勧誘と学生服
……夏が終わり、山中の木々が赤く染まり始めているころ、都会と田舎の中間に位置しているくらいの発展具合である上代町、そこに存在する中高一貫の学校、上代学園ではグランドでは運動部、教室では文化部がいつものように活動にいそしんでいた。
……そんな中、上代学園の職員室で一人の生徒と教師が向かい合っていた。
「……本当にいいのか?」
そう、確認するように、椅子に座って生徒と向かい合っていた教師はそういった。そう聞かれた生徒は、うなずき、
「はい、もともとそこまで熱心にやっていたわけではなかったし、未練なんかもないですよ」
そう、苦笑いをしながら言う。
それを聞いた教師は、そうか……といいながら、手元のプリントを見る。
そのプリントには、『退部届』という文字が大きく書かれていた。
「それじゃあお世話になりました」
「あぁ……まぁこれからは勉強も頑張ることだ」
「うわぁ……いきなり嫌なことを言ってきますね……それじゃ失礼します」
「あぁ……お疲れさま、夏珪」
教師の冗談?に再び苦笑いをした生徒はその後、教師にぺこりと頭を下げた後、職員室を後にする。それに対し、労いの言葉をかけ、その背を見送る。
ーーーーー
「……さて、帰るか」
職員室を後にした生徒、夏珪 修一は、一度自分のクラスの教室に戻り、荷物をまとめ、帰宅のため校門へ向かう。……その途中、修一はグランドに目を向け、そこで練習している部の部員たちに目を向ける。そこには昨日まで修一が活動していた、野球部の姿もあった。
「……ご苦労なことで」
そうつぶやきながら、修一は肩に掛けていた鞄を掛け直し、再び歩き始める。
「ん?」
そして校門につくと、修一はある物を目にする。
それは、制服から見て、中等部の学生なのだろう少女が何やら腕に大量のプリントを抱え、立っている姿だった。(ちなみに中等部の制服は白、高等部は黒となっている。)
気にはなったが自分には関係ないだろうと判断し、修一は少女の横を通り過ぎようとする。
……すると、
「あ、あのっ!」
「ん?」
ちょうど通り過ぎようとしたところで、少女が意を決したように、修一を呼び止めた。
何事かと修一が彼女の方を向くと、
「え、えっと……これを」
びくびくしながら、修一に手に持っていたプリントの一枚を渡してきた。
「は、はぁ……どうも」
訳の分からないままそのプリントを受け取り、その内容を見てみる。
そこにはこう書いてあった。
『職業体験部 部員(高等部学生に限る)募集中! 今はいると素敵な美少女4人と仲良くなれますよ』
「……なんだこりゃ?」
不審に思いながらも、修一はプリントを渡してきた少女を見る。
少女は内気なのか、びくびくしながらもプリントの内容について説明をする。
「え、ええと……あ、あなたは制服から見て高等部の方ですよね?」
「……あぁ」
「そしてこの時間に帰るということは……帰宅部ですよね?それに特に家に帰っても予定のない」
「……そうだけど」
たしかに、今日部活をやめたばかりの修一は帰宅部であり、家に帰ってもすることはない。
それを聞いた少女は、ほっと安心したような表情をして続ける。
「そ、それじゃあ……いまから私たちの部を見に来てくれません……か?」
「……」
そう言われ、修一は少し考え込む。
確かに修一は家に帰ってもすることがなく、暇だ……確かに暇だが……
「……(チラ」
「?なんですか?」
「……いや」
考え込みながら、修一は少女の顔を見る。
少女は長めの黒髪を後ろで三つ編みにしてまとめていて、顔は整っていて、くりっとした目が印象的でどこか小動物を連想させる。
……結論から言うとこのプリントの内容のとおり美少女という認識はあっているだろう。
……しかし、修一としてはこの少女がかわいいという事実よりも、まず思うところがあった。……それは、
「(この部活怪しい!)」
ということである。
このプリントにはその部活の詳しい内容が入ってない。そしてこの少女はいきなり見学を進めてきている。
この時点で連想するのは、まるでどこかの詐欺グループのようだ、ということである。きれいな子を当てて、食事などに誘った後に安いツボを高く買わせる……そんな手口を修一に連想させた。
