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天運のCrocus  作者: 沢渡 夜深
第一章 -カラシナ-
10/35

作戦開始


姉と純心は、村の仲間達を助けに行く。






「ふぁあ……」


 夜。城の門番の一人は、大きな欠伸をする。

 それを見たもう一人の門番は、冷や汗を垂らして口を開いた。


「おい、だらしねえぞ。もっとシャキッとしろ」


「へいへい。仕事真面目な奴は本当に口うるせえよな」


「あぁ?喧嘩売ってんのか」


「売ってない売ってない。でも今のんびりしてもいいっしょ。どうせあの人なら文句言わずに素通りするし」


「……否定出来ねえな」


 遊び半分で槍を抱える彼は、また欠伸をした。

 余程眠っていないのか、目の下に隈が出来ている。

 男性はそれを見て溜め息を吐いたが、そこからは何も言わず、前へと向き直った。


「……?」


 その時、変な違和感が彼を襲った。

 それは一瞬だったが、その一瞬だけ『遅くなった』ような感覚が、彼を襲ったのだ。

 隣の門番は何も気づいていない様子。

 その内男性も気のせいだったのかと、また仕事に戻った。



 彼らが守っている筈の木製の門が半開きだということに、彼らは気付かずに。







「【DEEP】」


 そのたったの一言で、俺とミソラの周りは一時的に遅くなる。

 肩に置かれていたミソラの手は離れていき、俺とミソラは作戦通りに地下から潰すことを優先とした。

 あまり長く遅くさせては、ミソラの体にも負担がかかる。

 ミソラが【MOVE】と言わない限り、これが解けることはない。

 なので長く、或いは永遠に遅く出来ることは可能と言えば可能だ。

 しかし長ければ長くなるほど、魔導士の体に負担がかかりやすくなり、最悪の場合死に至ると、さっきミソラが言っていた。

 なので魔法を使っては止め、使っては止めを繰り返すことになった。


「【MOVE】」


 地下へと続く部屋に入って、魔法を解く。

 この部屋には見回りはいない。

 しかし見回りがいなくても、地下への扉が開かない事は予想済みだ。

 だからと言って、地道に鍵を探す訳じゃない。


「よし、ミソラ、やれ」


「はい、【DEEP】」


 まずミソラの魔法で遅くする。

 そしてもう一度、地下への扉の性質を理解して。


「よし、行ける。行け」


「はい、【CRASH】!」


 ーーーミソラの魔法でぶっ壊す。

 大きな音を立ててぶっ壊れ吹っ飛んだ扉は、下までまた甲高い音を立てて落ちていく……訳では無い。

 まだミソラの魔法は継続されているので、吹っ飛んだ扉もゆっくり空中に浮かび続けているのだ。

 もちろん解除すると直ぐ音を立てて落ちる。


「よっと」


 だからここで扉を回収し、それを脇際に置くことで、無事に静かに壊すという状況が出来上がるのだ。


「よし、ここまでは完璧だ。入るぞ」


「はい」


「限界だったら言えよ?」


「まだ大丈夫です!【MOVE】」


 朝からここ走り回って体調崩したお前が言うなよって感じだが、まだ大丈夫なら存分にコキ使ってやろう。

 何故ならこの段階は、ミソラの力が大いに発揮されるからだ。





 螺旋階段を降りていく。

 その間隔は非常に狭く、何と手すりも付いていないというふざけた螺旋階段に思わずイラッときた。これじゃあ落ちて病院送りになるだけじゃねーかよ。一人分でもギリだぞ。てか無駄に長い。

