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それぞれの決着

 直樹と曽我部は、沢山の書類を抱え、所長室へやってきた。

 「本宮さん、ブラック不動産屋の悪事の証拠です」


 実際には無い物件をオトリとして使った広告、オーナーが示した料金にかなり上乗せして契約させた客の名簿、そして裏帳簿等々。


 「これはかなりひどいですね」

 本宮は一枚の報告書を手に取った。

 「部屋の修理代、修理業者からの請求額の倍以上をお客様に請求していますね」

 「はい、借り主はまだ高校を出たばかりの少女です。それも孤児院育ちで、頼る人もいないのです」

 曽我部が補足した。


 「どうしますか? 警察に通報しますか? それとも直樹さんがコンピューターを操作して金額を書き換えるとかしますか?」

 「え、そんな事してもいいんですか?」

 「直樹さんには出来る力があるでしょう。今回だって、報告書を上げなければ誰にも知られずにコンピューターを操作する事は出来たはずです。

 被害者を救う為に良いと思われる道を自分で判断し、自分で行う事も出来るようになってもらわなければ困ります」


 「警察に通報して下さい」

 直樹は即答した。

 「数字を書き換えたところで何も変わらないと思う。今だけは良いかもしれないけど、またすぐに書き換えるよ。それか違う方法を使って、また悪い事をすると思う。きちんとお前達は悪い事してるんだって教えなきゃいけない。そうしないと被害者は増えるだけだ」


 「曽我部さんもそう思いますか?」

 「はい、きちんと被害者に謝罪と被害額の返還、今後の保障をしなければいけないと思います」

 「分かりました。では警察に通報しますね。二人とも、ご苦労様でした」


 本宮は二人を帰し、警察に連絡を入れた。

 「直樹、軽そうなのにしっかりした考えしてたね」

 あやめが涙を拭きながら部屋に入って来た。

 「変わったよな」

 「最初は頼りなくてヘラヘラしてるだけだったのにね」

 あやめは子供の成長を喜ぶ母親の気持ちが分かった気がした。

 「私情を入れず冷静に判断し処理をする。仕事なら当たり前だ」

 「当たり前の事が出来るようになったのねー」

 「そうだな」

 「じゃ、お別れかな」  

 「良い事だ」

 「寂しいけど、晴れの門出だね」

 「また次のが来る」

 「どんな子達が来るのかしらね」

 「まだ全員終わって無いぞ」

 「そうだった。どうしてるかな?」


 

 涼平は病院にいた。と言っても病院内では無く、父親の病室が見える、病室の裏の林の木に止まっていた。


 涼平は登山者の振りをして、偶然倒れてる人を発見したと偽り救急車を呼び、父親を運んでもらった。そして救急車の後を付け、病室まで来た。

 

 本当なら救急車に引き渡した時点で涼平の役目は終わりなのだが、心配で付いてきてしまった。

 病室に運ばれた父親は点滴を付けられベットに寝ていた。

 しばらくの間は医師や看護師が何やら処置をしていたが、落ち着いたのか、誰も居なくなった。

 側に行きたかったが、人に見られそうなので躊躇していると、病室に一人の女性が入って来た。

 母だった。

 父の側に駆け寄り、体を擦った。

 心配そうに手を握り締め、ずっと寄り添っていた。

 しばらくすると父の意識が戻ったのか、母は慌ててナースコールを押した。医師と看護師が再び病室に現れ父と母と少し会話をし、また出て行った。

 看護師が簡易ベットと布団を持ってやって来た。母は泊まり込みで付き添うつもりらしい。


 遠くて良く見えないが、母は笑顔で父に話し掛けていた。


 もう帰らなきゃ。

 涼平は飛び立った。 


 いつか、本宮さんの許しをもらったら両親に会いに行かなきゃいけないと思った。

 父はあんなに後悔していた。罪の重さに耐えられず死のうとまで思っていた。

 

 俺はもう大丈夫だ、ちゃんと働いている。もう俺の事は心配せずにお袋と仲良く暮らせよ。


 そう言ってやりたかった。


 「本宮さん、戻りました」

 涼平は研究所に戻り、これまでの事を報告した。

 「ご苦労様でした。休んで下さい」

 そう本宮に言われたが、涼平はまだ言いたい事があるらしく、帰ろうとしなかった。

 「まだ何か?」

 「……あの、外出しちゃ駄目ですか?」

 「今回の被害者の所ですか?」

 「……あの、無理ならいいです」

 「川村さんが行かないと被害者がまた同じ事をする恐れがあると思うのですか?」

 「多分……」

 「川村さん、私達の事は誰にも知られてはいけないと以前言いましたよね」

 「はい、あ、いいです。忘れて下さい。帰ります」

 涼平が帰ろうとすると本宮が言った。

 「手紙位だったらいいですよ。出す前に私が確認させてもらいますが」

 「本当ですか?」

 「はい」

 「じゃあ書きます!ありがとうございます」

 涼平は急いで寮に戻って行った。


 

