身に付きました
「皆さんおはようございます。昨日はお疲れ様でした。今日は皆さんに能力が身に付いたか確認させてもらい、少しづつ練習していきたいと思います」
「え? 私昨日は寝てしまって何もしてないです」
冴子は昨日寝てしまい、これという事は何もしていない。人の心を読めるようになんてなっていない。
すると「俺も」「私も」と皆が言った。
「大丈夫です。皆さんが寝ている間に施術は行われました。もう能力は身に付いているはずです」
「でもそんな実感ありません」
皆が口を揃えてそう言った。
能力が身に付いているなら皆の考えている事がわかるはずなのに、と冴子は思った。
「使ってみましたか?」
にっこり笑って本宮が言った。
そう言えば使えるなんて知らないから使って無かった。そう思った冴子は望に集中しようとした。その時望が消えた!
(うわー、うわー。凄ーい! 本当にこんな事出来るようになったんだ)
望の声が聞こえた。その時、
「うおー、スゲー‼」
上から叫び声が聞こえてきた。見上げると涼平が天井にへばりついて興奮していた。
「み、水沢さん……温泉に入ってますよ。どこかの秘境の露天風呂らしいですが。いえ、これ以上は止めておきます」
曽我部が珍しく焦りながらそう言った。まるで望の入浴シーンを見ているかのようだった。
「なになにー?皆凄いね。皆しっかり能力身に付けちゃってるんだ」
ただ一人、皆の様子をただ眺めていた直樹が言った。そういえば直樹は何もしていない。
「ではこれをお願いします」
そう言って本宮は直樹の前にやたら難しそうな数式の書いた紙を置いた。
「なんだこれ。見たことないけど」
そう言っている間に勝手に手が動き、解答を書き終えていた。
「す、凄い……」
とても頭の良さそうに見えない直樹が見たことも無い数式をあっという間に解いてしまった。
「これを使えばもっと早く解けますよね」
そう言って本宮はパソコンを直樹に差し出す。直樹は「俺パソコンなんて学校の授業で触っただけで、電源入れるくらいしか出来ねえ」と言いながら、ブラインドタッチで猛スピードでキーを叩いて行く。
画面を見ると、本宮そっくりの似顔絵がアスキーアートで描かれていた。
「何これ、写真?」
さっぱりとした少し火照った顔をして硫黄の匂いを漂わせた望がパソコンの画面を見て驚いていた。
「俺、天才かも……」
一番驚いているのは直樹だった。
そんな皆の様子を嬉しそうに眺めながら本宮が言った。
「皆さん無事に能力を身に付けたようですね」
確かに皆、あり得ない、凄い能力を使えるようになっている。
「見ていて大体判ったと思いますが、詳しく説明させてもらいますね。
まず曽我部さん。彼は普段は目がほとんど見えませんが、新しい能力を身に付け、世界中のどこの様子も見る事が出来るようになりました」
「え、じゃあ服の下とかも?」
望が心配そうに聞いた。
「見ようと思えば見れるはずです」
本宮が冷静に答えると「そんな事しません」とかなり焦りぎみに曽我部が答えた。
「曽我部さんには調査や偵察のような仕事をしてもらおうと思います」
「はい、頑張ります。悪用は絶対にしないので皆さんご安心を」
曽我部は落ち着きを取り戻し、笑顔でそう言った。
「次に川村さん、彼は自分の足では歩けませんが飛ぶことが出来るようになりました。地上を浮いて進む事が出来るので地雷があっても大丈夫ですね」
「え、そんな危険なところへも行くんですか?」
「まず無いと思いますが、近い状況は覚悟しておいて下さい」
「はい……頑張ります」
「それから、川村さんは柔道をやっておられて上半身の力が強いので、現場まで飛んで行って救出も出来るのではと期待しています」
「この体で人を助けられるとは思いませんでした。とても嬉しいです」
さっきの本宮の言葉で顔面蒼白になっていた涼平だったが、今の言葉で喜びに溢れた笑顔に変わった。
事故以来人の世話にばかりなっていた自分が人の役に立てると思うと、涙が出る程嬉しかった。
