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天運のCrocus  作者: 沢渡 夜深
第二章 -サネカズラ-
28/35

アリッサム村ー3ー



姉は冒険者達誕生の建物に訪れる。







 俺は桃色の大樹から離れ、アリッサム村のギルドを訪れていた。

 風情ありの木造建築。両柱に龍が描かれている迫力のある扉に出迎えられながら、俺は上を見上げる。赤い屋根部分には「Guild」と書かれた古風の看板が立てかけられている。

 まさに竜宮城。規模は恐らく本物の竜宮城には及ばないが、凄く立派なのは明確だ。

 数々の防具を来た、恐らく冒険者らしき人がどんどんギルドに入っていく。

 俺もその波に乗って、ギルドの扉をくぐり抜けた。


 ギルドの中は、和気藹々と冒険者達が酒を飲んでいた。奥のカウンターにも数々の冒険者がおり、ボードらしきところにも人が群がっている。

 ここが、ギルド。本や画面越しでしか実感できなかったが、実際にいるとまず規模が違う。想像を遥かに超える広さだし、ここまで酒臭いとは思わなかった。

 少し鼻を抑えて、俺はギルドのカウンターの所へ向かう。冒険者が騒ぐ声が響き渡っているが、これでちゃんと発注や悩みを聞くことが出来るのだろうか。


「あ、おはようございます!」


 俺に気づいたギルドの役員が、お行儀よくお辞儀した。俺もそれに習って会釈をする。

 現時刻は午前七時。そろそろ村の人達が起き出す時間だろう。恐らくここにいる冒険者達は、一仕事終えた頃なのだろう。しかしそれにしても元気だ。いつ宴を始めたのかわからない。

 俺に声をかけてきてけれた女性役員に、俺も挨拶をする。快く受け取ってくれた女性役員は、営業スマイルで俺を迎えてくれた。


「今日はどうなされたんですか?」


「いや……ここに来るのは、初めてなんすよ。だから何をすればいいのか。一応大まかなことは知っているんすけど」


「ギルドに来るのは初めてですか。ではまず、冒険者登録をしてみてはいかがでしょう?冒険者となれば、あちらにあるクエストを受注することができ、報酬も貰えます。どうでしょうか、冒険者登録を致しますか?」


 ふむ……確かに金稼ぎも重要だ。今のままだとすぐに金が底をついてしまう。別にここでしてもあまり変わりはないだろうし、一応しといた方が良さそうだな。


「ああ、頼みます」


「それでは、ここにお名前とサインを」


 女性役員は慣れた手つきで箱から紙を出す。そこには冒険者に対する注意事項に、下には名前を書く欄があった。

 女性役員に渡されたペンで、その欄に「Erica」と書いた。書き終えた途端、文字が発光して、俺の目の前で浮かぶ。


「エリカ様ですね。これで冒険者登録は終了です。これからは、こちらのチョーカーを着けて行動してください」


「うっす」


 女性役員から、ユタさん達と一緒のチョーカーを貰う。首でも腕でも何処でも着けていいの言われたので、俺は右手首に着けることにした。

 クレマチス王国で買ってもらった黒い手袋の上にチョーカーを着ける。黒に黒が重なってしまったので少々見えにくいが、首にやるよりもいいだろう。

 この手袋は、旅立つ日の昼頃に買ってもらったものだ。詫びということで色々なものを買ってもらえたので、その流れでこの手袋も買ったのである。これで日が当たっても痛むことは無い。

 しっかりと俺がチョーカーを着けるところを見ていた女性役員は、ニッコリと笑った。


「ありがとうございます。では冒険者になったエリカ様に、少し説明をさせていただきます。エリカ様から見て左の方に、クエストボードというものがあります」


 先ほど、冒険者達が群がっていたところのことだ。ちなみに今は人が減って、斑な数になっている。


「あちらはこのアリッサム村周辺のクエスト……簡単に言えば、依頼書を貼り出しています。報酬を記載してくれれば、誰でもクエストを発注出来ます。ちなみに、クエストを発注の際、それが洞窟などの探索地ならば、探索レベルというものを記載させていただきます」


