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天運のCrocus  作者: 沢渡 夜深
第二章 -サネカズラ-
33/35

綺麗すぎるあなたの名を汚すことなど



純心と魅了は少しだけの癒しの空間をーーー。









 ザクリ、と地面を踏み鳴らす音が二つ。既に夕日は落ち、完全なる宵の世界になっている。その世界に存在する森の中に、二人分の影が動いていた。


「すっかり夜ですね……夜モンスターが動かないって言うのが、唯一の救いですね」


「モンスターも人間と同じなのでしょう。それのせいで、人間の腹時計が逆転している人も少なからずいるようですが」


 ミソラとハルハ、そして眠りこけてハルハに背負われているアザレアは、先程の場所から幾分かの距離を歩いていた。

 これも、旅をするのに重大なことである。

 『モンスターは夜から朝方までは動かない』……そんな伝承が遺されたことをキッカケに、世界では殆どの旅人が夜に移動することが多くなった。卸者や商人、そして安全を最優先する旅人や冒険者兼魔導士は、今もこの伝承を信じている。実際、夜にモンスターは活動しないことが正式に発表されているので、伝承とは言い難くなったが。

 それは安全を考慮するミソラも同じ。何も傷を作らず、万全の状態で洞窟へ行かなければ、身の安全は保障できない。何故なら行先はあの洞窟だ。『始まりの地』という異名の他に、『新参狩り』という物騒な異名も付けられているので、余程用心しなければならない。

 草を掻き分け視界を広く確保しているミソラは、ハルハの方を見た。

 ハルハはミソラの方を見ておらず、周りを警戒している。モンスターが来たらすぐに詠唱を唱える為であろうか。今は幼子のアザレアも背負っているため、こちらも用心しなければならない。

 そんなハルハを見て、ミソラに一つの疑問が浮かび上がった。


「……聞きたいことがあるのですが」


「?」


「あなたは何故、僕に手を貸してくれ、そしてエリカさんを追うのです?あなたにとって利益となるものは、何一つないでしょう。こんな危険な世界に飛び込むくらいなら、あなたは城の中にいた方がいい」


 ミソラはその疑問を口にし、ハルハを睨んだ。

 ミソラは何故ハルハがこの旅に同行しているのかが、未だにわかっていない。モンスターに殺される寸前になることもあり、ずっと街の中にいたハルハにとっては困難を極めただろう。

 なのに何故、ハルハはわざわざこの旅に同行したのか。どうして自分と一緒にエリカを追っているのか、それがミソラには理解出来なかった。

 もしかしたら、何かを仕掛けるために?と王族を嫌悪しているミソラに対して、ハルハはニコリと笑う。


「父に頼まれたんです。『彼女の旅に同行してくれ』と」


「何故?」


「それは俺にもわかりません。ただあいつを追いかけろ、と言われただけなので」


「深くは聞かなかったのですか」


「聞けませんよ。こういう事になると、父は頑なに口を開かない」


 でも、とハルハは顔を伏せる。


「何か嫌な予感は……してるんですけどね」


「………………お父上は、エリカさんが何か隠していると思っているのですか?」


「わかりません。父が何を考えているのか、俺には全く検討もつきませんよ」


 だけど俺は、父を信じるしかありませんから。

 ハルハにとって、親は自身を産んでくれた、生涯を作ってくれた恩人なのだ。その恩人の言葉に疑いをかけることを、ハルハは嫌った。時に反抗したりもしたが、それも親の愛だと受け入れた。

 ミソラはハルハの言い分を聞いて、ふぅっと息を吐く。再度草を掻き分け初め、足を進める。


「……わからないならいいです。それ以上は、追求しません」


「助かります、ミソラ様」


「……時に、もう一つ気になったことが……」


「はい?」


 そろそろ真剣に取り組もうとしたハルハに、ミソラが微妙な顔をして振り返りストレートに言った。


「その『ミソラ様』っていうの……やめていただきませんか……?なんか癪に障るんです……」


「地味に傷つきましたよ!?」


「いや、男に様付けされるのは悪寒が……」


「酷い!!」


 容赦ない言葉に、ハルハはほぼ涙目になる。この様付けは敬愛を表しているというのに。しかし王族が大嫌いなミソラにとって、王族であるハルハの様付けは気味が悪いと言っても過言ではないであろう。

