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天運のCrocus  作者: 沢渡 夜深
第二章 -サネカズラ-
32/35

効率のいい酷い倒し方



姉はついにクエストを開始する。








 一方、エリカと男はまだ言い合っていた。というよりも、一方的にエリカが詰め寄っているだけで、当の本人はたじろぐだけで押され気味である。

 何故少女が、こんなにも自分の技術に執着しているのかわからない。それはそれで結構嬉しいのだが、こんな少女に自分の武器をあげてもいいのだろうか?ーーーいやいやダメだ、まだ少女のこの子に、危険なものをあげるわけにはいかない。と男が葛藤しているのも知らずに、エリカは突然カッ!と目を見開く。


「そうか……!そういえば、金がいるんだったな!そうかそうか、そうだよな!最初から作るためにはまず材料だよな!」


「え」


 一人で何故か納得しているエリカに、男は瞠目する。完全に蚊帳の外に置き去りにされた男に背を向けたエリカは、キラリと星が飛びそうな目で、


「じゃっ、なんか明日それっぽいの持ってくるわー!」


 と、軽めの調子で出ていってしまった。


「………………………え、あ………………………………………………………………………………………………………ん……?……………………えーっと…………………………………………………………………………………………………………………………………………ちょっと待てぇ!!!!」


 その後、男がやっと我に返ったのは、既に少女がクエストに出かけた数分後だった。







 うっかりしていた。武器を作るためには、たとえ魔法で作るとしても材料が必要なんだ。そりゃそうだよな。何もなしで武器が作れるわけないもんな!

 そうと決まれば、今すぐドロップ洞窟へ行こう。洞窟なら材料になる鉱石がゴロゴロと落ちているはずだ。それをあいつに渡せば、一件落着……。うし、頑張ろう。

 早く武器を作って欲しいから、もうクエストを開始していいだろう。さぁ待っていろ、俺の武器!!今からお前の源となるものを取ってくるからな!!仲間のマゼンタちゃんもいるぞ!(※緋色の白光宝珠(マゼンタストーン)製の短剣のこと)



 ……あれ、なんか忘れているような気がする……。まぁいいか。







 *








 ドロップ洞窟は……ちょっと遠いな。だがそんなにはかからなそうだ。たぶん。

 俺はアリッサム村入り口付近に設置されている地図を見て、ドロップ洞窟の場所を確認していた。

 ドロップ洞窟はこの村の後ろ……を進んだ先にある。周りが緑で囲まれているところを見ると、恐らく洞窟周りには森林が茂っているのだろう。

 まぁ、このアリッサム村も若干木に囲まれてモンスターに襲われにくくなってるし、そんな深く考えなくていいか……。

 そうと決まれば行こう。短剣も持ったし、場所も確認した。たくさん材料を取っていかなければ、あいつが困ってしまうからな。



 と言って村へ飛び出してどのくらい経ったのだろう。

 一応、ドロップ洞窟へ続く森の中へ入ることは出来た。心優しいことにほぼ一本道だったのでずっと突き進んでいたが、一向に洞窟らしきものが見えてこない。

 ーーー舐めていた、クエスト……!!こんなにもかかるとは正直思わなかった……!もう夕暮れだよ……!過ぎすぎだよ!!

 というか、回復薬(ポーション)買いに行くの忘れた。この馬鹿野郎。今すぐにでも殴りたい。これで大怪我したら武器作ってもらうどころかその場でゲームオーバーだよ。クエストどころじゃねえよ!!

 しょうがない、洞窟までモンスターに遭わないことを祈るしかない。頑張れ俺の運、どうか楽な道を選んでくれ……ッッ!!

 と祈っている時、ガサリと何かが俺の目の前を遮ってきた。その影が俺を覆い隠すのは容易いことで、必然的に俺が見上げることとなってしまった。

 べチャリ、と粘液が地面に滴り落ち、それはジュッと音を立てて地面を溶かしていく(・・・・・・)。生臭い臭いが鼻を刺激し、俺の目も、違う意味で刺激されていた。


『…………キュルル……』


 俺の目の前には、まるで芋虫のような体を持つ、体中にこれでもかと目が生えているーーーモンスター。

 その口からは先程の粘液がグチョリと垂れてきており、徐々に地面を溶かし、小さな穴を作っていく。

 そしてモンスターの無数の目にはーーー全て、俺の姿が映っていることは明確であった。


「……………………………………………………」


『……………………………………………………』


 全てを理解した俺はフッと鼻で笑い、腰に取り付けてあった短剣を構え。



「ふざけんなよド畜生がああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?!?」


『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?!?』



 その芋虫モンスターへ、激昴した。




 *





 短剣を逆手に構えた俺は、芋虫の口から吐き出してくる粘液、いや溶液を躱して、芋虫の脇腹を斬る。

 だが脇腹にいる芋虫の目には傷つけられず、ギョロリ!と気色の悪い無数の目を向けられ、思わず「うえっ」と吐き出しそうになった。


『ギジャアッ!!』


「うおっと!?」


 痛みに耐えかねた芋虫が、そのどでかい体をグルリ!と回して俺に攻撃してくる。人間で例えるなら、回し蹴りのようなものだが、それに比べたら回し蹴りの方がまだ可愛い方だ。

 思わずバク転して躱したが、その風圧が異様にでかく、俺は変な体勢で木にぶつかってしまう。


「いってぇ……!ちくしょう、回復薬もないっていうのによぉ……!?」


『ギッシャアアアアアアアアアアッッ!?』


 また、無数の目がこちらへ向けられた。

 芋虫モンスターは真っ直ぐにこちらへ突き進んでくる。デカイ図体を諸共せず、数秒の間で俺の目の前まで迫ってきた。

 一瞬の迷いが命取りとなる。

 その瞬間、俺のやるべき事はもう決まったも同然であった。

 逃げては恐らく俺の体の一部がダメになる。逆にこのまま待っていては、こいつの溶液に溶かされてゲームオーバー。

 なら、狙うのは一つしかないだろう?


