作戦開始ー2ー
姉は純心と共に動き始める。
彼らの心を立て直した俺は、彼らを真ん中に集めて、これからの作戦について話していた。
「いいか、まずあなた達は、このミソラという男と一緒に脱出するんだ。ミソラは時を遅らせる魔法を持っている。それで周りを遅くして、その隙に出てもらう」
「ぜ、全員で?だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。ミソラの魔法はいいぞ。ーーーーーーミソラの体力が持てば」
少し言い淀んだ。
そうなんだ。この作戦はまず第一にミソラの体力が必要となる。
ここにくるまでに、魔法を酷使という程ではないが結構使っていた。さらにこの街から出るまで魔法を発動続けなければならない。
そうしなければ街中がパニックなり、騒ぎに駆けつけた騎士達が彼らを捕縛しようとする。それが最悪の展開だ。
だからそれを予測して、次のことを俺がする。
「そして俺はあんた達がこの街から出るように、騒ぎになったら城で大暴れする」
『!?』
「大丈夫だ。こんくらいじゃやられねえよ俺は」
ミソラが動く作戦と共に、俺が動く作戦も追加される。
それは『俺が囮になること』。
俺が囮になって大騒ぎすれば、たとえ見つかったとしても騎士達の数は減り、ミソラや彼らが対処できる状態となる。
俺は、彼らが安全にこの街に出るために動く、いわば『餌』だ。
何度だって暴れてやる。その流れに乗じて、この国の王様を一発殴ってやろうか、と考えた程に、俺はこの作戦は絶対成功すると確信した。
いや、成功させてみせる。この俺が。
「言っておくが、この囮作戦は俺が考えたものだ。もうミソラの許可は取ってある。それに、あんた達の意見も聞く気はない」
「ちょ、ちょっと待てよ!あんたまだ子供だし女の子だろ!?無茶すぎる!」
村人の一人がそう異議した。
その言葉が渦を巻き、微かにこの作戦を否定する者達も現れる。
しかし、聞く気はない。
「女だからって、舐めない方がいいぜ?俺は人並みよりこういうのには慣れてる。人の戦い方も学んでいる。何処をどうやれば人間が気絶するかも知っている。だから俺はこの作戦を思い付いたんだ。失礼なことを言うが、そんな経験が無いあなた達より、こっちは俺の方が向いている」
ーーー安心しな。俺達があんた達を元に戻してやるって言っただろ?
俺がそう言い切った時、渋々だが皆引き下がったのが分かった。
恐らく現実を直視したのだろう。自分達には無理だと。魔導士に立ち向かうことなどできないのだと。
俺は隣で覗き込むミソラを一瞥した。
ミソラは村人達よりも、一人腑に落ちない表情をしている。
その表情を見て、やはり夕方の事がまだ納得いっていないのだろう。
実はこの作戦、ミソラの許可が降りるのはこの時よりももっと大変だったのだ。
■
「エリカさんが、囮!?」
泥を洗い流した俺は、村の仲間達を助ける為の作戦をミソラと一緒に考えていた。
その作戦に、俺が考案した『俺が囮になってその隙にミソラは仲間を連れて逃げろ』という作戦に、ミソラは反応した。
「ああ。お前より俺の方が適任だ」
「断固反対です!囮なら僕の方が断然にいい!」
「いや、お前は仲間と一緒に出た方が」
「嫌です!!」
俺が言っても尚反対するミソラ。
しかし、もう決めてしまったのだ。
この作戦が一番効率がいい。後はミソラの体力と、ミソラの心だ。
ここで決意してもらわなければ、この作戦は確実に失敗する。
だから、ミソラを納得させるよう説得しなければ。
「ミソラ。俺は仲間達が安全に出れるようにこの作戦を考えたんだ。その作戦には、お前が適任なんだよ」
「何でその作戦でエリカさんが囮になるんですか!僕と一緒に逃げればいいじゃないですか!僕の魔法で脱出すれば……ッ!」
「それじゃあ、お前の魔法がきれたら?街にいる住民は大パニックだ。そしてその騒ぎを駆けつける騎士達が、捉えるかもしれない」
「俺が動きを止めます!」
「じゃあ外に出た仲間達はどうなる?」
「…………」
そう俺が言った時、ミソラの言葉が詰まる。
そうだ、ここが問題なのだ。
連れ去られた村の仲間達の特徴は『魔導士ではないこと』。つまり魔法を使えない、ただの人間である。
そんな生身の人間が、モンスターに真っ向からぶつかったらどうなる?
簡単だーーーーー命を絶つ他にない。
なら魔法を持っているミソラが適任だ。ミソラの魔法でモンスターと太刀打ちできるのはわかっている事だ。なら俺が行くより、こいつが行った方が成功率は高くなる。
あいにくだが、俺はモンスターとの戦い方は知らない。しかし人との対戦は、人並みよりも叩き込まれた。
だから俺はこの作戦を思いついた。
しかしミソラが反対することは予測していたので、俺はまた新たな作戦を追加する。
「モンスターとの戦いが素人な俺が行っても、ただ村の人達を危険に晒すだけだ。その点お前はどうだ。お前の魔法は動きを止めれるし、強力な魔法も撃てる。それと俺を比べてみろ。圧倒的な差だ。だから俺はお前に頼んでいるんだ。お前の仲間達を守ってくれって」
「…………でも」
「あー大丈夫。俺は別に騎士達全員と戦う訳じゃねえよ。俺は囮だって言ったが、言うなれば『保険』だ。お前がうまく立ち回っていけば、俺は何もせずに済むし、安全に王様の所へ行ける」
「お、王様の所に行って何をするんですか?」
「ん?知らねえのか?」
ミソラが首を傾げる。
全く、これだからガキは。あんな騎士をまとめる王様なんて、どうせクソッタレな豚に違いない。
だから俺は即決で、尚且つ公平なやり方で終わらせる方法を思いついた。
これさえあれば大抵の人間は落ちて静かになる。そして皆自分がやった過ちを考え直し、新たな国を作り上げる!
