√HAPPY END?
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引き返してー!
死に纏わりつかれている――
私の数少ない語彙では、そう表現するしかないだろう。
もう少し人に解りやすく説明するならば、
自分の死が見える。とでも言えばいいのだろうか。
自分の死に際が見える。とでも言えばいいのだろうか。
撥ねられたり。高い所から落ちたり。
しかし、それを見て、なにか実害があったわけじゃない。
その数日後に、その通りに死ぬわけじゃない。
そのことは、私が生きていることで証明されている。
今のところ、だけれど。
むしろ――
それを見た時点で、その死を回避していると。
そう言った方がいいのかもしれない。
こんな言葉で説明されても、よく解らないと思う。
わかりやすい例えで言えば――
ゲームのルート選択? みたいなもの。でいいのだろうか。
そのルートを選ぶと死んでしまう。
その結果を強制的に見せられる感覚。
初めてそれに出会ったのは駅のホームだった。
新幹線を待つまでの時間に。
各所に設置されている待合室で。
誰もいない待合室に入り、椅子に腰掛ける。
自動ドアが閉まり、外からの冷気も、音も、遮断される。
新幹線が超スピードで通過していく。無音で。
急激に変化した環境を前にして抱くのは――
私が今いるのは、別の世界なんじゃないか、という妄想。
世界ごと隔離されているのではないか、という錯覚。
音もなく。温度もなく。人も――いや、人はいた。
向かい側の待合室で、同じように一人佇んでいる。
少しだけほっとした。
他の人もいるのなら、きっと現実だ。まだ現実だ。
その人は女の子だった。表情はよくわからない。
わかるのは自分と同じぐらいの年齢。背格好。
ファーの付いた黒いコート。
小さなヌイグルミが付いた旅行鞄。
あぁ――あの子もあの遊園地で買ったんだ――
――――?
違和感を感じた。
さっきの自分の視線を逆に辿る。
ヌイグルミ。鞄。コート。マフラー。髪型――
何から何まで自分と同じだった。
自分と同じ人が――自分が、向こうのホームにもいる。
一人で言葉も発さず、長い時間座っていたからだと思う。
そっち方面には何の用もないのに――
まず一番に、そんな間抜けな疑問が浮かんだ。
ただし、おかしいことに変わりはない。
自分の目の前に、もう一人自分がいるのだ。
それは鏡の世界の自分?
それとも未来の世界の自分?
それとも……ドッペルゲンガー?
距離が離れているせいで、近づいて確認しようとすら思わない。
向こうで携帯をつついていた彼女が、目線を上げる。
目が――合う。
ここで、一つの妄想が消える。
唯一の現実が、消える。
向こうの私が、立ち上がったのだ。
窓に映った虚像ではない。
それを下敷きにした見間違いではない。
明らかに、その範囲を逸脱した光景。
そして私は――向こうの私は、待合室から出て――
薄く笑ったかと思うと――
そのままレールの上へと飛び込んだ。
その瞬間に、白い線が、猛スピードで視界を横切る。
音は無い。走りぬける風の音も。何かがぶつかる音も。
そして――新幹線が止まる様子もない。
――人を撥ねたのに?
レール上に飛び込んだのは、新幹線が入ってくる前だった。
運転士からはその姿が見えていたはずだ。
それでも、ブレーキをかける様子すらない。
ということは――
私にしか見えない何かだった。ということなのだろう。
見えてはいけない何か。だったのだろう。
突然のことに混乱した私は、それでもなんとか実家に帰れたらしい。
“らしい”というのも、私にはその間の記憶が無いのだ。
向こうにいる間に、それを見ることが無かったのは幸いだったのだと思う。
――それで終わらなかったのは、最大の不幸だと思う。
数日置きに、どんなタイミングでも起きた。
病院に通い始めても、一向に良くはならず。
精神が摩耗してきて、次第に死の映像にも慣れてきて。
いつしかそれが――
どれも自殺によって起きる死の形だということに気が付いた。
自分の意思が絡まない死が、一つもないのだ。
ただ自殺をするためのゲーム、というものを思い出した。
もちろん、私は死にたいと思ったこともないし――
ゲームのキャラクターになった覚えもない。
マトモデハナクナッテシマッタケレド。
ゲームの世界はプレイヤーが世界の観測者であって。
動かされるキャラクターが意思を持つことはない。
その一人一人が記憶を残していることはない。
――自分の死を見ることはない。
そうでなければ、なまじ次があるだけ地獄だろう。
例えば、とある主人公がとある姫様を助けに冒険へ出る。
よくあるテンプレ。原典とも言える展開。
主人公はプレイヤーの都合で幾重もの失敗を繰り返し――
幾重の死を繰り返し――
ようやく姫様を助けだすのだ。
そして後ろを振り返れば――
自分の死体が山のように積んであるのを見るのだ。
HAPPY ENDと言えるのだろうか? そんな結末が。
その時の主人公の表情は――きっと今の私のような表情をしているのだろう。
そうして今日もルート選択を間違えた私が――
あえて間違ったルートを選択した私が――
一人、消えてゆく。
私に、唯一の生存ルートを残すために。
それは決してHAPPYENDに繋がるものではない。
今、私が歩んでいるこの道は――
自分の屍でできた道なのだ。
なーんで、
駅の待合室にいて向こうの待合室にも自分が――
みたいなメモからこんなに真っ黒な作品ができてしまったのか。
色彩鮮やかに出来上がる絵に
黒のカラーボールを投げつける暴挙に出てやりました。
吐き出さないと残り続けるからね。
BADENDを回避してればHAPPYENDにたどり着けるの?
努力しないとBADENDのままだよね。
という、苦しいフォローもしてみる。