純心の憤怒
純心は頭が真っ白になる。
※2016/12/2 終わり方が微妙だったので最後の方を追加致しました。
■
ムクリ、と青年は体を起こした。
眠たそうな目を擦り、ボサボサの髪を少しだけ整える。
「…………………うるさいな」
彼は上の階から聞こえる騒音によって目を覚ました。
最初はそんなに気にはしていなかったが、その後小さな音がどんどん続き、さっきそれよりも大きな音によって、彼は目を覚ました。
「……今日は一段とうるさい……」
またあの人の実験かと思ったが、今回は度が違いすぎる。
「……ちょっと文句言いに行くか」
目を細めて、彼は布団を乱したまま立ち上がる。
青年はポリポリと髪を掻いて、扉の方へ歩き出した。
■
謎の女性を撃破したミソラは、次の扉ーーーー恐らく、この国の王の広間へと入る。
「…………なんだ、これ」
その広間へ入った途端、ミソラはその美しさに目を奪われる。
広間には、広間全てを覆い尽くす巨大な光の蕾が実っており、それらを護るかのように光の棘が覆っている。
迂闊に踏み出せば、浅い傷であれ危険であろうその広間は、どんな光も必要とせずに輝いていた。
「一体、この部屋で何が……」
棘を慎重に避けるミソラは、まずは巨大な光の花を目指すことにする。
ここからでは茎にしか近づくことは出来ないが、何か収穫があれば別にそれでもよかった。
「よっ……と……」
何十にも絡まっている棘を、何とか避ける。
先程の戦闘の傷もあってか、ここに来る前よりも動きは格段に鈍っていた。
「ッ……!」
少し動きをミスるだけで、小さなかすり傷を作る。
出来ればこれ以上傷を作りたくなかったが、ミソラの本能が言っていた。
ここに、彼女が、エリカがいると。そう脳が、彼の勘が言っている。
「ふぅッ……!着い、た」
少しだけ傷を作ってしまったが、光の花の真下に着いたことによりその痛みは吹っ飛ぶ。
真下に来たら、その輝きは比べ物にならなかった。直視したら一発で目がイカれてしまう程に眩しかった。
「ッエリカさん!エリカさん!?」
しかしミソラはそれに臆さず、恐らく中にいるであろうエリカに必死で呼びかけ始めた。
この茎にも小さな棘があるが、彼は構わず叫び、その茎を叩く。
掌はどんどん赤く染まり、茎も赤黒く染まっていく。
「エリカさん!返事して、エリカさん!!」
返事は、ない。
ミソラの声が届いているのかもわからない。
そもそも、この中にエリカがいるのかという証拠もなかった。
ミソラの心中が、不安と焦りで満たされていく。
体力も僅か。血もどんどん流れ、頭がボーッとなる。
そんなミソラに、コツリ、コツリと足音が迫ってきた。
バッ!と緊迫した表情でその足音ーーーーバルコニーに目を向けたミソラの頬に、ツーッと汗が滴り落ちる。
「おやおや。今度は小汚いネズミが来たよ」
その足音を立てバルコニーに姿を現したのは、アシンメトリーの金髪をした小太りの男だった。
男はミソラを見て、明らかに嫌そうな顔を浮かべる。
「おい、そこのドブネズミ。私の美しい華に触れるんじゃない」
「……あなたが、この国の王ですか?」
ミソラはフルフルと肩を震わせ、そう問いた。
対して男は余裕綽々に名乗る。
「いかにも。私がクレマチス王国現王、キュラスだ。で、何用でここへ来た?つまらぬ理由だったら先程来た子猫ちゃんと一緒にしてやろうと考えているのだが」
「……子猫ちゃん?」
キュラスの言葉に、ミソラは反応する。
ああ、とキュラスは今更思い出したかのように語り出した。