 そんな危険な螺旋階段を降りた後は、大きな空洞が先が見えなくなるまで続いている。

 ここからは俺達の知らない道だ。

 しかし、彼らの所に着いた対策はもう打ってある。なので安心して行ける。


「くっら……」


 空洞に付けられている灯りが弱々しく、あまり前を確認出来ない。

 それにフードも被っているので、余計に前が見えにくい。

 目を凝らしていると、壁を伝っていない右手の方に、手の感触が伝わった。


「僕がエスコートします。エリカさん」


 その声と共に、グイッと手を前に引かれる。

 この空洞でも目立つローブをしているあいつは、とても見やすかった。

 確かにこのままじゃ危険だし、こいつに連れて行ってもらった方が少しは安全か。

 そう考えて、俺はミソラの手を握り返した。






 暫く歩き、俺達の前に現れたのは、正門と同じような扉だった。

 その扉の先から、数人の男の声と、違う声の怒声が聞こえてくる。

 それと同時に、鞭の音も。

 その声や音を聞いた俺達は、すぐに皆がここにいると判断出来た。


「……ミソラ、作戦通りに行くぞ」


「はい」


 今にも突撃しそうなミソラを抑え、俺は扉をゆっくりと開ける。

 まずは覗ける程度の隙間を開けた。

 そこから、俺は見える範囲で覗く。


「おら、さっさと運べ」


「……ひっ、あ」


「運べやお前!へばってんじゃねぇ!」


「やめっ、ああああああああ!!」


 覗いた先では、木箱を持っている男性が、涙目で嘆いている光景が広がっていた。

 男性を鞭で叩いた男は、ケラケラと下品に高らかに笑っている。

 他も、あいつら全員、男性と同じような境遇の男を痛ぶって、笑っていた。

 その光景を見て、俺は舌打ちする。

 思ったより酷いな。もし助けられたとしても、男達の体力が持つかわからん。

 あいにく回復の魔法とか、そういう道具は持ち合わせていない。なので彼らの傷を癒す事も難しい。

 ……まぁ、それは後で考えよう。まずは彼らを助ける事が第一だ。


「ミソラ、もう一度確認する。まずお前が魔法で時を遅らせる。そしてその隙に、遅くなっているあいつらを、俺が気絶させて縛る。お前はその後、彼らを診てやってくれ」


「はい。……あの」


「あ?」


 作戦を確認した所で、ミソラが言葉を濁した。

 俺の不機嫌そうな声に肩を震わせたミソラは、俺の肩に手を置きながら遠慮がちに聞いてくる。


「つ、つい了承してしまったのですが、大丈夫なんですか?あいつらを一発で気絶させることって……」


「あー、大丈夫。これでもいっぱい稽古したし、戦う秘訣やコツも叩き込まれた。当然、人間は何処を攻撃、抑えれば気絶することも知ってる」


 正直な話、気絶する箇所は前世でネットで見ただけで、専門的なのはわからない。

 もしかしたら相手に後遺症が残るかもという記述があったが、この際だ、そんなの関係無しにやるしかない。

 もうこの手はずっと前から染まっているんだ。今更、躊躇なんてしてられるかよ。

 俺の肩に手を置くミソラの手はさっきまで震えていたが、俺がそう言った途端、徐々に震えを無くし、逆に力が篭ってきた。

 今なら、行ける。


「ーーーーーよし、行け」


「【DEEP】!」


 俺が合図した瞬間、ミソラはあいつらの時を遅らせる。

 完全にあいつらも、彼らも『遅く』なった事を確認して、俺は扉を開けて侵入した。

 まず手前にいた、あの男性を攻撃していた男から。

 男の前に回り込んだ俺は、右肘で男の顎を思いっきり突き出すように殴る。

 これだけで気絶すると書いてあった。もしダメだった場合は、無理矢理縛ってやるしかないが。

 次に、窓際にいる男。

 木箱を運んでいる彼らを避ける。

 その避ける途中に、木箱を担いでいる男性を見つけた。

 俺はその木箱に乗っかり、そこから跳躍する。

 その勢いを殺さずに、俺はその反動を利用して、男の頭を思いっきり蹴り、さらに着地した後、そこから膝を思いっきり打ち上げ、顎に叩き込んだ。

 こいつはもう気絶するだろう。後遺症残りませんように。

 そして最後に、今正に男性に鞭を叩き込もうとしている男。

 まず鞭を男の手から離し、それを落とす。

 そして少しだけジャンプして、息を吐いた。


「ふぅん!!」


 落ち着いた後、一回転して威力を高め、その蹴りを相手の首に叩き込む。

 ……よし、これでいいだろ。後は縄を用意しよう。

 ミソラが待っているであろう扉の方を向くと、既にミソラは縄を用意し、扉の近くの男を縛り付けていた。おい、早いよ。魔法を解いたら直ぐ縛る予定だろ。別に支障は出ないが。

