馬車で出会ったパーティ
姉は、あるパーティと出会う。
『ーーー!ーーーーーーーー!!』
『ああ?聞こえねえよ』
何かを喋っているであろうクズ野郎の腕を、俺はゴキリと折る。
クズ野郎は絶叫し、折れた腕を強く押さえ始める。だがそれは次第に力をなくし、ついには微動だにもしなくなった。
『終わったぜ。ーーー』
背後にいる唯一無二の家族の方へ、振り返る。
弟はこちらを怯えきった目で見ていた。それもそうだろう。先程まであれに苛められていたのだ。怯えるのは仕方がない。
『ーーー、兄さん』
『あ?』
遠くで、何を言っているのか聞こえない。
弟がこちらを懇願の瞳で見ている。それは誰に?そんなのーーーここにしかいない俺に決まっているであろう。
弟はまだ、こちらに何かを言っている。
必死に俺が手を伸ばしても、弟はこちらに手を伸ばしてこない。
落ちる。
下からくる圧迫感に潰されそうになり、俺は軽い浮遊感を感じながら、奈落の底へと落ちていった。
『ーーーーーー!兄さん!!』
第二章 -サネカズラ-
目を開けたら、反射した自分の顔が見えた。そこから何もない草むらが広がり、所々小さな花が咲いている。まだ暗闇の中、馬車に取り付けられているランプが密かに辺りを灯していたということもあっての判断だった。
遠くにはモンスターがこちらの様子を伺っていて、近づいてくる様子はない。
周りもどんどん騒がしくなっているから、俺は起きたのだろうか……ああ、そういえば、ここは馬車の中だったな。
クレマチス王国での騒動から、俺は一人で旅に出ることに決めた。弟の名前を探すために、あいつを巻き込みたくなかった。これは俺だけの問題なんだ。無関係のあいつを巻き込みたくない。
とりあえず、さっきから馬車の振動で頭がゴツゴツ当たって痛いので、顔を上げる。虚ろな目を擦り、徐々に視界をクリアにさせる。
馬車の中で騒いでいる集団は、背中に剣や弓などを背負っている、何処かの冒険者のような風貌の集団だった。数は四人。色々と格好が危ないと思うが、周りが何も思わないとなると、あれでも普通の格好なのだろう。
「ふぅ……」
成り行きでこの馬車に乗ってしまったが、次の目的地がわからない。この馬車は、何処に向かっているのだろうか。
正直何処でもいいのだが、せめて目的地は知りたい。何処か地図は貼られていないのか、と辺りを見渡してみたが、そのようなものが見当たらなかった。解せぬ。
うぬ……さすがにこのまま行くのはなぁ……非常時に困ってしまうし、せめて道が分かればいいのだが……。
「んー……」
「何に悩んでるの?」
「道を知りたくて地図が……」
「あ、私持ってるよ」
「まじか、サンキュー」
何かの円状のものを渡された俺は、その円状から出た地図らしきものに驚きながらも、その地図を見る。
うん、わからん。
まず今どこなのかもわからないし、何処を走っているのかもわからない。というか見方がわからん。これも魔法なのか?いや、これは一種に言うソリッドビジョンみたいなものだろう。
「もしかして、今いるところがわからない?」
「ぐっ……」
「今いるところはねー……ここだよ!」
親切な方に今いる場所を教えていただき、俺はそこから近い場所を探した。すると、少し先にここから近いところがあるのがわかる。規模を見るに、村だろうか。
「最終的にはそこに着く予定なの。名前はアリッサム村って言って、中心に桜色の大樹が象徴の村なんだよ!しかもその村の果実がとても美味しくてね!しかもその村から取れる鉱石はとても素材が良いって言われてるの!」
「へー……結構良いところなんだな」
「そりゃもちろん!それに、ギルドもあるしね!」
「……ギルド?」
何だそれは、初めて聞いたぞおい。
「あれ、ギルド知らないの?本とかに載ってると思ってたけど……」
「初めて聞いたぞ……」
「じゃあ説明してあげよう!」
親切な人は地図を弄りだし、ある建物の模型を映した。
素材は木製の二階建てで、何かの文字が飾られている……あ、ちょっと待って、これなんて読むんだ。全然わからん。
「ギルドは私達冒険者のために作られた施設なの。クエストを発注出来る場所で、冒険者はギルドでお金を稼いでいるのよ。他にも、他のパーティの人との交流も合ったり、そこで飲むことも出来る、酒場もあるの。あと、ギルドは換金所もあるから、とった鉱石は全部ギルドで済ませられてお得なのよ!」
「へー……なかなか興味深いなぁ」
「でしょ!?見たところあなたは冒険者じゃないわね。旅人?」
親切な方が、俺の首元に注目して聞いてくる。
「まぁ……そうなるな」
「へー!こんな可愛い子が一人で旅を……へー!」
「褒められてるのかそれ」
……そういえば、誰だこいつ。なんか話が弾んでしまったが、俺はこの人の名前を知らないし、それに初対面だ。思わず親切な方と表記してしまったが、まぁ本当に親切な方なのでいいか。
親切な方はパッと気づいたかのように、金髪のポニーテールを揺らして、その防具に挟まれた巨乳をこちらに寄せ付けた。
「自己紹介がまだだったわね、私はユタ!あそこにいる奴らとパーティを組んでるの!」
「あそこの奴らってなんだ!口が悪いぞ!」
「あ、ごめん」
遠くの席に座っている三人の男女のうちの一人の男が、そう怒鳴り上げた。
ユタさんは軽く流しながら、さり気なく俺の隣に座る。まだ地図は俺が持っているので、それを返すまでここにいるという意思表示なのだろうか。
「で、まだ質問ある?今ならお姉さん何でも答えちゃうわよ!」
「えーと……冒険者と、旅人の違いって?」
「ああ!冒険者は自分から志願してやるものなのよ。ギルドに何も申請しなかったら、その人が冒険者だと思ってもその人は旅人なのよ」
「でも、そんなのわかるわけが……」
「ふふん、これを見て」
ユタさんは首元につけているチョーカーらしきものを俺に見せてくる。そのチョーカーの中心には、何か金色のバッジみたいなのが付けられていた。
「これが冒険者だという証。申請すると、冒険者はこれを必ず身につけなくちゃならないの」
「……あ、だから俺の首元を見てたのか」
「そうそう!それで冒険者と旅人の区別がつくからね。案外便利なのよ?」
ほー。だがそれを無くしてしまったら冒険者として認識されなくなり、クエストも受けられなくなるという感じか……それはそれで辛いな。
もう質問はいいかな。大方知れたし、このアリッサム村に着いたらどうしようか考えよう。村を歩きながらでも、弟の手掛かりは少なからず掴める……はずだ。
俺はユタさんから貸してもらった地図をそのままユタさんに返す。べ、別に戻し方がわからなかったわけじゃないんだからね。も、もしかしたらユタさんが使うかもしれないし?
