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第二の辞令

 冴子は寮の自分の部屋で目が覚めた。

 しばらくボーッとしていたが、段々頭が働いてきて、今までの事を思い出し始めた。


 「誠……」


 朝の八時だった。急いで支度をして食堂へ降りて行った。


 静かだった。

 「あれ、誰も居ないんだ。皆仕事なのかな?」

 冴子は一人で寂しく朝食を食べた。 

 

 九時に研究所へ行った。

 「おはようございます」

 本宮がいつも通りの笑顔で挨拶をした。

 「佐々木さん、留置場で倒れては困りますね」

 「すみません。何も考えずに全力投球しちゃって……」

 「ちゃんと力の加減をしなければいけませんよ。まだ留置場だから良かったけれど、敵の中であんな事になってしまったら、どうなっていたか分かりませんよ」

 「はい、そうですね……」

 確かにその通りだ。もし敵の中で気を失っていたら……かなり危ない。

 でも誠の為だったから全力を使ってしまっていた。自分がどうなるかなんて全然考えていなかった。


 「あの、それで留置場の少年はどうなったんですか?」

 「留置場にいた全ての加害者が、涙を流して反省しました」

 「そうですか」

 取りあえず良かった、これからは立ち直ってちゃんと生きて行ってくれればいいな、と思った。


 「私どうやって帰って来たんですか?」

 「あまりに帰りが遅いし連絡も無かったので、曽我部さんに様子を見てもらい、望さんに連れて来てもらいました」

 「そうですか。迷惑かけちゃったんだ。謝らないと。皆は仕事ですか?」

 「皆さんはもうここにはいません」

 「え?」

 「今回の仕事が本当の研修の確認試験でした。皆さん合格して、本当の職場へ配属されて行きました」

 「えっと、皆合格して出て行っちゃって、私だけ残っているって事ですか?」

 「はい」


 皆いなくなっちゃったんだ……。

 私一人だけ居残り……。

 私だけ合格出来なくて留年しちゃったんだ……。

 皆頼りなくて、私が面倒を見なきゃなんて思って世話を焼いていたのに、皆は合格して私が不合格。

 カッコ悪い。情けない。恥ずかしい。

 寂しい……。


 「今回皆さんも身内の方の事件を担当しました。私情に走らず、肉親だろうと悪い事は悪いと警察に引き渡したり、病気の家族を病院に送り届け、付き添いたい気持ちを抑えて戻って来ました」

 「皆凄いですね。それに比べて私は冷静さの欠片も無くて。もし私が敵に捕まったら皆にも、総理にも迷惑かける事になるのに。本当、私が一番未熟者です」

 冴子はかなり落ち込んでいた。

 皆と協力し合って仕事を解決してきた日々。楽しかった。やり甲斐があった。

 仕事以外でも、話をしたり言い合いをしたり、毎日一緒に過ごして来た。

 一人だけおいてけぼりにされてしまった。


 「佐々木さんには再度治療を受けてもらいます」

 「え?」

 「能力にリミッターを付けます」

 「リミッター……」

 「はい。体力の全てを使いきらないように、逃げる力位は残せるように、リミッターを付ける必要があります」

 「はあ……」

 「そのために佐々木さんには残ってもらいました」

 「え、じゃあ」

 「リミッターが付き次第、皆さんの所へ行ってもらいます」

 

 冴子は嬉しくて涙が出そうだった。

 また皆と一緒に働ける。また人の為になる仕事が出来る。


 「お願いします。すぐに付けて下さい」

 冴子はやる気満々だ。

 「では、地下へ行きましょう」


 冴子は国重博士の施術により、再び催眠療法を受け、リミッターを付けてもらった。

 催眠から醒め所長室へ行くと、本宮とあやめが揃って待っていた。


 「では佐々木さん、辞令があります」

 本宮とあやめが真面目な顔で立っていた。

 冴子はまだ覚醒しきっていない頭で考えた。辞令、私も皆の所へ行けるんだ。

 でも、この研究所から去らなければいけない。本宮とあやめ、大屋さん、国重博士と別れなければいけない。

 「佐々木冴子、本勤務に就くことを命じる」

 辞令を受け取り文面を確認する。発行者は総理大臣だ。本人から渡されていないので、少しは落ち着いていられたが、やっぱり信じられない。本当なら私なんかが関われる人じゃ無いのに。

 「佐々木さんは今後首相官邸の近くにある、特殊任務実行部隊に所属し、そちらの寮に入ってもらいます。今から荷物をまとめて下さい」 

 「もう行くんですか」

 「あちらには曽我部さん達もいますし、あと先輩隊員もたくさんいます。よく教わって、早く一人前になって下さいね」

 「先輩もいるんですか」

 能力をもらったのは自分達だけでは無い事を初めて知った。

 「ここでは民間レベルの任務ばかりでしたが、あちらではもっと国レベルの、大きな任務が待っています。気を引き締めて、冷静に実行しなければ危険です。

 頑張って下さい。期待しています」

 本宮は厳しい表情で淡々と話した。

 国レベルの任務……テロとか国際紛争とかなんだろうか。よく分からないけど、今までのつもりでいては危険だという事は想像出来る。

 「冴子さん、向こうは厳しいけど頑張ってね。こっちで応援してるからね」

 あやめが抱きついて別れを惜しんでくれた。

 「お世話になりました。色々ありがとうございました」

 冴子も少し感傷にひたり、あやめに抱きついた。


 冴子は荷物をまとめ、寮の前に出た。

 いつもの黒塗りの車に黒サングラスの男が車で現れた。

 「どうぞ」

 車サングラス男が、助手席のドアを開けてくれた。最後のサービスのつもりだろうか。

 荷物を車に載せると、冴子は振り返った。そこには本宮とあやめ、大屋さんが見送りに来てくれていた。

 「お世話になりました。向こうへいっても頑張ります。皆さんお元気で」

 そう言って冴子は深々と頭を下げた。


 車は田舎道を走り続け、しばらくすると高層ビル群が見えてきた。

 今度は都会暮らしか、と少しワクワクしてきた。


 思えば田舎で生まれ育ち、一生そこで過ごすんだと思っていたが、あの求人広告を見てから人生が急展開した。

 凄い能力を付けてもらったり、総理大臣から辞令をもらったり。

 遣り甲斐のある仕事を見付けられ、頼もしい上司や仲間と巡り会えた。


 家で暮らしていたら無かった事だ。家を出て良かったと初めて思った。家庭が良くなくて良かったと初めて思った。

 私にこんな素敵な人生を歩ませてくれてありがとうと両親に言いたかった。


 街にはネオンが灯り始めた。

 あのネオンの中で、国の為に働くんだ、皆と一緒に。


 車が警備員のいるゲートを通過し、中の建物の玄関前に近づく。

 玄関の前には望、直樹、涼平、そして曽我部が並んで手を振っていた。

 「冴子遅ーい」

 「ゴメン、お待たせー」


 冴子は建物の中に入って行った。

 荷物と希望を抱えて……。



  


 

 

 

 

 

 


 

 転職ヒーローズ、最後までお読み頂きありがとうございました。

 今回で最終回とさせて頂きます。

 続編も書けたらいいなと考え中です。

 

 拙い物語でしたが、お付き合いして下さった方々に感謝です。  ありがとうございました。


 

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