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なんとか商法 業務終了

 望はやる気に満ちていた。少し位重くても、少し位疲れても、せっせと石を押し車に乗せ運んでいた。

 涼平が掛けてくれたCDのお陰で、やる気は出るが洗脳されずに済んでいる。

 「あなた、小さいのに体力あるわね」

 一緒に石運びをしている女性が話し掛けて来た。

 「うん、毎日ランニングしてるの」

 ランニングしていて本当に良かった、じゃなきゃとっくに倒れてたかも。と思った。

 と言っても、のんびりもしていられない。本当に怪我をする前に本当の仕事をしなければいけない。

 望は懐に忍ばせていたビニールの小袋を取り出した。

 袋を強く握ると中から赤い液体が出てきた。そしてわざと転び「キャー」と叫んだ。

 「どうしたの? うわっ、大丈夫?」

 血まみれになった望を見て驚いた。そして周りに皆集まってきた。  

 「救護局呼んで!」

 誰かが連絡をする。しばらく待っていると一台の車がやってきた。

 「さあ、もう大丈夫ですよ」

 望は車の後ろの座席に寝かされ、発車した。

 救護局の人は運転手一人だ。

 「あの、手当てとかは……」

 されても困るが、何もしてくれないのも変だ。

 「ご免なさい。私はただの運転手で、病院へ連れていくだけなの。痛い? すぐ着くからね」

 何だ、と気が抜けた。じゃあ病院着いて治療される前に移動すればいいね、と望は呑気にしていた。


 冴子は側近の男に奥の部屋に連れていかれた。

 部屋にはホームページに載っていたグッズが並べられていた。

 「これを身に付けていると、王子様からの祝福を受けているのと同じ状態でいられます」

 さっきの状態の冴子なら借金をしても買っていただろうが、正気に戻った今の冴子は貰っても要らないと思った。 

 「こっちのCDは何ですか?」

 知っているが、興味ありげに聞いてみた。

 「これは聴くだけで王子様の恩恵を受けられる素晴らしいCDです」

 男は心の中で

 「これを聴いて皆信者になれば世の中平和になる。そのためにも早く全国にピラミッドを……」

 ピラミッドからこの音楽を流して皆を信者にしようとしているのか、それも全国に。そりゃあ、お金集めたいよね、と冴子は思った。

 ここまでわかれば取り敢えずいいかな、と思い、冴子はそろそろ帰る事にした。

 「全部欲しいな。用意して来ます」

 冴子が明るく言うと、

 「はい、お気をつけて」

 と男はニコニコして送り出してくれた。


 本宮に連絡すると、すぐに迎えが行くから、と言われた。ここは研究所から大分離れてるのにすぐ迎えに来れるって?と思っていたら、目の前に黒塗りの車が停まった。いつぞや冴子を迎えに来た車だった。

