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なんとか商法……

 次の日の朝、眠い目をこすりながら、皆真面目に定時に出勤した。

 「普通の会社だってこんな事当たり前にあるんだから。飲み会で遅くなっても次の日はちゃんと出勤したりとかね。二日酔いじゃないだけ良いわよ」

 冴子は社会の厳しさを望に教えた。


 研究所に行くと、本宮がいつもの爽やかな笑顔で「おはようございます」と挨拶した。

 「今日の予定は、まず岡倉さんに教団内の事を詳しく調べてもらいます」

 そう言って、特に重点的に調べるポイントを指示した。そして他の皆にも仕事を指示していった。

 本宮も夕べ遅かったのに、仕事の段取りをしてあるし、きっと昨日の調査をまとめたりもしたはずだ。それなのに元気いっぱいに働いている。冴子は感心していた。


 皆はコンピュータールームへ移動した。その方が直樹の調査内容を共有でき、次の仕事につなげやすいからだ。

 早速直樹は調査を始めた。

 「これは教団の組織図です」

 と直樹はプリントアウトした物を本宮に渡した。

 代表北斗を頂点に、樹系図になって色々な役職があった。

 事務局、救護局、教育局、開発局……。その下にまた色々な部署があり、またその下に課があり、まるで一般企業のようだ。

 

 「今問題となっているのは、高額で商品を売っている事と、CDによる精神的な被害です。その訴えが多発し、警察、検察が調べています。しかしこれらは大きな事件の表でしかないと思われます。事件を未然に防ぎ、被害を最小限に食い止める、それが私達の仕事です」

 「何か怪しい事があるんですか?」

 「まず、昨日川村さんが見つけた図面、ピラミッドの様な建物を造る予定らしいですが、何を目的に造るのか。また、それを造る人達は洗脳されていると思われますが、怪我人病人は何処へ行ってしまったのか。そして財源。信者は若い方達が多いのに、何故たくさんの寄付が集まるのか」

 「その怪しい事について警察は調べてないのですか?」

 「訴えのある事から調べていますので、まだ深くは調べていません。調べたところで教団は答えを用意してあるでしょう」

 「警察の調査を待っている間に被害が出てしまわないように、私達が動くんですね」

 「その通りです」

 皆やる気が出てきた。

 「曽我部さんは教団内の調査を続けて下さい」

 「はい」

 「佐々木さんと水沢さんには入信してもらいます」

 「え?」

 「佐々木さんには大金を寄付し、教団内部に入ってもらい、出来れば幹部に接触し、心を読んでもらいたいのです」

 「は、はい。頑張ります」

 「水沢さんには寄付をしない代わりに山の中で働いてもらい、病気になり、何処へ運ばれるのか、調べてもらいます。危険を感じたらすぐに瞬間移動して下さい」

 「わかりました……。でも、CDで洗脳されたらどうしたらいいですか?」

 「大丈夫だぜ」

 直樹が自信満々でCDを出した。

 「昨日水沢さんが持ってきてくれたCDの、やる気の出る部分だけをCDにしてもらいました」

 本宮が説明した。

 「はやっ。いつの間に」

 「さっき教団内部調べた後に頼まれて、ささっと作っといた」

 凄い能力だ、と皆能力だけを褒め称えた。

 「水沢さんが働きに行ったら川村さんにこのCDをセットしてもらいます」

 「涼平頼んだよー」

 望は不安そうに涼平に頼んだ。


 冴子と望は無事に入信した。すぐに入れてくれた。勿論住所氏名は架空のものだ。

 が、この後どうすればいいのか分からない。そんな二人の様子を見て、受付のお姉さんが笑顔で話し掛けてくれた。

 「午後からミサがあるので出てみますか?」

 誘われたからには出てみようと、二人は参加してみた。

 ミサと言っても、先生と呼ばれる若者が聖典を読み、大事な所を皆で復唱し、最後に音楽を聞きながら静かに祈る、と言う流れの三十分程度のものだった。が、祈りの時の音楽はあのCDだったのだろう。それも絶対「寄付をしたくなる音楽」だ。