「探索レベル?」


「ええ。新米冒険者が、いきなり高難易度の探索地へ行くのは無謀にも程があります。だからそれを無くすために、敢えてレベルという形で記載されています。星一つなら新人冒険者レベル。星十なら高難易度・熟練冒険者向けとなっております」


「へぇ、凄いんすね。どうやって探索レベルとか分かってるんすか?」


 そう俺が聞くと、女性役員は「ふふっ」と軽く笑って、指を口元に置き、


「さぁ、何だと思います?」


 と、悪戯そうに言った。

 あ、この人絶対教えてくんねえなと絶対に思った。そこは企業秘密というのか。このまま検索しても良いことはなさそうなので、言及するのは止める。


「クエストを受注したい時はこちらのカウンターまでお越しください。係員が直ぐに受注のサインをさせていただきます。あと、ここからはクエストとは関係ないのですが、各地のギルド長によって、酒場が設置されている場合があります。ここのギルドは酒場を経営させていただいておりますので、気兼ねなくお尋ねください」


 「では最後に一言」と、女性役員は改まって続けてきた。


「私達は、冒険者や魔導士様には全力でサポート致します。しかし、命の保証は致しません。あくまで私達はサポートという形で活動していますので、自分の命は自分でお守りください。それは魔導士様も同じですのでご安心を。ではーーー良い冒険者ライフを」





 女性役員の説明を受けて、俺は真っ先にクエストボードの前に立った。

 貼り出されている数々のクエスト。イラストもあれば、ないものもある。大きく金額が出されているので、高額クエストを狙うのもありだ。

 いきなり高額クエストを狙うのはなぁ……ここは程々の金額のやつにしよう。それに、今の自分の力量も知りたいし。

 クエストボードを隅々まで探し、その結果、俺に合ったクエストは一枚だけあった。


 『ドロップ洞窟に眠るモンスターを討伐してください 報酬50,000R 探索レベル★★』


 うん、星二つなら俺でも行けるレベルだろう。報酬も結構良さそうだし、これにしておこうか。後でドロップ洞窟というところを調べなければ。

 そのクエストを取ろうとしたと同時に、俺の手に俺よりも倍の大きな手が重なった。


「ん?」


「あ?」


 両者の視線が交わり、俺も相手も間抜けな声を出す。

 ツルツルハゲで防具を身につけている大柄な男は、俺を見てとてもわかりやすいイラつく顔をした。

 ……あれ、こいつ見たことがあるぞ。数分前に。確か、あの大樹で暴れていた酔っ払いだ。すっかり酔いが覚めているあいつは、動かない俺を見下し続ける。


「…………おいおい、これは俺がやるクエストだ。その手を退けろ」


 威圧的にそう言うが、こちらも離すわけにはいかない。これしか合っているクエストがないのだ。他のクエストは俺が一人で、しかも力量をゆっくり測れるクエストなのかわからないのだ。


「嫌だね」


 ハッキリとそう告げた途端、あいつの拳が飛んできた。

 瞬時に後ろに下がることで当たることはなかったが、代わりに床に穴が空いてしまった。

 あいつは荒い息を吐き出して、ギラリと赤い閃光が漏れだしそうな猛獣のような目つきで俺を睨みつける。余程あの騒動で苛つきが募っているのだろう。


「おいガキィ……いいから俺に差し出せって言ってんだよォ!!」


 あいつが吠えた時、周りで酒を飲んでいた奴がワァッ!と騒ぎ出した。「いいぞ!」とか「やったれ!」と、まるで闘技場のようなアウェー感に襲われた俺は、汗は出ていないのに何故か冷や汗が出るような感覚に見舞われる。