「貴様が来る前に真っ黒なフードを被った子猫ちゃんが来てな。しかしいきなり無礼を働いたものだから、仕方なく美しい光の中で消える名誉を与えてやったのだよ。そうだな、夜明けには完全に月花の一部となるのだから、あと二時間ちょいくらいだな。もうすぐ体が月花と同化し始めてるこーーーー」
キュラスが淡々と話していると、キュラスの後ろの壁がバゴォォンッ!と轟音を立てた。
後ろを振り返ってみると、キュラスが通ってきた入り口は粉々に砕け、大きな亀裂が入っている。
ツーッと、キュラスの額から汗が滴った。
「……離せ」
ドスが効いた声が、キュラスの鼓膜を浸透させた。
キュラスは、ゆっくりと体を向き直る。
今尚月花の真下にいる彼は、棒立ちではなく右手を突き出して突っ立っていた。
「……今すぐ、離せ」
また、囁かれる。
その脅しの声が、さらなる恐怖へと陥れる前兆を伝える、死神のような声だった。
ミソラは、ゆっくりと顔を上げた。
正気が感じられない白銀の瞳をキュラスに向けながら、血だらけの右手を握る。
一瞬の跳躍。
キュラスがそれを目で追った時には、もう遅かった。
「エリカさんをォッッ!!今すぐ離せえええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!!!」
その、怒号と共に。
キュラスはその衝撃波を、間近で受けることになった。
■
栗色頭の青年は部屋の扉を開け、真っ暗な廊下に出た。
ここからでも上からの騒音は響き、少しだけ頭を押さえる。
(実験なら静かにやってくれよな……)
今も尚、嬉々として実験に取り組んでいるでだろう家族に悪態をつき、彼は歩き始める。
レッドカーペットとは言え、さすがに裸足では少し肌寒くなる。何か履いてこればよかっただろうか?今ならまだ戻ることも出来るが……正直面倒臭い。
早く黙らせて、ゆっくりと寝たい。
それに隈なんてつくったら、自分の容姿に期待している女性達の気持ちを裏切ることになってしまう。
規則正しい生活を。
自分にも、今実験している家族にも向けて、彼は心の中で復唱し始めた。
■
ーーー何だ、こいつは。
キュラスはガチガチと鉄の鎖で攻撃を防ぎながら、静かに冷や汗を垂らした。
ーーーこいつは、一体。
それは恐怖なのか、焦りのか、それとも両方の感情なのか、今のキュラスには正確に判断出来ない。
しかし、視覚だけで見れば、今自分が抱いている感情は何となく理解出来る。
先程の弱々しい姿とは予想もつかない程に、彼は狂っていた。
ギラギラと獲物を狩る猛獣の眼光をキュラスに浴びせ、荒い息を繰り返す。
先程から浴びせられる衝撃波は、徐々に強くなっていくのをキュラスは感じていた。
「ううううううううううッッ!!」
いや、猛獣なんていう領域じゃない。
この唸り声は、正にあの生物にとても似ていた。
「ぐっ……!」
キュラスは鉄の鎖を思いっきり前へ押す。
その反動で、ミソラの体は少しだけ離れる。
キュラスはその間の時間を使って、バルコニーから飛び降り、床に纒わりつく棘を避けて着地する。
「逃がすかァ!!」
それを追って、ミソラが降りてくる。
バルコニーの手すりから勢いをつけて飛び上がり、手のひらに魔力を溜め始める。
「ッ!!」
「なっ……!?」
それを、キュラスがいる場所へ放つ。
何か嫌な予感を感じたキュラスは、そこから離れる為に飛び上がった。
そして数秒後にはーーーーキュラスがいた所には、大きな亀裂が存在していた。
(無詠唱……!?こいつ、何も詠唱もなしに魔法を発動させたのか……!?)