「お涙ちょうだああああああああああああああああああああああああいッッ!!」


『ップギョッギャ!?』


 そう、こいつの無数の目の一つをぶっ刺すこと。

 まず手始めに、俺はモンスターの額に存在する目を思いっきりぶっ刺した。

 ブチュリ、と目からは溢れんばかりの紫色の液体が飛び出してくるが、構わず俺は重みをかけてぶっ刺していく。

 やべぇ気持ち悪い。こいつの体中の目が一気に紫色になってるよ、気持ち悪いよ!


「もう死んでくれ本当に!!」


 その切実な思いも込めて、俺はそこから薙るように斬り裂いた。

 その切り口からドロリと溢れるのは、俺を攻撃していた溶液。もはやバケツ一つでは収まりきれん程の溶液を出し尽くしている芋虫モンスターは、絶叫と悲鳴を上げながらその溶液の水溜りに倒れ込んだ。

 紫色の目も死に、自身の溶液で溶かされていくそいつを見るのはあまりにもグロテクスで直視出来ない。おまけにアンモニアのような臭いが森中に刺激している。

 早くここを立ち去らなければ、俺の鼻がおじゃんだ。てかもうこいつには一生遭いたくねえ!!

 モンスターを倒したらドロップアイテムが出るとかなんとか聞いたけど、こいつのドロップアイテムは拾いたくねえ!!


「あばよ芋虫!!もうテメェに遭わねえことをいの……」


『…………………………』


 異臭が立ち込め始めたので早々に立ち去ろうとすると、親方!目の前にあの芋虫モンスターが!!


「デジャブ!!」


『ギシャアアアアアアアアアッ!!』


 芋虫モンスターはまたあの溶液を吐き出して攻撃してきた。ハッハッハ、その溶液の攻撃パターンは既に見抜いている!!そしてテメェらが目が弱点だっていう当てずっぽうの俺の勘が言っている!!


「さぁくたばれ!!」


 溶液を躱しまくり、手始めに脇腹にある目を斬り裂く。

 それだけで芋虫モンスターは涎のように溶液を吐き出すが、まだ俺は止まらない。

 次に流れるように脇腹に生えている目を全て斬り裂き、跳躍してモンスターの背中に乗った。


「あっ」


 ブチュリ、と嫌な音がするかと思えば、俺の着地地点に目があった。なんかごめん。


『グゴャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』


「おっらぁっ!!」


 モンスターが暴れようとお構い無し。俺は頭部にある目を、短剣で突き刺す。

 また断末魔の叫びをあげ暴れ出すモンスターだが、俺の短剣は深くまで刺さっている。そう易々と抜けるわけがない。

 …………そういえば、魔力を込めるとこの短剣、火が噴き出すんだっけ。魔力があるかどうかもわからないが、一回やってみるのもいいかもしれない。

 そう思い至った俺は、あの時と同じ(・・・・・・)ように魔力を短剣に込めるようなイメージをした。

 急激に熱が上がり始める短剣は、その緋色を瞬く間に光らせ、唸りを上げる。


『ブ、ゴャ?』


 ジュッと、何かが焼けるような音がしたその時だった。



 ーーー突如、モンスターの体内から火柱が上がった。



 爆散するかのように現れた火柱は、一分も経たずに消滅する。

 モンスターは悲鳴を上げることなく、ただ無残にも、その気持ちの悪い溶液と皮膚を周りに散らばされるしかなかった。


「…………今までで、一番酷い倒し方をしたかもしれない」


 体内から攻撃するなど、こんなのいてもたってもいられない。

 ゴトリ、と落ちたのは、あのモンスターの血液にも似た紫色の宝珠。恐らくモンスターは、血液の色によってその宝珠の色が異なるのであろう。

 …………このモンスターのは、貰った方がいいかな。

 多少の罪悪感を感じながら、俺は手のひらサイズの宝珠を袋から取り出したポーチの中へ入れた。ごめんよ芋虫君、来世は一番マシなモンスターになるんだよ……。


「……って道草くってる場合じゃねぇ!?もう夜じゃん!?」


 ふと、周りを見れば時刻は既に夜。結構時間を潰していたらしい。

 夜はモンスターは活動しないと聞いているが、不眠不休はさすがに辛い。この安全時刻である夜はさすがに寝ないと……!

 ……寝床、探さねえとな……。


 どうやら、まだまだ課題はあるらしい。





体内から攻撃ってそれ何処の白兎と猛牛の戦い……。てかモンスターの見た目想像しただけで気持ち悪ぃ!!

今回はエリカのギャグが結構目立ったような気がします。かっこいいあの子は……まだまだ先ね……!


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