 「お久し振りです。ご活躍と伺っております」と、いつぞやの黒スーツの男が挨拶した。

 相変わらず車中では黙ったままの男と一緒に研究所へ向かった。


 望を乗せた車が病院に着いた。田舎の古い個人病院だった。運転手の女性に抱えられ、病院に入る。

 こんな小さな病院で治療できるんだろうか、と望は不安になった。望は本当の怪我じゃないが、本当の怪我人、病人は大丈夫なのだろうか。

 すると奥から看護師二人がストレッチャーを引いてやってきた。

 「早く乗っ下さい」

 望を無理矢理ストレッチャーに寝かせ、慌てた様子で引っ張って行く。

 「あの、そんなに急がなくても……」

 凄く乗り心地が悪く、本物の病人だったら尚更具合悪くなりそうだ。

 ストレッチャーは手術室に運ばれた。そこには手術着を着た医師らしき人物が待っていた。

 「もう大丈夫ですよ」

 と言い、注射をしようと構えていた。

 手術の用意も万端のようで、メスだのハサミだのが並べられていた。

 看護師が麻酔らしき点滴の針を刺そうと、望の腕を掴んだ。

 これはヤバいかも、と望は慌ててストレッチャーを飛び降りた。引き留めようとする看護師を振り払い、廊下を出る。隣の部屋へ逃げ込み、即瞬間移動した。


 「看護師達が探しまわってますよ」

 研究所で望の様子を見ていた曽我部が言った。

 「怖かったー。何するつもりだったんだろう」

 「手術する気満々でしたね」

 「診察もしないでいきなり手術!?」

 呑気にしていたら切られてたの?と、望は青くなった。

 「この病院、良く調べてみますね」

 曽我部は病院内を見てみた。

 患者は一人もいなかった。連れてこられた病人や怪我人はどうしたんだろう、いきなり手術する病院だから入院患者がいてもおかしく無い。

「私は最初、無理矢理入院させ、お金儲けをしたり、洗脳しているのだと思っていましたが、違うようですね」

 本宮が深刻な表情で言った。

 「あ、患者が運ばれてきました」

 曽我部が報告する。

 「やはり手術室へ直行です。無理矢理看護師に押さえ付けられ注射を打たれました。……麻酔だった様で、患者さんは眠ってしまいました」

 「川村さん、水沢さん、病院へ行って助けて来て下さい!」

 本宮がかなり焦った様子で指示した。望は怖かったが危ない状況なのはわかったので、すぐに涼平と瞬間移動した。


 涼平は病院の電源を切った。突然真っ暗になった手術室の中、涼平が患者を抱え、望と三人で研究所へ戻った。


 患者は地下室のベッドに寝かせられた。しばらくして帰ってきたばかりの冴子が癒すよう指示され様子をみたが、特に怪我でも病気でも無く栄養失調だと分かった。多分、やる気の出るCDを聴き、空腹なのも気付かず働き続けていたせいだろう。空腹ばかりは冴子の癒しじゃ治せない。

 ついでに事情を聞いてもらいましょうと、本宮は患者を警察病院へ送るよう、黒スーツの男に指示を出した。


 「曽我部さん、病院について何か分かりましたか?」

 本宮が聞くと曽我部は怒りを抑えながら言った。

 「病室は全く使われた様子も無く埃だらけです。診察室もです。倉庫には保冷容器がたくさんあります。冷蔵庫内には……内臓と見られる物が多数あります」

 その場にいた全員、血の気が引いた。望は座り込み、泣き出してしまった。

 「曽我部さん、大変な仕事をさせてしまい、すみませんでした。あとは警察に任せましょう」

 本宮にそう言われたが、曽我部は気丈にも「患者が運ばれて来ては大変ですから」と警察が到着するまで病院を見張っていた。


 病院の医師、看護師らが警察に連れていかれ、本宮は今日はもう終わりにしましょうと言ったが、皆帰る気にならなかった。

 「山や町で働かされてる人達は大丈夫かしら」

 「こんな教団と知らずに今も寄付してる人がいるかもしれない」

 皆心配でいてもたってもいられなかった。

 「みんなー、今日はハーブティーよ」

 あやめが可愛いティーカップに、甘い香りのハーブティーをいれてきてくれた。

 「これはね、カモミールって言って、リラックス効果や安眠効果があるのよ」

 と、場を和ませようとしてか、ハーブについて説明してくれるが、誰の耳にも入っていなかった。

 その時、本宮に連絡が入った。

 「はい、はい。ありがとうございます。では後はよろしくお願いします」

 電話を切ると、本宮は皆に言った。

 「まず、教団事務所にいた者、王子も含め全員連行されました。そして山や町で働かされていた者達も全員保護されました」

 皆ほっとした。

 「病院ですが……、現在捜査中ですが、人間の物と思われる内臓が多数発見されています。書類等も押収し、詳しく調べるそうですが、外国人と交わされた書類もあったそうです」

 「それって……」

 「臓器売買だと思われます」

 皆気を失いそうだった。

 「水沢さんの行った場所だけでは無く、全国各地の土地を購入していたそうです。全国にピラミッド型の電波送信施設を作り、国中を信者にするつもりだったのでしょう。その費用を作るために高額な物を買わせたり、働かせたり、もっと酷い事もしていたんでしょう。

 被害は出てしまいましたが、食い止める事は出来ました。皆さん、ご苦労様でした」


 皆少し安心し、やっと帰る気になった。だがご飯を食べられる者は一人もいなかった。話をしようとする者もいなかった。

 それぞれ部屋へ戻り、さっさとシャワーだけ浴び、ベッドに入った。

 今日あった色々な事が頭に浮かんで来る。今夜は眠れそうに無いかもと冴子は思っていたが、あやめの淹れてくれたハーブティーが効いたのか、少し眠くなって来た。

 とにかく終わって良かったと思った。


 

 


 

  

 


  

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