 ハルハはぐぬぬっと歯切りをし、じりりっとミソラに詰め寄る。


「……様付け止めないと旅に同行させてくれませんか?」


「そこまで強制的ではありませんが、せめて敬語はやめてください。最初は王族に敬語で接されてとても気分がよかったのですがよく考えれば男に敬語で様付けはどうかと」


「酷い言われようなんですけど!?」


 うー、とハルハが一人百面相を長々と繰り返し、やがて諦めたかのように溜め息を吐いた。

 敬愛する瞳は変わらずとも、口元はエリカに向ける皮肉さを思わせる、ムッとした口元になる。


「わーったよ。これでいいか?ミソラ様」


「……まぁ、幾分かは良くなりましたよ。ええ別にまだ悪寒が走っているわけでは」


「本当にストレートに言うなアンタ!でもそこが美しい!!」


 感嘆しているハルハを尻目に、ミソラは黙々と草を掻き分ける。この草を抜ければ、広大な湖が広がるはずだ。

 そして、その湖が近づいていることもわかる。潮の香りと、水のさざめきがミソラには聞こえ、ズンズンとハルハ達を置いていく程に前へと進んでいく。


「お、おい!ミソラ様!」


「もうそろそろ湖です」


 その宣言と共に、視界が広がる。

 ガサリ、とミソラが草を掻き分け、直ぐに冷たい風が迷い込んだ。その拍子に落ちるフードを、ミソラは一瞥もせずに目の前の湖に目を向ける。

 光が反射し、湖の水面には満月が映し出されていた。汚れもなく、淀みのない本来の美しさを保つ湖は、底まで簡単に見えてしまうほどに透き通っている。


「…………綺麗だ」


 ポトリ、とミソラが零した。

 エメラルドの瞳に映るのは、ゆらゆらと揺れる水面と半月。この時刻だからこそ生み出せる、幻想的な風景の一枚絵だった。

 冷たい風を諸共しないミソラの隣で、ハルハも「おお……!」と感嘆を漏らす。是非アザレアにも見てもらいたいが、今は休んでおいた方が良さそうなので、可哀想だがそのままにしておこう。


「すっげー……すげぇ……」


「……凄いとしか言いようがないのですか?」


 同じ言葉を連なって零すハルハに、ミソラは呆れた表情である。だがハルハはそんなミソラの表情も気にせず、ただ目の前の風景に目を奪われていた。

 ハルハが、冷たい風に当てられながら口を動かす。


「…………俺、こんなの小さい頃から見たことねえんだ。いっつも城の窓から城下を見渡すだけで、湖とか森とか、そういうのは全然見れなかった。でもまさか……湖がこんなにも美しいとは思わなかった!」


「……あなた、綺麗好きなんですか?」


「綺麗好き?そんなんで収まるもんじゃねえ!!」


 グワリ!とハルハは首が取れそうな勢いでミソラの方を向く。その血走りが入りそうな瞳にミソラは若干たじろいだ。が、ハルハがその間合いを詰め、荒い息と共に言葉を吐き出す。


「俺が求めているのは高貴で繊細で淀みのない透明なる美しさ!!その純心な光こそ、本当の美しさと言えるんだ!!」


「……あ、はい」


「そしてミソラ様はその全てをクリアしている!もはや神の領域なる美しさ、あなたの隣で釣り合う人はいないと言っても過言ではない!あっ、今俺隣にいるじゃん!?やべぇ!」


