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悪徳店舗撲滅作戦(その1)

 コンピュータールームに呼ばれた直樹は言葉を失った。

 「こ、これは……」

 「パチスロの最新台です」

 三台のパチスロ台が設置されていた。

 「すげー。これ新しいの出たんだ。こっちは相変わらすAタイプか。おー、何だこのレバーは? 最近の台は進化してるな」

 直樹の瞳はキラキラ輝いていた。

 「これらはまだ公開されていません」

 「え? そんな台が手に入ったんですか!? 信じられない」

 「まあ、こちらは許可を下ろす立場なので何とでもなります」

 「すげー、そうか、俺は当局の人間なんだ。すげー」

 かなり直樹のテンションは上がっていた。

 「岡倉さんには解析をお願いします」

 「え、良いんですか? て言うか、何か怪しい事でも……」

 「まあ、怪しい事もありますが、そこら辺は置いておきます」

 「成る程」

 「今回はメーカーより店側を調べたいのです」

 「確かに、全台最低設定とか、酷い店があるんですよ。本当かどうか分からないけど、遠隔操作してるって噂昔からあるし、裏ロムとかもあるみたいだし、ホルコンも怪しいらしいし」

 「岡倉さん詳しそうなので良かったです。早く言えば店の不正を調査してもらいます。その為に台の実際の仕様を把握してもらい、それに合わなければ不正の可能性があると言う事になります」

 「そうですね。そんな店いっぱいありますよ」

 直樹はかなり痛い思いをしたようだ。

 「岡倉さんはパチプロだったんですよね」

 「どっちかと言うとスロプロです。スロプロって言っても皆分かんないからパチプロって言ってました」

 「確かにそうですね。で、どうやって攻略していたんですか?」

 「先ずは解析を見て、設定別の当たりの確率を確認します。次は設定判別ですね。レア小役の出現確率とか、そこからの当たり確率とか。まあ、数字を覚える事が多いです。それで設定の良さそうな台を選びます。

 でもそれだけじゃ勝てません。台の癖や店の傾向をリサーチしたり、店員と仲良くなって情報を得たりしてました」

 「店員が教えてくれるんですか?」

 「いやいや、流石に今日はこの台出ますとかは教えてくれないけど、ちょっとした事、今度の店長はどうだとか、今日はあっちが出てるとか」

 「成る程。では早速、解析をお願いします。どの位かかりますか?」

 「一台六日はかかるので丸十八日は掛かると思います」

 「そんなに掛かりますか」

 「飲まず食わずで、やっとそんな感じです」

 「……じゃああと二人、連れてきましょう」

 

 冴子と望もコンピュータールームへ呼ばれた。

 「へー、これがスロット。どうやるの?」

 二人供パチンコ屋には行った事が無いので興味津々だ。

 「コイン三枚入れてレバー叩いて三つのボタン押せば良いだけだから。データ集めだから何も考えずにひたすら回せば良い」

 「回すって? どれ回すの?」

 「メダル入れてボタン押すまでで一回回した事になる。で、チェリーが左の枠に止まる回数や、スイカが揃う回数をカウントする。スイカも斜めか横並びか中段かも記録する。あと、何回回したらボーナス来たとか、そう言うのも皆記録してね」

 

 それ以外にもチェックする事、打ち方等をレクチャーし、打ち始めた。


 「場面変わったよー」

 「チャンスって言ったけど……」

 

 冴子と望はちょっと変わった事があるたびに聞いてくる。

 「数だけしっかり数えておいてくれ。演出は俺が見てて、大事だと思ったら記録するように言うから」

 直樹は真ん中の台に座り、両隣の台も見ながら打っていた。


 そしてひたすら打ち続けた。

 たまにあやめが差し入れにコーヒーやおにぎりを持ってきてくれた。

 

