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殺害予告

 世間では、しばらくの間、トゥモローライフ事件がテレビや新聞を賑わした。

 高額なお布施、洗脳CD、労働奉仕、そして臓器売買……。

 「被害者達は山中に……酷い。あそこ以外にも“山”があったんだって。遺棄専用の……」

 望が新聞を読んでいた。最近、本宮が情報を得るためと勉強のために?と新聞をとってくれるようになった。

 望は毎朝、おやじの様にご飯を食べながら新聞を読んだ。

 「王子様はそんな事知らなかった、幹部が厚い信仰心からやってしまったんだって、自分の関与は否定してるって。そんなの信じられないよね」

 冴子もニュースを見ながら話す。でもテレビの画面に北斗の顔が出てくるたびにドキッとしてしまう。

 「この騒ぎの後も王子様ファンは増えてるみたいだぜ。ネットでも王子様擁護の書き込みが凄い」

 仕事でインターネットを見る機会のある直樹が教えてくれた。

 「でも酷い教団だったよな。本当に腹が立つ。だけど、山で空飛べたのは気持ち良かったかなー」

 涼平が怒ったり喜んだりしていた。

 「私はまだ胃の調子が良くないです。食欲もわかないです」

 実際に臓器を見てしまった曽我部は結構ダメージを受け、胃にきてしまったようだ。自分で「ここが胃に効くツボなんですが」とツボ押しをしていた。

 「でも確かに北斗っていい男よね。CD使わなくても人を惹き付けるフェロモン出してる感じよね」

 あやめが北斗の写真を見ながら言った。

 「冴子実物に会ったんだよね。どうだった?」

 突然聞かれた冴子は慌てふためき「ちょっとしか会ってないし、別に何も……」としどろもどろだった。


 「皆さん勉強熱心ですね」

 本宮も朝食を摂りに寮の食堂へやって来た。

 「皆さんは芸能関係には興味ありますか?」

 ふいに本宮が聞いてきた。

 涼平はスポーツばかりで芸能界にはあまり興味が無いという。望はアニメ方面には詳しく、アニソン歌手、声優、アニメの中のアイドルについて話始めたら止まらなかった。冴子は流行りの歌くらいは知っている程度で、曽我部は全く興味が無いそうだ。

 そんな中、「実は……」と直樹が一枚のカードを見せてくれた。それはGA23というアイドルグループのファンクラブの会員証だった。

 「今まで稼いだ金は殆どつぎ込んできた。CDや写真集、ライヴやイベント……。俺の青春だったぜ」

 一番応援していたメンバーが卒業し、さもないタレントと結婚してしまい、直樹の青春は終わったそうだ。

 「岡倉さん、それですよ」

 本宮はそう言うと、「ではまた後で」と食堂を出て行った。


 九時になり、全員が研究所に集まった。

 「先程も少しお話しましたが、GA 23と言うグループの人気No.1の野村はなさんです」

 本宮がパソコンの画面に一人の女性の顔を登場させた。

 「岡倉さん、説明してもらっていいですか?」

 本宮のふりに直樹は語った。

 GAとはガーディアンエンジェル、つまり守護天使の事で、国民的天使というコンセプトで活動している少女達である。

 天使達は23人、二十歳になったら卒業し、新しい天使が補充される。

 23人の中には階級があり、特に上級天使と呼ばれる三人は、歌う時にはセンターとその両脇に位置し一番目立ち、テレビにも映る。その順位はファンの投票による。

 野村はな、通称“野ばら”は、不動のセンターとして一年以上一位に選ばれている。端正な顔立ち、素直な性格で多くのファンから愛されている。


 「その野ばらさんに、殺害予告が来ました」

 「ええっ!?」

 本宮の言葉に直樹が衝撃を受けた。

 「それが複数人からなのです。GAのサイト、野ばらさんのブログへ、送信先の違う複数の人から殺害予告が書き込まれています。その内容は、次の選挙までに卒業しなければ、開票日を命日にする、と」

 「それで、野ばらさんや事務所は何と言ってるんですか?」  

 「脅迫に応じてしまっては、これからも同じ事が起きる可能性があるので応じる訳にはいかない。でも野ばらさんの安全の為に全力を尽くす。その為には選挙を中止する事もあるかも知れない、と事務所は話しています」

 「それで、俺は何をすればいいですか?」

 直樹はすぐにでも解決させたくてたまらない様子だ。

 「では岡倉さんと佐々木さんでGAのライヴに行ってもらいましょうか」


 直樹は真剣だった。ライヴ会場の入り口に並ぶグッズ売場で何を買うか、いや、買わないかを悩んでいた。

 「全部欲しい、でもそんな金無い。どれにしようかな……」

 冴子は、この間の王子様グッズ売場を思い出し、ちょっと心が痛んだ。せめてネックレスの一つでも買っておけば良かったかな、もう二度と会えないんだし。そう思って、頭を振った。