「いえ世の女性は僕より美しいかと」


「ああっ、そんな女に優しいあなたもなんて高貴……ッ!!麗しい限りだ……!」


「ハルハ、今あなた少し気持ち悪いですよ?」


 人のこと言えない、とハルハは内心でそう零した。

 まぁそんな戯言は放っておいて……と、ミソラは月に照らされ輝いている絹糸のような金髪を押さえながら、湖の脇の方を指差した。


「あそこから回って行きましょう。ここを抜ければドロップ洞窟です」


「やっとか……」


「早く薬を回収してエリカさんを追いましょう」


 早々に歩き出したミソラの後を、ハルハは慌て気味に追いかける。

 風に揺れる度に水面も揺れ、少しした水風がフワリっと三人に当たる。アザレアの長い髪も、ミソラとハルハの前髪も通じあっているかのように揺れた。


「…………ん」


 アザレアが小さく身動ぎし、また小さな寝息を立て始める。

 その姿にハルハは穏やかな笑みを浮かべ、一度背負い直す。そしてミソラの背中へと目を移した時だった。


(…………あれ?)


 大きな風が舞い上がり、ミソラのローブがはためいたその瞬間。

 ミソラの腰に位置する、見覚えのある四角い物体。その四角いものに、眩い光みたいなのが閉じ込められている。

 ハルハにはそれが何なのか、直ぐにわかった。いや、ずっと前から飽きるほどに見つめてきた、あのダメ兄が発明したもの。ハルハも見たことがあるものだ。確か、ダメ兄が大喜びで部屋に駆け込んで見せた時に知ったんだっけ、とハルハは昔の記憶をはた巡らせる。


「……どうしました?」


「あっ……いや」


 ハルハの視線が強烈だったのか、ミソラが億劫そうに振り向く。

 一度言ってしまおうかとたじろいだハルハだが、少しだけ気まずそうにして聞いてみることにした。


「その箱……」


「……ああ、あなたの兄が奪った僕の魔力ですね」


「すみませんでした」


「いえ別に。魔力も回復してますし、それに綺麗ですからね」


 腰から取り外してそれを月に翳す。月の光によって照らされたミソラの魔力は、クルクルと廻って辺りに光を撒き散らす。星でも出てきそうなその姿に、ハルハの眼も奪われる。

 眩い白い光は、彼の純心を表しているに違いない。こんなにも濁りのなく、まるで鍾乳洞の中心にいるかのような、幻想的で神秘な光を、今ここでハルハは知った。

 数分だったか、数秒だったか、それ程長い時間、たっぷりと月に翳したミソラは、また箱を腰に取り付ける。


「さて、行きましょうか。洞窟までもう少しです」


「…………はい!」


 背中には、まだ幼き少女の体温や寝息。

 目の前には、純心で濁りのない、透き通るような麗しさを持つ、端麗のお方。

 今から戦いの幕が上がるというのに、こんなにも幸福な気持ちになる自分は間違っているのだろうか。いや、間違っていない。

 いつの間にか戻っていた敬語を気にせず、ハルハは少し先で歩くミソラの後を追ったのだった。



「あと、敬語戻ってますよ」


「あっ、バレた」


「敬語がしたいならミソラ様を止めろとあれ程」


「せめて!せめてミソラ様とは言わせて!!お願い!!」


「あなたのその必死は何なんですか……」




ハルハはミソラ厨、はっきりわかるんだね。

応募が終わりましたね。ちゃんと応募で来ているのか不安でいつもタグを見返してしまいますわい。

二月は大変じゃ……胃腸風邪なりインフルなり捻挫なりバレンタインなり……二月はもうちっとだけ続くんじゃよ。

さて世間話はここまでにして。今回の話の話題に移りましょう。

ええ、皆様が言いたいことなど有にわかります。ええ。


ーーーハルハ、変態度が増す(主にミソラに対して)


違うんだよ……最初はミソラの後ろをついていく子犬みたいにしようかなって考えてたんだよ……それが尾鰭がついてこんなふうになったんだよ……わ、私は悪くないもん!!

とりあえず今わかっていること。


エリカ→弟厨

ミソラ→エリカ厨(になりそうな予感)

ハルハ→美しさ厨(主にミソラに対して)


……第2章まともなのチーム冒険者とアザレアちゃんと武器屋の子だけじゃん!!(歓喜)

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