普通、魔法を発動させるには詠唱が必須条件である。
短文詠唱、長文詠唱の他に、一撃詠唱、創作詠唱、幻滅詠唱と様々な詠唱の類が存在する。たとえどんな詠唱だとしても、魔法を発動させるには必要なことだった。
しかし今、彼は詠唱もなしに魔法をーーーいや、魔力を放っている。
これは、本当はありえないことだった。詠唱もなしに魔力を放つことは、実際には危険なことなのだ。
「ぬっ……!」
キュラスは鎖をミソラに向かって放ち、今着地したミソラの体を巻き付けた。
ミソラの体はたちまち鎖に巻き付けられ、一時的に身動きを防がれる。
「ぐぅ……ッ!あああああああああああああああああッッ!!」
「ぬ、お!?」
しかしミソラはそれを無視して、鎖に巻き付けられたままキュラスへ突進した。
棘が掠っても、その速さは緩まない。
逆にキュラスは地面に棘が張り巡らされているからか、迂闊に動けず、ミソラの追撃を諸共に食らってしまった。
「ふっ……!」
キュラスは自身の体が棘に刺さる前に、懐から用意していた魔法道具を瞬時に取り出し、それを落とす。
地面との衝突によって発動された人工的な風は、ミソラとキュラスを高くまで持ち上げるのに十分の風力だった。
「うっ、ら!」
キュラスは空中で鎖を思いっきり引っ張り、壁に向かって鎖ごとミソラを投げる。
「ぐはっ!?」
身動きが取れないまま壁にぶつかったミソラは、そのまま重力に沿って落ちていった。
下には棘があり、このまま落ちれば背中にも、腕にも、身体中が掠り傷どころでは済まされないであろう。
「ーーーーッッ!!」
ミソラは無理矢理力を込め、鎖を少しだけ緩める。
そして緩んだ時に空いた隙間を使って、ミソラは左手を下へ向けた。
魔力を一瞬で溜め、放つ。
それだけでミソラの体は一瞬だけ浮遊した。これだけでも有難く、ミソラはその一瞬の時間を使って体を反転させる。
「ッーーーー!」
壁に沿ってぶつかりながら降りてきたミソラは、緩んだ鎖を解いて高みの見物をしているキュラスを睨んだ。
その野獣の眼光に少し怯えながらも、キュラスは平静を保つ為に笑う。
そして、残った怯えを紛らわせるために、キュラスはあのさぁ、と溜息をつきながら、ミソラに言い始めた。
「あまり激しい交戦はしたくないんだ。只でさえこれに魔力を消耗しているのだから、これ以上魔力を使ったら私の体がまずいんだよ。わかる?つまり今の私は本気ではないんだ。魔力が完全だったら、君みたいなドブネズミなんて一瞬で捻り潰すことだってできるんだよ」
「そんなことは関係ない。今すぐエリカさんを解放しろ。そして僕達の大切な人を連れ去ったことに懺悔しろ」
ミソラは構わず毒を吐く。
キュラスは、ミソラの発言に首を傾げた。そして次に、思い出したかのような振る舞いをする。
「んー?君、もしやあの村の子かい?道理でみすぼらしいネズミだと思ったよ!いやぁ、しかしあんな何も無いところに、こんな逸材がいたとはねぇ。なぁ君。今からでも遅くはない。私に許しを乞えば、今すぐ私の伏兵に迎え入れてあげよう。どうだ?悪い提案ではあるまい」
「はっきり言いますーーーーー死んでも嫌です」
思わず舌打ちが出てしまいそうだった。
キュラスは青筋なんぞ隠す気など微塵もなく、逆にその姿を晒して、自分は今怒りで満ち溢れていると思わせたかった。
なにから何まで生意気な小僧だ。せっかくチャンスを与えてやったっていうのに、それをみすみす破壊した。
「……ふふふ」
このような答えを貰っては、仕方がない。
キュラスは笑いを抑えきれないまま、未だに睨んできているミソラに言う。
「おやぁ?君にとってこの提案はおいしいもののはずだが、何処か気に入らなかったかい?」
「気に入らないも何も……僕は王族が大っ嫌いなんです。何でみすみす大ッッッ嫌いなところに従わなければいけないんですか?」
「おやおや。随分な嫌われようだ。私は何もしていないはずだが?」
「……下衆が」
「嘘は言っていないさ。あれを行ったのは私が命令したわけではなく、彼らが独断でやっているだけだ。だから私は何も関係ない」
「……なら何で止めなかった」
「気づいたのが最近なんだ。仕方があるまい?」
その態度は、挑発や煽りの他に何かあったのだろうか。
わざとらしい態度に、ミソラの苛立ちが募り、右手に魔力が溜められていく。
(きた……!!)