そう考えた修一は、この誘いを断ることにした。
「……悪いけど、遠慮させてもらうわ。今のところ部活に入るとか興味ないし」
「……そうですか」
それを聞いた少女の目は、悲しそうに見える。
それを一瞥し、修一はその場を去ろうとする。
「……あの」
「ん?」
しかし去ろうとしたところで、修一は再び少女に声を掛けられた。
なんだろうと、修一が少女の方を向くと、
「……ごめんなさい!」
と、少女が頭を下げてきた。
「はい?なんであやまばばばばばっばばばばば!?」
なぜ謝るのか、そう聞こうとしたとき修一の体に何かが押し当てられたと修一が感じた後、体に電流が走った。
それは並の高校生なら簡単に気絶するほどの電流だったようで、先ほどの少女が心配そうにこっちを見ているのを見たのを最後に、修一は意識を手放した……。
ーーーーー
「……ん……ここは?」
「あ、目が覚めました?」
目を覚ました修一は、まずここがどこなのかを確認した。どうやら修一はベッドに寝かされているようでまず見えたのは天井、そしてその天井から、ここがどこかの教室なのだろうと理解する。
その後、声を掛けられた方を向く、声からして先ほどの少女なのだろうと思っていたが……
「……は?」
修一は目の前の光景に理解が追いつかなかった。
確かに目の前にいたのは先ほどの三つ編みの少女だったのだが……中等部の制服を着ていたはずの彼女は現在、薄いピンクのシャツとミニスカートに小さな四角い帽子をかぶる……いわゆるナース服を着ていた。
「何その恰好?」
ひとまず修一は本人に聞いてみることにした。
「あ、これですか?ユナちゃんに看病するならこれだって着せられて……それより体調は大丈夫ですか?」
「え、あぁ……なぜかちょっとしびれてるけど……あれ?動けない?」
体調を確認され、ひとまず起き上がろうとした修一だが、なぜか起き上がるどころか、身じろぎ一つできなかった。とりあえず頭は動くので首を曲げ、自身の状態を確認する。
修一の体は……縄でベッドに縛り付けられていた。
「……は?なにこれ?ぬ……ぐ……このっ!」
「……逃げるといけないからってみっちゃんが、ごめんなさい」
「謝るくらいならほどいてくれませんかねぇ!?」
体に力を入れ、どうにか脱出しようとしている修一に謝罪する少女。修一はそんな彼女に、縄をほどくように要求するが、
「ダメですよー、見るからに逃げる気満々じゃないですか」
と、別の方向から声が聞こえた。
声が聞こえた方向を見ると、そこには3人の少女が立っていた。3人とも三つ編み少女と同じ制服なので中等部の学生なのだろう。少女たちはそれぞれ、黒髪に短めのツインテール、ストレート、ショートカットの髪型をしていて、外見上は三つ編み少女と同じく美少女と言えるだろう。
そしてツインテールの少女が言う。
「せっかく見つけた優良物件です。逃がすわけにはいきません」
「優良物件てなんだこら!」
「そうですね、では説明してあげましょう」
「まずは縄をほどけ話はそれからだ!」
何かを言おうとするツインテール少女にとにかく縄をほどけという修一、話はまとまらず、お互いの主張を言い合うだけであった。そんなとき、ストレートの少女が一歩前に出て、
「話を聞かないとまたやっちゃいますわよ?」
ポケットから黒い長方形の物体を取り出しながらそういった。取り出したものは、スタンガンだった。
「ちょっ……あの時の電流お前かよ!なんでそんなもんもってんだ!?」
「防犯グッズですわ」
「防犯グッズならまずは防犯ブザーあたりから始めろ!」
「持ってますわよ?」
「防犯しっかりだなこの野郎!ていうか防犯グッズで犯罪犯してんじゃねぇよ!?」
「私たちまだ未成年ですわ」
「んなもん免罪符になるか!」
ーーーーー
しばらく口論?が続いた後、ツインテール少女が切り出す。
「それじゃ説明させてもらいますねー」
「結局縄はこのままかよ!」
「……わかりました、ほどきますからちゃんと話を聞いてくださいね」
そして、縄をほどいてもらったあと、ベッドに座った修一にツインテール少女が説明を始める。
修一としてもここで逃げたらまたひどい目に遭いそうなのでおとなしく説明を聞くことにした。