 洗脳されたとかそんな事では無くて、王子様には確かに魅力があった。洗脳なんてしなくても王子様には人を惹き付ける力があった。まるでアイドルみたいに。

 ほんの一回しか会ってない冴子でさえ魅了されたのだから、何回も祝福をもらった人達は、今頃凄く苦しんでいるんだろう。

 

 「冴子、ライヴ始まるぞ」

 直樹に腕を引っ張られ、ホールに入る。凄い熱気だった。ファンがそれぞれのお気に入りのメンバーの名前を連呼する。そしてステージにライトが当たると声援は一層大きくなった。

 もう直樹は仕事を忘れ、ライトを振り回し、大声で叫んでいた。

 まあどっち道直樹は道案内だけが仕事だ。後は私の仕事、と冴子は周りの心の声に耳を傾けた。


 熱いライヴは終わった。全員汗だくだった。あまりの大音響と声援で、心の声なのか本当の声なのか良くわからなかったが、冴子には分かった事があった。

 こいつら、好きなメンバーの為なら何でもやる。冴子は確信していた。

 「やっぱGAのライヴは最高だー」

 直樹は仕事の事なんてすっかり忘れていた。

 会場の出口にメンバーが勢揃いしていた。GA名物のお見送りだそうだ。ファンは自分のお気に入りメンバーの前に並び、握手をしてもらっていた。

 「最高のライヴでした!」

 「ありがとうございました。また来て下さいね」

 それだけの会話の為に、皆行列を作る。

 冴子と直樹は野ばらの列に並んだ。気のせいか、隣の列のNo.2のファンの方が活気がある。野ばらのファン達は何故か大人しい。

 「ずっと応援してます。何があっても」

 「ありがとうございます」

 野ばらのファン達は辛そうだった。

 「次の選挙、危なそうだな」

 直樹が囁いた。

 野ばらファン達は心の中で、

 「野ばらを守りたい。悲しい思いはさせたくない。野ばらの為なら何でもする」

 と叫んでいた。

 冴子の番が来た。冴子はニッコリ笑って野ばらと握手した。

 「初めてでしたが、凄く楽しかったです」

 「ありがとうございました。女の子に来てもらって嬉しいです」

 綺麗な笑顔だな、男子だったらファンになってたよ、と心の中で冴子は言った。


 研究所に戻り、冴子と直樹は本宮に報告に行った。

 「本宮さん、もう最高でした!」

 直樹の報告は全く意味が無い。

 「良かったですね。ご苦労様でした」

 とっとと帰された。

 

 「さて、冴子さんはどうでしたか?」

 本宮に促され、ソファに腰を下ろす。

 「野ばらさんは大丈夫です。殺されません」

 「やっぱりそうですか。では犯人は?」

 「野ばらのファン達です」

 「そちらでしたか」

 本宮は大体予想していた。No.2側のファンが、野ばらを下ろそうと脅迫をしたのか、それとも野ばら側が野ばらを守るためにしたのか、どちらかだと考えていた。

 「野ばらの人気が下がってきて、次の選挙ではNo.1どころかNo.2も危ないらしいです」

 ライヴ中の声援や握手に並ぶ人数を見ても、何となくわかった。

 「昔からの熱烈なファン達が、野ばらに惨めな思いをさせたくないと、今回の騒ぎを起こしたみたいです」

 「そうですか。野ばらさんは知っていたんでしょうか」

 「いいえ。野ばらさんは全然知りません。握手して分かりましたが、野ばらさんはグループの事しか考えていません」

 「分かりました。ご苦労様でした」


 数日後、選挙を間近に控えた野ばらがテレビのインタビューで語っていた。 

 「私もあと少しで二十歳になるので、GAでの最後の選挙になります。

 今の私があるのはファンの皆さんの応援のお陰だと感謝しています。

 選挙の結果に関係なく、卒業まで時間のある限り、皆と一緒に過ごしたい。本当に、良い仲間に出会えて、幸せな時をすごせました」


 「殺害予告はファンの仕業だって分かってショックだっただろうね」

 望が気の毒そうに言った。

 「うん。でも強い子だね。こう言われたらファン達だって最後まで応援するしかないでしょ」

 アイドルって強いなあと冴子は感心した。

 「野ばらは卒業したらどうするんだろう。ソロになるんかなあ。そうしたらまたライヴ行きたいなあ」

 直樹はちょっと野ばらにハマったようだ。

 

 自分達より若い子が、殺害予告されても頑張っている。凄く大人に見える。

 「あんた達もしっかりしなさいよ」

 と、説教してしまう冴子だった。


 

 

  

 

 

 

 

 

 

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