そうだ、これを待っていた。
摩訶不思議な現象。無詠唱の魔法発動。キュラスはそれに恐怖や焦りみたいなものを感じながらも、同時にーーー興味が湧いていた。
もっとそれを見てみたい。
もっとそれを実感してみたい。
数々の魔法道具を実験、発明してきた彼にとって、ミソラが今やっていることは、正に洞窟の奥底に眠る大秘宝と同等の価値だった。
他の奴らに見せたくない。
あの技術はーーー私のものだ。
キュラスの独占欲が強まり始める頃には、もうミソラの魔力は大幅に膨れ上がっていた。
「ううううううううううッッ!!」
また、あのような唸り声。
その唸り声は、宝石が輝き出す瞬間。
キュラスが求めていた、大秘宝の在処がわかる瞬間だ。
「さぁ、来い!そしてそれを私に寄越せェ!」
誰だ。恐怖や怯えと言ったのは。
誰だ。これは怖がっているからの行動ではないのかと言ったのは。
断じて違う。これは私の欲であり、渇望だ。
私が求めているものは、これなのだ。
誰にも負けない強いものを。
その為に、今まで研究を積み重ねて道具を作り続けたではないか。
「あああああああああああああああああああああああああああッッーーーーー!!」
「は、はは!!ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッーーーーー!!」
ミソラの最大力の魔力は、嬉しさに耐えきれず反射的に突っ込んだキュラスへと、問答無用で放たれた。
■
「うっわ……!」
上から聞こえる地響きに、栗色頭の青年は体を伏せる。
まがて地響きが止んだところで、青年は恐る恐る顔を上げた。
「ちょっと……これはやり過ぎだろ、おい」
だんだんと眠気が覚めてきた彼にとっては、さっきの地響きはまるで自分を無理矢理働かせるために起こしに来た地獄の番人のようなものだったのだ。怯えるのも無理はない。
しかし、今日はいつもより激しすぎる。この時間ならあの人も自分達を考慮して静かにやってくれるはずなのに。
考えられる要因とすれば、新たな発見が見つかったか。それとも新たな実験成果が出来てそれを開花させようとしているのか。明らかにどっちでもおかしくないが。
「これは、一回喝を入れるっていう俺の考えは間違いじゃなかったな……」
青年は少しキレ気味の声で吐き捨て、鉢合わせした騎士に会釈をしながら、あの人がいるであろう場所へ目指した。
目的地はーーーーー兄のいる、三階である。
■
激しい衝撃が、広間を浸透させる。
床にヒビが入っても、どんなに窓ガラスが割れても、その衝撃波が直ぐに止むことはなかった。
「ううううううああああああああああああああああああああああッッ!!」
ミソラの雄叫びが轟く。
獣の雄叫びか、それとも人の声かもわからない叫び。
ミソラの魔力が、だんだんと削れていく。
体力と共にゴッソリと持っていかれた魔力は、今憎き王に向かって放たれている。
「ぁーーーーー」
全ての魔力を使い果たしたミソラは、その場で崩れ落ちた。
パキィィッン!と、ガラスが砕ける音が響き渡る。その音が止んだ瞬間、先程までの衝撃波が拡散し始めた。
一瞬の静寂。
壁にも、床にも、扉にも大きな傷跡を残した一瞬の激戦は、宇宙の中にでも放り込まれたかのような静寂が響き渡る。
全ての魔力を、無意識に注ぎ込んだ。
もう彼の体は疲労困憊で、立つことすらもままならなかった。
ーーーそんな彼の前に。
「…………………………素晴らしい」
怪しい笑みを浮かべた、キュラスが舞い降りた。
ミソラの全ての魔力をキュラスは真っ向から受けたはずなのに、当の本人はフラフラとした様子もなく、そしてあの衝撃波らしきものの傷は何処にもなかった。
ミソラが絶望した表情を浮かべる。
もう自分は、動けない。
体が麻痺しているせいで、思うように動かせない。
キュラスはそんなミソラの前で、ある箱を弄んでいる。
ただの真っ白い、何の変哲もない小さな箱。
キュラスはその箱を、ミソラに見せた。
「君の素晴らしい魔力はこの中に吸い込まれている。この箱も私の発明だ。ああ、やはり私は天才!あのような異常な魔力も我がものに出来るなど!は、はは!はははははははははははははははははははははははははははははははははッッッ!!!!」