 「直樹、毎日こんな事してたの?」

 はまっていて演出もほとんど無く、冴子は飽きてきていた。

 「開店から閉店まで、ほぼ毎日」

 「忍耐力あるんだね」 

 「忍耐力って言うか、生活の為だよ。リスクの高い仕事だよ」

 「儲かるの?」

 「コイン一枚いくらだと思う?」

 「一円?」

 「一枚二十円。で一回回すのに三枚だから六十円」

 「えー、私もう二百回してるから……一万二千円使ったって事?」

 「まあ、途中小役があるからもう少し少ないよ。でもボーナス来れば……」

 「直樹ー、戦って勝ったよー」

 望にボーナスが来た。

 目押しを直樹がしてボーナス図柄を揃える。楽しそうに望が消化していく。


 「……終わっちゃった」

 ARTに入らず、五十枚足らずでボーナスは終った。


 「こんなんで儲かるの?」

 「ボーナスの後ARTって言う、コイン減らないで増えるだけって言うのに当選すると良いんだよ」

 「へー、そんなのあるんだ」


 そうして閉店時間、二十三時になった。

 「面白かったー」

 望はドル箱五箱を積んでいた。

 「今日は全台六だったから、出たなー」

 直樹が三箱、冴子も二箱積んでいた。

 「六って?」

 「ああ、設定が六段階あって、六が一番出て、一が出ない。店では六なんて入れないけどな」

 「じゃあ明日からは出なくなってくんだね」

 「多分ね」


 「さあ、皆さんは休んで下さい。夜中は私達が打ちます」

 本宮、あやめ、そして久し振りに出て来た国重博士が台に座った。

 直樹は設定を変え、説明しようとしたら、

 「大丈夫よ、私が皆に教えるから」

 とあやめが嬉しそうに打ち始めた。

 「私の方が直樹よりスロ歴長いわよ」

 

 三人はかなり疲れたので、直ぐに寝てしまった。


 そんな生活が三日続いた。幸い事件も起こらず、データ収集に専念出来た。

 冴子と望はすっかりスロットを覚え、目押しも出来る様になった。


 「さあ直樹さん、データです」

 本宮が分厚い書類を直樹に渡した。みんな青白い顔をして、肩や腰を痛そうに押さえていた。

 「ありがとうございます。では早速まとめます」

  

 直樹はコンピューターに向かい、データを入力していく。

 設定別のボーナス確率、出玉率、レア小役出現率、ART突入率……。

 直樹は一晩かけ、三台分の解析を完成させた。


 朝、解析を終わらせ、コンピュータールームで寝てしまっていた直樹を本宮が起こしに来た。

 「おはようございます、岡倉さん。終ったようですね」

 「はい!」

 本宮は一枚のチラシを直樹に見せた。

 「今日導入ですか!」

 「行きますか?」

 「行きます!」

 新台開放は午後三時なのでまだ時間があった。

 「きっと抽選があるので確実に打てるとは限らないけど、行くだけ行ってみます」

 「頑張って来て下さい」


 直樹は久し振りにホールの前にいた。

 戦闘体勢をとり、ドアの前に立つ。

 自動ドアが開いた瞬間、大音量で歌が溢れ出してくる。

 

 この緊張感、やっぱ最高だよ。


 直樹は颯爽と通路を歩く。抽選が行われる場所の確認をする。 

 もし抽選にハズレた時、近くで見られるように、もしくは誰かが止めた時、すぐに移動出来る様に、新台のそばの台に座った。


 取り敢えず千円をコインに変える。下皿にコインを入れたまま、直樹はコーヒーを買いに行き、近くのベンチでゆっくり飲んだ。


 「無駄な玉は使わない」

 プロとして生きてきた直樹の座右の銘だ。設定が良いと判別出来たらひたすら回す。悪いと判別したら即止める。

 勝つ方法は一つだけだ。負けない事。

 一円でも勝てば勝ちだ。その為には無駄な玉は使わない。


 そろそろかな、と思い抽選場所へ行ってみる。直樹と同じ考えの若者が何人かウロウロしている。

 抽選を知らせるアナウンスが入ったので、列に並ぶ。アナウンスを聞いた人達が大勢集まって来た。


 直樹の抽選の番が来た。直樹がくじを引くと当たりが出た。店員から台の番号札を貰うと、すぐに台へ向かった。

 さっき取っておいた台からコインを取り出し新台へ移す。

 

