学園と探偵
「あー……だっる」
いつものように一日の授業を終えた夏珪 修一は、体のだるさを感じながら、上代学園のC棟へ向かう。
そして、職業体験部と書かれた標識についた教室の前につき、そのままドアを開ける。
「あれ?」
しかし、そこはもぬけの殻。自分が一番に来たのかと思ったが、それだと教室の鍵が開いているはずがない。そうして教室を見渡した修一は、教室の中央に置いてある机に鞄が置いてあることに気付いた。どうやら中等部のもののようだ。
「どっかいってんのか……まぁいいや」
それにすぐに興味を失い、修一は開いている椅子に座り、4人組が来るまで寝ていようと机に伏せた。
どうやら今日は思っていたより疲れていたようで、修一はそのまま完全に寝てしまった。
ーーーーー
「……輩!せんぱーい!おきてくださーい」
「んん……」
修一は、なにやら声をかけられながら自分の体がゆすられているのを感じる。
しかし修一はこの心地よいまどろみに打ち勝つことができず、そのまま睡眠を継続してしまう。
そして声は続ける。
「うーん、ダメですね……全然起きません」
「疲れているんじゃない?寝かせてあげたら?」
「……風邪ひく」
「そうですね……それに部活も始めたいですし……せんぱーい、起きてくださいよー」
どうやら複数人いるようで、行動の指針は修一を起こすことにしたようだ。
そしてまた声をかけてゆすり始めるが……修一は全く起きるそぶりを見せない。いや、起きてはいるのだが、しばらくこのままごろごろしていたい修一は狸寝入りを継続している。
「うーん、どうしましょう」
「申し訳ありません、遅れました」
声の主が困り果てたようにするとどうじ、ドアが開く音とともに新たな人物が入ってきた。
「あ、みっちゃん」
「……これはどういう状況で?」
どうやらみっちゃんと呼ばれた少女は、目の前の状況を不思議に思ったようだ。
そうして、現状況の説明が行われ、新たに登場した少女はこう言い放つ。
「ならいい考えがありますわ」
そういって少女はガサゴソと何かを漁る音を出し、そして最終的に、修一の耳にこんな音が届いた。
バチィッ!
「殺気がする!」
「あ、先輩おはようございます」
「あ、おはようございます」
「……おは」
「あら、起きてしまいましたか」
嫌な予感がして飛び起きた修一が目にしたのは、黒髪ストレートの少女、神原 美月が手に持った『スタンガン』を鞄にしまう姿だった。
美月は残念そうに告げる。
「残念です。これを使えばすぐに起きられると思ったのですが」
「逆に気絶するわ!」
おちおち寝てもいられん。
そんなことを思いながら、修一は再び席に着いた。
さて、とツインテールの少女、君月 結菜がパンと手を打ち全員の注目を集める。
「それじゃ先輩も起きたところで、今週のテーマを発表しますね」
そういって、結菜は部室に置いてあるクローゼットに近づき、一気に開ける。
「今週のテーマはこれです!」
「……これは」
クローゼットの中には、茶色いインバネスコートと、シャーロックホームズハットと呼ばれる帽子が計4つずつ置いてあった。
つまり、
「今週のテーマはズバリ、探偵です」
「今週はコスプレなしだな!」
テーマ発表がされると同時に、修一は今週コスプレするのは中等部4人であり、自分は着なくていいことを理解し、ガッツポーズをした。
ーーーーー
「……どうしてこうなった」
コスプレなしという事実に修一が歓喜した時から数十分後、修一は上代学園の校舎の一角で身を潜めていた。
「せんぱーい、どこいったんですかー?」
「修一さーん、出てきてくださーい」
「修一様ー、どこに行かれたのですか?」
「……修一、どこ」
「き、来やがった」
自分を探す4人の声に、戦慄を覚える修一。
とりあえずひっそりとその場を去ろうとしたとき、
「あれ?夏珪先輩?なにしてるんですか?」
修一はとある人物に声を掛けられてしまった。
声をかけた人物は名前は知らないが、野球部の後輩だったはずだ。
そしてその後輩の声により、4人組が反応する。
「……お前覚えとけよ?」
「え?」
後輩にそう言い残し、修一はもはや足音を隠すことなく猛ダッシュでその場を離れようとする。
そんなとき、こんな声が聞こえてきた。
「「「「見つけた」」」」
いつもは何も感じることがないセリフだが、4人同時に言われると、何かしらの恐怖を感じる。
そんな恐怖心に打ち勝ちながら、修一は一心不乱に駆け出した。
駆ける修一の背後から、こんな声がおってくる。
「「「「まちなさい、限定スイーツ」」」」
……さて、ここらでどうして修一がこのような事態に陥っているか説明しよう。
時間は修一がガッツポーズをした時までもどる。
あのあと、結菜が今週のテーマの説明を行った。
「今週のテーマは探偵、まぁこの服を着るのはお察しのとおり私たち四人です。それで何をするかですが……まぁ探偵というと人探しだのいろいろあるのでかくれんぼ+おにごっことしましょう」
