境界の山4
王女はシンキゲキがお好きです。
「まさかくのいちAがなんてこったパンナコッタのくだりを知っているとは」
「その理由を語るにはわたくしの姉様の秘密をお話ししなくてはいけないのですけれど……」
「うん、俺は口の堅さには定評がある魔王だよ」
「どなたから定評があるのでしょう」
「ええっと、スライム界隈とか、かな」
「まあ」
「いや俺の掘り下げはいいんだよ。とにかくくのいちAのお姉さまの秘密は他言しないと約束するから、教えてもらえるかな?」
「そうですね、きっかけはわたくしがこっそり出かけようとする姉様を見かけたことなのですけれど」
「ほうほう」
「わたくしはこっそり出かける姉様の後をこっそり追いかけました」
「うんうん、スリルがあるねえ」
「人目をはばかるように市井を行く姉様はついに、ある建物へと姿を消したのです。わたくしも姉様の後を追いその建物へと足を踏み入れました……」
「なんとなく結末は予想できるけれど、うん、それで?」
「中へ入るとチケットとやらの提示を求められ、無いと答えると当日券はあちらだと言われました」
「当日券」
「そちらへ向かうと、次は当日券は銀貨五枚だと言われました。偶然にもわたくしの上着のポケットには銀貨五枚が」
「だいぶ都合がいいねえ、けれどそういう都合のよさは嫌いじゃないよ」
「そうして手に入れた当日券を先ほどの方へ提示すると、更に奥へと案内されました。案内された先には大きな吹き抜けの空間が広がっていて、いくつもの椅子が並んでいました」
「ううん、それは壮観だろうねえ」
「わたくしが椅子に座ると途端に調子の外れたラッパのような音が鳴り響き、目の前の緞帳がゆっくりと上がり始めます。そして……」
「やっぱりなんとなく予想はできるけれど、そして?」
「陽気な音楽が流れ、そこには恐らく室内を表現したであろうセットが現れました……!」
「うん、だろうね」
「陽気な女性が男性に振り回されて壁に激突する様を見てわたくしはようやく気が付きました。そう、これが世に言う壁ドン……」
「ううん、その世はだいぶ狭い世かもしれないね」
「姉様がこっそりと出かけたこの場所は……あのシンキゲキの劇場なのだと……!」
「うん、予想通りの結末でとりあえず安心したよ」