 「さあて……」

 直樹はポケットから何かを取り出した。それは小役を数えるカウンターだった。レア小役の出現率は設定によって違う。設定判別には便利な道具だ。


 カウンターをカチカチさせながら直樹は打ち続けた。周りの台もちらほらと当たり始めている。

 周りの回転数なども見ながら打っていると、直樹にもボーナスが来た。

 レア小役は引いてないからゾーンなのかな、と思いながら打ち続けた。


 閉店まで粘り、直樹は二万程負けた。

 でもボーナス確率や小役の落ち方は高設定っぽかった。

 三時からなので結果が出ないだけかもしれない。

 明日開店から来て打つ事にした。


 次の日、直樹は早起きをした。開店一時間前に行き、整理券を取るためだ。

 整理券があると、一般の客より先に入場出来る。新台は皆打ちたがるので早く行かないと取られてしまう。

 直樹は整理券をもらい、開店まで駐車場で缶コーヒーを飲みながら待っていた。


 そして開店、ドアが開くとすぐに昨日の台まで走った。

 座るとすぐに一万円札をサンドにねじ込む。

 そして食事もせず、閉店までブン回した。

 

 今日直樹は七万負けた。


 「本宮さん、ヤバイです」

 直樹は研究所に戻り、本宮に泣きついた。

 「勝てませんでしたか」

 「はい。設定は良さそうなのに、ボーナスも数は来るのに、出玉が悪すぎます。周りの台も見ていましたが、どれも同じような出方をしていました」

 「岡倉さんはどう思いますか?」

 「新台だから、設定悪くても客は集まるので、新台だからと言って高設定とは限らないのは分かります。でも面白く無いとそのうち誰も打たなくなる。

 あからさまに低設定と分かっては店に客が来なくなる。だから高設定と思わせる為にボーナスを沢山引かせるとかしてるんじゃ無いですか?」

 「普通の台で、そんな事出来るのですか?」

 「無理です。機械割りといって、設定によって出玉は決まっています。出玉とボーナス確率が違いすぎます」

 「では……」

 「店が何かをしている可能性は高いです」

 

 「岡倉さん、パチンコ、パチスロは本当は違法です。出た玉を現金化する事は賭博です。本当は禁止されるべき物です」

 それで生活していた直樹は何も言えなかった。

 「けれど、それを無くしたらどうなるでしょう。地下で、隠れて営業する店が出てくるでしょう」

 「今も高いレートで闇でやってる店がありますよね」

 「はい。そんな店が増えたら大変です。今までの客、普通のサラリーマンや主婦、若者達が、そんな店に出入りするようになっては困ります」

 「それは怖いですね……」

 「店を経営するのは裏社会の人になりますよね。今はまだ警察が介入出来、規制を掛ける事もできます。でも全ての店が裏で営業するようになると、規制も何も関係無くなります」

 「想像するだけで怖いです」

 「今は何とか折り合いをつけています。しかし店側が不正をするとなると、こちらも動かない訳にはいきません。

 パチンコ屋は必要悪です。均衡を保たなくてはいけません。

 岡倉さん、パチンコ屋の儲けは何処に行くと思いますか?」

 「あの、噂では国外へ行くと聞いた事あります」

 「大手チェーン店の幾つかは、外国と繋がっています。そして国外に持ち出された資金は、戦力増強に使われています」

 「じゃあ、俺の金で俺を殺す為の武器を作っているかもって事ですか?」

 「まさにその通りです。なので、不正をして儲けている店は潰さなくてはいけません。直樹さん、今日行った店のコンピューターに侵入して下さい」

 「分かりました!」

 

 直樹はコンピューターに向かった。



 

  

  

  

 

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