「つまりどういうことだってばよ」
「つまりこの学園内全体をつかっての1対4の勝負です。ということで修一さん逃げてくださいね」
「はいよ」
まぁ適当に手を抜いて捕まればいいだろう。
そう修一が思っていたとき、結菜がとある言葉を言い放った。
「修一さんを捕まえた人は報酬として、駅前にできたスイーツ専門店を修一さんがおごってくれます」
「「「……っ!」」」
「……は?」
その瞬間から、修一は追われるものから、狩られるものに変わったのだった。
……そして今に至る。
「「「「まてー!」」」」
「うおぉ今月は金欠なんだ、散財してたまるかぁ!」
修一としてはそういった理由もあって逃げているのだが、一番の理由は、
「にがしませんよー!」
「待ってください!」
「待ちなさい!」
「……まて」
喜々……いや、鬼気として追ってきている4人の勢いが原因であろう。
修一は、必死で逃げ続けるのだった。
ーーーーー
「はぁ……はぁ……撒いたか」
修一は上代学園グラウンドの角にあるプールのそばで息を整えていた。
プールの中では水泳部が練習をしている。
「とりあえずここでひとやすーー」
「ーーみつけた」
ひとやすみしようと言おうとしたところで横から声を掛けられた。
「……」
「スイーツ、プリーズ」
恐る恐る声の聞こえたほうを見れば、そこにはショートカットの少女、東方 綾音がいつも通りの無表情で立っていた。
彼女はいつも必要最低限のことしか言わないが、その言葉でだいたいの目的がわかる。
「……っ!」
「……逃がさない」
修一はすぐに、逃亡を選択した。
ーーーーー
「よ、よぉし……撒いたっ!」
修一は何とか綾音を撒き、自分のクラスの教室に身を潜めていた。
教室内にはもはや人はおらず、しんとした雰囲気のみが存在していた。
「さて、今度こそ休もーー」
「ーーふふふ、どこですかー修一様ー」
一息入れようと修一がつぶやいたとき、廊下の方から美月の声が聞こえた。
初対面でスタンガンを食らわされたことから、修一の中では一番の危険人物という認識である。
現在もバチバチという音をさせながら、廊下を徘徊しているようだ。
「ふふふ、スイーツ……何を買ってもらいましょう」
「(お前自分の財力で買えるだろうがっ!)」
修一はそんなツッコミをこらえながら、教室で身を潜めた。
ーーーーー
「ああああああ!くんなああああああ!」
「逃げないでくださいよスイーツ……まちがえたせんぱーい!」
美月をやり過ごした後、修一は結菜に見つかってしまい、必死に逃げていた。
現在地は中庭、学園の事務員や清掃員の人たちの尽力により、落ち葉などはしっかりと掃除されている。
そこを修一は、フェイントを入れつつ結菜を躱しながらぐるぐると回っていた。
結菜は修一を追いかけながら声をかけてくる。
「ふっふっふ、先輩そろそろ疲れてきたでしょう?もう休んでもいいんですよ?私の膝枕でお休みはいかがです?お代はしっかりといただきますが」
「そのお代が最低でも4桁行く時点で検討の余地はねぇ!ぼったくりにもほどがある!」
「失礼ですね。こんな美少女に膝枕してもらえるんですよ!4桁飛んでいくくらいなんですか!」
「そういうのは裕福なおじさんに頼め!親の小遣いだよりの高校生にたかるな!」
「あっ!」
「じゃーなっ!」
言い争いながら修一はなんとか結菜を抜き去り、そのまま全力疾走でその場を離れるのだった。
ーーーーー
「も、もう無理……マジ死ぬ」
修一はぜぇぜぇと息を吐きながら、スタート地点、職業体験部の部室へと来ていた。
「灯台下暗し……あと少しで部活終了……最後の賭けだここにこもろう」
そう独り言をつぶやきながら、修一は部室へ入り、さすがに椅子に座るわけにはいかなかったので壁によりかかった。
そのまま息を整えていると、
「修一さん……大丈夫ですか?」
「あ、あぁなんとか……え?」
声を掛けられ、それに返事をした。返事をしたはいいが、そこで修一は違和感を覚え、声を掛けられた方を向いた。
「ど、どうも」
「……」
そこには長い黒髪を後ろでまとめた少女、平沢 美代が立っていた。
修一は、天井を見上げつぶやく。
「……もう煮るなり焼くなりすきにしろ」
「……相当追われたようですね」
美代は苦笑するしかなかった。
そして部活が終わり、修一は美代にスイーツを奢ることになった。
ちなみに美代が部室にいた理由は、修一を追いかけているうちに疲労し、もういいやとあきらめたからだという。
「……無欲の勝利か」
「え?なにかいいました?」
「いや、べつに」
修一は絶望しながら、幸せそうにスイーツを食べている美代を眺めるのだった。
アオイです。
……うん、これじゃタイトル詐欺ですね。
学園の内部を色々と描写しようと思っていたんですが……どうしてこうなった。
ていうかコメディ要素が少ないような……気にするまい。
いや気にしろよといわれたら、もう土下座しかありませんねははは!
……もうしわけないorz