そう、その方法とはーーーー!
「説得(物理)っつーのがあってだな。これをやれば大抵の奴らは大人しく言う事を聞いてくれ」
「アウトオオオオオオオオオオ!!」
否定された。解せぬ。
しかもその理由がわからない。何で止めたんだよ、お前も同じ気持ちだろ?という目でジーッと見た。
しかしミソラは億さず、ズイッと顔を近づけてきた。
「そんなのやったらもう僕とか関係無しに騒ぎになるじゃないですか!いやそりゃ僕だって殴りたいですよ!?殴ってほしいですよ!?でもそれをエリカさんがやらなくてもいいじゃないですか!やっぱりここは僕に任せて、エリカさんは皆と一緒に……!」
「因みにお前が行ったらどうするんだ?」
「何も言えなくなる程にボコボコにします」
「はいお前除外ーこの作戦は俺がしますー」
「ファッ!?」
何で理解不能の顔なんだよ。
「いいか?ミソラみたいな考えは数日経ったらすぐ元通りだ。何故なら恐怖が少ないから。ただ殴ってる奴なんて、そんなの全然怖くないだろ?」
「……じゃあ、エリカさんはどうするんですか?」
え、俺?聞いちゃう系?
でもこいつに話すのは気が引けるが……もしかしたらこの話をしたら引き下がってくれるのかもしれない。なら話したほうがいいか。
少し悩んだ挙句、俺は足を組み直して、つらつらと浮かんでくる単語をそのままミソラに伝える為に口を開く。
「まず王様が気づいた時だが、俺は人並みよりもスピードはある。モンスターにはそれ程でもなかったような気がするが、断固そう言おう。そしてそのスピードで王様の後ろに回り込んでまず首を絞めて、少し意識が飛びかかった所で背負い投げをして体を激痛にして、さらにそこから腕を絞めてちょっと骨折れるかなー的な所で止めて、次は王様を掴み上げてまず頬に一発そして額に一発。そして脳を揺さぶった所で壁まで思いっきり投げ、さらには回し蹴りで回転で威力をつけてまず顔に叩き込み、そして顔を踏んずけてそこから顎を蹴る。ここで一度待って、今すぐ村人の解放と国の改正を呼びかける。まぁこの時点でミソラが村人達を引き連れて脱出してると思うが。それで嫌だと言ったらまた首を絞めてこの短剣でまず右腕を切り傷をつける。ああこの血濡れは気にするな。落ちなかっただけだ。そしてもう一度聞いて駄目だったらまた右腕にかすり傷程度のものを。それでもう一度聞いてまた駄目だったら今度はちょっと深く切りつけて、まぁここまではさすがに相手も降伏するだろうが、もしこれでも駄目だったら手をぶっ刺して無理矢理認めさせるしか……あれ、どうしたの?」
「僕よりエリカさんの方が酷いじゃないですか!?」
俺の説明を聞いたミソラは、声を荒らげて反論する。
なんでや!一番手っ取り早いだろ!こんなに恐怖を植え付けられそうなんて早々ないんだぞ!?ただ殴るだけのミソラには言われたくないわ!こうやってじわじわと攻撃を与えた方がいいんだよ!
その後さっきの王様襲撃で数分揉めあって、もう作戦の事など忘れていた。
そして思い出した俺が強制的にこの作戦で話を進めて、ミソラがもう認めざるおえない状況を作り出した。
うん、何もおかしくないな!
え?ミソラの許可が降りていないだって?
ミソラ認めてるじゃん!ならいいじゃん!どんな理由だろうとこれを実行するし、第一この作戦が浮かんだのって、さっきの他にミソラが全然案出さないのも理由だったからね!?
■
大変だったなぁ。と遠い目をした。
結構ミソラも言うもんだし、最終的にそんなに言うなら何か案出せよゴラァって脅したら、見事なまでに詰まったミソラには笑った。
という訳でこの作戦は実行。これから俺は準備体操をして、ここからの事に備えている途中である。
「エリカさん……」
屈伸をしていると、村人達に魔法について説明していたミソラが声をかけてきた。
俺は準備体操をしながら「何?」と返す。
後ろで言葉を濁しているのがわかった。
そしてミソラは息を吐いて、こう言った。
「出来るだけあんな酷いのはやめてくださいよ」
「ひぇっ」
「僕はあなたの体が豚の王様の血で汚れるのが嫌なんです!」
「それが本音かよ!!」
最近お腹の調子が悪くて張ってしまいます。
お腹の調子が……便秘がよくないからかしら。温かい飲み物を飲みましょうか。




