針ねずみ、糸ねずみ
「針ねずみがいるのだから、
きっと、対になる糸ねずみもいるのだろう。
余は糸ねずみを見てみたい、すぐに捕まえてこい」
突然、そんなことを王様が言い始めた。
この王様はたいへん我が儘で、
気に入らないことがあるとすぐ首をはねてしまうことで有名だった。
そんな王様に、こんな無理難題を言われてしまったのだから、
城の使用人たちはさぁたいへん。
万が一、どこかにいるかもしれないと探しに行くもの。
このままでは殺されてしまうと、逃げ出す機会をうかがうもの。
どうにかして騙せないかと、手持ちの糸でねずみを作ろうとするもの。
結局どの使用人も、王様の満足する答えを出すことができず、
次から次へと殺されてしまう。
そして、最後の一人――。
先月から城に勤めることになったばかりの新人に、王様が言った。
「いっこうに糸ねずみが見つからないではないか。
余はもう待ちきれん、三日で見つけてこい。
見つけられなかったときは――お前も首をはねてやる」
とうとう自分の順番が来てしまった新人は、
三日間――悩みに悩んだ。
「どうしよう。どうしましょう」
糸鼠など聞いたことがない、逃げられるわけがない、
王様を騙すことができるような精巧なねずみも作れない。
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そんなこんなで、約束の三日が来てしまう。
「さて、三日経ったぞ。
糸ねずみはどこにいる」
悩みぬいた末に、新人は――、
台所にいた、普通のねずみを持ってきた。
「なんだこれは、普通のねずみではないか。
もういい、こいつの首をはねてしまえ」
震える声で、新人が言う。
「待ってください、王様。
このねずみこそ、針ねずみの対となるねずみです」
差し出されているのは、普通のねずみである。
当然、針も、糸もない。
「なにを馬鹿なことを。
そのねずみのどこに糸が付いてあるのだ」
「このねずみの使う部分は、皮でございます。
針ねずみの針をご覧ください」
そう言うと新人は――、針ねずみの針を王様に見せる。
「……糸を通す穴が開いてないじゃありませんか。
針ねずみの針は縫い針じゃなくて、まち針です」
確かに、穴の無い針では縫物をすることはできない。
さすがの王様も、新人の言い分に納得せざるを得なかった。
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こうして、機嫌を損ねずに済んだ新人は、
たくさんの褒美を王様に貰った。
その後新人は、間もなく城勤めを辞め、
たくさんの褒美を持って、遠く離れた田舎で静かに暮らしているそうだ。
リハビリ三題噺第十一弾
[糸] [鼠] [王]
童話です、またです。
短くてもしっくりくるからでしょうね。
その短さ故に、あらすじで内容の大半を書いてしまうわけで。
書いてないのオチだけだよ。そもそも、本題に入るまでが短いもの。
※2016/01/11 更新
タイトル変更しました
三題噺 [糸][鼠][王]
↓
針ねずみ、糸ねずみ