「次に水沢さん、水沢さんは瞬間移動が出来るようになりました。世界各国何処へでも瞬間的に移動出来ます。先程はどちらへ?」
「えへ、ちょっと秘境の温泉まで。いいお湯でした」
ちょっと舌を出し、満足げに望が言った。
「水沢さんと手を繋ぐと他の人も瞬間移動出来ます。水沢さん……帰りもちゃんと連れて帰って来て下さいね」
「気を付けまーす」
望だったらやりかねない。自分たちで気を付けないと、と冴子は思った。それにしても本宮も冗談めかした事を言うんだなと少し驚いた。
「さて岡倉さんですが、先程見た通り計算能力が優れています。コンピューターの操作にも優れています」
「今日からだけどね」
直樹がおどけて言った。
「コンピューター関連の事件、または色々な犯罪の解析作業などをしてもらいます」
「頭使う事は俺に任せとけ、なんてな」
ふざけた口調だが、自分でも信じられないという顔をしていた。
「最後は佐々木さんですね。佐々木さんは人の心が読めます。何を考えているのか判ります。情報を集めて貰います」
「人の心が読めるって……」
「それヤバイよ、止めてくれー」
直樹と涼平からはかなりのブーイングがあった。
「心なんか読まなくたって、あんた達の顔を見れば何考えてるかわかるわよ」
「……!」
つい地が出てしまった冴子の言葉に二人は黙ってしまった。
「大丈夫よ。私だって変な事は聞きたくないから普段は能力は使わないわよ」
二人はホっとしながらも疑わしそうな視線を冴子に向けてきたが、冴子はソッポを向いて無視した。
「それから佐々木さんにはもう一つ、他者に対して心身共に癒す能力があります」
「えー、傷つけるんじゃなくて?」
直樹は冴子の本質に気付いたようだ。
「頑張ります」
口を尖らせむくれた顔で冴子は言った。
「皆の能力が判ったところで午後からは演習をしていきましょう。さあ、お昼の時間ですよ」
本宮がそう言い席を立った。皆もそれに続いて席を立ち、寮の食堂へ向かった。
食堂では五人が同じテーブルに付き、お昼ご飯を食べ初めた。
「何かびっくり。前から行きたかった温泉を思い浮かべたらいきなりそこにいたの」
「突然居なくなったから驚いたよ」
「俺もさ、飛べる能力貰ったんだっけって思ったら、いきなり天井が目の前だった」
「空飛んだら気持ちいいだろうね」
「今度やってみるよ」
「だけど曽我部……羨ましい能力だよな」
「岡倉さん、いやらしい事考えてる」
「水沢、俺の心が読めるのか?」
「読まなくたってわかるよー、ねえ冴子さん」
「本当、分かりやすい」
「あの私はけしてあなた達が不愉快になるような事に能力は使いませんから」
「曽我部さんは信用してますよ。この能力曽我部さんが身に付けてくれて本当に良かった。他の男子だったら……」
「おい、俺だってそんな事しないからな」
「そんな事って何よー!?」
なんやかやとお喋りしながら食事をして仲良くなり始めてるねー、と大屋は嬉しそうに五人の様子を眺めていた。
皆はまだお喋りをしていたが、冴子はお手洗いに行きたいからと先に席を立った。すると直樹が「俺も」と続いて席を立った。
食堂を出ると直樹が話し掛けてきた。
「さっきは調子に乗って酷い事言ってごめん」
うなだれた直樹を見て冴子は驚いた。
「え、何か言われたっけ?」
しらばっくれて冴子は言った。
「いや、あの……」
「別に気にしてないよ、ていうか私こそ、だな」
冴子があっけらかんとして言うので、直樹は安心したような表情になった。
「俺さ、さっきはテンション上がって調子に乗って、ついふざけた事言っちまった」
「あの状況でテンション上がらない方がおかしいよ。私もせっかく今まで猫かぶってたのに地が出ちゃった」
「俺は最初から自分丸出しだよ」
「私結構言いたい事言っちゃうけど、気にしないでね。悪気はないから」
「お互いに、な」
軽そうに見えた直樹だが、以外に小心者な一面があったのだ。
それを知った冴子は「私が鍛えてあげなきゃ」と勝手に決意した。