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天運のCrocus  作者: 沢渡 夜深
第二章 -サネカズラ-
24/35

魅了の特性



純心と魅了は、姉を追い続ける。







 バサバサと汚れが目立つ白いローブをはためかせ、岩陰から双眼鏡で辺りを見渡す。

 もうそろそろ朝日が昇り始める頃、モンスターも徐々に動き出したこの広大な大地で、ミソラとハルハは一時の休息を取っていた。

 あれから勢いに任せて王国を出ていってしまったが、馬車が肝心の何処に向かったのかがわからず、今この場で足止めをくらっていた。

 運良く持っていた地図で取り敢えず現在地は確認できたが、どこに行くのか、何処で一度止まるのか、それはハルハすらも把握していないことであったのだ。

 ウトウトと舟を漕いでいるハルハを一瞥し、ミソラは双眼鏡を仕舞って息を吐く。


「……」


 ミソラは静かに地図を開き出した。

 今いる現在地ももう一度確認し、そこから一番近いところを探す。

 指で拡大し、適当にスライドしていく。周りは森や草原に囲まれていて早くは見つけられなかったが、左斜めの方に村ほどの規模のある所を見つけた。

 それを拡大し、タップする。すると『ニワナズナ村』と殴り書きしたかのような文字が浮き出てきた。


「ニワナズナ村……一先ずは、ここが目的地でいいか」


 ここで焦っていては、いざという時に動けない。とにかく目的地を立てて、迅速に行動しなければ。

 地図を仕舞い、朝日が完全に昇った事を確認したミソラは隣で熟睡しているハルハの肩を揺すり始めた。


「おい、おい」


「んー……」


「起きてください、朝ですよ。そろそろ動かなければ、モンスターとの戦闘が多くなります」


「うー……」


 目を何回も擦り起きたハルハは、辺りを見渡した後大きな欠伸をした。

 クレマチス王国から旅を始めたハルハは、まだ旅という危険性をあまり理解していない。

 それもそうであろう。ずっと王国にいたハルハは、王国の外に出た経験などないのだから。だからこんなにものんびりと眠っていられるのであろう。

 寝惚けた眼でハルハはミソラを見ると、ニッコリと微笑む。


「おはようございます、ミソラ様……」


「おはようございます。早速ですが悠長にここで時間を食っている暇はありません。直ぐに動きますよ」


「えっ、もう行くんですか?」


「当たり前です。そうこうしているうちに、エリカさんがどんどん離れていきますからね」


 ハルハの驚きに、ミソラは淡々と直ぐ様返す。

 手軽な荷物を背負い歩き出したミソラを、ハルハはゲッソリとした表情で後を追うのだった。


 彼らの目的は、自分達に遠慮して一人で旅立った少女「エリカ」に追いつくことだ。それを考えれば、エリカがいつ何処の村に着いたのか、いつ村を出たのか正確にはわからない。なので、早めに着いてすれ違いになるのを阻止しなければならない。

 あそこで馬車を待っていても、最低でも二日は待つことになってしまう。それだけは避けたいため、彼らは馬車を待たずにそのまま国を出たのだ。……何も考えていなかったため、この状態になってしまったが。

