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天運のCrocus  作者: 沢渡 夜深
第二章 -サネカズラ-
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アリッサム村ー2ー


姉は桃色の大樹に背中を預ける。








 桃色の大樹の側まで行くと、そこには何人もの人達が花見などをしていた。こんな時間帯なのにご苦労なこった。

 酒をワイワイと飲み比べしている男達を尻目に、俺は桃色の大樹の元まで歩き、触る。

 フワリ、と力が注がれるような感覚がした。もう一度触ってみると、またその感覚がしてくる。この桃色の大樹には、微かな魔力があるのか?いや、それどころか植物にまで魔力があることに驚いた。

 ……まぁ、キキョウさんみたいな植物を操る人がいるから、魔力があるのも当然か……?


「ひぃっぐ。なぁてめぇらぁあ!ちゅうもおおおおおおおっく!!」


 すぐ傍で酒の飲み比べをしていた男が、突然大声を上げて皆の注目を集めてきた。

 当然、花見やここを通りかかった人達は全員男の方を向く。俺も気になったので、桃色の大樹を背に男の話を聞く体制になった。


「てめぇらぁ知ってるかぁ!?ひっく、北西の洞窟の奥底に眠ってる、まだ誰にも取られたことのない秘宝をよぉ!!」


「ん?あれまだ誰も取れてないのか?」


 団子を食っていた男がそう指摘する。

 デレデレに酔って顔が真っ赤になっている男は、酒が入ったグラスを振りながら「そぉだぁ!」とまた大声を上げた。


「何でもあの洞窟には、宝を守ってる恐ろしいモンスターがいるらしいんだよぉ」


「それって噂のモンスターか?確か……触れたら溶けるっていうやつ」


「そんで全長が五メートルだっけか?」


「いや、もっとあったって聞いたぞ」


「触れたら溶けて毒を受けるって」


 ザワザワとその噂のモンスターの特徴を出来る限り喋る。

 俺はその内容をキッチリ頭の中に入れ込み、少しだけそいつの想像図を脳内で描いた。

 ……全長が五メートル以上って、でかくないか?しかも触れたら溶けて毒を受けるって、絶体絶命のピンチだろ。そんな奴が宝を守ってたら絶対勝ち目ないだろ……。しかもそんな奴らを何人も相手をしているというのが驚きだ。俺だったら即逃げて何事も無かったかのようにする。

 酔っている男はまだ何か言うらしい。


「でだぁ!俺はぁ!その洞窟の宝を取りに行くぅ!!」


「「「「!?!?」」」」


 突然のカミングアウトに一同が騒然とするも、男はまだ火照った顔をベロベロにさせて続ける。


「へっへぇ。一番最初に、ひっぐ、宝を取れたらすっげぇことだろー!?まだ見ぬお宝ちゃんとも巡り会えるし、もしかしたらかわい子ちゃんが寄ってくるかもしんねぇしぃよぉぉぉ!!」


「お、おい。やめとけよ。本当にあそこはマジでやばいんだぜ?」


「ギルドの冒険者も太刀打ち出来なかったって話だろ?魔法は使えるお前でも無理だって……」


 皆その男を止めようとしているが、当の本人は聞く耳を持たない。

 それどころか、そのグラスのジョッキを地面に叩きつけて怒声を響き渡らせた。


「うるせぇよ!俺は偉大なる魔導士様だぁ!魔法があればそんなやつなんてけちょんけちょんに出来るんだよぉ!」


「で、でも、冒険者でも太刀打ち出来なかったんだぞ!?ただの旅人の、しかも短文詠唱しか持ってねぇお前じゃ」


「うるせぇ!ぶっ殺すぞオラァ!せっかくの酒が台無しになるじゃねぇか!おお!?」


 男は止めようとしていた青年の胸倉を掴む。青年はもがき苦しむ。男の一方的な暴動を止めようと、花見をしていた男達は一斉に男の手を掴み、青年と男を引き離そうとする。

 ……これが、魔導士の成れの果てということか。魔法に落ちぶれて自分を強者だと言い聞かせる甘いヤツに、俺はなりたくない。そもそも魔法なんて俺にあるかもわからないけど。

 あの時の詠唱無しの魔法は、暫く試しても出なかった。何かを念じても、少し詠唱っぽく言っても何も出てこなかった。本当にあの魔法は何だったのだろう。眩い光ーーーまるで太陽のような輝きを放った、あの不思議な魔法は。

 今も背中から注がれている微かな優しい魔力に温まりながら、そろそろ暴動が治まった現場を見据える。


「……チッ!てめぇらが止めても俺は行くからなぁ!この腰抜け共が!」


 最後に男は暴言を吐き捨て、溢れたジョッキを蹴りながら去っていった。

 男が去った後、皆は口々に「何だよ、心配してやったのに」とか「勝手に死んじまえ」とか、好き勝手言い始めた。

 俺は別にそんなことを言うことはないが、密かに哀れだとは思っている。どうせ泣いて帰ってくるに違いないであろう。それか死体となって洞窟の一部となるかだ。

 ま、他人のことなんざ俺には関係ない。あいつはあいつなりの人生を歩んだ。それだけで俺が口出しする権利はないさ。

 ……どうせ止めても、行くんだからさ。止めるだけで無駄だよ、あんな奴。


「……さぁて、そろそろギルドに行くか。ユタさん達もいるんかな?」


 桃色の大樹から離れた俺は、散らかっている芝生を踏み越えこの場を去る。

 騒ぎを聞きつけた野次馬の中を掻い潜るのに苦戦しながらも、俺はギルドがありそうな場所を歩き始めた。

 ……武器屋や防具屋は、後で見に行くか。





この題名の手抜き感。はい、すみません。

これにてエリカsideは一時休憩し、次はミソラ、ハルハsideに移ります。

魅了の力を少し知った彼らはどうするのか、お待ちしていてくださいませ。



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