狂ったように、キュラスは笑い出す。
あのような異常な魔力は、キュラスにとっては宝のエネルギー。つまり未知の鉱石や場所を見つけたのかのように貴重で、とても欲していた。
これで、また実験は進化する。
こんな小細工よりも、強力な物が作れる。
ーーーーだから、もう彼は必要ない。
「さて、素晴らしいものを提供してくれた君に名誉を与えよう」
キュラスは鉄の鎖を、ミソラの首に巻き付けた。
動けないミソラはなす術もなく、キュラスの思うがままとなり、地面に倒れ伏せる。
そしてキュラスは、鎖を思いっきり引っ張った。
「ぁ……が、ご……!?」
突如途絶えられた呼吸。
喉の圧迫感に押し潰される苦しみ。
ミソラは鎖に手を置くことすら出来ない状態だった。力が出ない彼が、今のキュラスに対抗することは、出来るはずがなかった。
「そうだ、苦しめ、私に逆らったことを後悔しろ!そして苦しみながら懺悔して、地獄に落ちるがいい!」
キュラスは無様な姿になっているミソラを嘲笑う。
これがせめてもの、彼の優しさだった。
姿形を残して、綺麗なままに逝かせる。それが彼の最後の情。
そしてミソラの死体を剥製にして、いつか実現する最強の魔法道具の元となったものとして紹介してあげよう。
そうだ、これはせめてもの報いだ。
もう必要の無い邪魔なものなど、排除しなければならない。
そうして、キュラスは首を絞める力を強くする。
(……死ぬ、のか?)
ミソラは呼吸がままならない状態で、死の危険を感じた。
そもそもミソラには先程の記憶がない。
いつの間にか体力を消耗していて、いつの間にか首を絞められていた。その一連の流れを一度に受けてしまい、今ミソラは混乱している。
そしてーーー死の危険を、感じ取っていた。
そもそもここに来た理由は何だった?
このクソッタレな王を改心させることではなかったのか?
囚われているエリカを、助けるのではなかったのか?
(ーーーー無力、だ)
結局は改心出来なかった。
結局は彼女を助けられなかった。
何しに来たんだ。自分は。
折角姉にも、皆にも、背中を押してもらったのに。
(ーーーーごめ、ん)
「ちっ、しぶといなッ!」
なかなか死なないミソラに痺れを切らしたキュラスは、思いっきり鎖を引っ張った。
そして締まられる、ミソラの首。
遮断される通り道。
もう、助からない。
ならせめて、エリカが助かるのを、祈ろう。
そうしてミソラは静かに涙を流して、ソッと目を閉じ始めたーーーー。
「………………ーーーーぁぁあああ」
その時、何処からか声が聞こえた。
「……ーーーーああああああああああああああああ」
その声は、徐々に大きくなっていく。
その声にキュラスの手は止まり、おもわず辺りを見渡した。
しかし今この広間にいるのは、キュラスとミソラ、そして月花に閉じ込められているエリカだけである。
なら、この声は?
ミソラでないのは確実だ。ミソラは今、声を出せない状態なのだから。
なら、この声は何処から聞こえている?
「ーーーーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
キュラスの背後にある月花が、ギチギチと痙攣し始めた。
今、開花しようとしている?ーーーーいや、違う。
ギチギチと、内側から押されているみたいに膨らみ始める月花。
これはーーーー破裂、しようとしている?
じゃあ、この声は?
キュラスの顔に焦りが募り始めた。
そして、キュラスがゆっくりと振り返った時。
「うおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
ーーー月花を破壊させて、一人の少女が舞い降りる。
王のキュラスがミソラの力に興味を持ち始めた描写は、実はちょっとかくれんぼみたいに書かれています。よければ探してみてね。
いばらが棘なのか茨なのかどっちが正しいのかよくわからなかった最初……どうやら棘が正しいみたいなようなので、このいばらで行きます。
感想、評価お待ちしています。