募る不安
純心は、濁されていく。
ミソラとハルハ、アザレアは早めの昼食を取っていた。ドロップ洞窟に向かう際に通る森に見を潜め、彼らは思い思いに座る。
「ああー……疲れたぁ……」
終始アザレアを背負っていたハルハが、この中で一番疲労が溜まっているでだろう。
グッタリと木に背中を預けるハルハを、アザレアは不思議そうに覗き込む。
先程、凄まじい魔法を放ったはずのアザレアはケロリとしている。あれ程の威力なら、アザレアなら一瞬で倒れる程の魔力の量のはずなのに。
ミソラは袋から昼食を取り出しながら、そんなことを考えていた。だが休憩中にこんなことを考えていては、脳が疲れて後で支障が起きるかもしれないと思い、考えるのを止める。
「ミソラお兄ちゃん!ごはんはなんですか?」
トテトテと寄ってきたアザレアに、ミソラは「サンドウィッチ」だよと答える。
サンドウィッチと聞いたアザレアは「やった!」とクルクルと回った。
「じゃあアザレアちゃん、座ってね。ハルハ、食べれますか?」
「食べれます!」
グッタリとしていたハルハだったが、直ぐ様起きてミソラのサンドウィッチを取りに行く。
一時の休息。モンスターの動向に注意しながらも、こうやって体を休めることも大事。旅を行うものとして、欠かせない一時である。
「すぅ……」
その一時の際、アザレアはミソラの膝に頭を乗っけて眠っていた。
やはりまだ子供、ここまでの旅路の疲労が出てきたのだろう。いつ洞窟に向かったのか定かではないが、恐らくたんまりと疲労が溜まっているはずである。
「…………ミソラ様」
アザレアの寝顔にミソラが頬を緩めていると、ハルハがサンドウィッチを咀嚼しながら問いてきた。
顔を上げ、視線がぶつかった時、ハルハの疑問がミソラへ投げかけられる。
「今こんな事を聞くのは変かと思いますが……ーーーどうして、あいつと一緒に行きたいと思ったんですか?」
その疑問に、ドクリとミソラの血流が震える。
『あいつ』とは言うまでもない、エリカのことだ。荒々しくて、女っぽくなくて、だけど寛大がある、強い人。
そういえば、ハルハには詳しく言っていなかった。何故ミソラが、こうしてエリカを追いかけることにしたのかという理由を。
血流が駆け巡るのを身に染みながら、ミソラはアザレアの髪を撫でた。
「…………あの人が旅に出ると聞いた時、僕は動揺を隠しきれなかったんです。でも、あの人がそれを望むなら、僕はその真意に従おうと思ったんです」
「それで、最初はあいつと行かずに?」
ミソラはコクリと頷く。
「でもあなたが言ってくれたせいで、僕が最も考えたくないことを考えてしまった」
「考えたくないこと……?」
「『信じる』。その単語だけは、出来れば思い出したくなかったですね」
ミソラの表情が悲しみに満ちる。
目を伏せ、アザレアの髪を撫でる手つきを止め、ただ淡々と話す。
ハルハにはその姿が、一匹になってしまった子兎のように見えてしまった。このまま寂しさで死んでしまうのではないのか、と思ってしまった。
「信じるということについて考えると、良くないことも考えてしまうんです。このまま会えなくなったら、せっかく築き上げてきた信頼まで失ってしまうんじゃないか?また信じてもらえないんじゃないのか?ああ、良くないことばかりだ。本当に僕は汚いことを考える」
ミソラは空を見上げた。
淀みのない青空、もう昼時の時間帯、こんなにも憎たらしく照らしている太陽に、ミソラの体は痛みを訴える。
エリカ程ではないが、元々日光に弱いミソラは、フードを深く被った。
ハルハの視線が、痛いほどわかる。ミソラを哀れに思っている、悲しみの視線が。その視線を振り払うかのように、ミソラはニコリと笑った。
「まぁ、よく忘れてしまうんですけどね。あまり考えないようにしていると、全然考えなくなったんです」
「…………そう、ですか」
「ええ。まぁ簡単に言えば、あの人との絆を壊したくなかった……これが、僕があの人に付いていくと決めた理由です。納得しましたか?」
「一応、現段階ではそうしておきます」
ハルハは、赤と黄色の果物が挟まれたサンドウィッチに齧り付く。仄かな酸味と甘味が口の中に広がり、果汁が喉を潤してくれる。
今、この空間に存在する味は何なのだろう。とても辛く、重く、そして何かが引っかかるかのような、儚い味。