 ミソラはフードを被り、地図を取り出して後ろから付いてきているハルハへ見せた。


「ここから北東のところに、ニワナズナ村というところがあります。一先ず、そこへ向かうことにしました。異論はありませんね?」


「はい、ありません」


「……そろそろ眠気を覚ました方がいいと思いますよ。その状態のままだと、モンスターに簡単に食べられます」


「朝は弱い方なんです……」


 まだふらつきが見えるハルハに、ミソラは溜め息を吐いた。

 正直不安だ。彼とこれからやっていくのは。貴族だし、無関心だし、しかも戦ったこともないし。

 今までお坊っちゃんとして扱われていたハルハにとって、初めてのモンスターとの戦闘は相当キツイはずだ。それをリカバリーする為に、ミソラは動かなければならない。

 一応護身用として短剣を渡しているが、いずれ限界がくる。早く村について、エリカに会わなければ。そして自分の想いを伝えなければ。

 メラメラと想いに燃えているミソラと眠そうなハルハの前に、一体のモンスターがこちらに向かってきた。

 ゴーレムのような銅の体を持ち、黒の金棒を振り回すモンスターは、二人を標的として目をつける。


「来ますか……」


「うぇ?」


 直ぐ様短剣を構えたミソラに対し、ハルハは素っ頓狂な声を上げただけで、後は棒立ちだった。

 その隙を、モンスターは見逃さない。

 モンスターが金棒を振り上げて突進してくる。砂埃をあげ、地中にくっきりと重々しい足跡を残しながら、モンスターは雄叫びを上げた。


「ッ戦闘態勢に入ってください!」


「ふぇ、は、ふぁ!?」


 モンスターの地響きによって完全に目を覚ましたハルハだが、そのモンスターの風貌に怯え、ミソラの声にも気づかない。

 ミソラは舌打ちし、ハルハの前に立った。このくらいの、しかも一体だけのモンスターなら、自分でも殺れる。そう確信していたための行動であった。

 短剣を持ちかえ、振りかぶろうとする相手の懐に入ろうと突っ込もうとした時。


「く、来るなああああああああ!!」


 ハルハが、恐怖のあまり叫んだ。

 次の瞬間、目を疑う光景が作り出された。


『……ブ、ギュ!?』


 突然モンスターは足を止める。勢いは地面へと吸い込まれていき、やがて砂埃が立ち込め、ミソラも覆っていく。

 ミソラも勢いは殺せず、モンスターと同様地面を擦り減らして攻撃を止めた。


『ギュ、ギュゴ……!?』


 モンスターはハルハを見た瞬間、鼻をつまむ。

 何かに苦しみ、悶えながら後ろに後退するモンスターに、ミソラは攻撃も何も出来ず、呆然と行方を見守っていた。


『ギュガアアアアアアアアッッ!?』


 やがてモンスターは悲鳴かもわからない奇声を上げて、彼らに背中を向けて走り去った。

 静寂となった大地で、ただ呆然と情けないモンスターの背中を見ていたミソラは、直ぐ様脳内で今起こったことをまとめる。

 ガチャガチャと何かが組み合わせて構成されていく。そして、やっとのことで全てを理解した瞬間、ミソラはハルハの方をグリン!と勢いよく振り向いた。

 ハルハは顔を腕で守りながら、密かに涙を浮かべてこう呟く。


「えっ、と……何が、起きたんだ?」


 それはこっちが聞きたい。








「……先程のモンスターは、何故か鼻をつまんで逃げていきました。だとすると、何かの臭いにやられたのかもしれません」


 ミソラは先程のモンスターの状態を思い出す。

 鼻をつまんで奇声を上げたモンスター。そこに、何故モンスターが突然逃げたのか、その理由が隠されているはずである。


(鼻をつまむ……何かの臭いにやられたと断定してもいいだろう。だが何の臭いだ?僕達にはそんな臭いはなかった。一体モンスターは何に苦しみ、逃げていった?モンスターにしかわからない臭いなのか?)


 ーーーモンスターにしか、わからない臭い。

 ーーーモンスターにとっては毒の臭い。


「…………臭い……匂い……フェロモン……」


 その単語が出た時、ハッとミソラはある考えを結びつける。

 もしこの考えが合っているとすれば、もしこの考えでモンスターが去っていったのだとしたら。

 ミソラはピンを付け直しているハルハの肩を掴んだ。


「ハルハ!」


「!?」


 突然名前を呼ばれたハルハは挙動不審となるも、しっかりとミソラの言葉に耳を傾ける。

 ミソラは確信した面立ちで、ハルハにこう言った。


「一回、モンスターの群れへ突っ込んでみてはくれませんか!?」


「何言ってんだあんた!?」


 すかさずハルハの怒声がミソラへと降り掛かった。

 だがここで引くわけにもいかず、ミソラはハルハの背中を押してモンスターへ近づけようとする。


「お願いです!ちょっと確かめたいことがあって!!」


「無理無理無理無理!!いきなりモンスターの所へ死ににいけって言われて誰が行くんだよ!?」


「大丈夫です、危なくなったら短剣で応戦してください!」


「あんたが助けに来ないのかよ!?」


「いいから……ッ!行ってこいやゴラァ!!」


「ふぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」


 二人で押し合い圧し合いした末、とうとう痺れを切らしたミソラがハルハをモンスターの所へ押しやった。

 その勢いを殺せなかったハルハは、モンスターのすぐ傍へとはいかないが、殆どモンスターの傍と言ってもいい程の距離にいる。

 それもそうだ。何故なら二人の言い合いが思いの外声量がでかく、モンスターの耳にも届いてしまったのだ。その為、モンスターは必然的にミソラ達の元へ歩み寄ってくる。それは今も同じで、モンスターはハルハを今にも喰い散らかしてしまうような眼光で見下ろしていた。


「……ぁ、ぅ」


 機械のように顔を上へ上げたハルハは、恐怖のあまり何も言葉が出ない。

 モンスターはその剛腕をハルハへと振り落とすために、勢いをつけるために後ろへ腕を引く。

 あ、これ死ぬ。

 ハルハが死の間際に、直感的に悟ったこの言葉が引き金となったのか、直後。


「ーーーーうわああああああああああああああああッ!!嫌だ、死にたくない!!お願いだからッ!!【来ないでええええええええええええええええええッッ!?】」


 ハルハは恐怖のあまり、馬鹿正直に悲鳴を上げ始めた。だがそれは当然のことだ。いきなりモンスターのところへ行けと言われて断ったのに、無理矢理放り込まれた挙句モンスターに殺されようとしているこの状況に、恐怖がないなんてことは有り得ない。

 最後の悪あがき。そしてあの人を恨む。たとえ美しい人でも、恨むものは恨む。

 ミソラへの恨みが募る中、ずっと叫んでいて喉が痛くなったその時、いつまでたっても物理的な痛みが襲わないことに気づく。

 恐る恐る目を開け、モンスターの動向を見た時だった。


「…………あれ?」


 ハルハは唖然とした声を零す。

 目の前に何もない(・・・・)光景に、開いた口が塞がらない。

 体を起こして、辺りを見渡すも、先程のモンスターの面影は何処にもない。地面には一頭身くらいの足跡が残っている。恐らくモンスターの足跡だとは思うが、ハルハを襲おうとしていたモンスターとは断定しにくかった。


「モンスターなら逃げていきましたよ」


 背後からミソラの声がし、ハルハは振り返る。

 ミソラは冷や汗をかいて、その艶やかな金髪をぐしゃりと掻いた。

 まだ何が起こったのか理解していないハルハに、ミソラは呆れて告げる。


「これは、あなたの魔法【魅了(チャーム)】のせいですよ」


「………………ふぁっ!?」


 ミソラの見解に、ハルハは思わず声を張り上げてミソラの肩を思いっきり掴んだ。





あれ、モンスターに最強なのって魅了?(殴)

今回はミソラ、ハルハsideの物語。魅了は強敵だったね……。


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