 ミサの後、皆が受付に殺到し、封筒を渡し始めた。薄い封筒を渡した者達は犠牲の行の申し込みをした。申し込みをした後、外に停まっているマイクロバスに乗り込んだ。

 厚い封筒を渡した者達は、嬉しそうにさっきミサの行われた部屋へ戻って行く。

 望は薄い封筒を渡し、マイクロバスに乗り込んだ。そして冴子は厚い封筒を渡し、部屋へ戻った。


 望は「女性専用」と書かれたマイクロバスに乗った。バスが定員になると発車した。しばらく走ると、責任者らしき女性がマイクで話し始めた。

 「町が良い方は前の方へ、山が良い方は後ろの方へ移動して下さい」

 意味がわからず、隣の人に聞いた。すると、働く場所は町と山で、町とは簡単に言えば水商売をして働かされ、山は夕べ望が行ったあの場所で肉体労働する事だそうだ。望は迷わず後ろへ移動した。

 街中の、いかにも歓楽街らしき場所で、前の方に座っていた女性達が降り、再びバスは走り出した。

 そのあとかなりの距離を移動し、夕べの工事現場に到着した。

 「では皆さん頑張って下さい」

 そして皆降ろされた。

 

 冴子はミサの行われた部屋で座っていた。周りの人達は皆嬉しそうにはしゃいでいた。髪を気にしたり、化粧を直す女性もいた。

 「これから何が始まるんですか?」

 隣の女性に聞いてみた。

 「王子様に祝福を頂くのよ」

 瞳を潤ませて女性は言った。

 そして、心地よい音楽と共に王子様が登場した。会場は大歓声の嵐だった。

 王子様は静かに微笑み、皆に向け片手を挙げた。

 歓声は止んだが、溜め息と熱い視線が王子様に注がれ続けた。

 名前が呼ばれた者が王子様の前に出て行き、ひざまづく。すると金額がアナウンスされ、金額に応じた祝福を受ける。少額の者は頭の上に手をかざすだけ、少し金額が上がると、頭に手を置いてもらったり、握手、両手での握手、と対応が変わっていく。

 冴子の名前が呼ばれた。王子様の前にひざまづく。

 王子様は昨日パソコンて見たよりずっと素敵だった。輝いていた。この人のためなら何でも出来ると思った。

 「いや、この感情はCDのせいだ」と言い聞かせてはみたが、胸のドキドキは止まらなかった。

 金額がアナウンスされると、会場からどよめきが起こった。何だろうと思っていると、王子様に手を取られ立たされた、と同時に抱き締められた。

 「ありがとう」

 耳元で王子様にささやかれ、冴子は足の力が抜け、王子様に抱き付いてしまった。いつまでもこのままでいたい……などと思ってしまっていた。

 「では次の方」

 無情にも、側近の男性に引き離されてしまった。側近に引っ張られ後ろの方へ連れて行かれる間中、王子様から目が離せなかった。

 「やばい、重症だ」

 恐ろしく効果のあるCDだ、と頭では理解しているが、心は王子様に奪われてしまった。なぜか涙が溢れてきた。

 そんな冴子の様子を見た側近が、「もっと王子様の役に立ちたくありませんか?」と聞いてきた。

 「勿論です!」

 冴子は即答した。王子様の役に立ちたい……ん、待てよ。

 少し正気を取り戻しつつある冴子は、この側近の心を読んでみようと思った。

 冴子は意識を集中した。


 「この子はしっかり掴んでおかなきゃ。もっと寄付させるためにね」


 冴子は一瞬で目が覚めた。


 「私は何をすればいいですか?」

 「もっと信仰を深めて下さい。全てを王子様に捧げるのです。そうすれば究極の幸せが訪れます。あなただけでは無く、世界中に王子様の素晴らしさを伝えましょう」

 

 男は心の中で、

 「そうだ。全世界に広げるんだ。素晴らしい未来を作れるのは王子様しかいない。そのためにも早くピラミッドを完成させるんだ」


 こいつ、すっかり洗脳されてる……。冴子は憐れに思った。まあしばらくはこいつに付いていて、調べさせて貰おう。冴子はしおらしく「全てを捧げます」と男に言った。

 


  

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