ハルハは最後の一口を口の中に入れ、ゆっくりと思考の世界へ入っていった。
*
幼い頃の記憶とは言い難い、僕の記憶。
いつも僕の記憶には、誰かが呼びかける記憶がフラッシュバックする。
『ーーー!なーーーねぇ!!ーーー』
『いやーーーーないーーーー!!』
『ああーーーーーあーーーー!!』
少年の声。泣き叫ぶ金切り声。必死に手を伸ばす姿。傷だらけになった体。
その手を伸ばす先には、何がある?少年。
気づけば、宝石が神々しく光る洞窟に立っていた。
青、赤、白、黄、緑ーーーその他諸々の宝石が、無慈悲にも僕を照らしてくる。
眩しい。
焼ける。
何かが、僕の体にある何かが、焼けていく。
声が出せない。息が出来ない。動けない。
嫌だ、向けるな。こっちを向くな。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
堪らず、僕は目を瞑った。だけどそれだけじゃあ何も変わらない。ただ僕は、神の元で裁きを受けられるだけ。
何で、と誰かが言った。
どうして、と誰かが言った。
行っちゃうの?とーーーが言った。
『どうして、いないの?』
俺が、そう言った。
……熱い。
ジットリと汗ばんだ体の体温が、適温を越えている。徐々に火照っていく体に、僕は堪らずふるふると首を横に振った。
何だろう、何か嫌な夢を見た気がする。
あれは、何だったのだろう。心做しか不安になってきた。
膝には相変わらずアザレアが眠っており、ハルハは木に背を預けながらぐーすかと眠っている。
そんな二人を見て、僕の不安は徐々に安堵へと変わっていった。汗ばんだところもすっかり乾き、今じゃちょっと小寒いくらいの体温にまで下がってしまった。
「…………はぁ」
このような謎の夢は度々と見てしまう。子供の頃から、ずっと。その度に僕は不安に駆られ、姉さんに何回もあることを聞いてしまうんだ。
ーーー『裏切らない?』と。
何故そう聞いているのかわからない。だが、その言葉で僕が生まれたと言っても過言ではなかった。
信じてもらいたい人に、信じてほしいと思ったのはこれが初めてだ。姉さんやおばあちゃんは家族だから大丈夫だと信じてるんだけど、他の人とはあまり信用を寄らせていない。
なのに、今もこうやって、会えるかもわからない人を追いかけている。しかも厄介事付きで。この厄介事を男が持ってきたものなのだとしたら、即刻スルーしてエリカを追いかけるが、女性の頼みとあらば断れない。
アザレアの髪を掬い、サラサラと落としていく。とても念入りに手入れされている髪質で、触るだけで全てが綺麗になるような気がした。
「………………」
ーーーいい?待っているのよ、ここでね。
その言葉は、誰の言葉だ。
酷く憎たらしくて、殺したい程に憎悪していて、ぶちのめしたいくらいに木霊しているその言葉。
「君は、誰?」
その問いかけに答えるものなど、誰一人いないのはわかっている。だけど今の僕には、問いかけるしかほかならなかった。
問いかけなかったら、自分の何かが壊れそうな気がしたから。
「…………見張りでも、していようか」
完全に目が覚めてしまい暇になったので、僕は見張りをすることにした。モンスターが来たら魔法で殺せばいい。あまり音を立てないようにしなければ。
夕日が徐々に落ちていく。僕の影は瞬く間になくなって行き、暗く、心地の良い世界に変わっていく。浸透する僕の心に満たされるのは、何も無い無情の心。
ーーーこのままどっぷりと浸かっていたら、何処まで沈んで行くのだろう。
僕は静かに、心拍に波を打った。
何回も詐欺してすみませぇん!!
書きたい衝動が!!抑えきれなかったんだ!!
自分の作品を読んでいると、やっぱりまだまだ文章力が足りない。言葉に捻りがない。もっと色々知っていかなきゃ……。漢字の書き取りでもしようかしら。
昔の友達に「感情表現が凄いね」と言われたんですが、それじゃあダメだなぁ……と。でも感情表現褒められたのは正直心が舞い上がるほどにめっちゃ嬉しかったんで、それは貫き通していきたいっす。問題は描写ですなぁ……。
色々本を読まないとダメだな。もっともっと経験を積んでいこう。
というわけで、感想評価お待ちしています。