ決断した行為だった。


 「【MOVE】!」


 アザレアの傍まで駆け寄ったミソラは瞬時に魔法を解き、アザレアを抱き上げた。

 背後でゴーレムが岩を粉砕する音が轟く。轟いた風がミソラ達を押し上げ一瞬宙を舞いながらも、ミソラはタッと地面に足を付けてそのまま走り出す。


 「アザレアちゃん、ハルハをお願いします」


 「えっ、は、はい!」


 しかし、このまま逃げていては埒があかない。

 ミソラはアザレアにハルハをお願いし、荷物袋から数本の短剣を取り出す。それを全て腰にセットして、ミソラはゴーレムに向かって駆け出した。

 ゴーレム自体の動きは遅い。振り向くのに数秒の時間を有しており、ゴーレムが振り向いた時には、既にミソラの体は跳躍していた。


 「ッ!!」


 腰から日本の短剣を取り出し、ゴーレムの目に向かって放つ。

 しかしゴーレムの目に当たっても、ゴーレムはさほど怯みもせず、ミソラに向けて拳を振り上げた。


 「やっぱ無理かッ」


 しかし、これは想定内のこと。

 ミソラは手を翳し、ゴーレムの拳が当たる直前に、魔力を貯め。


 「【CRASH】!」


 放発する。

 洞窟内が破裂音で響き渡り、アザレア達もその衝撃波を僅かにも食らう。風が吹き、砂埃が立ち、一瞬でミソラとゴーレムの姿は飲み込まれてしまった。

 ミソラは、渦巻く砂埃の中でゴーレムの状態を確認する。

 ゴーレムは先程のミソラの魔法で右腕から関節までヒビが入っており、ゴーレム自身は動きを止めている。こちらを警戒することなく、防衛するわけでもなく。


 ーーー攻撃なら、今がチャンスだ。


 短剣が通らないのなら、魔法で打ちのめす。しかし今の魔法では、ゴーレムの硬化な胸部ーーー大体のモンスターが弱点の部分ーーーを、完全に破壊するのは難しいであろう。ミソラの魔法の一つ【CRASH】は、対象に近づけば近づくほど威力を発揮するが、この強固な個体のモンスターなどに何でも対応するとは限らない。つまり、確実に倒せる見込みはないのだ。

 なら魔力の消耗が、【CRASH】よし激しい魔法でーーーー確実に、仕留める!

 ミソラはゴーレムの懐に入り込み、ゴーレムの胸部に手を翳す。

 そして、急激に増す、魔力の渦。

 まるで今正に、台風が作られるが如く強靭な風が、辺りを吹き荒らす。


 「ッミソラお兄ちゃん!」


 砂埃が晴れ、姿を現したミソラを見つけたアザレアは、月の杖を掲げた。恐らく昼時にやった魔法を発動させようとしているのだろう。

 だが、それが魔力を放発させる前に。





 「ーーーー【DESTRUCTION】」




 ミソラの静かな声色が、辺りを支配した。






 次の瞬間、まるで星が破壊したかのような、静寂の破壊が響き渡った。








 書いてて思ったんですけど、ミソラって急成長してますよね。初期の頃はモンスターを見つけたら凄く戸惑ってたのに、今ではこんなに勇気に立ち向かって……お母さん嬉しいわ!エリカの戦いを見てそうなったのかな?

 CRASHですが、簡単に破壊と思ってください。意味は違いますが。正確に言えば魔力と魔力のぶつかりあいの方が想像しやすいでしょうか。言ってみれば「相殺」に近いです。ですが今の場合はミソラの方が強いです。

 ここで少しミソラの魔法を解説。今回ミソラは一度しか時を止めていません。なら何故戦闘の場面で時を止めなかったのか。

 簡単に言えば、魔力を消耗したくなかったのです。簡単に薬が手に入るとは思わないので、出来れば魔力を温存したいという思いもあり、かつここのモンスターの生態も調べたかったのです。

 今回、ここのモンスターはCRASHでは簡単に倒せない事がわかりました。しかしCRASHよりも消耗が激しいDESTRUCTIONをばんばん使うわけにも行きません。

 ……どうするんでしょうね?(苦笑)


 DEEPの空間でCRASHを使うのは、言ってしまえば二つの魔法を同時に使ってしまうことになります。そうなれば消耗は激しいです。なのでDEEPの空間の中でCRASHを使うのは、少なくとも二回くらいでしょう。

 ……思ったんですけど、これ魔法名直した方がいいですよね?これ遅延じゃないですよね?遅延と破壊ですよね!?

 ……考えておきましょ……。



 ハルハのオカルト嫌いは何とも言えない状態です(ニッコリ)



 それでは、また次回。

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