 俺はミソラにGo!サインという名の親指を立てた動作をした。

 それを見たミソラは、もう二本の縄を準備する。


「【MOVE】!」


 ミソラがそう叫んだ途端、周りの時が戻った。

 窓際にいた男も、今目の前にいる男も、一度動きを止めて、その後。


「あっ……」


「ぐあっ……」


 呻き声を発して、地に伏せた。


「作戦成功。ミソラ!」


「はい!」


 直ぐに起き上がれないよう男の背中を踏む。

 ミソラが窓際にいた男を縛っているのを確認した所で、俺は彼らに向き直った。足は男を踏んだまま。

 彼らは突然の出来事に戸惑っていて、木箱が地面に落ちようとも、今の状況を把握するのに精一杯のようだ。

 それはそうだ。仕事をしていたらいきなり俺達が現れ、しかも気づいた時には男達全員倒れているなど、まず混乱しないことの方がおかしい。


「…………ふぅ」


 ミソラが窓際の男を縛り終え、今度はこちらの男を縛りに入る。

 足を退けた俺は、すぐ側にあった木箱に飛び乗って、彼らを見渡せるようにした。

 まだ混乱している彼らに、俺は言う。


「すまん、混乱させてしまったようだ。俺達は、あなた達に危害を加えようとは考えていない。俺達はーーーーあなた達を、助けに来た!!」



 何十人もの視線が、俺の体に刺さり出した。

 その視線を受け止めながら、俺は続ける。


「俺達は、この国の近くの村からやってきた。その村も、愛する人や大切な人を連れて行かれ、嘆き悲しんでいる。もちろん、他の村もそうなのだろう。だから、俺達が立ち上がった」


 国の近くの村という単語を口にした途端、何人かの男性が反応した。


「俺は元々部外者。しかし、あの村では命を救われた恩がある。だから俺は、あなた達を助けることを恩返しとし、ここにやってきた。命を救われ、恩を返すべき村には、やはり幸せが必要。だから、俺は幸せを取り戻すためにやってきた!あなた達という名の、幸せを取り戻すために!」


「ーーーーッ」


 息を呑む。

 正直、俺の言葉がよく伝わっているのかわからない。

 だけどここで彼らに立ってもらわなければ、この城から、村に帰る事など不可能だ。

 彼らの闘志を。

 彼らの、会いたいという願望を、掘り起こさなければならない。


「俺達はこれから、あなた達を村へ帰す為に援護する。だからここでいじいじとしないでほしい。ここでくたばらないでほしい!ここで、諦めないでほしい!

あなた達は願ったはずだ、村へ帰りたいと。今!その願いを叶える時だ!」


 痛覚が戻った右手を突き上げる。

 バサリ、とフードが脱げた。

 途端に視界が広がり、彼らの顔色も良く見えてきた。

 もう彼らは混乱していない。

 皆、希望を持って、諦めないという信念を感じる。

 その目は切望。

 絶対に、大切な人の元へ行くという、強い思い。

 俺達は、そんな彼らの期待に答えなければならない。

 息を吸い込む。

 そしてそれを吐き出し、俺は目を見開いた。


「さぁ、立ち上がれ!武器を持て!強い思いを持て!俺達はまだ、死んじゃいない!俺達は、まだ生きている。あいつらの操り人形になんてなるものか!

絶対に、村に帰るぞ!皆!」


『ウオオォオオオオオオオオーーーーーーーーーーーッッ!!』


 この地下室で、今日最大の闘志達が、湧き上がった。






言われると思うのでこの場で言おうと思います。

読んでいればわかりますが、段落下げを気にする方がいるかと思われます。

実はこれスマホでやっているんですが、スマホで段落下げしても、それがここで反映されないのです。

簡単に言えば、スペースが無かったことにされます。

なのでスマホは段落下げはほぼ不可能なのだと思います。とほほ……。

もしスマホで他の方法で段落下げが出来る場合は教えて頂きたいです。


とりあえずユーリが口が悪くて凄く良かったです(M感)


■追記■

空白をコピペすることで段落が出来ました。

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