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目指せ金メダル! 

 「皆さんおはようございます。今日は研修の報告会をします」

 先日老人ホームへ行った三人が研修の報告をする事になった。

 望と直樹は書き直しを何回かさせられやっと合格点を貰い、晴れて報告会を開く運びとなった。


 冴子は「私達は何の苦労もなく能力を身に付けたが、現場の介護士達は仕事をしながらも日々勉強をして能力を身に付けている。私達も努力をするべきだ」と熱く語った。

 望と直樹の報告は、まあ、小学生の夏休み明けの作文発表みたいな感じだった。経験を積んでいってもらいたい。

 しかし二人共それなりに学んだ事はあり、望は「瞬間移動の職人と呼ばれるように頑張ります」とやる気満々に語っていたし、直樹は「相手と目線を同じにすると心が通じるようだ、相手を否定する前に、同じフィールドに立つ事も解決の糸口になりそうだ」と、確信は無いが、自分なりに解析した事を発表していた。パチプロだっただけあり、解析は好きらしい。

 

 そんなドタバタした報告会だったが、曽我部と涼平は静かに聞いていた。

 介護、介助という言葉に、冴子達三人は「する」側で話していたが、曽我部と涼平は「される」側として聞いていた。

 冴子だったら「何上から目線で言ってんのよ。あんた達が色々言ったって私達の気持ちなんて絶対分かりっこ無い」とキレるだろうが、二人は黙って聞いていた。


 「報告会も終わったので、講義に移りましょう。今日はオリンピックについてです。次のオリンピックはいつかご存じですか?」

 本宮が講義を始めた。

 「来年夏季オリンピックですよね」

 曽我部が答えた。

 「はい、そうですね。では開催地は何処でしょう」

 「はい、リオデジャネイロです!」

 涼平が元気に答えた。

 「流石涼平、私全然知らなかった」

 望はちんぷんかんぷんだった。

 「オリンピックがあると言う事は、パラリンピックもありますね」

 本宮が競技について話し始めた。

 「選手はオリンピック、パラリンピックの為に練習を重ねていますが、有力な選手を集め、強化合宿も行われています」

 皆は自分達には関係無い事だとただ聞いていた。が、

 「川村さん、合宿に参加して下さい」

 「え?」

 突然の本宮の言葉に皆驚いた。涼平は耳を疑った。

 「選手達はルールを守り、強くなろうとしています。しかし一部の選手はルールを破り強くなろうとしています」

 「ドーピングですか?」

 「はい。あってはならない事ですが、残念ながらドーピングしている選手もいます。あるいは選手自身知らない間に監督、コーチによって行われている事もあります。我が国の選手にはいないと信じたいですが、万が一と言う事もあるので」

 「それを調べるんですね」

 「はい。もしそんな選手を国の代表として送り出してしまっては国の恥です。

 川村さんには車椅子競技の合宿に参加してもらいます。車椅子マラソンの選手として」

 「え……俺、やった事無いし、超遅くて怪しまれませんか?」

 「川村さんの能力を使えば金メダルなんか簡単に取れます。でもそれはドーピング以上に良くない事なので、予選に落ちる程度に能力を使って下さい」

 「成る程、わかりました」

 「そして曽我部さん、川村さんのトレーナーとして一緒に行って下さい」

 「わかりました。そこで能力を使って調査するんですね」

 「はい、お願いします」


 涼平と曽我部にもジャージが支給された。そして涼平には競技用の車椅子とレース用のスーツも支給された。

 「うわー、カッコいい!」

 今までの車椅子と違い、両輪がハの字になっていて、前方にもう一つタイヤが付いていた。

 「涼平、乗ってみてー」

 望がはしゃいでいた。

 涼平が乗り替え、動かしてみる。やはり最初は勝手が違うのでスムーズには動かなかったが、もともと運動神経の良い涼平なので、すぐに乗りこなしていた。

 「うわー、これ凄いよ。全然違う」

 涼平は前傾姿勢になり、楽しそうに駐車場を走り回っていた。


 夕方、曽我部と涼平は合宿用の荷物をカバンに詰め、玄関に出てきた。

 「頑張ってきてね」

 「しっかり鍛えてこいよ」

 本当にオリンピックにでも行くかのような賑やかな壮行会だった。

 皆の応援を聞きながら、二人は研究所を後にした。

 