「ええと、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は君月 結菜です」
「神原 美月です」
「……東方 綾音」
「あ、平沢 美代です」
順にツインテール、ストレート、ショートカット、三つ編みの少女が自己紹介をする。
「……夏珪 修一だ」
とりあえず修一も挨拶をする。
「ええと、それじゃ修一さんをお招きした理由を説明させてもらいますね」
「拉致の間違いだろ」
「……いちいち突っ込まないでください……修一さんを連れてきた理由はこれです」
そういって結菜は修一にプリントを渡す。そのプリントは、修一が美代からもらったものと一緒だった。
「……これがなにか?」
「簡単に言うと部の勧誘ですね。この学園の部活動を立ち上げる条件は知ってますね?」
「……顧問と部員五人以上かつ高等部の学生を一人は入れる……だったな」
「そうです。今現在私たちは4人、顧問の先生は確保できたので、もう一人もすぐ集めれると思っていたんですが……」
「全く集まらずに今に至ると」
「そうです、だからこうやって帰宅部かつ暇であろう人を見つけたらプリントを渡して、勧誘しようとしたわけです」
「それがなんでスタンガンを食らう羽目になるんだ?」
「それは……」
「それは?」
結菜は返事を一度ためて、言った。
「あなたが断ったからです」
「つまりどうあっても確保する気だったと……」
「ええ、せっかくの優良物件でしたから……この季節に帰宅部で暇そうな人はなかなかいないんですよ?」
「人権って知ってるか?」
「別に暇なら名前だけでも貸してくれてもよくないですか?」
「聞けよ」
修一の抗議を全く聞かず、結菜が頼む。
修一は抗議は無駄だと理解し、部についての質問を始める。
「ていうか職業体験部だったか?何する部活なんだ?」
「そうですね……ちょうど今の美代ちゃんみたいなことをする部活ですかね?」
そういって、ナース服を着ている美代を指す。
「簡単に言うと、いろんな職業の人か着る制服を着て、その職業の仕事を体験してみるという部活です」
「……」
それを聞くと修一は少し考え込み、とあることを言った。
「つまりコスプーー」
「--違います」
コスプレするのか?という言葉を食い気味に否定された。
「コスプレ研究会なんかじゃありません、職業体験部です」
「いや一緒じゃーー」
「ーー違います」
「お、おう」
再び否定され、修一は折れた。
それを見た結菜は続ける。
「ということで、私たちの部活に入ってくれませんか?ていうか入りましょうよ。メリットはあれどデメリットなんかほとんどありませんよ?」
「……メリットって?」
そう修一が聞くと、結菜が胸を張りこういう。
「なぜなら4人も美少女がいるんですから!ハーレムですよハーレム!」
「……あんまりうれしくないハーレムだなぁ」
それを聞いて修一は今日何度目かわからない苦笑いをする。
そして修一は、ずっと思っていたことを聞くことにした。
「ていうか俺に拒否権ってあるのか?」
「え?あると思ってたんですか?」
「……ははは、だよなぁ……はぁ」
再び苦笑いをした修一は、あきらめたようにため息をし、顔を上げる。
「わかった……ひとまず名前を貸すだけな」
「ありがとうございます、ではこれにサインを」
そういって結菜は『入部届』とかかれたプリントを渡してくる。
修一はそれに名前を書き、結菜に返す。結菜はそれを受け取り、再びいう。
「あ、一応部長ということになりますから週に何度かは顔を出してくださいね」
「おいきいてねぇぞなんだそれ」
「行ってませんからね、それじゃよろしくお願いします。部長」
「よろしくお願いいたします」
「……よろしく」
「よ、よろしくおねがいします!」
4人がそれぞれ頭を下げてくる。
もうサインをしてしまった修一には、それを受けるしか道はなかった。
もう一度溜息を吐き、修一はよろしく、と返事をした。
アオイです。
この作品はなるべく一話完結にするつもりです。
不定期投稿ですが、楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
それではよろしくお願いします。