異臭立ち込める洞窟
姉は眠気と戦いながら、洞窟の中へ。
結局俺は睡眠を取らずに、石で造られた何かの入り口までやって来ていた。石には苔が生えており、随分古くから残っていると明確にさせられる。俺の足元まで伸びるヒビは、何かが暴れたのか定かではない。
その重々しく、禍々しい雰囲気に、早速俺は泣きたくなった。唯でさえ睡眠を取っておらず頭がボーッとするのに、こんな空気を叩きつけられたら速攻でノックダウンだ。
何故睡眠を取らずにここまで来たのだろう。別にモンスターが来るかもしれないとビクビクしてて、後に夜はモンスターは出ないと思い出して落ち込んだというわけではない。決して。
「……もうここまで来たら、行くしかないよなぁ」
ここで寝ても洞窟からモンスターが来たら怖いし。というか、夜でも洞窟のモンスターは活動しているのかわからないし。だがここで眠るとモンスターに襲われるという危険性が拭いきれないので、俺は意を決して洞窟へ足を踏み入れた。
地図で何度も確認して、この洞窟が目的の洞窟だということは明白。後は奥に潜むボスをぶっ倒して、戦利品をギルド役員に見せつけてやればいい。そして余ったもので、彼に武器を作ってもらうのだ。
そう考えていると、洞窟の中だというのに俺は気分が舞い上がった。どんな武器を作ってくれるのだろう。私に合った武器を作ってくれるのだろうか。かっこいいのだろうかか。そんな呑気なことを考え始めた。
洞窟は遺跡のように石ばりで、静寂で、ひんやりとした空気が立ちこもっていた。足音も俺の足音しか響かず、モンスターがやってくる気配もない。
……洞窟のモンスターも、夜には活動しないのか?と思っていた俺だが、だんだんと進んでいくにつれ、何やら不穏な空気が迷い込んできた。
「ッ……?」
すかさず俺は足を止め、短剣を構える。一応魔力を込めようと力を込めたがーーー。
(……あれ、光らない?)
短剣は光らなかった。
あの時、あの芋虫を倒す時に魔力を込めた時は、この緋色の短剣は熱を帯び、瞬く間に光っていた。だが今は、その面影すら感じられない。
ならそれを意味するのはーーー魔力が、込められていない?
(方法を間違えたか?あの時は咄嗟の思いつきだったからな……どうやってやるんだっけ)
力を込める方法以外何かあるのだろうか……と、短剣をジロジロと見つめていると。
『…………』
地中から、ボコッ!と手が飛び出してきた。
その手は地面に手を付き、力を込めるとボコボコッと体ごと出てくる。まるで正気を失っているかのように、ゆらりと。
地中から出てきたのは、眼球を失っている腐敗したモンスターだった。もはやゾンビのような風貌のモンスターは、俺の方を向くとゆっくりと歩き出してくる。
「洞窟のモンスターは夜関係なしに動くんだな……それだけ分かれば充分!」
俺はそのモンスターに、刃を向ける。
ここでモンスターをスルーしても、後から必ず追いかけてくる危険性がある。ならここでちゃっちゃと倒して、最適な場所でボスを倒す。
凄く眠たくて仕方が無いが、戦っていけばいずれは眠気が覚めるだろうという目的も添えて、俺は短剣を逆手に持って攻撃を開始した。
「ふっ!」
跳躍して、まずはモンスターの顔を斬る。ザシュッ!という音と共に、モンスターからは紫色の液体が零れた。だが苦しんでいる様子はなく、顔が深く斬られていようとも、私の方へ歩いてきた。
ーーー本当にゾンビみたいだな、こいつ!
「よっと!!」
屈んだまま走り出し、モンスターの片足を斬り、体勢を崩させる。モンスターが膝をついたところを確認して、俺はまた跳躍して刃をモンスターの心臓部分へ向ける。
「これで、終いだ!!」
振りかぶって、思いっきり刺す。
柄のところまで深々と刺さり、その傷口から紫色の液体が噴き出す。モンスターは呻き声を発して、時間が経つにつれて粒子となって消え去った。
ゴロリ、と落ちたのは紫色の宝珠と枯れている木の枝。俺はそれを一瞥し、紫色の宝珠だけを袋の中へ入れた。
「これ、換金したら金になるんだろうな……?綺麗だから持っていくけど……」
まぁ換金出来るだろう。……てか、何処かに換金出来る場所あったっけ……?え、ちょっと待て。まさかクエストだけでしか稼げないなんて言わないよな?このモンスターから出るこれも換金出来るんだよな?……帰ったらあの役員に聞いてみよ……。
木の枝は放っておいて歩き出すと、また地中からボコボコとモンスターが出てくる。今度は三体。あいつらは俺の姿を確認した後、ゆっくりとこちらに歩き出してくる。動きが遅いのが、唯一の救いだ。
「うわぁ面倒いな……ッ」
ここで愚痴を言っても仕方が無い。早く倒して宝珠を回収し、ボスの所へ向かわなければ。
俺は三体のモンスターの所へ突っ込む。今のところ攻撃して一番ダメージがあったのは心臓部分。そこを突けば、モンスターは一撃で倒れるかもしれない。
なので俺はモンスターの心臓部分目掛けて、突き刺した。深く、柄ごと埋まってしまう程に。
『ガ、アアア……!』
モンスターは呻き声を発し、粒子となって消え去る。一体は倒したが、その近くにいた二体目が、俺の方へ手を伸ばしてきた。
その手から離れようとしたが、背後に三体目のモンスターがこちらに手を伸ばしている。
挟まれた。だが、まだ横に行けば……と考えていたのも束の間、右手にボコボコ!と、地中から新たなモンスターが出てきた。
(あ、これ完全に囲まれたわ)
スプラッター映画の主人公視点みたいに、眼球を失われているモンスターがこちらに手を伸ばす。腐敗して腐った臭いが俺の鼻を刺激し、まるでスカンプーの臭いを間近で受けたような、そんな気分だった。
兎に角ーーー臭い!!こいつら臭い!!スカンプーは言い過ぎだけど、それでも一ヶ月くらい風呂入ってない臭いがする!!