「あざす。助かりましたっす」
「あら、礼はいいわよ。私、困ってる子を見るとつい話しかけちゃうから」
とか言いながらも受け取ってくれ、地図を戻す。
……よく見ればユタさんの装備って、完全に女に喧嘩売る装備だよな。あれ、巨乳って言っていいんだよな。それを女共に見せつけられたら……想像するだけでゾッとした。
それに下半身の装備も足が大きく露出されており、黒いブルマが丸わかりである。こういう装備をゲームとかで見たことあるが、実際見ると色々な意味で破壊力がやばい。男が見たら本末転倒程であろう。……まぁ、この人のスタイルがいいってこともあるだろうが。
「……あらぁ、何処を見てるのかしらぁ?」
俺の視線に気がついたユタさんは、今から悪戯をしそうな笑顔に代わり、その巨乳を俺に押し付ける。
あ、この人からかうタイプだ。真っ先にそう予想できた。
「……別に。なかなか喧嘩を売る装備だなぁと」
「あらぁ?冒険者にとって、これは普通なのよ?動きやすいし耐久もいいし、別に喧嘩を売ってるわけじゃないんだけどねぇ?」
「……あんた、性格悪いって言われるでしょ」
「ナンノコトダカサッパリダワー」
こ、こいつ……!俺じゃなかったら確実に喧嘩騒動だったぞ。もっと言葉を慎めよ……。
ガタガタと馬車が揺れる中で、謎の雰囲気に包まれている時、ある人影が俺の顔を覆った。
「あいて」
「ごら、何やってんだよ」
その人影はユタさんを軽く叩く。
緑色のメイルによって包まれたその体は、良く鍛えられていると分かるほどに筋肉が浮き出ている。あ、六つ腹筋あるじゃねーか。
よく見れば、ユタさんも腕に力が入るとこぶしが浮き出ている。やはり冒険者、体を鍛えなければ何も始まらないんだな。
メイル男はユタさんを叩いた後、こちらを向いて、謝罪を述べてきた。
「すまない、俺の名前はアルストロ。このパーティのリーダーだ。この度はユタが多大なる迷惑を……」
「ちょっとー。私何もしてないんだけどー」
「挑発してた奴が何を言うか」
「いや、別に気にしてないっすよ」
土下座をかましてしまいそうな勢いで誤ってくるアルストロさんを、俺は宥める。
軽口でアルストロさんを煽っていたユタさんはまた殴られ、その首根っこを掴んだ。
「じゃ、俺達は元の席につくんで……」
「え、ちょ、わ、私まだあの子と一緒にいたーい!!また会ったらよろしくねー!」
対して席も離れていないのに、まるで永遠の別れかのようにユタさんが俺にそう叫ぶ。
だがまた会うことになりそうだ。俺はこの先に着くアリッサム村で一度降りる予定である。そこで探索をした後、何もなければ直ぐにその村を出るであろう。
ーーー何をなければ、だが。
少し胸騒ぎがした俺は、それを紛らわせるために外を眺めた。未だに暗闇の中、俺はモンスターが横になっている姿を目撃する。
モンスターは夜は活発的に活動しないらしい。熊でいう冬眠のような状態になり、夜は人間のようにぐっすりと眠るようだ。
だが例外に夜に活発的になるモンスターもいるので、どちらにしても油断はできない。……そういえば、この馬車は何かモンスターを寄せ付けないものでもやっているのだろうか。安全を考慮するためにこの時間に走らせているとは聞いていたが、何もなしにこのまま走らせるわけにはいかないであろう。
「……ふぁ」
考え過ぎると、小さな欠伸が出る。まだ寝足りないのだろう。今回はまた眠った方が良さそうだ。
ゴツゴツと鳴る馬車の窓に頭を預け、目を閉じる。岩と岩がぶつかり合う音を聴きながら、俺はまた暗闇の渦にへと飛び込んだ。
ーーーこぷ。
ーーーごふっ。
ーーークヒャッ。
何かの雑音も、渦に巻き込まれながら。
第二章『サネカズラ』始まりました。今回もこの作品を閲覧していただき、ありがとうございます。
第二章はエリカ、そしてミソラとハルハの視点を主に書いていきます。今回はエリカ視点の物語なので、次回はミソラ、ハルハ視点の物語になる予定です。そちらも楽しみにしていただければ幸いです。
ではまた次回、感想評価、お待ちしています。