 一人の男があいつに言った。


「おい!あいつ今日なった新米だ。格の違いを見せてやれェ!ハッハ!」


 酔いしれている女が言った。


「ほらぁもっと酒を寄越しな!こんな余興久しぶりで昂っちゃうんだよォ!」


 男が、女が、クソ野郎共が騒ぎ出す。


「殺れ!」


「暴れろ!」


「ぶっ潰せぇ!」


 そいつらが酒に溺れているのかは定かではない。

 だが、これだけはわかる。これは、俺だけじゃない。恐らく殆どの奴らが感じる感情だ。


 非常にーーーーあいつより、苛つく。




「俺はァッ!噂のモンスターをぶっ殺して一攫千金を狙うんだよォオオオオオオオオ!!」


 欲望に塗れた男の手のひらから、バチバチと瞬く雷が三つ生まれる。

 それは徐々に膨れ上がり、ついにはそれは一つの球体となった。


「【震え雷よ!俺に!三度の戦慄の力を!】オラァ!」


 詠唱を唱え創り出された三つの雷は、俺に向かって放たれる。木製の床が徐々に剥がれ、この建物を支えるハリボテが剥き出しとなりながら、俺の体に襲いかかってくる。

 俺はその一つの雷を顔面スレスレで避けた。フードの端が少しだけ、焦げていく。そして二つ目は足に向かってきたので、一つ目を避けた反動で自然と避けていく。的がなくなった三つ目、そして避けられた二つの雷は、バチリ!と火花をあげながら壁に激突して散っていった。

 クエストボードをも巻き込む攻撃。クエストの紙が焼け焦げていないのが奇跡なのかわからないが、無事なら無事で良しとしよう。


「ぬううううううううッ!!」


 雷の攻撃が止んだのも束の間、あいつはいつの間にか持っていた斧で、俺へ向かって振り下ろす。

 あれを受け止めることは出来ない。俺はまた横にズレることでスレスレで避け、あいつの足にかける。


「おっ!?」


 少しだけの揺らぎを感じさせ、俺は一気に勝負に出た。

 自身の足をこいつの足に引っ掛け、倒れさせる。斧を持っていても関係なく後ろへ倒れたこいつは、ぐえっと呻き声を発した。その衝動で斧も落ち、今のこいつは丸腰となる。

 起き上がらせる隙を与えさせるわけもなく、俺は腰に装備していたあの緋色の白光宝珠(マゼンタストーン)の短剣を、こいつの首に突きつけた。

 何が起こったのかわからない様子で焦点が合わさっていないこいつに、よく見えるように短剣を見せびらかす。短剣の存在に気づいたこいつは、直ぐに目は恐怖に染まった。

 魔法で発動させても、ここまでいけば俺の短剣がこいつの首に突き刺さる。そういうことはしたくないが、そうなってしまう運命なら仕方がない。

 ーーー俺の勝ちだ。

 惨めに、無様に慄くこいつにそう囁く。何も出来ないと悟ったのか、こいつはブンブンと頷いた。

 決着は着いた。それが分かった途端、周りにいたやつがまた騒ぎ出す。


「すげぇ!新米が勝っちまった!」


「残念だったなぁお前!」


「キャハ、泣いてるわよあいつ!」


 またアウェー感に襲われる。今度は俺だけではなく、こいつも感じているはずだ。

 ポロポロと、こいつは涙を流す。馬乗りのままなのは失礼きまわりないと思うが、俺は暫く動けず、周りのヤツらの拍手に包まれた。


「おめでとうございます。そちらのクエストは、エリカ様となります。今すぐ受注するというのなら、お申し付けします」


 俺に説明してくれた女性役員が、まるで日常茶飯事でも言いそうな、この騒動に何も感じていない声で俺に声をかける。

 その間も、他の役員が床の修復をしたり、あいつに修理代を要求する姿が見えた。気づけば俺は立ち上がっており、あのクエストを握っていた。

 また再開される、冒険者兼魔導士の宴。あの騒動は本当にただの余興だったらしい。


「………………何でかなぁ」


 先程まで苛ついていた心は、既に冷めきっていた。それよりも、何故かこの空間が俺を受け入れたがっていた(・・・・・・・・・・)

 だからなのだろうか、先程から何とも思わないのは。これが当たり前だと思っているのは。


『ーーーーーーそうだ、後悔しやがれ』



 何故か前世の俺の声が、俺の脳内で木霊した。



こうしてエリカちゃんの前世のこともわかっていく展開が凄い好きです。弟のこともこの調子でわかっていきたいですね。

さて、遅くなりましたがあけましておめでとうございます。今年もこの天運のCrocusをよろしくお願いします。いつも読んでくださっている読者様がいるからこそ、私は頑張れます。

感想評価、お待ちしています。では次回に。

次回はミソラ、ハルハsideです。

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