「うおおおあああああ!?来るな来るなァ!!」
途端に、体が拒絶反応を起こした。無我夢中に短剣を振り回していると、モンスターの手首をザシュッ!とあっさり切ってしまった。
呆然としている俺を尻目に、モンスター達の手首からはダラダラと紫色の液体が流れている。俺の足元には紫色の液体が溜まりに溜まり、そこからは異臭が立ち込め、気分を害した。
だがモンスターは構わずに、俺に攻撃を仕掛けてくる。
(も、もう止めてくれ……まじで鼻がキツイ……!)
鼻で抑える余裕もない。何も、鼻を守る手段がない。
呻き声を発しているモンスター……モンスターは全て狩ると言ったが……。
前言撤回。俺、こいつらを相手にしたくありません。
瞬間、俺はモンスター達に背を向け、走り出す。進行方向は会っている。このまま真っ直ぐ行っても大丈夫だ。
兎に角あのモンスターから離れたかった。あんなに臭いとは思わなかった。鼻がもげるかと思った。本当に恐ろしい、と色々な恐怖が俺に押し寄せてくる。
出来ればもうあいつには会いたくない……。もうあんな臭い奴と相手してたら鼻だけじゃなくて喉もおかしくなる。
「……撒いたか……?」
殆ど一本線だったから、撒いたというより距離が開いたの方が正解だと思う。
後ろを振り返ると、何もいない。あのモンスターも、何もいない。
取り敢えずはまだ安全か……と安堵して肩の力を抜いた時だった。
ポンッと、誰かが軽く俺の肩に手を置かれ、一瞬反応が遅れる。
迷子の冒険者でもいたのだろうか、と俺は振り返ってーーーー。
『…………………………』
「……………………うわああああああああああああああああああああ!?!?」
振り返ったことに、絶望した。
俺の肩を叩いたのは、さっきのモンスターだった。モンスターは俺の肩を掴んだ瞬間、その腐敗した腕とは到底思えないほどの握力を込め、俺の肩を握り潰す。
「くっそ……!」
骨が軋む音を聞き危機感を覚え、俺は自分の肩が巻き込むと知りながらも、自分の肩とモンスターの手を刺す。
力が抜けたモンスターに肘打ちをかまし、よろけた所で短剣を引き抜く。肩からはドロドロと血が流れており、すぐに小さな水溜りを作り出した。
「はぁあっ!!」
俺はモンスターの心臓に短剣を深く突き刺す。呻き声を発して粒子となるモンスターの結末を見届けた俺は、ぶはぁっ、と疲労を全て吐き出す溜め息を吐いた。
「ちっ……右腕は暫くダメだなこりゃ」
血の流しすぎで動かない右肩を一瞥する。いくら驚異的な再生魔法(仮)があるとしても、そんなにすぐには治らない。ここからは、左腕一本で乗り切らなければならない。
(……休憩しながら行くか)
かと言って、このままボスのところまで言ったら返り討ち待ったなしである。ここは焦らず、慎重に、休息を取ろう。
……休むところ、あるかな。さっき肩の力を抜いたら、一気に眠気が来たから眠たい……寝たい……。
俺は右肩を庇いながら、まだ危険性がある長い一本道を歩き出した。全てはこの体に安息を与えたいが為の行動である。
きっもちわるいなモンスター!!(考えた人)
あっ、宝珠はモンスターの血の色で変わります。
バレンタインデーも過ぎ、もう卒業シーズンですね……私はまだ卒業しませんが、もうそろそろ卒業式の準備とかもしてるんじゃないんでしょうか。皆様良い就職先に恵まれるといいですね。
ちなみにエリカちゃん、フード被ったままですよ……!