会議しました
午後、再び五人は研究所応接室に集まった。
「皆さん大分打ち解けたようですね。これから皆さんで協力し合って行動していただくので良かったです」
本宮はさらに続けた。
「あなた達の能力の事はあなた達五人、そしてこの研究所の職員、そして総理のみが知る事です。たとえ親兄弟、恋人にも知られてはいけないのです。もし他人にあなた達の能力が知られてしまったらどうなると思いますか?」
皆顔を見合わせた。
「俺なんか普通の生活に戻ったらすぐにまわりにバレるよな。バカな俺が急に天才になったんだもんな」
直樹が言った。
「俺は人に見られる所では飛ばないと思うけど、万が一見られたら……」
「私が彼女だったら乗せてって言っちゃう」
涼平の言葉に望が反応した。
「私が普通の生活に戻ったら……嫌な事あったらすぐ逃げちゃう」
「そんな事したらすぐバレちゃうよ」
望の言葉に冴子が言った。
「私と佐々木さんの能力が他の人に知られたら誰も近づかなくなりますね」
曽我部が言った。
「昨日本宮さんとちょっと話したけど、スパイみたいな仕事だって言ってましたよね。よくスパイ映画では悪者に襲われたりしますよね」
冴子の言葉に皆言葉を失った。
「それが一番怖いのです。襲われる理由は二つ、一つは仲間にしようとしてです。悪い組織に無理矢理協力させられ犯罪に加担させられます」
「協力しなかったら……」
冴子が聞くと本宮は静かに答えた。
「命の保証は出来ないかもしれません」
今まで能力がついて浮かれていた五人は、今さらながらここへ来た事を後悔した。
「襲われるもう一つの理由、それはただ単に邪魔者の排除と言うことです」
五人は言葉を失った。やっぱり上手い話は無かったんだ、と生きていて一番後悔した。
「そのため誰にも知られてはいけないのです。しかし活動を始めると知られていく事は避けられません。」
「どうすればいいんですかー?」
半分泣きながら望が聞いた。
「ですから誰にも知られてはいけないのです。どこに住んでいる誰なのか、特定されないよう細心の注意が必要です。そのためにあなた達は協力しあい、連絡を取り合い、助け合わなければならないのです」
「それでここが何処なのか、私達にも隠していたのですね」
曽我部が言う。
「携帯も圏外だしな」
直樹が言った。
「圏外!?」
電話する相手が居なかった冴子は驚いた。そこまでして外部と隔絶させられていたとは。
「ゲームやろうと思ったら出来なくてさ」
直樹が言った。
「はい、今までは外部との接触を強制的に断絶させて貰っていました。敷地内では使えますが。さて、これからですが、皆さんどうしますか?」
どうといわれても……と皆思った。外部の人に自分たちの事が知られるのは怖い。
「私は特に今のままでも良いですが、時々本を取り寄せたいです」
曽我部が言った。
「俺はゲーム機とソフトがあればいいかな」
直樹が言った。
「私はテレビでアニメ見てるから大丈夫です」
望が言った。
「俺もテレビで映画見ます」
涼平が言った。
「私も別に」
そう言って冴子は不思議に思った。誰一人家族に連絡したいと言わなかった。私は大分前から家族とは音信不通だから良いけど、他の人達もそうなのだろうか。だって望はついこの間まで学生だったのに。
選考には家族関係が良くない事もあったんだな、と冴子は思った。
「では当分はこのままでよろしいですね。何かありましたら私に言って下さい」
誰も何も言わなかった。逆に世間のしがらみが無くなってせいせいした感すらある。
「あの、もしも私達の事を知られてしまったらどうなるんですか?」
これから仕事をしていって、もし姿を見られたら。姿を見られなくても絶対おかしいと思われるはずだ、と冴子は思った。
「任務が終了したら曽我部さんに現場の確認をしていただきます。姿を見られていないか、何かを残してきていないかをです。忘れ物があったら水沢さんに取りに行って貰いましょう。そして姿を見られてしまった場合は私の方で処理します」
「処理?」
「そこら辺は気にせずに」
気にせずにと言われたが、尚更気になった。でも知らない方が良さそうなので誰も深く追及しなかった。
「さて、では演習の方を進めていきましょうか。進め方としては一人ずつ行いますので他の方達は寮のほうでゆっくりしてもらっていていいです。順番が来たら連絡します。時間は任務により異なるのでいつ連絡できるかはわかりません。
最初はどなたから行きますか?」
少しの間があったが「では私が」と曽我部が立候補した。
曽我部を残し、他の四人は寮へ戻った。
「さて曽我部さん、あなたには調べて貰いたい事があります。最近大手の金融機関にコンピューターウィルスが送られてくる事件が頻発しています。それと共に顧客情報も漏れてしまっているようなのです。犯人の特定と目的を探って欲しいのです」
寮に戻った四人は、何となく食堂に集まっていた。コーヒーや紅茶、ココアは置いてあり、自由に飲めた。それぞれ好きな物をカップにいれ、テーブルに付いた。
「なんか、映画の中の話みたいだね」
呑気な発言の望だが不安そうな顔だ。
「俺としてはゲームの世界だな」
直樹らしい台詞だが笑顔は無かった。
「ついでに透明になる能力も付けて貰えば良かった」
目立つ能力の涼平は心配そうに言った。
「皆不安?」
冴子が聞いた。
「うん」
望が即答するのと同時に皆頷いた。
冴子は三人に意識を集中してみた。皆が安心出来ますようにと強く思った。
少しすると「皆幸せになれるように頑張ろう」とか「平和な世界になれたらいいね」とか「いい仲間ができて良かった」とか、皆前向きな言葉を口にし始めた。
癒しの効果があったのかな、と冴子はちょっと安心した。