 合宿所に着くと、二人は取り敢えず荷物を置きに部屋へ行った。二人で一部屋だったので、仕事はやり易そうだった。

 その後二人は合宿所の責任者、強化チームの監督に挨拶に行った。

 「始めまして、川村涼平です。よろしくお願いします!」

 「トレーナーの曽我部です。よろしくお願いします」

 監督は小柄でそんなに体格は良くないが、目付きは鋭かった。

 監督は涼平の体をしげしげ眺めた。

 「川村君はスポーツやってた?」

 「はい、小学校から高校まで柔道をやっていました」

 「成る程、道理で上半身しっかりしてるな。強かったの?」

 「高校二年の時県大会で優勝しました。でも、全国大会の練習中……怪我をしてしまいました」 

 涼平は悔しそうに拳を握りしめていた。

 涼平がそんなに強かったとは知らなかった曽我部は驚いたが、その分悔しさも大きかっただろうにと思った。

 「車椅子競技の経験は?」

 「えっと……まだあんまり……」

 今日からですとはとても言えない。何と言ってもここはパラリンピックへ向けての強化合宿、集まってる選手は皆、大会やレースで好成績を残している者ばかりだ。

 「今集まってる選手達は国を代表するやつらだ。俺が選抜して集めたんだが、皆ベテランばかりでな。若い選手も育てなきゃいけない時期に来ている。誰が見つけて来てくれたのか知らないが、大歓迎だ。よろしく」

 そう言ってスケジュール表を渡した。


 毎朝六時起床、午前中は体力作り、午後は車椅子に乗っての練習、夕食後は注意を受けた所を練習したり、自主練習をする時間に当てられ、練習終了は夜八時だった。

 流石パラリンピックの強化合宿、練習漬けだ。付いて行けるか涼平は不安だった。

 そう曽我部にこぼすと、

 「涼平さん、私達は仕事をしに来たんですよ」

 と曽我部は笑って注意した。


 次の日、朝食を食べに二人は食堂へ行った。そしてその場で監督が涼平を他の選手達に紹介した。皆拍手で迎えてくれた。


 今日は一日、監督が付いていてくれた。初日という事もあり、練習方法を教えてくれたり、涼平の実力を見たりした。

 午後、レース用の車椅子に乗り、コースを回った。最初は自分の力だけで走ったが、他の選手達に次々に抜かれていく、と言うよりも練習の邪魔をしている状態だった。監督もストップウォッチを握りながら渋い顔をしている。

 仕方ない、と涼平は能力を使いスピードをアップした。

 しばらく見ていた監督は「川村君、こっちへ」と涼平を呼んだ。

 「まだちゃんとした指導受けた事無さそうだな。しばらくは基礎をしっかり習え。無理に速く走ろうとするな」

 監督には、フォームも漕ぎ方も体重移動の仕方も、まるで自己流だと言われた。涼平は「まだ自己流さえも確立されてないんだけど……」と恥ずかしく思った。

 その後涼平は監督からみっちり基礎から仕込まれた。


 涼平が練習している間、曽我部は能力を使い、合宿所内の様子を探っていた。

 厨房、食品倉庫、食堂に置いてある調味料。見た所、変わった物は無かった。まあ、市販の入れ物に薬物を混入されていては見ただけではわからない。

 でも良く考えると、全員に薬を盛るなんて事は無いだろう。

 個人的にはどうだろうかと、部屋を端から見て行く事にした。

 荷物を見て驚いたが、結構皆、たくさん薬を持ってきていた。薬というか、栄養補助食品とかサプリメントが多かった。国産の物なら読めるが、外国から取り寄せた物は、何の為の物か全く分からなかった。この中に違法な薬物があっても分からないだろう。

 監督やコーチの部屋も見てみた。風邪薬や胃薬、湿布や絆創膏といった応急処置的な薬はあったが、不信な物は無かった。

 曽我部は外国のサプリメントを飲んでいる選手を調べてみようと考えた。


 「疲れたー」

 涼平がへとへとになって帰って来た。

 「お疲れさまでした。横になって下さい」

 曽我部がマッサージを始めた。

 「スポーツ選手向けのマッサージです」

 曽我部はスポーツマッサージを習得していた。本物のトレーナーにもなれそうだ。

 「気持ちいい……」

 涼平は寝そうになっていた。

 「涼平さん、夕食後も練習ですよね」

 「そうだった。このまま寝たい……」

 

 そうして二人の合宿生活、もとい、潜入捜査生活が始まった。

 


 

 

  

 

 

 

 

 

 

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