 望は部屋の片付けを終え、今は洗濯をしていた。

 「お祖母ちゃん、洗濯物溜めすぎー」

 「ちょっとあんた、何やってんだ。止めてよ」  

 「何でー? 洗わなきゃもう着る物無いじゃん」

 「いいから止めてよ。何でそんな事……」

 「大丈夫だよ。私小さい頃からやってたから上手だよ」

 望は母親の手伝いで家事は小さい頃からやってきていた。

 「あ、もしかして恥ずかしいの? お祖母ちゃんと私の仲じゃない」

 「え?」

 「あ、あのさ、私を孫だと思っていいから、気にしないで」

 危うくカミングアウトしそうになってしまった。

 「あんたの世話になる筋合い無いよ」

 祖母は怒ってしまったようだ。


 「私ね、家出したの」

 祖母は何も言わなかったが、ちょっと動いたような気がした。

 「母一人子一人で暮らしてたんだけどね、私がいるからママは結婚出来なかったり、一人で働いて苦労してたから、私がいなければママは幸せになれるかなって思ったの」

 望は洗濯機が回っている間暇なので、勝手にお茶をいれて飲んでいた。

 「でもね、ママ、今凄く悲惨みたい。私がいる時より不幸になってるみたい。私、何か間違えちゃったのかな……」

 望はお茶をすすりながら、黙って考えこんでいた。


 「あんたは間違って無いよ」

 「え?」

 「娘にそんな事考えさせた親が悪い」

 「そうなの?」

 「そうさ、普通あんた位の年の子は、化粧だ彼氏だで親の事なんて考えないだろ。それが普通でそれが正しいんだ。自分の幸せを考えればいいんだ。親は子供が幸せならそれでいいんだから」

 「……じゃあお祖母ちゃんは、今辛いんだね。娘さんが辛いから……」

 「……あんな子……あんな子……。あの子もあんたと同じで、自分の幸せより周りの事ばかり気にして、だから周りにも気を使わせて。素直に自分の幸せ求めれば良いのにね。そうすれば周りも幸せになるって、何で分からないんだろうね」

 「自分が幸せになると周りも幸せになるの?」

 「当たり前だろ。考えてもみなさい。家族が毎日泣いてるのと笑ってるのと、どっちが幸せだい?」

 「笑ってる方」

 「ま、そう言う事だ」

 「……ママに、今私は幸せだよって伝えたら、ママも幸せかな」

 「当たり前だろ」

 「そうか……」


 洗濯機から洗濯終了のブザーが聞こえてきた。

 「干してくるね」

 「ちょっとあんた」

 祖母がごそごそとバッグをかき回していた。

 「大通りに出る角のところにコインランドリーがあるから、そこ行って乾かしてきてくれないかい」

 「えー?」

 「早く乾いて貰わなきゃ、娘の見舞いにも行けないよ。ああ、見舞いっていうか、入院費払いに行くんだよ。まったく、大人になってまで親に世話掛けて、困った娘だ」

 「お祖母ちゃん……」

 「そこら辺のコンビニで弁当も買ってきておくれ。二つだよ。あんたも食べるだろ」

 「うん!」

 望は祖母から財布を受け取ると、外へ出掛けて行った。


 祖母は久し振りに起きて、食卓に着いた。

 「はい、お茶」

 「ありがとね」

 「いっただきまーす」

 望は祖母と向かい合い、ご飯を食べ始めた。

 

 「ねえ、病室行く時あんたも付いてきてくれないかい?」

 「え、私?」

 行きたい、本当はとっても行きたかった。

 「……ごめんねお祖母ちゃん。私、帰らなきゃ怒られちゃう」

 「そうかい。いや、無理な事言ってごめんね。そうだよ、折角いい所に就職出来たんだから、クビになったら可哀想だ」

 「ごめんね。でも一緒に行ってくれるヘルパーさんお願いしておくからね」

 「あんたには世話になったね。ありがとう」

 急に祖母はいい人になったので望は慌てた。

 「お祖母ちゃん、私こそありがとうだよ。何か変な悩み事聞いてもらっちゃって、ありがとう」

 「何言ってんだよ、あんたとアタシの仲だろ」

 「うん!」

 

 しばらく二人は黙って食べた。

 食べ終わり、望がゴミを片付けていると、

 「何かあったらいつでも相談においで」

 「お祖母ちゃん……ありがとう」

 望は涙が溢れてきた。

 いつかきっと私が孫だとカミングアウトしに来ようと心に決めた。


 「お祖母ちゃん、一つお願いがあるの」

 「何だい?」

 「ママ……娘さんのお見舞いに行ったら、きっと娘さんは大丈夫だよって言って欲しいの。覚悟決めて出てったんだから、きっと必死で頑張ってるはずだって。お母さんの事心配しながら頑張ってるはずだって。もしくじけたら帰る所はお母さんの所しかないんだから、ちゃんとしていてねって」

 「分かったよ。しっかり伝えとくよ」


 別れの時、泣きながら望は祖母と抱き合い、「今度来るまで絶対に元気でいてね」と言って別れた。


 「只今帰りました」

 望は瞼を腫らして研究所に戻って来た。

 「お祖母ちゃんはヘルパーを受け入れるそうです。娘さんのお見舞いにも行きたいそうです」

 「分かりました。後はこちらで手配しておきますね。ご苦労様でした」

 「あ、あの……一つお願いがあります」

 「どうしましたか?」

 「あの、お祖母ちゃんがちゃんとお見舞い行ったか、曽我部さんに見てもらっても良いですか?」

 「自分がした仕事の確認をする事は大事です。曽我部さんに見てもらいましょう」

 「ありがとうございます!」


 望は嬉しそうに寮へ帰って行った。


 

 

  

 

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